湯浅さん、「ユーレイデコ」はどうでした?
──なんだか「ユーレイデコ」の内容に直接触れているわけではないのに、「ユーレイデコ」の話をしているかのような感じになってきましたね(笑)。ネット空間でのコミュニケーションを描いたアニメでしたから。
佐藤 その流れでいうと、正直、湯浅さんが「ユーレイデコ」をどう思ったのかをまだ聞いてないのがちょっと怖いんですよ。ど、どうでした?
霜山 実は僕は又聞きで、湯浅さんがチラッと観てくださったと伺ったんですが……。
湯浅 僕が一番気になっていたのは、霜山くんが思うように作れたかどうか、それだけですね。ホントそれだけです。それで内容も、明るくて面白かったです。ただ、小さなウィンドウでざっとしか観れていないので、ちゃんとまた大画面でしっかり観直したいですね。中学校時代からの古い友達が、初めて僕の作品を観たと連絡をくれましたよ。「『ユーレイデコ』を子供と一緒に観てるよ」って、メールをくれて。僕はやってないけど(笑)。子供と親が楽しく観てくれてる作品になっているならいいな、うれしいな……って思いました。
霜山 自分が子供の頃に経験したようなことが、また自分の作品で再現されるって、楽しいですよね。
──私の周りでも、自分が観ていたらお子さんがつられて観始めて、夢中になったという知人がいました。
霜山 うれしいですね。
湯浅 なかなかそういうのって、今、ないじゃないですか。魅力的なキャラクターが、面白い世界で動いている冒険もの。
霜山 昨今はやりづらいジャンルですよね。
──扱っている題材や起こっている出来事には重たい要素もあるけれど、キャラの性格やビジュアルは明るくてポップ。これは霜山監督の持ち味が強く出ている?
霜山 意図して作ってはいるというか、以前もお話ししたとおり、ホン読みの時点で「ディストピアにはしたくない」と繰り返し言いはしました。とはいえ完成した「ユーレイデコ」には、見る角度を変えればディストピアだと感じられる部分もあるんですけど、「未来は怖くて、大変だ」とは描きたくなくて。それをやるにしても、キャラクターがいつもしかめっ面しているのはやだな、と感じていたんです。
佐藤 全話放送が終わった今だから話せますけど、そうおっしゃっていたので、シリーズ構成を変えたんですよね。ラストが島から出ていく話じゃなくなった。大前提として、旅立つ話として最初は作っていたんですけど、ディストピアじゃなくてハッピーなら、出ていく必要がないな……って感覚が、自分の中にはあった。もともと最終回のBパートをどうするかは、明確には決めずにずっと作っていたこともあって、湯浅さんと企画をやっていたときは「出ていく」流れをゆるやかに想定していたんですけど、霜山さんが入ってからは「出ていく」のではなく、むしろ「戻る」話にしていきました。家族や、島や、町……もっと言うと、元の生活に帰ってくる話になった。考えてみれば、そこは割と大きな変更でしたね。
霜山 成長ものや冒険ものは、ラストで次の世界に行くお話が基本構造ですし、そこに楽しさもありますけど、現実的には次の世界だって、今いるところと地続きじゃないですか。大きくガラッと変わるんじゃなくて、続いてきた変化がさらに一歩ずつ進んでいく展開にしたかったんです。
明るく描いても暗く描いても、“描きたいもの”は変わらない
──佐藤さんが湯浅さんと考えていた流れも、霜山監督と作った流れも、始まりは湯浅さんの1枚のイラストからであった点は変わりませんよね。そう考えると、そこの差におふたりのアニメ監督の、本質的な差が表れたのかなという気も……。
湯浅 でもやっぱり、僕が「ユーレイデコ」を監督していたとしても、明るくしましたよ。
佐藤・霜山 (爆笑)。
湯浅 明るい作品は作らないと思われるとイヤだなあ(笑)。
──失礼しました! 逆に霜山監督も、暗い、重い作品を作ることも今後は?
霜山 もちろん。そもそも、それって味付けの話ですよね。結局実は、話の筋が明るかろうが、暗かろうが、監督のやることはそんなには変わらないものなんですよ。
佐藤 やりたいテーマというか、描きたいものは、別にそれが明るかろうが暗かろうが、根本はぶれない。「ユーレイデコ」で言えば、目に見えるものが本当に正しいのか? それぞれ個人の「見たいものと見させられてるもの」「嘘と真実」の関係についての話をしたいという点は、重く描いても、明るく描いても変わらない。でも、受け止め方によって全然違う作品に見えてしまうので、そういう部分を伝えたい形に合わせて、コントロールしないといけないなと思います。
──では最後に、改めて「ユーレイデコ」は、霜山監督ご自身にとってどういう意味を持った作品になりましたか?
霜山 いろんな思いだったり、時間だったりをずっと積み重ねて作ってきて、自分1人で作ったわけでもないので、一言で言うのは難しいです。監督は本当に何もできないので、周りの人に助けてもらってばかりですし。ただ、それでも、企画をいただいた段階で自分が考えられる「こういうふうにしたら楽しいだろうな」「観てる人にこういうふうに観てもらえる作品にしたいな」というねらいを、可能な限りは入れられたのではないかなと思っています。なので、作れてよかったですし、観てもらえてよかったなと、感じています。
湯浅 まだまだ観てほしいよね。せっかく、いいものを作ったんだから。
霜山 そこはきっと自分がキャリアをもっと積んで有名になれば、みんなが観返してくれるはずなので。これからもいろいろ、がんばっていきます。
──具体的に次の作品は動かれているんですか?
霜山 そうですね、幸い。今度は若干暗いですよ(笑)。「ユーレイデコ」と比べてシリアスというか、重めなほうに行きます。雰囲気は変わりますが、「ユーレイデコ」で気に留めてくださった方にも、観てもらえたらうれしいですね。
──湯浅さんは近々のお仕事はどんな感じですか?
湯浅 そんなにパッとしたことは何も。ちょっとお休み中ですね。
──大作の「犬王」の仕事を終えられたばかりですものね。佐藤さんも今年は「ユーレイデコ」だけではなく、「ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021」「ぼくらのよあけ」など、大きな作品が続かれて。
佐藤 そうですね。なんだかずっと何かやっている状態です(笑)。この先も、重たい作品もあれば、「ユーレイデコ」よりももっとジュブナイルな雰囲気のものも公開が控えています。そうそう、それで言うと、実は「ユーレイデコ」と並行して、3年間ずっとNHKのEテレで「天才てれびくん」の仕事をやっていたんです。でもコロナ禍で大きな展開ができないまま、来年の4月に終わってしまう。それがちょっと切なくて。「ユーレイデコ」を観た人なら同じ香りを感じてもらえる気がしますので、もしよかったら、併せてチェックしてみていただけるとうれしいです。
プロフィール
湯浅政明(ユアサマサアキ)
アニメ監督。2004年に映画「マインド・ゲーム」で長編監督デビュー。「夜明け告げるルーのうた」「夜は短し歩けよ乙女」「きみと、波にのれたら」や、TVシリーズの「四畳半神話大系」「ピンポン THE ANIMATION」「映像研には手を出すな!」、Netflix配信作の「DEVILMAN crybaby」など幅広く活躍。2013年にはサイエンスSARUを共同設立し社長に就任、2020年からスタジオを離れ再びフリーとなった。2022年公開の最新監督作「犬王」は国内外の数多くの映画祭に出品され、ファンタジア国際映画祭アニメーション部門長編作品賞、シッチェス・カタロニア国際映画祭タイムマシン賞などを受賞した。
霜山朋久(シモヤマトモヒサ)
アニメーター、アニメ監督。「ARIA The ANIMATION」「夜は短し歩けよ乙女」「バースデー・ワンダーランド」「DEVILMAN crybaby」などに作画監督で参加。「SUPER SHIRO」ではチーフディレクター、キャラクターデザインも務めた。
佐藤大(サトウダイ)
19歳の頃、放送構成・作詞の分野でキャリアをスタート。その後、ゲーム業界、音楽業界での活動を経て、現在はアニメの脚本執筆を中心に、さまざまなメディアでの企画、脚本などを手がけている。2007年、ストーリーライダーズ株式会社を代表取締役として設立。代表作に「カウボーイビバップ」「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」「サムライチャンプルー」「交響詩篇エウレカセブン」「サイダーのように言葉が湧き上がる」「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021」、2022年10月公開の「ぼくらのよあけ」などがある。