本当にユルの立場になりたくない
──人を殺すことに躊躇いがなさすぎて月ノさんを驚かせたという、主人公・ユルについての印象を教えてください。物語の序盤で村での穏やかな暮らしが奪われ、妹のアサは偽物ということが判明し、さらに急に命を狙われる……と、立て続けに衝撃的な出来事に見舞われました。
いやー……。ユルの立場って最悪ですよね。本当になりたくない。自分の村がめちゃくちゃマイノリティだったと気づかされるとともに、この状況について自分が誰よりも何も知らされていないんだって判明するんですよ。かわいそうすぎるので、何もかも全部ぶん投げて世田谷とかで暮らしてほしいです。
──(笑)。
東急とかでお弁当買って帰って、穏やかに暮らしてほしい。親友だと思っていたダンジにも秘密があったし、山で山賊に襲われたこともあったけど、それも偶然じゃなくて自分を殺すために送り込まれてた人だったし。本当にかわいそう……。6巻まで読みましたが、ユルって疑心暗鬼になっている時間がそれ以外のことを考えているより全然長いですよね。
──第1話から怒涛の展開が続きますからね……。ユルに関して印象的だったシーンはどこですか?
陰陽のツガイに飲み込まれた先の白い空間で、左様と弓の調整をするシーンが好きですね。「鋼の錬金術師」でもグラトニーに食べられたエドがお腹の中でいろいろ探っていくシーンが好きだったので。あとでアサに「もう1回(陰陽に)喰われる?」って言われてユルは嫌だよって言ってましたけど、面白そうだから喰われればいいのに。あとデラさんとホームセンターに行くところもめっちゃワクワクしました。
──ホームセンターは左右様も気に入ったようで、戦闘中に腕を落とされた左様がホームセンターで腕をくっつけるための接着剤を買いたいって言ってましたね。
ありましたね。本気なのか冗談なのか分からないですけど(笑)。
──(笑)。ちなみに物語全体を通して印象に残った場面はどこですか?
アサのおばあちゃんにクモのツガイが取り憑いているところがめちゃくちゃ印象に残ってます。あそこめっちゃ怖くって……。ここだけ別の作品じゃないの?と思う怖さがあってすごく覚えてますね。ツガイのデザインもすごく怖かった。あと全体を通して、アサが超かわいい!
──突然ユルの村を襲撃してくる、という最悪の再会でしたが、中身はユルが好きすぎるというかわいい妹ですよね。
あのカッコいいビジュアルでブラコンっていうギャップいいですよね。あの「お兄ちゃん大好き!」みたいな要素はこちらの気持ちを程よく緩ませるところがあります。ユルの写真を撮ったあとアプリでデラさんを消しちゃってユルだけの写真にしたり、自分の画像を加工して目をデカくしたものをユルに送ったり。作中でアサが何回もユルに「ぎゅっとしていい?」って聞いてましたけど、いつか本当にぎゅっとできるシーンがあるんじゃないのかなと期待してますね。
──あの2人の兄妹関係が今後どう変わってくるのかも注目です。「黄泉のツガイ」は先ほどから話に出ているツガイたちとツガイ使いの存在が特徴的です。個性的なチームがたくさん登場しますが、月ノさんが注目しているチームが気になります。
宇宙人と犬ですね。
──実は人間に見えるほうがツガイで、パグがツガイ使いという驚きの組み合わせでした。ブラックスーツの人間とパグで、映画「メン・イン・ブラック」を彷彿とさせますね。
(笑)。私はツガイの型に囚われなさが好きなので、あの自由さがいいですよね。ツガイたちも人を襲ったり穏やかだったりと性格にバラつきがあると思うんですけど、あの犬が妙に人情味溢れるツガイと組めてよかったと思います。
──あのチームの存在は読者の癒しになるのではと思います。
あとは偽アサの存在が気になっています。彼女もユルに対する思いはあったと思いますし、報われてほしいなという気持ちがあります。今後偽アサと対面したとき、ユルがどういう言葉をかけるのか気になりますね。第二の兄妹としてどう描かれていくのか注目しています。
「黄泉のツガイ」は“デタラメ人間の万国ビックリショー”
──もし月ノさんがツガイと契約するならどういう能力や見た目がいいですか?
いろいろ考えていたんですけど、私たち配信者ってデスクトップモニターを2つ使っているパターンが多いと思うんですよ。だからモニターもツガイじゃないかなって考えました。
──なるほど(笑)。
あと検索して相手の情報が見られるっていう能力も考えたけど、(黒谷フユキのツガイの)閻魔帳とかぶっちゃうし。それにたぶん検索情報で引っかかるアフィリエイトブログみたいな情報って、閻魔帳より信憑性下がるだろうなと思ったので、絶対主人公が使わないだろと思い直しました。あとテレパシーみたいに相手の脳内に言葉を伝えるツガイとか?
──たくさん考えてきてくださってありがとうございます。今後本編でもさまざまなツガイが出てくると思うので楽しみにしていてください。ちなみに、「黄泉のツガイ」は連載が始まってまだ2年ですが、すでに「次にくるマンガ大賞 2023」コミックス部門2位、「第7回みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」大賞と、さまざまな賞で上位に食い込んでいます。作品のどういった要素が評価につながっているのか、これまで多くのマンガに触れてこられた月ノさんにご意見を伺いたいです。
うーん……。すごく複雑な話に見えるかもしれないんだけど、ところどころでギャグシーンが挟まれるおかげでほどよく気を抜いて読めるところでしょうか? 個人的には「こんな真剣な場面でギャグシーンが入るんだ」と思わせてくれる作品が好きなので、そういう場面がたくさん見られてうれしいと思ってます。
──なるほど。
あと、登場人物がどこか愛せる形をしているのが魅力なんじゃないでしょうか。ずっとニコニコしてて何を考えているのかわからなかった影森アスマが、実はただただ人相が悪いだけだったみたいなことが6巻で発覚してビックリしました。
──アスマは自分のツガイたちに「顔で損してる」って言われていましたもんね。それでは最後の質問ですが、ご自身のリスナーに向けて「黄泉のツガイ」を紹介するとしたらどういうフレーズでオススメしますか?
「デタラメ人間の万国ビックリショー」がふさわしいかなと。「鋼の錬金術師」からヒューズのセリフを拝借しました。能力バトルものの作品はけっこうありますけど、この作品はツガイとツガイ使いが3人セットで戦うのが独特ですよね。ツガイのコンビネーションを感じさせる能力もいいなと思いますし、見た目も中身もなんでもあり感があって魅力的。ほかの作品にはない設定が特徴だと思うので、そういうところに注目しながら読んでいただきたいです。
プロフィール
月ノ美兎(ツキノミト)
9月24日生まれ。にじさんじ所属のバーチャルライバーとして2018年にデビュー。バーチャル世界の女子高生として、YouTubeでの生放送や動画配信、アーティストとしても活動している。2022年12月にはチャンネル登録者数が100万人を突破した。