コミックナタリー PowerPush - ヤングマガジン サード

「じゃない方のヤンマガ」とは? 三田紀房×三島衛里子が高校野球&戦争トーク

ヤングマガジンより、月刊ヤングマガジンに続く新増刊ヤングマガジン サードが、本日9月5日に誕生した。不良もグラビアもなく、中綴じでもない「じゃない方のヤンマガ」をキャッチコピーに掲げる同誌は、これまでのイメージを覆す「第3のヤンマガ」。「高校球児ザワさん」で知られる三島衛里子の新連載や、平本アキラ「俺と悪魔のブルーズ」の続編など、マンガ読みに刺さるラインナップを届けていく。

コミックナタリーではこれを記念し、新連載「ヨーソロー!! ―宜シク候―」をスタートさせる三島衛里子と、「砂の栄冠」をヤンマガ本誌で連載している三田紀房の対談をセッティングした。奇しくも名前に「三(サード)」が付く2人は、大の高校野球好きという共通項を持つ。また戦争モノをスタートさせる三島に対して、かつて戦争モノを構想していたと明かす三田。少々マニアックな方向に行きつつも、2人は2時間たっぷり語り合った。

取材/唐木元 文/坂本恵

三田紀房×三島衛里子のサード対談

高校野球は掘ればいくらでもネタが出てくる鉱脈

──おふたりの、最初の出会いはどちらだったんでしょうか。

三田 初対面はモーニング(講談社)の年末交流会ですよね。そこで三島先生を紹介いただいて、「ああ、『ザワさん』読んでます」なんて言って。

三島 いやあ、ありがとうございます。まさか読んでいただいてるなんて。

三島衛里子「高校球児ザワさん」1巻(小学館)

三田 もちろん。もうガッツリ読んでましたよ。

三島 恐縮です。三田先生くらい(高校野球に)詳しいと、こんなの別にいまさらっていうことが描かれていると思うんですが……。

三田 いやいや、そんなことないですよ。やっぱりね、高校野球は掘ればいくらでもネタが出てくる鉱脈なんで。「ザワさん」は、なかなかいいところを突いてるなと思いました。女子部員というのも斬新だし、しかもザワさんが所属するチームって、おそらく都大会のベスト8か4くらいをうろうろして、何年に1回くらい甲子園に行くかなというレベルなんですよね。そこが非常にいいところに目を付けたな、と。

三島 マンガだとやっぱり、ものすごい強豪校か、公立の弱小校というパターンが多いんでしょうかね。

三田 そうですね。よくある弱小校が勝ち上がっていくというパターンだと、すごく時間がかかるじゃないですか、僕はそういうのを「クロカン」で描きましたけど、あれも、実は隠れたすごい奴がいるっていう設定にしてました。まあ飛び抜けたエースで4番が1人だけでもポンといりゃあ、だいたい県でベスト8くらいまでは行けるので。

三田紀房「クロカン」1巻(日本文芸社)

三島 確かに「ザワさん」のチームはベスト16から8くらいで、例えば早実とか日大三高、帝京、関東一高よりワンランク下の、関東大会は出れたりするけど、全国に出ていくのはちょっと難しい高校、っていうイメージです。そういうところが女子部員を放り込むシチュエーションとしては、一番面白いというか。ほら、田舎の公立高校で、部員が9人しかいなくてっていうところだと、逆に居場所ができちゃうじゃないですか。人数が少なかったら、練習の手伝いしてくれるだけでありがたいですし。だから、要るんだか要らないんだかっていう、一番ギリギリのラインを突こうかな、と。

三田 その微妙な設定がすごくお上手だなと思って見てましたよ。

三島 裏設定としては、エースである兄を引っ張ってくる口実として、ザワさんも付いてきているという。お兄さんと抱き合せ販売じゃないですけど、妹の面倒も見てもらえないかっていう感じで。

高校野球の練習はやることが多い

──「ザワさん」は戦術などの話は全然しないマンガですが、そういう作品を三田先生はどう読んでいるんでしょうか。

三田 高校野球って、練習以外の時間がすごく長いんですよ。練習もやることが多いし。キャッチボールから始まって、バッティング練習して、守備練習して、走塁やって。で、その間に選手たちはいちいち道具出して片付けて、道具出して片付けて。

「高校球児ザワさん」より。

三島 やっぱりそういう雑用じゃないですけど、表面に出てこないところが面白いですよね。

三田 僕は剣道部だったんですけど、やることって2、3パターンくらいしかないんですよ。打ち込みやって、基本の練習パターンやって、試合形式の稽古やって、最後は仕上げにかかり稽古。それを考えたら野球なんて、道具もたくさんあるし、広さも必要だし、なんていうかすごく……労力がかかる。で、それを傍目に見てると意外に面白いんです。

三島 ええ、ええ。面白いです。

三田 近所のおっちゃん連中がフラフラ来て、バックネット裏にたむろしてるのって、野球くらいしかないですからね。どんなに弱い学校でもひとりふたり、近所のおっちゃんが来て見てるんですよ。

三島 あれ、面白いですよね。お父さんみたいな人(笑)。

バッティングゲージの継ぎ目が気になる

三田 なんとなく練習を見てるのが面白いんでしょうね。やっぱりいろんな行動が目に付くっていうか、それを1個1個拾っていくだけでも結構いろんなことが描けちゃう。「ザワさん」はそういうところもいろいろと拾われていて上手だなあ、と思いますよ。バッティングゲージの後ろから見た風景とか。

三島 ああ、はいはいはい(笑)。

三田 確かにバッティングゲージってこうなってるよなー、って。一般読者から見ればどうでもいいことなんだけど、高校野球が好きな人が見ると、バッティングゲージのパイプの継ぎ目の蝶番の付け方みたいのが、なんか妙に気になるんですよね(笑)。で、それをマンガで見ると「そうそう!」って、ある意味オタク心をくすぐられるというか。

イラスト:三島衛里子
イラスト:三島衛里子

三島 あの継ぎ目、溶接なのか、リベットで付けてるのかっていう……。

三田 そうそう! そういうのってたくさんありますよね。野球って攻めてるとき、守ってるほうがベンチの中で何かごちゃごちゃやってるじゃないですか。テレビに映らないけど気になりますよね。

三島 この前、会社の経営部門にいる野球を全然知らない友達とプロ野球を見に行ったんですけど、一塁に出塁した選手がエルボーガードとニーガードを外して渡すじゃないですか。「あれって何してるの?」っていうわけですよ。「あの取りに来る人に人件費使ってんの? 箱置いてその中に入れとけばいいじゃん」って(笑)。確かに合理性から考えたらそうなんだけど。でも例えば自分が1年生だったら、先輩が出塁したときに防具取りに行かなきゃいけないとかあるじゃないですか。そういうのが本当面白いですよね。

三田 甲子園行くとバット引きとか、そういうのばっかり見てる人もいますよね。そういうの全力疾走で行ったりしてると、「ああ、いいチームだな」って思う。ダラダラ走ってると「監督が甘やかしてるのかな」とか(笑)。

──それだけ細部があるスポーツだってことですよね。

三田紀房「砂の栄冠」1巻(講談社)

三田 そうですね。まあここを見てくれっていうわけでもなく、自分が描きたいだけの、単なる自己満足なんですけどね(笑)。

三島 三田先生の中で「砂の栄冠」とか野球マンガに対する気持ちと、例えば「ドラゴン桜」や「インベスターZ」では、スタンスは違うものですか?

三田 「インベスターZ」は「がんばって売ろう!」って感じで描いてます。高校野球に関しては完全に自己満足ですね。「砂の栄冠」も「クロカン」も「甲子園へ行こう!」も。

「ヤングマガジン サード Vol.1」 / 2014年9月5日発売 / 650円 / 講談社
「ヤングマガジン サード Vol.1」
ラインナップ
巻頭カラー
とみすず「土俵を駈ける」
巻中カラー
イナベカズ(原案協力:浅乃帆翔)「ロックミー アマデウス」
茂木清香「眠れる森のカロン」
三島衛里子「ヨーソロー!! ―宜シク候―」
朝霧カフカ(イラスト:鳥羽雨 メカニックデザイン:貞松龍壱)「ギルドレ」
平本アキラ「俺と悪魔のブルーズ」
三田紀房「砂の栄冠(19)」 / 2014年8月6日発売 / 607円 / 講談社
三田紀房「砂の栄冠(19)」
作品紹介

「ドラゴン桜」の鬼才が久々に描く、涙と汗の高校野球ドラマ!

埼玉県西部、樫野市にある県立樫野高校では、学校創立100年の記念イヤーに野球部が夏の選手権・決勝戦にコマを進め、まさに甲子園まであと一歩! ナインも生徒も教師もOBも栄冠へ一丸となっていた……!

三島衛里子(ミシマエリコ)

1982年11月5日生まれ。大学在学中にデビューし、2008年よりビッグコミックスピリッツ(小学館)にて初連載「高校球児ザワさん」をスタート。高校の硬式野球部を舞台に、唯一の女子選手の日常を描き人気を博す。同作は第2回サムライジャパン野球文学賞大賞を受賞。2012年からはエレガンスイブ増刊もっと!(秋田書店)にて「私立ブルジョワ学院女子高等部・外部生物語」を連載。2014年よりヤングマガジン サード(講談社)にて、3作目の連載となる「ヨーソロー!! ―宜シク候―」をスタートさせる。

三田紀房(ミタノリフサ)

1958年1月4日岩手県北上市生まれ。1988年モーニング(講談社)にて「Eiji's Tailor」でデビュー。1997年に週刊漫画ゴラク(日本文芸社)で「クロカン」、1999年には別冊ヤングマガジン(講談社)にて「甲子園へ行こう!」の連載を開始する。2作品とも高校野球の知られざる裏ワザを描いて話題となった。2003年、モーニングにて「ドラゴン桜」をスタート。東大入試をテーマに、具体的な勉強法を描いて大ヒット。2005年にドラマ化され、第29回講談社漫画賞および文化庁メディア芸術祭マンガ部門の優秀賞を受賞した。2010年からはヤングマガジンにて、高校野球と金をテーマにした「砂の栄冠」を、2013年よりモーニングにて投資をテーマにした「インベスターZ」を連載している。