「紅茶王子」と「久美子&真吾シリーズ」の思い出
──これまで何度もお話に出た、「久美子&真吾シリーズ」や「紅茶王子」といった過去作についても聞かせてください。まずデビューから7年続いたヒット作「久美子&真吾シリーズ」は、どんなきっかけで生まれたんでしょうか?
1作目の「123cmのダンディ」は17歳のときに描いた投稿作だったんです。もう結婚したので苗字は違いますが、加藤久美子さんという名前の友人に「あたしと同じ名前の主人公のマンガ描いて!」と猛烈にお願いされて「どんな話がいい?」と聞いたところ、「相手は池山っていう名字の男の人で、歳の差はあたしと7歳差で身長差は30cmがいい!」とリクエストされました。その場で聞いていたほかの友人たちも全員、「この子が大好きなヤクルトの池山隆寛選手(当時24歳)と自分(当時17歳)の恋愛マンガを描いてほしいんだな」と察してほっこりしていたんですが、そのまま描いてもつまらないので……。
──男のほうを10歳にしたんですね(笑)。
「逆じゃん!」とめちゃくちゃ怒られましたが、読んだら喜んでくれました。「せっかくなので腕試しに投稿してもいい?」と聞いたらOKをもらえたので、生まれて初めて雑誌に投稿しました。そのまま賞を獲り、雑誌掲載も決まって、私も久美子さんもめちゃくちゃ驚きましたね。雑誌掲載は実は予定外のもので、ちょうど連載を落としてしまった先生の代原(代理原稿)として掲載されたんです。デビュー前の投稿作だったのに、大量のファンレターが来たと連絡をもらって、紙袋ひとつ分のお手紙が届きました。久美子さんには足を向けて寝れませんね。
──続く「紅茶王子」も、1996年から2004年までの長期連載になりました。ストーリーを振り返ってみて、特に印象に残っているシーンやエピソードを2つ挙げるとしたら?
137話(23巻収録)の、ケニルワースとディンブラがベッドで水煙草を吸うシーンは印象に残っています。
──セイロンのお母さんとお父さんですね。先ほどおっしゃっていた“高貴な中年男女の愛憎劇”……。
そうです(笑)。その中でも満足度の高い画面作りができたと思えたシーンでした。印象に残っているエピソードは、やっぱり紅茶王子たちが帰ってしまうところかな。毎回、「なんとか読者さんを泣かせよう」とがんばって描いていたので。
──オレンジペコーと生徒会長、紅牡丹とそめこの別れのシーンは、本当に胸に迫ってきました。特にオレンジペコーと生徒会長は、女同士の関係性がとても素敵だったので。
ペコーと紅牡丹の別れのシーンは、私も印象に残っています。読者さんがよく褒めてくれるのがこの2つだからというのもあるかもしれません。そう言えば、ケビン先生がアッサムに「別れの痛みに泣くからなんだというんだ。そんな事のために出逢いを放棄するのはナンセンスだよ」と言うシーンがあるんですが、今でもこのセリフを褒めてくれる読者さんが多いので、いつの間にか自分でも好きになっていました。自分で描いたときはそんなに思い入れがなくても、読者さんがよく褒めてくれるとうれしくなってそのシーンを好きになる傾向があるみたいです(笑)。
──2012年には「桜の花の紅茶王子」がスタートしました。「紅茶王子」が完結してから実に8年ぶりの新シリーズでしたが、どのような経緯で「桜の花の紅茶王子」を描くことになったんでしょうか?
最初は連載ではなく、読み切りという形で第1話を描きました。花とゆめプラチナという少し特殊な雑誌を出すので、そこに「紅茶王子」の番外編的な新作を描いてもらえないかというお話をもらったのが発端です。
──花とゆめプラチナは描き下ろしの読み切りのみを集めたマンガ誌で、「紅茶王子」以外にも、高尾滋さんの「人形芝居」の新作や日高万里さんの「世界でいちばん大嫌い」の後日談なども載ってましたね。
そうそう。そしたら評判がよかったので、「オレンジチョコレート」が終わった後に連載として描くことになりました。
──「紅茶王子」シリーズは「桜の花の紅茶王子」以外にも多くの番外編が描かれました。ここまでファンに愛され、続きを望まれた要因はどこだと思いますか?
全然わかりません! 大変ありがたいことであるということしかわかりません!(笑)
描いただけで満足できるタイプの人間ではない
──山田さんご自身についても伺います。マンガ家を志したきっかけを教えてください。
小学校の卒業文集ですでにマンガ家になると書いてしまっているので、志したきっかけはまったく覚えてないですね……。いつのまにやらでした。母親がめちゃくちゃにマンガ好きで家がマンガで溢れていたので、下地を作ってくれたのは確実に母です。
──お母様の影響だったんですね。Twitterやブログからも、山田さんがたくさんマンガを読んでこられたんだろうなということが伝わってきます。
マンガ大好きです。特に電子で読むようになってからマンガ好きが加速して、月に何万も使っています。流行っているものにはとりあえず飛びついて読みますが、1巻でやめてしまったり途中から買わなくなってしまうことも多いので、継続して読んでもらえることのありがたさとシビアさを、読者の立場で噛み締めています。続きが出るのが楽しみでそわそわしているのは、男性向けだと「ゴールデンゴールド」と「マイホームヒーロー」と「チェンソーマン」で、女性向けだと「スーパーベイビー」と「やまとは恋のまほろば」です。
──今後作家としてやりたいことはありますか?
新しいこと、という意味なら、今はないです。それより今手がけている作品を描くことをがんばりたいです。今抱えているものだけでいっぱいいっぱいとも言えますね(笑)。いつか落ち着いたら何かやりたいことができるかもしれません。
──最後に、ファンに向けて一言お願いします。
いつも言っているんですが、本当に、誰かに読んでいただけること以上にありがたいことはないです。私は描いただけで満足できるタイプの人間ではないので、描いたものをこの世に発表できて、あまつさえ面白いと言ってもらえることが私がマンガを描く最大の理由で原動力です。これからも面白いと言ってもらえるマンガをなるべくたくさん描いていきたいなと思っていますので、よろしくお願いします。
プロフィール
山田南平(ヤマダナンペイ)
1991年、花とゆめプラネット増刊春の号(白泉社)に掲載された「48ロマンス」でデビュー。以降、花とゆめにて「オトナになる方法」「紅茶王子」、別冊花とゆめ(ともに白泉社)にて「空色海岸」「オレンジチョコレート」など多数発表。現在は白泉社の電子雑誌・花ゆめAiで「恋するMOON DOG」、白泉社のアプリ・マンガParkで「金色のマビノギオン ―アーサー王の妹姫―」を連載中。
山田南平作品ファンの花澤香菜&潘めぐみからコメントが到着!
花澤香菜
画業30周年おめでとうございます!!!そしてありがとうございます!!!私は小学生の時に「紅茶王子」に出会って以来、先生の大ファンです。私の身にもこんなワクワクする出来事が起きちゃうかもしれない!と、おねだりして買ってもらったアッサムティーを注いで、いっちょまえに香りを味わい、愛でていた日々。アッサム、激推し。今も先生の作品に触れると、あの頃と同じように胸が高鳴ります。山田先生、これからもずっとずっと、応援しています!!!
プロフィール
花澤香菜(ハナザワカナ)
2月25日生まれ、東京都出身。2003年放送のアニメ「LAST EXILE」のホリー・マドセイン役として声優デビュー。2006年、アニメ「ゼーガペイン」にヒロインのカミナギ・リョーコ役で出演したことをきっかけに、本格的に声優活動を開始する。歌手としては、2012年4月にシングル「星空☆ディスティネーション」でソロデビューを果たした。2022年2月に約3年ぶりとなるアルバム「blossom」をリリース。主な出演作に「五等分の花嫁」(中野一花役)、「ニセコイ」(小野寺小咲役)、「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」(黒猫役)など。
潘めぐみ
山田南平先生との出会いは、「紅茶王子」でした。声の仕事をはじめるよりも、ずっと前、中学生のとき。瞬く間にストーリーに没入し、登場人物たちに魅了され、物語の主人公である奈子のように、アッサムたちに愛し愛されて生きていきたいと憧れたものでした。紅茶を嗜むことの楽しみを教えてくれたのも、本作です。そして、中でも大きく影響を受けたのは、アールグレイの言葉。「楽な逃げ道に見える事でもリスクを伴う。自分の良心をねじふせたり、人の信頼を損なったり、大切な物を失ったり、そうやって道を選んで生きてく。生きることに逃げなんてない。」目の前にあることと、どう向き合っていくか。今でも自分の中で反芻する言葉です。だからこそ、大人になって、この仕事をはじめてから、ドラマCDのお話をいただいた時は、本当に幸せなことだと、感謝しました。愛する作品に、また一つ夢を叶えてもらえるなんて。現場の皆さんも共演者の方々も素晴らしくて、掛け合いも、楽しくて……現場には、山田先生とお子さんがいらっしゃって、収録後に少しだけお話させていただいたのですが、先生の物腰柔らかで、温かな雰囲気は、今もスタジオの景色と共に、鮮明に覚えています。これまで、たくさんの人々に愛され続けていきた山田先生と、その作品たち。これからもたくさんの方々と出会い、愛されていきますように。
山田南平先生、画業30周年、本当におめでとうございます!
プロフィール
潘めぐみ(ハンメグミ)
6月3日生まれ、東京都出身。2011年に「HUNTER×HUNTER」の主人公・ゴン=フリークス役で本格的に声優として活動を始める。主な出演作品に「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」(セイラ・マス役)、「ハピネスチャージプリキュア!」(白雪ひめ / キュアプリンセス役)、「ULTRAMAN」(北斗星司 / ACE役)、特撮ドラマ「ウルトラマンジード」(ペガッサ星人ペガ役)、海外ドラマ「愛の不時着」(ソ・ダン役 / 吹替)など。
潘めぐみ MEGUMI HAN⁷ (@han_meg_han) | Twitter