里見U「八雲さんは餌づけがしたい。」5巻と、はっとりみつる「綺麗にしてもらえますか。」1巻という、ヤングガンガン(スクウェア・エニックス)にて連載されている2作品の単行本が、3月24日に同時発売される。これを記念し、コミックナタリーでは作者の2人による対談をセッティング。“お世話好き”“エプロンの似合うお姉さん”という共通点を持ったヒロインが登場する各作品が生まれた経緯から、女性作家の里見U・男性作家のはっとりのそれぞれの視点で描かれるキャラクターの造形についても語ってもらった。また2作品の発売を記念して制作されたコラボビジュアル、コラボマンガも公開。その裏話も明かされている。
取材・文 / 小松良介
作品紹介
アパートで1人暮らしをしている28歳の未亡人・八雲柊子の趣味は、隣に住む高校球児・大和翔平に毎晩ご飯を振る舞うこと。夫を亡くし、大好きだった料理を楽しいと思えなくなっていた彼女は、誰かにご飯を食べてもらえることに幸せを感じていた。育ち盛りな大和くんの豪快な食べっぷりと、それにシビれる八雲さんのハートフルな関係が描かれていく。
温泉が湧き出る海辺の街・熱海で小さなクリーニング店「キンメクリーニング」を営む金目綿花奈(きんめわかな)。2年前より古い記憶はないけれど、明るく働き者の彼女は常連の人妻・矢柄、近所の男子高校生・石持、小学生の那色や町の人と触れ合いながら充実した日々を過ごしていく。
エプロン、世話好き、お姉さん…
共通点を持った2作品のヒロインを紹介
エプロン
料理を趣味とし、毎日大和にご飯をご馳走ならぬ“餌づけ”している八雲さんと、お客様のために日々「キンメクリーニング」で働く金目さん。2人とってエプロンはなくてはならないアイテムだ。
お世話好き
高校生ながら1人で暮らす大和を放っておけない八雲さんは、毎日厳しい練習をこなす大和の心のケアも忘れない。“地域に根差したまごころサービス”をモットーに働いている金目さんも、頼まれていなくても汚れを見つけるとついついキレイにしたくなってしまうお世話好き。
里見U×はっとりみつる対談
熱海に住んで募った“日常マンガ”への思い
──「綺麗にしてもらえますか。(以下『きにして』)」と「八雲さんは餌づけがしたい(以下『八雲さん』)」、それぞれの作品が生まれた経緯からお聞かせいただけますか?
はっとりみつる 実は僕、2016年に「少女不十分」の連載が終わったタイミングで東京から熱海に引っ越したんです。前から趣味の温泉巡りが高じて熱海が好きだったのですが、いざ暮らし始めてみると、町を散歩しているだけで絵になる風景がいっぱいあって。だからいつか熱海を舞台に「観光地で暮らしている人々の日常」を描きたいな、という気持ちがありました。そしたら偶然にもヤングガンガンの編集さんから読み切りのお誘いがあって、打ち合わせをしていたら「日常ものを描こう」という流れに……。あ、じゃあ早いけど熱海ネタを使っちゃおうかなって(笑)。
里見U 毎日が温泉生活でうらやましいです(笑)。私の場合は「お姉さんと少年」をテーマに、なかなか恋愛にならない男女の関係性を描きたいと思っていました。それで編集さんといろいろと打ち合わせしていたんですが、最初はうまくいかなくて……。一気に恋愛になり過ぎてベタベタするか、逆にまったくならないかの両極端になっちゃう。それで登場人物の設定を見直して、旦那さんを失った未亡人と親元から離れた野球少年にして、どこか欠けている者同士が心の隙間を埋めていく物語にしました。“餌づけ”っていうキーワードは編集さんからの提案ですね。「それ、すごくいいです!」と飛びつきました。
はっとり 僕も“クリーニング屋”というキーワードは編集さんのアイデアでしたね。確かにクリーニング屋さんの主人公が服をふわっと広げるシーンとか、それを熱海の街並みでやるのはちょっといいなあ、面白いかもしれないと思って設定を決めました。
──お互いの作品の印象はいかがですか?
はっとり 八雲さんと大和くんの年齢差がすごく絶妙でうまいなって思いました。例えばそれに近い関係性で「めぞん一刻」を挙げると、音無さんと五代くんは2歳差で、今の時代だと年齢による隔たりはそこまで感じない。でも、八雲さんと大和くんのような12歳差になると、はっきりと縮められない壁になるような印象があって。
里見U ありがとうございます! 2人の距離感はすごく考えた部分でした。八雲さんは自身の年齢や境遇を理解したうえで、「高校生男子が私を恋愛対象にするわけがない」という感覚を持っているんです。だから大和がドキッとするような距離感の詰め方も時々してしまったりして。彼女は真面目なんですが、よくも悪くも他人に甘い性格でもあるので、パーソナルスペースも狭く、結果的に大和に無防備な姿をさらしちゃうときがあるんです。
はっとり ひと回りも離れているけど、八雲さんにちゃんと色気があるから大和くんはドキッとしちゃうんですよね。こんなお姉さんの無防備な姿を高校生が見たら、絶対にイチコロだと思います(笑)。
里見U 「きにして」はキャラクターはもちろん、背景がうっとりするぐらいきれいですごいなあって思いました。緻密に描き込まれているのに見やすいし、なんだか潮風みたいな空気の匂いが感じられるんですよ。
はっとり わあ、うれしいですね。僕は背景を描くのが好きなんですよ。極端な話、キャラクターを描くのがうまいアシスタントさんがいれば、背景だけに専念してもいいぐらいで。
里見U ええっ!(笑) それって珍しくないですか? どちらかと言うと背景は苦手だっていうマンガ家さんのほうが多いですよね。
はっとり 嫌だっていう方は結構いますよね。僕はちまちましたものを描くのが好きなんですよ。街並みとか、暮らしの雰囲気を描くのが楽しくて。基本的にカラー原稿は背景もすべて1人でやってます。
里見U だからこんなにその場所の空気を感じられるんですね。あと、はっとり先生は光の描き方もすごいと思います。
はっとり 光は手描きの白線で表現していますね。「さんかれあ」まではいわゆるデジタル的なグラデーションを使って光を表現していたんですが、「少女不十分」のときに細かく手描きでやってみたらいい雰囲気が出るんじゃないかなと思って始めて。それが気に入って「きにして」でも取り入れてみました。木漏れ日とかは意識的に入れるようにしています。
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設定を考えても、キャラクターが動くかは描いてみないとわからない
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「八雲さんは餌づけがしたい。」の里見Uと、「綺麗にしてもらえますか。」のはっとりみつるによる直筆イラスト&サインが入った特製エプロン2枚セットが当たるプレゼントキャンペーンを展開中。4月6日23時59分までの期間、ヤングガンガンの公式Twitterアカウント(@yg_gangan)をフォローし、対象のツイートをRTした人の中から抽選で2名にプレゼントされる。ここでしか手に入らないアイテム、気になる人は忘れずに応募しよう。
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【RTキャンペーン】
— ヤングガンガン (@yg_gangan) 2018年3月23日
里見U「八雲さんは餌づけがしたい。」
はっとりみつる「綺麗にしてもらえますか。」
3/24単行本発売記念スペシャルコラボ!@yg_ganganをフォロー&このツイートをRTで
直筆サイン入りエプロン2枚セットを抽選でプレゼント!4/6(金)23:59まで pic.twitter.com/CI7LM2q2OR
- 里見U 「八雲さんは餌づけがしたい。⑤」
- 2018年3月24日発売 / スクウェア・エニックス
- はっとりみつる
「綺麗にしてもらえますか。①」 - 2018年3月24日発売 / スクウェア・エニックス
- 里見U(サトミユー)
- 東京都出身。ヤングガンガン2016年No.06(スクウェア・エニックス)に掲載された「八雲さんは餌づけがしたい。」にてデビュー。同作は既刊5巻で累計75万部を突破するスマッシュヒットとなる。2018年4月6日発売のヤングガンガンNo.08からは「八雲さんは餌づけがしたい。」と同時連載となる「マリア先生は妹ガチ勢!」を開始。
- はっとりみつる
- 三重県出身。ヤングマガジンアッパーズ2000年9号(講談社)に掲載された「イヌっネコっジャンプ!」にてデビュー。2009年から2014年まで別冊少年マガジン(講談社)にて連載された「さんかれあ」は全11巻で刊行され、テレビアニメ化も果たした。2015年から2016年にかけては、ヤングマガジン(講談社)にて西尾維新の小説「少女不十分」のコミカライズを担当。2017年からはヤングガンガン(スクウェア・エニックス)で「綺麗にしてもらえますか。」を連載している。