コミックナタリー Power Push - いがらし奈波「わが輩は『男の娘』である!」

女装マンガ家誕生のいきさつをセキララにつづった性春奮闘記

デビュー間もないマンガ家いがらし奈波が、いま世間を騒がせている。「キャンディ・キャンディ」の作者いがらしゆみこの息子という華々しい経歴もさることながら、驚くべきはその容姿。整った顔立ち、透き通るような白い肌、揺れるスカート。彼は、世にも希な「男の娘」マンガ家なのだ。

コミックナタリーでは、初単行本となるエッセイマンガ「わが輩は『男の娘』である!」刊行のタイミングに合わせ、注目新人・いがらし奈波にインタビューを敢行。電撃デビューの陰に隠れた、険しいマンガ道を追いかける。

取材・文/淵上龍一 編集/唐木元

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「男の娘」を目指す奮闘記

──「わが輩は『男の娘』である!」出版おめでとうございます。今日は、いがらし先生に「男の娘」について講釈願いたいのですが。

あの、いがらし先生って呼び方はうちの母を思い出してしまうのでちょっと……(笑)。先生っていうのもくすぐったいので、奈波でお願いします。

左は、母いがらしゆみこが描いた奈波。右はイラストと同じポーズを取る奈波。

──お母様は「キャンディ・キャンディ」のいがらしゆみこ先生なんでしたね。今作は帯にお母様の推薦文が付いていますが、「こんな立派な『男の娘』になってくれて……母は嬉しいです!」って。インパクトありました。

面白がりな母親で「男の娘」のような特殊な生き方にも理解があり、ノリノリでコメントしてくれました。でも、厳密に言うと僕は「男の娘」ではないんですよ。

──「男の娘」ではない、というと?

「男の娘」というのは、素で見た目が女の子のように可愛い男の子を指す言葉だと考えていて。そんな可愛い男の子が女装したら最高だけど、女装しなくたって可愛ければ「男の娘」には変わりない。本来マンガやアニメのような、2次元的な概念だからこそ成り立つ存在なんです。なので、自ら「男の娘」を名乗るのは恐れ多いというか……。マンガの内容も「男の娘」を目指す男の子の奮闘記となっていますし、年齢的には、もうすぐ三十路なので、男の子って名乗るのすらアウトです。

──そもそも「男の娘」に目覚めたのはなぜ。

もともとゲームやアニメが好きで、コスプレをしていたんです。コスプレって、2次元への憧れそのものじゃないですか。

──好きなゲーム・アニメであっても、男性キャラの格好をしようとは思わなかった?

心が男性なので、ときめくのは圧倒的に女性に対してなんです。現実と違う自分になるのがコスプレの醍醐味ですし、女装に対する抵抗も全然なくて。日常においても女の子の服が可愛いと思ったら、着てみるというのは自然の発想でしたね。

──女性として暮らすと、日常風景も男性の頃とは違ってきます?

ぜんぜん違いますね! ヤンキーに絡まれたりしないし。

──男のときは絡まれてたんですか(笑)。

男時代の奈波の写真。こんな美少年だが、ゲーセンではよく絡まれていたという。

ゲーム好きなのでゲーセンによく行くんですが、男子だった頃は弱々しい格好で行くと「おい、そこの兄ちゃん待てや」みたいに絡まれてました。女装だと絡まれない代わりに、夜は補導される。未成年の女子と間違えられるんですよ、これは嬉しい!

──(笑)。そういうとき、どう対処するんですか。

ちゃんと答えますよ「29歳成人男子ですが、なにか?(キリッ)」って。

いがらしゆみこの個人レッスン

──そんな、ご自身の「男の娘」体験を描いた「わが輩は『男の娘』である!」はデビュー作にして描き下ろし単行本となるわけですが、これまでマンガ執筆の経験はお持ちだったのでしょうか。

ど素人でしたね。お手本は、週刊少年ジャンプ(集英社)で連載されてる「バクマン。」でした(笑)。マンガ家コンビの出世を描いた作品なんですが、そのコンビの原作担当・高木秋人君(シュージン)が好きだったので真似して、ネーム描かずに文章でシナリオ書いてみたり(笑)。

──経験ゼロから単行本1冊を出すのは、果てしない道のりに感じますが。基本はどのように学んだのでしょうか。

母親の下で原稿合宿という名の猛特訓を受けながら描き上げました。マンガの描き方本なども読んだのですが、自分の絵というものは原稿を描きながら学びましたね。

──具体的にお母様から教えてもらったテクニックなどはあります?

最初のページは1番最後に描く、というアドバイスを受けました。お話は最初に作って、仕上げを後ろのページからやっていくとだんだんペンに慣れてくるので、重要な巻頭のシーンを1番上手に描けるという。

──それだけ描くと最初より画力も相当向上してるのじゃないでしょうか。

「ニューハーフの場合」の1シーン。当初は4コマで描く予定だったという。

最初に描き始めてから半年以上経っていたので、嫌でもスキルは向上しますね。なので絵柄だけでなく構成も含めて、まるまる描き直した部分もあります。「ニューハーフの場合」という章なんて、当初は4コマだったんですがすべてページものに直して。担当を拝み倒して、現在の自分の力を試したいとお願いしてやらせてもらいました。

──お母様は原稿を見て、どのような反応をなさっていました?

絵が下手すぎるだのなんだの、たくさん言われましたよ。ずぶの素人が、いきなり「キャンディ・キャンディ」の作者に個人レッスン受けるという贅沢な状況でしたが、身内なのでお互いギャーギャーかしましかった(笑)。

いがらし奈波「わが輩は『男の娘』である!」 11月27日発売 / 998円(税込) / 実業之日本社

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作品紹介

「男の娘」とは、女の子のように可愛い2次元の女装少年のこと。本来、3次元には存在しえない生物。この本は、無謀にもそんな次元の壁を越えようと日々努力する、もうすぐ三十路の、今でも「少年ジャ●プ」を愛読している、ひとりの男の物語である。話の主役、いがらし奈波は「キャンディ・キャンディ」の作者・いがらしゆみこの息子。母の遺伝子を引き継いで立派なオタクになった彼は、同棲中の彼女(コスプレイヤー)の留守中に服や化粧品をこっそり借りて、一人で女装を楽しんでいたのだが、やがて彼女に女装趣味がバレてしまい……!!

いがらし奈波(いがらしななみ)

いがらし奈波

女装を愛する「男の娘」として自身の体験を綴ったエッセイマンガ「わが輩は『男の娘』である!』でデビュー。タレント業も行いショー出演、司会、声優としても活躍する。女装コンテスト「東京化粧男子宣言」など、積極的に女装イベントを運営。母は少女マンガ家のいがらしゆみこ。