コミックナタリー PowerPush - 裏サンデー
マンガ家と編集者が二人三脚で創る 掟破りなWEBマンガ界の理想郷
いきなりネームが通るんで驚きました
──その頃というのは、おふたりは何をされていたんですか、普段は。
たくす 就職が第1志望に決まり、「よっしゃー、社会人がんばろう。マンガは趣味として続けよう」って気持ちを整理した後でした。そしたら石橋って人から変なメールが来て(笑)。
小林 ついこないだまでソーシャルゲーム最大手の社員だったんだよね。
たくす ビジネスと創作活動の両方に熱があったので、両方極める覚悟で就職しました。でも流石に両立は無理だったんで、自分の存在意義とかを見つめ直して、マンガに全てを賭ける事にしましたね。……だからもう、失うモノが無いというか、売れるしかないです(笑)。
ONE 僕は仕事をやめて「これからマンガ家目指すために持ち込みしまくる」みたいなことをTwitterに書いたんです。そしたら7社くらいから声がかかって、でもみんな「ワンパンマン」の連載化で、迷ってたときに「新作で連載やりましょう」ってメールが来たんです。
──なるほど。そこから立ち上げに向けてプロの編集者と仕事をしてみて、どう思いました?
ONE 僕はヤンジャンで読み切り描かせてもらったり、いまは連載させてもらっているので、編集者さんと付き合うのは初めてではなかったんですが、裏サンデーはいきなりネームが通るんで驚きました。
石橋 僕、ONEさんのこと天才だと思ってますからね。まずファン目線ですし。
たくす その頃SkypeでONEさんと話してたら「ネームぜんぜん直されない。放置されてるのかな」って不安がって言うので、「ONEさんは既に完成されてるんですよ」ってなだめました(笑)。
ONE たくすさんは「3日に1回はネームについて電話してる」って言うんです。なのに僕は2週間に1度くらい、ネーム送ったあと電話で10秒くらい「すごい面白い!」って言われて終わり。
石橋 確かにONEさんには何も言わなかった。「面白い」以外言うことないんですから。たくすさんは……、1話のネーム見たとき、これは3日に1度は連絡取らないとまずいな、って(笑)。
売れているマンガは単行本1巻で面白い
たくす 「神ネームできた!」と思って持っていったら「な、何だこれは……」とドン引きされました。でもそこでもらったアドバイスが超的確だった。
石橋 すごかったよ、あのネームは。内容は最高なんです。ただ単行本5巻分くらいの内容が20ページくらいに詰め込まれてるんですよ。そんな速度じゃ誰も理解できない。それで「ゆっくりゆっくり」って。「焦らないで」「手順を踏んで」って、焦る童貞を相手にしてるお姉さんみたいな(笑)。
たくす それまでネットで編集者に対するネガティブな情報を頻繁に見ていたんで、実際どうなのか気になってたんです。でも、石橋さんは僕の長所を理解した上で、僕が気付いてない正解を示唆してくれて、「編集者すげえ」と思った。
──もう少し具体的に、どんなアドバイスだったのか教えてもらえますか。
たくす 僕の「ゼクレアトル」は、主人公に「お前はこのマンガの主人公だ」とバラすメタマンガで、読者に「作者の世界」の中にある「マンガの世界」って構造をイメージしてもらうのが難しいんです。そこを、直感的にできないかな、って言われて。2度目の直しのときに、「作者の宇宙と主人公の宇宙が別々にある」みたいな設定が出てきて、一気にイメージしやすくなった。あとはさっき話したペース問題。
ONE 展開ペースについては、僕も「モブサイコ」を始める頃、石橋さんに誘導してもらいました。僕はもともと、マンガはクライマックスが盛り上がればいいと思ってたんですよ。映画って割とそうだと思うんですけど、連載マンガもそう捉えていた。でもそれじゃ読者は飽きてしまうから、何話かに1回は盛り上げる場を作るんだ、って教わって。
石橋 それは単行本が売りやすいという商売上の理由なんですけどね。でも実際のところ1巻目が売れないと連載を維持できないし、そうするとクライマックスもなにもなくなってしまうので、このお話を完結まで続けたかったら、そうしたほうがいいですよ、と。
たくす あと売れたマンガの1巻を読め、っていっぱい渡されて。そうするとなるほど、売れてるマンガはコミックス1巻でひとつの面白いパッケージになってるんだな、とわかってきました。
ONE(わん)
自身のサイトでWEBマンガ「ワンパンマン」を公開。となりのヤングジャンプ(集英社)で村田雄介を作画担当に迎えたリメイク版「ワンパンマン」、およびONE自身が執筆する「魔界のオッサン」を連載中。裏サンデーで執筆中の「モブサイコ100」1巻が2012年11月16日に発売された。
戸塚たくす(とつかたくす)
自身が執筆したマンガ「オーシャンまなぶ」をWEBサイトで公開。名古屋大学の大学院(工学)からDeNAに入社した後、マンガ原作者に転向する。裏サンデーでは、阿久井真が作画を担当する「ゼクレアトル~神マンガ戦記~」の原作を担当。同作の単行本1巻が2012年11月16日に発売された。