背景もすべて、スタッフを入れずに自分で描いた
──キャラクターのお芝居など、読者が見逃しがちなこだわりポイントがありましたら教えてください。
暁月 咲希が、とにかく手を動かしています。帽子をかぶせると子供っぽくなるから違うとなったとき、他人をコントロールするようなキャラクターなので、指揮者がタクトを振っているような芝居を要所要所でさせることにしました。
BKB なるほど、奥深いですね。ありさは特徴的な語尾がありましたが、キャミーのようにほぼしゃべっていない子はキャラ付けが難しかったのでは?
暁月 全員にそれなりの役割を担ってもらうのも、オリジナルで出した部分でしたね。
──BKBさんは、特に気に入っているコマはありますか?
BKB まさに、先ほどの第1章最後の咲希のコマですね。改めて先生の描いてくださったかわいいキャラクターたちを見て思い出したのですが、最初はもっと書きやすいような恋愛モノをイメージして始めたんです。そのうえで、読者として日常系ミステリーが好きだったこともあり、限定ナポリタンを食べたことを推理するくだりや、最後に怖い引きを入れたら何かいい感じにしてもらえるかもなと思って考えたセリフなので、思い入れがありました。でも、本当にレストランの店員さんさえ「ベストモブ」と言いたいくらいかわいいし(笑)、すべてのコマを妥協なく描いてくださっていますよね。
暁月 締め切りを調整してくださったからです(笑)。そのおかげで、このボリュームでは初めてなのですが、スタッフを入れずに全部自分で描くことができました。
──背景などもすべてでしょうか?
暁月 はい。何が大変って、デジタルだとアナログ原稿と違ってすぐ直せてしまうので、テーブルクロスの模様を塗るか塗らないかでさえ迷ってしまうんですよ。スタッフが塗ってきたなら、そのまま受け取れるのですが、自分でやっていると正解がわからなくなります。
BKB それ、僕らのネタも同じです。ほかの人にはアドバイスできるけど、自分のネタとなると急に自信がなくなってしまいます。
“運命”が変えた、それぞれの20年
──折しも、それぞれ芸人、マンガ家としてデビューされて20年の節目を迎えられるそうですね。現在へと至る道程を振り返って、ターニングポイントと言える「運命の◯◯」を挙げるなら?
暁月 ずっと仕事をしていたわけではないので「20周年」とは誇大広告のように感じてしまいます。個人的には、連載していないマンガ家は無職と一緒みたいなもの(笑)、だと思っているんです。なので、単純にデビューから20年経ったというところでいうと、本当にあっという間でした。
BKB いやあ、ストイックですね。
暁月 ターニングポイントは、西尾維新先生原作の作画を担当するきっかけとなった「めだかボックス」の連載期間、つまり「運命の4年間」です。ぴったり4年で完結したというところにもこだわりがあって、そのために先生は一度たりとも締め切りに遅れることなく原稿を送ってくださいましたし、僕としては、足を引っ張らないようただただ必死でした。その間、サポートしてくださった歴代3人の担当さん、スタッフさんにも本当に感謝しています。
──連載をされていない期間は、どんなことをモチベーションに続けてこられたのでしょうか?
暁月 やはり「連載がしたいな」という思いひとつです。オリジナルのネームを描いて見てもらってはボツにされて、その間にありがたいことにコミカライズのお話をいただいていたのですが、それが終わって自分のネームに戻ると何を直さないといけなかったのかわからなくなってしまって、また1から描くということの繰り返しです(笑)。もちろんオリジナルをやりたい気持ちは強いのですが、今回の企画のように、提案した要素を許していただける原作モノも楽しいなと思いました。
──BKBさんはいかがですか?
BKB 同じく、あっという間の20年でした。芸人は劇場公演もあるので、ほぼ休みなく走り続けて……バイクだけにブンブン!なのですが(笑)、こうした仕事をするきっかけになったことでいえば、コロナ禍の緊急事態宣言による「運命の50連休」ですね。あのときにショートショートをネットに投稿したおかげで、こうして僕と暁月先生の世界線もつながったんです。
──今や、ライフワークと言えるものになっているのでしょうか?
BKB ライフワークというと、ちょっとおこがましい感じがしてしまいます。ピン芸人って、それはそれは我の強い生き物なんですよ。正直に言っちゃいますけど「1人で5000人の客を盛り上げることもできるし、小説だって書けるんだぞ」というギャップを世間に認めてもらいたい、あわよくばモテたいという気持ちだけです(笑)。
──ちなみに、BKBさんのショートショート集「電話をしてるふり」に収録された話で、暁月先生がコミカライズされたいものはありますか?
暁月 1作や2作ではないくらいあります。
BKB えっ、めちゃくちゃうれしいです。
暁月 真っ先に思いついたのは「電話をしてるふり」です。最初にも触れましたが、BKBさんの作品全体に言える優しさがあって、それが押し付けがましくなく、ふんわりと感じられるような温度感が本当に尊いなと思います。そして、だからこそ僕の作画では難しいと思います(笑)。
BKB 楽曲のカバーでもアーティストさんの色で全然違ってくるじゃないですか。僕は、むしろ暁月先生の激しいタッチによる「電話」が見てみたいです!
──最後に、マンガを楽しみにしてくださっている皆様へメッセージをお願いします。
暁月 BKBさん、そして3人の原作者さんたちがオリジナルの改変を了承してくださったことに感謝しています。できるだけ原作の面白さを伝える“黒子”であることを第一に、かつ、いい働きをしたいという思いで臨みました。まだ最終話まで原稿が完成していない状況なので大きなことは言えないのですが(笑)、最後までがんばります。期待していただけましたら、うれしいです。
BKB 僕以外の3人の原作者さんたちともお話がしたかったです。でも、僕らの書き紡いだ小説に暁月先生が本気で命を吹き込んでくださっているのは間違いないので、安心して届けられると思います。企画してくださったmonogatary.comさんに改めて感謝を……。(B)僕らを(K)こうしてつなげてくれた(B)媒体! ヒィーア! ありがとうございました!
対談を終えてのコメント
暁月あきら
こういう対談企画は初めてなので緊張しました! それに昔からお笑い芸人さんに憧れてもいたので緊張×2です……!マンガ本編は期待していてください!
BKB
僕らの、書いた、文章に暁月先生が命を吹き込んでくれた泣ける……!(BKB)
プロフィール
暁月あきら(アカツキアキラ)
8月18日生まれ。2003年に「Z‐XLダイ」でデビュー。2009年に作画担当として「めだかボックス」(西尾維新原作)を週刊少年ジャンプ(集英社)にて連載。同作は2012年にTVアニメ化された。ほかにも「症年症女」、「十二大戦」(ともに西尾維新原作)の作画を担当。圧倒的なキャラの目力や身体のしなやかさ、唯一無二の美麗な絵柄が多くのファンを魅了している。
バイク川崎バイク(バイクカワサキバイク)
1979年12月17日生まれ、兵庫県出身。NSC大阪校26期生。2007年からピン芸人として活躍。同期は、かまいたち、藤崎マーケット、しずるなど。「R-1グランプリ2014」決勝進出。著書「電話をしてるふり」の表題作が後に「世にも奇妙な物語」(フジテレビ系)にて実写化された。