コミックナタリー Power Push - 加藤元浩 「捕まえたもん勝ち!七夕菊乃の捜査報告書」
加藤元浩と有栖川有栖が語る“最上質のミステリー”とは
加藤元浩のような人は世界にもいない(有栖川)
有栖川 「Q.E.D.」のコミックス1冊にはいつも2話ぐらい入ってるじゃないですか。あれ、小説だったらしょっちゅう長編書いてらっしゃるようなものですよ。自分がこれを小説にしたらと置き換えて「これはものすごい書きがいがあるわ。700ページぐらい使ってまだ足りんかもな」とよく思います。
加藤 (「Q.E.D.iff―証明終了―」1巻に収録された)「量子力学の年に」を描いたときも「これは小説にしたらすごく厚くなるだろうな」と思いました。
有栖川 最近のでも多いですよ。「殺人のかたち」(同2巻収録)や「碧の巫女」(同4巻収録)、あのへんも厚めの長編になります。小説家の立場からすると、非常にぜいたくなアイデアの使い方ですよ。すごいアイデア量なのに、あの長さになってしまって。
加藤 だからそこは小説とマンガの違いを逆に感じたんですよ。小説では、トリックや謎解きに関係ない部分をどう書いてもいいし、なんなら自分の書きたい部分だけにこだわって好き放題伸ばしてもかまわない。いくらでも描写できるし、それをする自由も書き手に委ねられているという発見がありました。
──小説の場合、トリックなどのアイデア以外の部分も構成要素になりますからね。描写だけで成り立っている小説だってあるわけですから。
有栖川 言い換えるとマンガは大変な量のアイデアが必要になる、ということです。ものすごい量のアイデアが投入してあって、「こんなに入れなくてもいいんじゃないか」というぐらい入ってる(笑)。
加藤 隙間を埋めたくなっちゃうんですよね(笑)。
有栖川 そのアイデアが出るっていうのがすごい。こっちはたまに落ちてくる木の実を拾いながら料理を作ってるのに(笑)。本当に膨大な量のアイデアが投入してあって。加藤さんは今までずっとシリーズを通して、トリックから何から1人で考えてらっしゃるんだから、こんな人いませんよ、今。日本に、いや世界にも。
──「Q.E.D.―証明終了―」が50巻、続編となる「Q.E.D. iff―証明終了―」が5巻と続いています。1巻に2本のエピソードが入っていると仮定して先ほどのお話と照らし合わせると、100本以上の長編を書いていることになるわけですもんね。
加藤さんのミステリーを読めることを幸福に思う(有栖川)
有栖川 どうですか。また小説を書いてみようというつもりはおありですか?
加藤 それは読者の反応次第だと思います。よかったら調子に乗りますもん、絶対(笑)。
有栖川 じゃあ、みんなが喜んでる声が聞こえてきたら……。
加藤 「あ、そう?」って(笑)。絶対なりますよ、気弱なくせに調子乗りですから。
有栖川 ミステリーのファンで加藤さんのシリーズを愛読されている方はたくさんいらっしゃって、皆さん大いに期待をされているはずですけど、絶対期待を裏切らない。というか、それを超えるものだと思います。「Q.E.D.」の噂は聞いてるけど巻数が多いから、って怯んでるミステリーファンもいるかもしれませんが、この小説を読んでから「じゃあマンガも」と手に取ることもきっとあるでしょうね。
加藤 ぜひ! どうぞどうぞ(笑)。
──2つのメディアの間で読者の交流ができたら最高だと思います。今回、「Q.E.D. iff」5巻と「C.M.B.」33巻のほうに「捕まえたもん勝ち!」の主人公である菊乃ちゃんが出てくるのは、そのへんの狙いもあるんですか?
加藤 もちろんです。「こういう子の小説が出ますんでよろしく」「新人なんで面倒みてやってください」という(笑)。
有栖川 番宣ですね(笑)。
──新人歌手じゃないですけど、どんどん営業に行ってください(笑)。どうでしょう最後に、有栖川さんから文章の先輩としてひと言、加藤さんにアドバイスをしていただいては。
加藤 よろしくお願いします!(笑)
有栖川 えっ、そんなことを。また無茶なフリですね(笑)。いやいや、先輩どうこうじゃなくってですね。私は加藤さんのマンガの大ファンなんです。「こういうものを読みたかったんだ」「こういうものを楽しめる世界にいることがうれしい」と思っています。今回はさらに、小説をお書きになったというので「あの加藤さんが書くんだから」と思って読んだら、期待していた通りの面白さがあって。マンガと同じように、端から端まで、隅から隅まで楽しませていただいた。とても気持ちのいい小説で。改めて加藤さんのミステリーを読めることを幸福に思っております。小説の先輩ではなく、ファンとしての率直な気持ちですよ、これは。
- 加藤元浩「捕まえたもん勝ち!七夕菊乃の捜査報告書」発売中 / 講談社
- 小説 / 972円
- Kindle版 / 810円
念願の刑事となるも、捜査一課のお飾りとして邪険に扱われる菊乃の前に現れたのは、多くの犯罪を解決してきた心理学者・草辻蓮蔵。元FBIで嫌味ったらしい書類の鬼「アンコウ」こと深海安公に足を引っ張られながらも、徐々に事件の真相に近づいていく菊乃だが──。
小説ならではの大仕掛けを含んだ、緻密にして爽快な本格長編ミステリ。
加藤元浩の初ミステリ小説「捕まえたもん勝ち!七夕菊乃の捜査報告書」よりヒロイン菊乃が登場! 元検察官が自宅で殺され、近くに倒れていた訪問看護師が逮捕されるも、釈放に。捜査に疑問を持った新米刑事・菊乃が、燈馬と共に「不完全な密室」の謎に迫っていく(「不完全な密室」)。大学生の滑落事故、自殺かと思いきや、何者かが入院中の被害者の酸素マスクを外し……!? 証言を集めるため可奈が奔走する(「イーブン」)。
加藤元浩の初ミステリ小説「捕まえたもん勝ち!七夕菊乃の捜査報告書」よりヒロイン菊乃が登場! 秋葉原でメイドによる大捕物騒ぎ! その正体は捜査一課の新米刑事・七夕菊乃。劇団の団長が上演中に背中に矢を受けて死んだ事件を追っており、手がかりを求めて森羅博物館にやって来るが!? 「見えない射手」ほか3編を収録。
加藤元浩のインタビューがこちらにも!
加藤元浩(カトウモトヒロ)
1997年からマガジンGREATにて「Q.E.D.—証明終了—」を、2005年から並行して月刊少年マガジンにて「C.M.B. 森羅博物館の事件目録」を連載。2015年、少年マガジンR(すべて講談社)にて「Q.E.D. iff —証明終了—」連載開始。そのほか代表作に「ロケットマン」など。2016年に初のミステリ小説「捕まえたもん勝ち! 七夕菊乃の捜査報告書」を発表。
有栖川有栖(アリスガワアリス)
1959年大阪市生まれ。同志社大学法学部卒業。在学中は同大推理小説研究会に所属。1989年に「月光ゲーム」でデビューを飾り、以降“新本格”ミステリムーブメントの最前線を走り続けている。2003年「マレー鉄道の謎」で第56回日本推理作家協会賞、2008年「女王国の城」で第8回本格ミステリ大賞を受賞。本格ミステリ作家クラブ初代会長。有栖川有栖創作塾にて作家志望者の指導を行っている。