アニメの劇伴にスポットを当てた音楽フェス「東京伴祭 -TOKYO SOUNDTRACK FESTIVAL- 2023」が、4月29日に東京・国立代々木競技場第二体育館で開催される。2022年に“世界初の劇伴音楽フェスティバル”として京都・上賀茂神社で行われた「京伴祭 -KYOTO SOUND TRACK FESTIVAL-」の東京版となる「東京伴祭」には、音楽制作集団・Team-MAXの主宰で「NARUTO-ナルト- 疾風伝」「FAIRY TAIL」などの代表作を持つ高梨康治、「ハイキュー!!」「僕のヒーローアカデミア」などの音楽を手がける林ゆうき、「SPY×FAMILY」「ワンパンマン」などのサウンドトラックを担当する宮崎誠が再集結。それぞれの楽曲に合わせたアニメ映像と、生演奏が融合したステージが届けられる。
コミックナタリーでは「東京伴祭」に出演する⾼梨、林、宮崎にインタビュー。アニメ映像と劇伴音楽が融合したフェスの魅力はもちろん、その成り立ちやお気に入りの1曲などを語ってもらった。
取材 / はるのおと文・構成 / カニミソ撮影 / 武田真和
劇伴にフォーカスするフェスが、なんで日本にはないんだろうって(林)
──お三方はもともと交流があったのでしょうか? それとも昨年、無観客生配信形式で開催された「京伴祭」をきっかけに知り合ったのでしょうか。
林ゆうき 結論から言うと、初めは3人ともまったく交流がなかったんですよ。高梨さんとはどこでお会いしたんでしたっけ?
高梨康治 岩崎琢さんと、和田薫さんと、林くんと、僕でご飯を食べに行ったときだね。
林 そうだそうだ。劇伴界の巨匠の集いみたいなところに呼んでいただいて。そこで高梨さんと知り合った後、「京伴祭」のお話をさせてもらったんです。そうしたら、「ぜひに」と出演を即決していただけました。宮崎さんとはまず、僕の息子が通っている小学校の、同じクラスの同じ班に宮崎さんの娘さんがいるっていう謎の偶然があって(笑)。参観日かなんかで初めてお会いしたんですよね。だいたい宮崎さんと会うときはグラウンドとか教室の外だったんですけど、家に帰ってからTwitterで、「あの、ちょっとお仕事の話が……」と、声をかけさせていただきました。神の思し召しですね(笑)。
宮崎誠 そうですね(笑)。
──「京伴祭」「東京伴祭」の発起人である林さんにお伺いしたいんですけど、アニメの劇伴が主役の音楽フェス、という構想はいつ頃、どういった思いから生まれたものなのでしょうか?
林 僕は実家が京都なんですけど、新型コロナウイルス感染症が騒がれていたときに帰省したら、あんなに街が観光客で溢れていたのに、ゴーストタウンのようになっていたんです。今でも覚えているんですけど、乗車したタクシーの運転手さんが「こんな京都は初めてやわ」っておっしゃっていて、「ああ、そうだよなあ」って。そう感じたときに、世界中の皆さんが観てくださっているアニメというコンテンツを、観光客を呼び戻せるようなコンテンツにできないかなって思ったんですよね。あともう1つのきっかけは、例えば「SUMMER SONIC」とか「FUJI ROCK FESTIVAL」みたいなフェスがあるじゃないですか。こんなにアニメが観られているのに、そのサウンドトラック・劇伴にフォーカスするフェスが、なんで日本にはないんだろうって、単純に疑問に思ったんです。前後で観光してもらうのもいいし、たくさんの人に、アニメの劇伴と映像が一緒になったフェスを観に日本に来てもらって、来られてよかったね、また来年も来たいねって言って帰ってもらえるようなイベントが作れたらいいなと。
──僕もアニメのオーケストラコンサートにはいくつか行ったことがありますが、フェスという形式はこれまで聞いたことがなかったですし、「京伴祭」の映像を観て、変な言い方ですけど違和感というか「こんなことが野外でできるんだ」って驚きました。
林 フェスの醍醐味って、いろんなアーティストや作品に触れられるいい機会になっているところだと思うんです。よく知らなかったけど、ライブを観たらすごく好きになったりとか、音楽を聴いたことで作品を知り、その作品のファンにもなる。それぞれがそれぞれを補うというか。もっともっとアニメが好きな人たちの気持ちが膨れ上がる機会になればいいなというのもあります。
──高梨さん、宮崎さんは、フェスに懸ける林さんの思いをどう受け取られましたか?
高梨 僕は根っからの“ロックミュージシャン”なんです。皆さん作曲家だと思っているかもしれないけど、ずっとロックミュージシャンとしてライブをやってきて、うっかり劇伴をやるようになったタイプなんですよ(笑)。ロックフェスに出ようと本気で思っていましたし、「こういうアニメの曲でも、ロックフェスに出られないかな」と考えていたりもしたので、林くんからお話をいただいたときは、「自分でやっちゃうってすげえ」と思いました。「そうか、そういう道もあるんだな、すげえぞ林ゆうき」と。スタートさせる人っていうのは、やっぱり一番最初に労力がかかるわけじゃないですか。それは誰かがやらなくちゃいけなかったんだろうけど、こういうフェスをまず仲間でスタートさせられたっていうことが、そもそもすごいことだと思うし、リスペクトしています。
宮崎 僕も高梨さんと一緒で、ずっとバンド活動をしてきたタイプなので、正直“劇伴作曲家”という自覚が全然なかったんですよ(笑)。去年「京伴祭」に参加したときの配信のチャットとか、その後のリプライとかを見て、「ちゃんと劇伴作曲家として自覚しなきゃダメだな」って思ったという(笑)。
高梨 どういうこと?(笑)
宮崎 自分でけっこう劇伴を作っているということに気付いたんです(笑)。もともと「SUMMER SONIC」や「FUJI ROCK FESTIVAL」は好きで、割と何回も足を運んでいるんですけど、やっぱり「自分はステージに立つ側の人間だ」「ロックミュージシャンだ」って、高梨さんと同じように思っていました。林さんとは運命的な出会いをしましたけど(笑)、実は彼が担当した「DOCTORS~最強の名医~」というドラマの劇伴がすごく好きで、出会う前からファンだったんです。林さんから「こういうことを考えてる」と今回のお話を伝えていただいたときはすごく感動しましたし、「林さんが言うならぜひやりたいです」って、賛同させていただきました。正直そのときは“劇伴のフェス”っていうものがよくイメージできなかったんですけど、でもいざ「京伴祭」に参加してみたら、映像が流れて、音楽があって、演奏するって、「こんなに感動できるんだ」「本当に食わず嫌いだったな」と再認識することができました。あとやっぱり、歌がない楽曲は敷居が高いんじゃないかと思っていた節もあったんですが、そうではなかった。林さんのおかげで、機会があるならこういうフェスやコンサートをどんどんやっていきたいなという気持ちになりました。
林 すごいですね。1人として自分のことを劇伴作曲家だと思っている人がいない(笑)。
一同 (笑)。
──林さんご自身は、劇伴作曲家という自覚はありますか?
林 いや、僕はそもそもミュージシャンだとも思っていなくて。というのも、もともと男子新体操の選手をやっていたので、音楽を使う側の人間だったんですよ。自分が踊りたい音楽がなかったから、ちょっと編集してみようというのがきっかけで作曲を始めたので、映像に音をあてるのが好きなだけというか。バッチリ音を映像にあてたところを、みんなに披露できたらいいなと思って劇伴を作っています。
林くんのこのプランは世界のスタンダードになる(高梨)
──確か去年の「京伴祭」のタイミングだったかな。林さんが「映像を編集するのが楽しくてしょうがない」みたいなことをツイートされてましたよね。やはり映像ありきというのは最初のコンセプトからありましたか?
林 そうですね。映像がラーメンでいうスープだとしたら、僕らが作っている楽曲は麺にあたると思っていて。麺とスープを合わせてラーメンなのに、コンサートになると麺だけポンって置いて「美味しいでしょ」っていうのは、なんだかなあと違和感がありました。もちろん音楽だけ、映像だけでも楽しめるんですけど、やっぱりこの2つが一緒になってこそ、より感動できると思うんですよ。普段は音響監督さんたちにお任せしてるんですけど、音と映像のタイミングが合ったときにプラスじゃなくて“×(かける)”になる瞬間があって、その瞬間こそが映像に合わせて音楽を作る劇伴作曲家にとって、一番楽しいことなんじゃないかと思いますし。これ楽しいのは自分だけなのかな?フェスで検証してみよう、というような感じですね(笑)。
高梨 日本のヘヴィメタルフェスティバル「LOUD PARK」でもデスメタルバンドが後ろで映像を流していますし、今って視覚と音ってセットなのが当たり前になっているじゃないですか。昔みたいに、純粋にただ演奏だけ聴いてっていう時代ではないですし。アニメというコンテンツを使うというのはその最もいい例で、林くんのこのプランは今後世界のスタンダードになると思っています。
林 「あの大好きな曲だ!」「『FAIRY TAIL』のあれだ!」「『NARUTO-ナルト- 疾風伝』のあれだ!」「『SPY×FAMILY』のここだ!」っていうタイミングのときに、自分が思い描いているシーンがドンピシャで映し出されたら、うれしいですよね。圧倒的に映像があったほうが楽しめると思いますし、何よりお客さんに喜んでほしいっていうのが一番ですね。
高梨 それだよね! 今すごくいいこと言ったと思うんだけど、やっぱり音楽はエンタテインメントで、ライブはどれだけお客さんに楽しんでもらうかっていうことだと思うんです。これまで劇伴はエンタテインメント性に欠けていたけど、時代に則して上がってきているのではないかな。
──そもそもの話になってしまうんですが、これだけのタイトルのアニメ映像が揃えられたこともすごいですよね。
林 相当大変だったと思うんですよ。本当にスタッフの皆さんには感謝しかないですし、原作の版元やアニメの権利元の方々が快く力を貸してくださったおかげです。ありがとうございます。
「Breeze」では、ボーカリストを呼ぼうかなと思っています(宮崎)
──いよいよ開催が間近に迫った「東京伴祭」の話をお伺いしたいんですけども、演奏される劇伴から、それぞれお気に入りの1曲を挙げていただけますでしょうか。
林 いっぱいあるんですけど、映像との一体感で言うと、2曲目に演奏する「紅の彗星&GUNDAM BUILD FIGHTERS」。「紅の彗星」とメインテーマの「GUNDAM BUILD FIGHTERS」が抱き合わせになっているんですけど、なぜそうなっているのかというと、「ガンダムビルドファイターズ」の第6話がこの流れに沿って作られたんですよ。最初に「紅の彗星」っていう敵のライバルの曲が流れて、その後にメインテーマがかかるっていう。それを音響監督の三間雅文さんが素晴らしい編集でやられていて、僕はその動画を何回も見てたんですけど、「東京伴祭」で流れる映像もその動画とほとんど同じような編集になっているんです。
──本編を観ている人の多くが名場面と思えるようなシーンですよね。
林 映像と音楽が一体となって、相乗効果で“×”となるあの感じを、そのままの編集で追体験していただきたいなと思っていて。ほかの映像は楽曲に合わせて編集したりしてるんですけど、これはもう放送されたときのままでお届けしたかった。「ガンダムビルドファイターズ」を知らない人にも、この体験をしてもらいたいですし、知ってる方は「ああ、あれあれ!」って、思い出してもらえたらいいなと思って選びました。
高梨 僕は「FAIRY TAIL」と「NARUTO-ナルト- 疾風伝」の曲を主体に演奏するんですけれど、ロックミュージシャンが作る曲はライブで映えるぞっていうところをお見せしたいなと思っています(笑)。あとはなんて言うのかな、“ロックミュージシャンとして魅せる”というところのエンタテインメントをちゃんとやるので、よろしくお願いします。そのために体を鍛えてますしね(笑)。
──今回演奏する「FAIRY TAIL」と「NARUTO-ナルト- 疾⾵伝」、これら2作品は当時それぞれどういったテーマで作られましたか?
高梨 どちらもひたすらエネルギーの発散です(笑)。今回は自分的にもアガる、「FAIRY TAIL」の「ドラゴンフォース」で始めますよ! 僕がこれまで観てきたロックコンサートと同じような、抑揚なし!ずっと最初から最後までレッドゾーンのまま、みたいな組み方でいきます。
林 少年アニメの劇伴を手がけている人らしい発言ですね。素晴らしい。
宮崎 僕は今後の劇伴をもっとエンタテインメント化させていくうえで、ちょっといろいろ試したいことがありまして。どれもお気に入りなんですけど、今回ラストに持ってきた「SPY×FAMILY」の挿入歌「Breeze」では、ボーカリストを呼ぼうかなと思っています。今後、より劇伴を広めていくっていう意味でも、さっき言った「敷居が高いな」って思う人たちが、それを観てどう反応するのかをリサーチしてみたい気持ちがあるんですよね。
──「Breeze」は、「SPY×FAMILY」第19話「母、風になる」での、ヨルさんのシーンで流れる曲ですね。楽しみです。
高梨 ヨルさんのコスプレはしないの?
宮崎 僕が? いやあ、高梨さんが言うんだったら……(笑)。「Breeze」は「東京伴祭」用のアレンジでやろうかなと思っているので、それも楽しみにしていただけたら。
──「京伴祭」とは違う新しい要素も見どころだと。
林 やっぱり「京伴祭」と同じことをやってはいけないなっていうのがあって。宮崎さんがボーカリストを入れたり、それぞれセットリストを変えたりするっていうのもそうですし、新たに「約束のネバーランド」「ニンジャラ」を手がけた小畑貴裕くんに、2曲ほど演奏で参加してもらうことになっています。少年マンガみたいに、これから新しい仲間たちが増えていく感じになるといいなと。あと人数が増えたほうが、打ち上げが楽しい。
一同 (笑)。
──「京伴祭」は上賀茂神社にて開催されましたが、「東京伴祭」は代々木競技場第二体育館で行われます。今回野外ではなく屋内となったのには、何か理由があるのでしょうか。
林 野外と屋内の両方でやってみて、ベストの形でお客さんに楽しんでもらえるようなものにしたいっていうのが前提にあるんですけど、たくさんの方に観に来ていただくというところが大きいですね。「東京伴祭」は有観客なのもあり、野外よりも屋内のほうが来やすい方が多いかなと思ったんです。まずは足を運んで、楽しんでもらって「これの京都版は野外なんだ」と知って、「そうだ。京都行こう」ってなるのが一番いいですね。
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エンタテインメントの究極の形なんじゃないか(宮崎)