謎の呪文作成プログラム

──「ケンイチ」は実在する武道を元に、基本的にフィジカルな世界観で構成されていますが、「トキワ」の場合は妖異や源術（ソーサリー）など、科学的には説明のつかないものが最初からありますよね。そういった違いについては意識されていますか。

「ケンイチ」については、実在する格闘技という縛りがある代わりに、地に足がついている安心感もありました。しかし「トキワ」はその縛りをなくしファンタジー要素を加えたことで、なんでもありの状態になってしまう危険を常にはらんでいます。そこで逆に「ケンイチ」よりもリアリティに気を付けなくてはいけないという皮肉な現象が起こってしまうんです。

──具体的にはどういった部分で。

例えば不思議なものを目の当たりにしたときの、世の人の反応とか。あとハルカが操る源術（ソーサリー）についても、かなりがんじがらめに設定をしています。なんでもできる魔法にしてしまうと、やはり危険なので。

──なるほど。呪文のもっともらしさなども非常に気を使われている感じがあります。

実は呪文に関しては、とあるプログラムで日本語を変換して作っています。規則性があるので、そのプログラムさえ使えば元の日本語にすることもできるんですよ。

──へええ。一種の暗号なんですね。

はい。高木さんという知人に作っていただいたので、私たちは「タカギドライブ」と呼んでいますが（笑）。昔、知り合いのアニメのプロデューサーさんが同じことを考えて、プログラムとして作ったら、ランダムに生成される言語は声優さんが読めなかったり、語感がカッコ悪かったりしてとても使えなかったそうなんです。そこを何とか読める語感で、常に変換してくれるシステムを作ってもらいました。

──でもこのプログラムを使えば、必ずある程度呪文っぽくなる。画期的ですね。

例えばルーン文字や梵字の発音をプログラムに組み込んだりして、それを実現しました。「トキワ来たれり!!」ではそういう、読者が楽しめるような仕掛けをいくつか施しています。いつ種明かしができるかはわかりませんが。

男はカッコよく、女は美しく

──あとやっぱり松江名先生といえば、女性キャラクターの可愛さも大きな魅力ですよね。

ははは（笑）。「トキワ来たれり!!」でもこれから、新たなヒロインが出てきますよ。

──えっ、まだ本命キャラクターは出てきていなかったんですか。それは楽しみです。

1巻は読み切りと1話で終わっちゃいましたし、女性キャラがそもそもあまり出てきていないんですよね。もうじきサンデーに載る部分になりますが、色んな意味で担当がすごい目くじらを立てている新キャラが出てきます（笑）。やり過ぎないようにしないと……。

──（笑）先生が女の子を描かれるときのこだわりや、気を付けている部分などありますか。

絵を見ていただければある程度はわかるとは思うんですが（笑）。基本は「男はカッコよく、女は美しく」ということです。少年誌ではそういった部分の魅力をある程度しっかり表現するべきではないかと。

──隠すから妙なことになってしまうと。

そうですね。これは自論なんですが、例えば我々の世代で言うと、峰不二子やキューティーハニーに代表される「大人の女性」がいいんだという価値観がありました。そこを変に隠してしまうと、かえって歪んでしまうのではないかなあと。だから少年誌においては、ある程度“健康的なお色気”はあったほうがいいと思うんですよね……という言い訳を己にしながら描いています（笑）。

迷ったことを判断できる材料になれれば

──「トキワ来たれり!!」の今後の展開についてなのですが、結局主人公である八坂トキワの成長を描く物語となるんでしょうか。

そうですね。少年マンガはどこまでいっても、主人公の成長を描くものですから。

──このキャリアの長さに対して愚直なまでの少年マンガらしさ、というのがやはり松江名先生の魅力のひとつでもあると思うのですが、どういう心持ちで描いてらっしゃるんでしょう。

単に今のところは少年マンガのほうが肌に合っている、ということだとは思うんですが……子供たちがマンガを読むことで、迷ったときに何か判断できる材料になれればというのはあります。青年マンガはどちらかというと、価値観の完成した大人に対して揺さぶりをかけるイメージだと思うんです。

──それは「ケンイチ」「トキワ」にも通じている？

ええ。「ケンイチ」を始めたときには、子供たちがなりたくなるような、カッコいい大人を描こうというのがコンセプトとしてありました。「トキワ来たれり!!」は、逃げられないことに巻き込まれてしまった場合どう対処していくのか、みたいなことかな（笑）。

──なるほど、人生において。

逃げられない、避けられないことが必ずふりかかりますから。その際自分の身を守るためにどうするか、というメッセージが織り込めたらいいなと思って描いています。