ナタリー PowerPush - 太田垣康男 機動戦士ガンダム サンダーボルト
宇宙開発ドラマの手練が取り組む 大人が血湧き肉踊るガンダム
はみ出すような気持ちをコマ割りでも表現したい
──ガンダムを描くにあたって、「MOONLIGHT MILE」での蓄積が活きてきた部分ってありましたか。
もちろん。それがあるから描けるんだと思っています。さっき話したモビルスーツのアレンジなんかもそのひとつですし、ストーリー面でも、「MOONLIGHT MILE」でアメリカと中国という大国間の争いを描いてましたから、1年戦争の世界観にも共通する部分があるんですよね。基本的に一般人は大国同士の争いに巻き込まれていってしまうもんだっていう。
──国と国の戦争だって、実際戦っているのは兵士ひとりひとりだっていう視点ですね。
その戦っている人も決して人殺しがしたくて戦っているわけじゃないですよ。戦争ってものがまったく自分があずかり知らないところで始まってしまって、なのに兵役を拒否すれば国に罰せられてしまう。生きるためには戦争に行くしかないんだ、という感覚。
──それは今作にも投影されているわけですね。
ただ新しいことをやりたいと思ってガンダムを始めたので、変えている部分も多いです。たとえば作画はフルデジタルになりました。コミックスタジオ(マンガ制作アプリケーション)、最初は挫折したんですが、だんだん慣れてきて、2話目はほぼすべてコミスタで描いてます。
──下絵から全部ですか?
そうですね。ネームだけ普通に紙に描いて、あとはそれをスキャンしてPC上で作業しています。あとコマ割りも意識して変えています。
──具体的には、どういう変化を。
「MOONLIGHT MILE」は映画をかなり意識した、横位置のフレームを基本に考えたコマ割りなんです。だからマンガ特有の変形ゴマも少ない。今回はそれをいったんやめて、コマの形も自由に斜めに切ったり、あと人物やメカが枠線からはみ出すように描いてます。何かはみ出すようなことをやりたいという気持ちが自分の中にあったので、それをコマ割りで表現したいな、と。
年甲斐もなく遊んでやろうと思ってます
──ほかに新しい試みというか変化した点はありますか?
いちばん大きいのは、ガンダムっていう、つまりロボットアニメを自分が描くということですね。それは「MOONLIGHT MILE」という宇宙ものを始めるにあたって、自分の中でいったん封印したものですから。たとえば「宇宙で羽根いらないじゃん」とか。
──「足なんて飾りですよ」とか(笑)。
そうやって合理的にメカのデザインなんかを考えていくコンセプトだったんですけど、そういうことを10年以上やってきて、それはそれで楽しいんですが、ちょっと感覚が大人になり過ぎちゃったんですね。それに気付いて、Twitterでガンダムを描いてみたら異常に楽しかったんです。
──子供っぽいけど、同時にワンダーみたいなものがあって。
そういう子供っぽさをこのまま封印し続けてしまうと、本当に感覚が落ち着き過ぎちゃうなっていう気持ちがあって。「MOONLIGHT MILE」は話が大きくなって、遊びを入れるのが難しくなってきてたんですよ。
──ということは、気の早い話ですけど、ガンダムを終えた先の「MOONLIGHT MILE」にとっても、何らかのフィードバックがありそうですね。
ガンダムをやったらそこが変わるかもしれないという期待は持ってます。もっと遊びの要素を入れてみようとかなるかもしれない。まあまずは、終えてみないとわからないけど(笑)。
──楽しみにしています。では最後に、「異常に楽しかった」とおっしゃっていたモビルスーツのお絵描き風景を、ぜひ拝見させていただければと。
太田垣康男「機動戦士ガンダム・サンダーボルト」連載記念、ザク速描き
「機動戦士ガンダム サンダーボルト」
作品解説
宇宙世紀0079年。スペースコロニーの残骸(デブリ)が放電を続ける通称「サンダーボルト宙域」では、連邦軍とジオン軍による激しい戦闘が行われていた。先の見えない閉塞感の中出撃する連邦の兵士達の中で、そんな状況を謳歌するMSパイロット、イオ・フレミング。そして彼らを待ち受けるジオン軍の狙撃手、ダリル・ローレンツ。宇宙という戦場で、彼らの運命は、どのように交わるのか。太田垣康男とガンダムがタッグを組んだ、渾身の集中新連載ついに開幕!!
太田垣康男(おおたがきやすお)
1967年大阪生まれ。1988年に漫画アクション(双葉社)にて「MY REVOLUTION」でデビュー。代表作に「一平」「一生」など。2001年よりビッグコミックスペリオール(小学館)にて「MOONLIGHT MILE」を開始し、現在も連載中。2012年3月より、長年ファンであったガンダムを題材にした連載「機動戦士ガンダム サンダーボルト」をスタートさせる。