「テスラノート」西田征史インタビュー|自身が原作マンガから参加する最新作がアニメ化!「TIGER & BUNNY」の縁で始まった“バディもの”と新たな挑戦を語る

西田征史、久保忠佳、三宮宏太による「テスラノート」がTVアニメ化、10月3日にその放送が開始される。マガジンポケットにて連載中の同作は、幼少期から最高の諜報員として育て上げられた少女・根来牡丹と、自称ナンバーワン諜報員・クルマが、天才発明家ニコラ・テスラの遺産“テスラの欠片”を回収するという世界の命運をかけた任務に挑んでいくスパイアクションだ。

コミックナタリーではTVアニメ「テスラノート」の放送を記念し、連載企画を展開。第1回には、「TIGER & BUNNY」「RE-MAIN」といったアニメや、連続テレビ小説「とと姉ちゃん」をはじめとした実写を股にかけ活躍する脚本家の西田が、作品の魅力をはじめ、“新たな挑戦”となったマンガ連載や、監督業についても語ってくれた。

取材・文 / 粕谷太智

「テスラノート」

かの天才発明家トーマス・エジソンがその才能に嫉妬したという発明家ニコラ・テスラ。彼は当時の技術では自身の発明を扱えないと考え、その発明の記録を利用できないように水晶にロックを掛け保管したのだった。しかし、「テスラの欠片」と呼ばれるようになったその水晶は何者かの手によって強制的にロックを解かれてしまう。暴走を起こした「テスラの欠片」による事件をきっかけに、幼少期から忍者としての教育を受け、最高の諜報員として育て上げられた少女・根来牡丹と自称ナンバーワン諜報員・クルマはバディを組み、世界の命運をかけた「テスラの欠片」回収の任務に挑んでいく。

少年誌での連載を目指してはじまった“バディ”の挑戦

──週刊少年マガジン(講談社)で連載開始、現在はマガジンポケットで展開中の原作マンガに原作者として関わられていますよね。脚本家としてのイメージが強かったので、連載が始まったときにお名前を見て大変驚きました。

「テスラノート」1巻の表紙。

同じく原作に名を連ねている久保(忠佳)さんから「西田くん一緒に物語作ろうよ」とお話をいただいたのがきっかけです。久保さんは「TIGER & BUNNY」(以下「タイバニ」)でも企画協力に名前を連ねていた方で、自分という脚本家を「タイバニ」に起用する流れを作ってくれた方のおひとりなんです。僕が書いた映画の脚本を読んで、「こいつはいいぞ」ってそこから目をかけてくださっていて。今回は「マンガの原作を開発しよう」と出発して、初めて一緒に企画を立ち上げたものが作品になりました。

──オリジナルアニメとしてもスタートできたのではと思ったのですが、マンガ連載を目指して始めた企画だったのですね。

はい! これが大事なんですけど、マンガが先でアニメが後なんです。

──最初の発表の場を週刊少年マガジンに選んだのはなぜでしょう? 個人的には週刊少年マガジンで今回のようなオカルト要素のある作品というと「MMRマガジンミステリー調査班」が思い浮かんだので、そういった読者層に向ける狙いもあったのかと思いました。

「発明した技術を奪い合うスパイの話」というアイデアを久保さんからいただいたときに、少年たちが興味を持ってくれる話になるんじゃないかというのはありました。なので企画段階から少年誌に掲載したいというイメージで進めていきましたね。それでまず久保さんがつながりのあった編集の方に話しつつ、最初にマガジン編集部に企画を持っていき、そこで当時「進撃の巨人」の担当編集だった川窪慎太郎さんが興味を持ってくださったんです。そこから川窪さんと連載まで一緒に内容を揉んでいきました。

──川窪さんが担当なのですね! マンガの打ち合わせではどういうお話をされているんですか?

基本的に話作りはすごく尊重してくださっていて。シナリオというよりはマンガになったときのことについてアドバイスをいただくことが多かったです。そして三宮宏太さんに絵を書いていただくことに決まり、僕のシナリオに対してその話でどこまで話を進めるかなどを皆で話し合って進めている感じです。さらに三宮さんがネームを切る際にアイデアを盛り込んでくださることも多々あってマンガとして出来上がっています。

──先ほど「少年が興味を持ってくれる」というお話がありましたが、確かにいくつかの組織が1つの宝を奪い合うという展開は、少年マンガだと王道ですよね。物語には都市伝説としても語られることが多いニコラ・テスラの発明品も深く関わっていますが、これはどなたのアイデアだったんですか?

「テスラノート」第1話の扉ページ。

そこも久保さんです。今あるいろんな技術の礎となったテスラの発明をスパイが奪い合うストーリーを、僕のキャラ付けや世界観で展開していったら面白いと思うというふうに言っていただいて。そこに肉付けをしていったのが今の物語です。

──そうだったのですね。さまざまな作品を並行して抱えていらっしゃる中での連載ですが、ストーリーはどこまで決まっているのですか?

すでに最終回までのシナリオは書ききっているんです。やはり物語の終わりが決まっていないまま、ほかの仕事と並行して書き続けるというのが難しかったので、シナリオを全部書き切ったうえで連載を始めることになりました。そして今回のTVアニメは連載準備中にメディアミックス作品として展開できたらいいねという話で決まったんです。で、アニメのオンエア時期に合わせるならばいついつのタイミングから連載をスタートした方がいいですね、という流れでマンガの連載開始時期が決まっていった感じです。

こだわりは「男女の性別を超えた平等なバディ」

──連載開始から異例のスピードでアニメ化が発表されたのはそういった経緯があったのですね。この作品を楽しむうえで牡丹とクルマの男女バディの関係も重要だと思います。「タイバニ」と同じく「バディもの」にもくくれると思うのですが、「バディもの」を手がける際に意識していることはありますか?

僕は人間関係の変化を描くのが好きなので、2人が出会ってその2人がどうなっていくのかというのが「バディもの」の肝なのかなと思います。今回は牡丹とクルマという「タイバニ」の虎徹、バーナビーとは違ったキャラクターの2人が、どこまで反発して、どこでお互いを認め合っていくのかを考えるのが僕としては楽しかったです。

──そこもストーリーのひとつのキーになってきそうですね。

男女バディの話ではあるものの、そこに恋愛は持ち込まずに男女の性別を超えた平等なバディを描いてみたいというのは、実は僕が今回こだわっているところなんです。それを少年誌でやるのは稀有なパターンなんじゃないかなと思ってます。

──確かにあまり見ない気もします。なぜそこにこだわったのでしょう?

少年誌のメイン読者層はもちろんなのですが、幅広い年齢に、そして男性のみならず女性にも読んでほしいなという思いがありまして。女性が読んだときに、恋愛対象として見られない安心感を抱いていただけたらと思ったんです。物語の中で、誰かにとっての恋愛対象という要素は皆無にして、仕事の仲間・相棒として受け入れられている関係。男性とか女性とかを全く意識していない対等な関係。恋愛関係ではないけれど、自分を理解してくれている存在がいることのほっとする感じというか。まだまだ女性って性的対象として見られることが多いし、そういう目にさらされていると感じているんじゃないかなと。常に周囲のそういう感覚、価値観を感じながら生きるのはとても辛いだろうなと近年考えるようになりまして。そういうものをとっぱらったバディが描けたらすごく素敵だし、女性が読んだときに2人の関係がうらやましいなとか、自分にとってのクルマみたいな人がいてくれたらいいなとなるような話にしたいと思ったんです。最初は牡丹のことをただの小娘と思っていたクルマが対等なバディとして彼女を認めていく。その変化がこの作品の肝ですね。

──2人に敵対するかたちで登場するミッキー、オリバーもまたバディです。牡丹とクルマは凸凹なバディという印象が強いですが、ミッキーとオリバーは2人で交わす言葉も少なく熟練バディという印象を受けました。

左からミッキー・ミラー(CV:諏訪部順一)、オリバー・ソーントン(CV:神谷浩史)。

ミッキーとオリバーもそうだし、あとはピノとエルモというバディも登場するので、3組のバディを描いています。それぞれのバディごとの個性や関係性の違い、絆の強さも今回の見どころだと思ってシナリオを書いたので、この3組はそれぞれバランスを決めてキャラクターを配置していきました。連載ではまだこの先の展開への布石を打っているところなので、最後まで観ていただいたときにバディ間の関係の変遷や「実はこういう関係だったのか!?」というところにも注目してもらえると、より楽しめるのかなと思います。

──もし挙げるとしたら3組でどのバディが書いていて楽しかったですか?

いやあ、どのバディも好きになってもらいたいと思っているんですけど、ミッキーとオリバーの掛け合いは書いていて楽しかったですね。彼らは彼らで独特なので。

──ミッキーとオリバーは諏訪部順一さんと神谷浩史さんが演じるので、2人の演技も楽しみです。何気ないやり取りにも注目してほしいですね。またアニメでは物語の中心となるバディの牡丹とクルマをそれぞれ小原好美さん、鈴木達央さんが演じられます。2人の演技はもうご覧になられましたか?

はい。2人ともナチュラルだけどエネルギッシュでキャラクターの立った芝居をしてくださったので、自分がイメージする牡丹とクルマをビタリとはめていただきました。牡丹はエネルギッシュではあるんですけど、割と落ち込みやすいところもあって。そのあたりの落差も小原さんが演じてくれることで、すごくかわいく、憎めないキャラになったなと思いますね。

──本編映像を先に見ましたが、凄腕のスパイでありながらも、年相応の女の子という感じがよく出ていますよね。

小原さんはそういうリアルな感じを出せる面白いお芝居をするなと思って見ていました。キャラクターの掛け合いの楽しさは、素晴らしい声優さんの演技を含めて見どころだと思うので、アニメではそこにも注目していただきたいです。


2021年9月2日更新