コミックナタリー PowerPush - タケヲちゃん物怪録

不幸な少女を妖怪たちが幸せに導くまっすぐで優しい“とよ田節”全開

自分は明るいマンガを描く係

新装版「ラブロマ」は小学館より刊行。最終5巻が2月に発売された。

──本当にとよ田さんの作品って伝えたいことが一貫してますよね。デビュー作である「ラブロマ」もちょうど新装版が出ましたが、この頃と現在とを比較して、自分の中で変化した部分はありますか?

なんでしょうね。昔はもっと自分を追い詰めて描いてた気がします。本当に「もう死ぬ……死ぬ……」って思いながらギュウって雑巾絞るみたいな感じで描いてたんですけど(笑)、でも最近は楽しんで描けるようになりましたね。

──楽しめるようになったのはどうしてですか?

うーん、なんでだろう。やっぱり昔はどうやったら伝わるのかとか、そういうことがよくわかんなかったんで。ある程度作品を描いて読者の反応と照らしあわせてるうちに、そこがわかってきたというか。

──確かに「タケヲちゃん」を読んでいると、とよ田さん自身が楽しんで描いているのが伝わってきます。

「タケヲちゃん」ではエンタテインメントをかなり意識してるんで。読者に対しても「皆さん気軽に楽しんでください!」っていう気持ちが強いですね(笑)。

──読んでいる人が楽しくなるようなマンガを描きたいということですね。

「タケヲちゃん物怪録」より、桜が咲く秘密の庭で宴会をする妖怪とタケヲたち。マンガで世の中を明るくしたいという、とよ田の思いが伝わってくる賑やかなシーンだ。

僕はやっぱり、今の世の中が暗いなって思ってるんですよ。だから明るいマンガを描いて、世の中をもうちょっと明るくしたい。もちろん明るいマンガだけ流行っててもダメで、「お前もっと危機感持てよ」って伝える暗いマンガがあってもいいと思うんですけど、でも僕は“この係”なんですね。それをやるって、もう決めたんです。

──なるほど。

僕自身はマンガのイメージに比べればそれほどクリーンな人間ではないと思いますけど(笑)。でも僕はこういうメッセージのマンガを世に出すことで、多少は世の中を変えたいっていう気持ちがあるわけです。大海にしずくを垂らすようなものだと思いますけど、誰かしらが元気になってくれたらいいなって思って描いてますね。

心の中に田舎の海の風景がずっとある

──とよ田さんのそうした性格はどこで形成されたんでしょう。ご出身はどちらですか?

生まれたところは(東京都)伊豆大島です。両親とも教師をしてたんですよ。うちの親父がちょっと変な人で、転勤のときにわざわざ誰も行きたがらないような島とかに転勤願いを出して、それで島に移り住んでたんですって。で、たまたま僕が生まれたときは泉大島に住んでいて、小学校入る前ぐらいに東京の江戸川区に引っ越してきて。

「CATCH&THROW」は島の学校に転校してきた少年と少女が、フリスビーで心を通わせる読みきり作品。「とよ田みのる短編集 CATCH&THROW」に収録されている。

──江戸川は「ラブロマ」の舞台ですよね。じゃあ「CATCH&THROW」の舞台はもしかして……?

そうそう、あれは伊豆大島ですね。小学校入ってからもよく遊びに行ってたんで、だから僕の心の中に、あの田舎の海の風景がずっとあるんです。

──学生時代は何をしていましたか?

何もしてないです。もうずっと口開けてました。ふふふ(笑)。

──マンガは?

描いてないんですよ。僕初めてマンガ描いたのが25歳とかで。

──何か描き始めるきっかけがあったんでしょうか。

もともとマンガを読むのは本当に好きだったんですけど、あの、どんなマンガを読んでも「ここもっとこうしたらいいのにな」ってあるじゃないですか。だから自分の納得できるマンガを、自分で描いてみたいなと思って。

アイデアノートや原稿の下書きを眺めながら、投稿時代について振り返る。

──そのとき最初に描いた作品というのは?

それはもう箸にも棒にもかからないです。週刊少年サンデーに持っていったんですけど……門前払いでした。もう誰にも見せたくないです(笑)。

──どんな内容だったんですか?

なんだっけなあ……。なんか泥棒のマンガでしたね。僕、寺沢武一先生の「コブラ」が大好きなんですけど、そのマンガを友達に読ませたら「エロくないコブラ」だって言われました。主人公がただ正直に生きるために泥棒をしてる、みたいな作品で。

──そのテーマは今に通じるものがありますね。

うん、その作品は最悪なデキだったんですけど、その気持ちのまま、納得できる1本を僕はずっと描きたいと思ってるんです。それがいつか描けたらいいなって思いながら描き続けてますね。

描きたいのはブルーハーツみたいなマンガ

──ところで「タケヲちゃん物怪録」の今後の展開はどうなっていくんでしょうか?

さっきも言ったように、これはタケヲちゃんという1人の女の子が幸せになるまでの物語なんですね。だからそれ以外はもう全部付録です(笑)。その付録をできるだけ面白くしていきたいなっていうだけですね。

──なるほど。

だからタケヲちゃんが幸せになるのは確実です。それだけは約束します。

──よかった。こんな世の中だからこそ、やっぱりとよ田さんには希望のあるものを描き続けてほしいです。

描きたいですねえ。

──とよ田さん自身、そういう作品が好きなんですね。

「タケヲちゃん物怪録」3巻の帯には、藤田和日郎がイラストとコメントを寄せている。写真は、とよ田が藤田へのお礼に描いた色紙。「月光条例」の岩崎月光とエンゲキブが、とよ田タッチに。

そうですね。今まで読んだ中で面白いマンガはなんですか?って聞かれたら僕は「寄生獣」か「うしおととら」って言います。目標にするのもおこがましい位の作品ですが!

──やっぱりどの作品にも共通して「まっすぐに生きて、幸せになろう」といったテーマがある気がします。

そういうものが好きなんでしょうね。僕はブルーハーツみたいなマンガが描きたいんですよ(笑)。

──ああ、それはなんだか納得です。

ブルーハーツを初めて聴いたときに「ああ、ダサいことをなんてまっすぐに言うんだろう」と思って感動したんですよね。そういう感じをマンガで出したいなっていうのはずっと思ってます。

とよ田みのる

タケヲちゃんに強敵出現……!?
少しずつ幸福を知り始めたタケヲちゃん。だけど臨海学校と聞けばトラブルの予感しかしない!!?
さらにタケヲちゃんを不幸にせんとする強敵も現れて……?
とよ田みのるの新型ハートフルストーリー第3巻!!

名手の初連載作が装い新たに復活!
「友達100人できるかな」「タケヲちゃん物怪録」でおなじみ、とよ田みのるの初連載作!
直球すぎる、初々しすぎる少年少女の等身大ラブコメ!!

とよ田みのる(とよだみのる)

とよ田みのる

1971年生まれ。東京都出身。2000年に月刊アフタヌーン(講談社)の四季賞にて佳作、2002年に同賞にて大賞を受賞。2003年に初の連載作品「ラブロマ」を開始した。代表作に「FLIP-FLAP」「友達100人できるかな」など。ゲッサン2012年1月号にて「タケヲちゃん物怪録」を連載開始。