東京都が実施する「アニメーション海外進出ステップアッププログラム」とは? 参加の意義やフランスで感じた日本アニメの今を、コンテスト受賞者に聞く

日本のアニメに海外資本が入ることも少なくない昨今、新たな市場開拓の必要性が叫ばれている。というのも、中国や北米といった市場はすでに飽和状態にあるからだ。そんな中、東京都は海外展開を志す東京のアニメーション関連企業などを対象に「アニメーション海外進出ステップアッププログラム」を展開している。プログラムに参加し、さらに「東京アニメピッチグランプリ」で受賞すると、フランスの見本市・MIFAへの出展が可能。コミックナタリーでは昨年度の受賞者で、実際に支援を受けてフランスの見本市へと参加した、アーチ株式会社の遠藤聡平プロデューサーに話を聞いた。

撮影 / 小山美里

「アニメーション海外進出ステップアッププログラム」とは?
Tokyo Anime Business Acceleratorロゴ

東京都は「Tokyo Anime Business Accelerator」という、海外展開を志す東京のアニメーション関連企業などを対象にした支援事業を実施している。
中でも主軸となる「アニメーション海外進出ステップアッププログラム」では、海外市場のニーズや商習慣、“ピッチ”と呼ばれるプレゼンテーションのスキルなどを学べるセミナーやワークショップが無料で開催されている。
それらを受講することで「東京アニメピッチグランプリ」にチャレンジすることが可能。受賞者には最大100万円の賞金が与えられるほか、フランスで開催されるアニメーション見本市・MIFA(Marché international du film d'animation)への出展支援が行われる。

公式サイト

「東京アニメピッチグランプリ」令和5年度受賞企業インタビュー

取材・文 / 太田祥暉

話を聞いたのはこの人

遠藤聡平(エンドウソウヘイ)

遠藤聡平氏

トリガーで制作進行の補佐を経て、アーチへ入社。TVアニメ「聖剣伝説 Legend of Mana -The Teardrop Crystal-」、MV「ネコカブリーナ」、PV「アズールレーン7周年記念アニメ」など、アニメの制作プロデュースを担当している。


アーチ株式会社

アーチ株式会社

東京都渋谷区に所在する、アニメなどのコンテンツを手がける企画・プロデュース会社。村田和也監督・原案の「目醒めのアウロラ~虹の森に咲くきみと~」で、令和5年度「東京アニメピッチグランプリ」の最優秀賞を受賞した。

未開拓の欧州市場へ、安心して臨める環境

──まず、昨年度「東京アニメピッチグランプリ」で最優秀賞を受賞された作品「目醒めのアウロラ ~虹の森に咲くきみと~」について教えてください。原案・監督は「翠星のガルガンティア」で知られる村田和也監督ですから、Production I.G出身の平澤直プロデューサー率いるアーチさんとは縁の深い座組だと思います。

おっしゃる通り、弊社の平澤と村田監督との縁からスタートした企画です。キャラクターデザインとシリーズ構成がほぼできあがっていて、村田監督もイメージボードをたくさん描かれている……という状態でした。もちろん国内でも出資のご相談をして興味を持ってくださる企業もあったのですが、オリジナル企画はチャレンジ枠になるので、よりよい条件を求めていました。そんな中、この「東京アニメピッチグランプリ」の存在を知ったんです。社内でも議論をしたのですが、海外に目を向けるという挑戦はするべきだと思い、参加することに決めました。

「目醒めのアウロラ ~虹の森に咲くきみと~」ビジュアル

「目醒めのアウロラ ~虹の森に咲くきみと~」ビジュアル

──「東京アニメピッチグランプリ」に応募するためには、海外市場のニーズや商習慣、プレゼンスキルについて学べるセミナーやワークショップの受講がマスト条件となります。遠藤さん含むアーチの方々も受講されたかと思いますが、どのような印象を受けましたか?

今までやってきた仕事では触れられない内容を学べたので、とてもいい機会でしたね。そもそも“ピッチ”というビジネス用語すら知らなかったので(苦笑)。僕はオンライン限定のセミナーのほうを受講したんですけど、現地開催セミナーも受講したほうが絶対によかったなと後悔しましたね。別にオンラインだと話がわからないとかではないんですが、現地だと空気感も含めて理解を深められるはずですから。

──実際に「東京アニメピッチグランプリ」へ応募される際、どのような準備をされましたか?

まず、企画内容の整理です。何も知らない人に作品の概略を掴んでいただくために、そこまで考えていた内容を一気にまとめていきました。

──参加した後の手応えはいかがでしたか。

まったくなかったです(苦笑)。なので、実際にMIFA出展のためにフランスへ行くことになってからが大変でした。そもそも僕はヨーロッパに行ったこともなかったですし、ピッチについてセミナーで学んだとはいえ実際に何をするのかはまだ見えていないわけです。どう商談をすればいいのか、まったくの未知数でした。そもそも弊社としても、欧州市場は未開拓でしたからね。

遠藤聡平氏

遠藤聡平氏

──アーチさんといえば、いくつか海外の企業ともお仕事をされていますが、意外にもヨーロッパでの商談は初めてだったんですね。

そうなんです。なので、社内的には自分が前に出るチャンスだと(笑)。「Tokyo Anime Business Accelerator」はグランプリで勝ち進んだ人にもいろいろレッスンやセミナーをしてくださるので、とても助かりました。そもそも欧州市場ではどういう資料の作り方が必要になるのか、どう見せたらいいのかという基礎的なところから、ネイティブチェック、模擬商談までしてくださいました。

──そもそも日本と欧州市場とでは、商談用の資料の作り方が異なるんですか。

これは僕の作り方が特殊なのかもしれないですけど、とにかく情報量を詰め込みがちなんですよ。これでもかとPowerPointに作品の情報を書き込んでいくんです。でも、MIFAでの商談は時間が限られていますから、すべてを説明することは不可能なこともあって、限られた情報量に削ぎ落としていきました。これもアドバイザーさんがいたからこそできたことだと思っています。

フランス市場で求められているアニメは?

──MIFAでは東京都ブース内に出展者それぞれのコーナーが用意される形となりました。

東京都のブース内で出展できるので、商談にいらっしゃる方にとっても、信頼感があったと思います。そういったこともあってか、大勢の方に来ていただくことができました。加えて、東京都側で宣伝をしてくださるし、設営もしてくださるので、出展者側としては商談に集中できてとてもありがたかったです。あと、今回とても心強かったのは、同じ「Tokyo Anime Business Accelerator」のくくりで渡仏した人がいたことです。特にStudio GOONEYSの方々は過去にもMIFAへ参加されていたこともあって、どう商談をするべきか、会場の雰囲気と併せて教えてくださいました。クリエイターが来たら何を話すか、メーカーの方ならどう商談をするのか、筋道を立てて話せるようになったのは先輩からのアドバイスも理由の1つでしたね。

MIFA2024での出展の様子。

MIFA2024での出展の様子。

──言語の壁に関しては、どのように感じられましたか?

僕はフランス語がしゃべれないですけど、日仏英トリリンガルの通訳さんを手配してくださったのでとてもスムーズにいきました。そこはあまりハードルに感じなかったですね。

──ロサンゼルスで開催されているAnime Expoをはじめ、世界各国で日本アニメの商談の場が開かれています。MIFAに参加して、フランスではどのようにアニメが受容されていると感じられましたか?

我々が海外で求められる日本アニメのことを考えると、「AKIRA」や「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」のような作品を思い浮かべますよね。今フランス市場で求められているアニメは、ジャンプ作品などのすごく有名な原作ものばかりです。特に、オリジナル作品に対してはちょっと熱が控えめだなと感じました。日本アニメに限らず全般的に言えば、一番求められているのはファミリー向け作品で、次いで「スパイダーマン:スパイダーバース」や「アーケイン」のようなリッチな3Dアニメタイトル。ようやくその次に日本アニメといった印象を受けましたね。あと、アート的なアニメーションを欲する声もありました。

──となると、かなりの逆風ですよね。

あくまでそういうアニメが人気というだけなので、求められていないわけではないですし、僕らのような作画のオリジナルアニメでも一歩駒を進めることは可能だと思いました。ただ、そもそもフランスと日本ではアニメーションの作り方自体も異なりますから、当初はかなりハードルが高く感じられましたね。でも、実際にお話をしてみると、これまで耳にしていた作り方とは少し異なったので、まさに百聞は一見に如かず、だったなと。ギャップを埋めながらお話しすることができたので、とても有意義な時間になったと思います。その結果、何社か興味を持ってくださる方がいて、現在も継続してお話をしていますよ。あと、これはMIFAに参加して実感したことですが、商談に臨むならパイロットフィルムを持って行ったほうがいいですね。

──完成作品に限らずですか。

その作品はどんな動きをするのか、どんなルックなのか、どれくらいの線の量があるデザインなのかがわかる映像があればいいと思います。どうしても言葉だけでは伝わらないこともありますからね。それに、欧米の出資者は製作委員会に参画するというよりも、完成した作品を買い付けるビジネスモデルのほうが主流です。なので、企画だけだと出資ができないところもあるんですよね。完成作品であることがベストではありますけど、動きがわかればそのハードルも下げられる気がします。僕らはイメージボードやキャラクターデザインだけで勝負をしに行きましたけど、ほかの会社さんを見ていると映像があったほうがうまくいったかも?と思わなくもないですね。ここは企画会社としてはやりづらいところではありますが……。

アニメ業界の内と外を接続する試み

──MIFAでの商談を振り返って、現在の心境をお教えください。

商談に集中できる環境づくりをしてくださったことが何より助かりました。ほかのイベントだと、どうしてもホテルの手配をしたり、飛行機のチケットを取ったりしなくちゃいけないんですよね。イベントの主催者側が親切でなければ、ほかの情報まで自分たちで調べる必要が出てきます。でも、今回は「Tokyo Anime Business Accelerator」の事務局の方々がまとめてやってくださっていたので、僕たちは商談の準備をするだけで済みました。

遠藤聡平氏

遠藤聡平氏

──もし1年前に戻って、改めて「Tokyo Anime Business Accelerator」に参加するとしたら、どんなことをしますか?

1年前の僕は、欧州市場のことをあまり知らなかったなと。もちろん北米と中国、中東とは別のトレンドがあることは重々承知のうえなんですが、欧州市場がどういった独自のマーケットになっているのか、不勉強だったんです。セミナーではそこも教えていただきましたが、あらかじめ自分でも勉強していたらもっといろんな話ができたかもしれないですね。もうひとつ付け加えるなら、ビジネス英語はもっと覚えたほうがいいです(笑)。今回は通訳さんがいない場所でも身振り手振りでどうにか対応しましたけど、ビジネス英語が使えるとアニメ業界での活躍の場が今後増えていく実感がありましたね。

──今回、「Tokyo Anime Business Accelerator」を機にMIFAへ出展されましたが、参加してよかったなと特に感じられたことはなんですか?

日本のアニメ業界は村社会的に限られた人間だけで企画・制作しています。村社会なので、僕らは集団の外に出て行く術もわからないですけど、逆に、外から内部へアクセスする方法がわからない人もいるはずで。そのバイパスになってくれるのが、今回のような試みだったなと思います。その1点だけでも、とにかく参加する意義があったと思います。先ほど触れたようにスタジオさんのほうがパイロットフィルムを持って行きやすいので商談はしやすいのかもしれませんが、企画会社ならすぐにビジネスの話ができるので、どちらも参加する意義があるはずです。もし今回の作品でご縁がなくても、ほかの企画ではご一緒できるかもしれない。そんな信頼関係を結ぶきっかけになったと思っています。僕らもまた、機会があれば「Tokyo Anime Business Accelerator」に参加したいですね。

「アニメーション海外進出ステップアッププログラム」に参加するには?

参加の流れ

STEP1:説明会に参加

「アニメーション海外進出ステップアッププログラム」に興味を持ったら、まずは10月・12月に開催される説明会に参加してみるのがオススメ。事業全体の内容を、過去プログラムに参加したアニメスタジオ代表者やアニメプロデューサー、クリエイターらの体験談も交えて聞くことができる。

開催概要

第1回

2024年10月3日(木)19:00~20:30

第2回

2024年12月3日(火)19:00~20:30

会場:池袋 藤久ビル東五号館14階貸会議室
参加費用:無料
参加申込み:各回2営業日前16:00まで

STEP2:セミナー・ワークショップに参加

10月から12月にかけてリアルまたはオンラインで、4つのセミナーと2つのワークショップが開催される。セミナーでは「アニメーション映画祭・海外マーケットについて学ぼう」「映像作品の資金調達・予算・ライセンスについて考えよう」など海外展開に必要な知識を学べ、ワークショップでは海外と商談する際に必要なピッチマテリアルの組み立て方といったスキルを磨くことができる。参加はすべて無料だ。

開催概要

セミナーA:アニメーション映画祭・海外マーケットについて学ぼう

2024年10月10日(木)19:00~21:00

セミナーB:TV・映画作品を企画し売り込むことを考えてみよう

2024年10月29日(火)19:00~21:00

セミナーC:TV・映画作品のピッチマテリアル・バイブルで伝えることを考えよう

2024年11月5日(火)19:00~21:00

セミナーD:映像作品の資金調達・予算・ライセンスについて考えよう

2024年11月14日(木)19:00~21:00

ワークショップ①ピッチマテリアルを組み立ててみよう

2024年11月27日(水)18:00~20:00

ワークショップ②実際にピッチしてみよう

2024年12月12日(木)18:00~21:00


参加条件:以下のいずれかに該当すること。

  • 都内に登記がある中小企業者
  • 都内税務署へ開業届出をしている個人事業主
  • 将来、都内にて創業を検討されている、都内在住/在勤/在学の方

参加費用:無料
参加申込み:各回2営業日前16:00まで

STEP3:「東京アニメピッチグランプリ」に出場

セミナーまたはワークショップに1回でも参加すると、「東京アニメピッチグランプリ」への出場権が得られる。募集要項や応募書類は「Tokyo Anime Business Accelerator」の公式サイトに掲載されている。

開催概要

日時:2025年2月17日(月)9:00~18:00
会場:東京都23区内の会場を予定
参加条件:
①セミナー4回、ワークショップ2回の計6回のうち、1回以上参加した方
②募集要項記載の応募資格を満たしている方
応募書類受付期間:2024年12月20日(金)~2025年1月7日(火)

STEP4:MIFA2025東京都ブースへ出展!

MIFA2024東京都ブースの様子。

MIFA2024東京都ブースの様子。

ピッチ発表イベントの様子。

ピッチ発表イベントの様子。

「東京アニメピッチグランプリ」受賞者は最大100万円の賞金に加え、フランスで開催されるアニメーション見本市・MIFA2025にて、東京都ブース内に出展できる。海外展開へ一歩踏み出したい企業は、「東京アニメピッチグランプリ」にぜひチャレンジしてみよう。

詳細はこちら