鈴木ジュリエッタインタビュー|“読者の欲望を刺激したい” デビューからこれまで描いてきたヒロインを振り返って得た答え

描いていて一番楽しかった「トリピタカ・トリニーク」

──次は2016年から2018年1月まで連載された「トリピタカ・トリニーク」。「少女西遊記」とキャッチコピーがつけられ、主人公の少女・花果が師匠の玄奘を助けるため、大冒険を繰り広げます。

「トリピタカ・トリニーク」1巻

「トリピタカ」は本当に描くのが楽しくて。たぶん、これまでの作品の中で一番楽しかったのは「トリピタカ」ですね。

──どういうふうに楽しかったんでしょう?

キャラクターを描くのが楽しかった。昔、マンガを描き始めた頃は、白い紙にいろいろ描いたら世界が広がるところが面白くて。「白い紙だったのに! 私が描いたら世界が生まれた!」みたいに。でも「トリピタカ」は、花果を描くのが楽しかったんです。アシスタントさんに「楽しい」ってずっと言ってたくらい。

──「可愛い女の子が描きたいと思って描き始めました」と1巻の柱コメントにありましたが、花果のかわいいポイントはどこだと思いますか?

成長した花果。

感情を隠さないですぐに表に出しちゃうところです。特にちゃんと怒れるところがすごくかわいい。

──先ほど、「奈々生は怒ることがなくなった」とおっしゃっていましたが、その反動でしょうか。

ああ、そうかもしれません。奈々生はひどいことをされたら、我慢しちゃう。そうすると大ごとになっちゃったりするけど、その場で「ムカついた!」って爆発するとそこで終われるから、そっちのほうがいいなって思いまして。

みんな恋をしてる新連載「忍恋」

──さて、いよいよ新連載「忍恋」のお話を聞ければと思います。明かせる範囲で、「忍恋」のストーリーを教えていただけますか?

「忍恋」カラーイラスト

物語の舞台は21世紀の現代です。ど田舎にある忍者の里で、女の子であることに葛藤している忍者の見習い・杏子が、超お金持ちの華山院家お抱えの忍びになってサクセスしていく、シンデレラストーリー。いろんな人に楽しんでもらえるようなエンタメが入れられたらいいなあって思ってます。

──これまでも悪魔を呼び出す女の子、アンドロイド、神様女子高生など個性的な主人公を描いてきた鈴木さんが、新作で主人公を忍者にしたのはなぜですか?

忍者の組織を描きたくて。忍者という縛りを設けることで、主人と忍者とか、忍者の村の上下関係とか、ほかにも主の父親に仕えている忍者とか主の敵の家の忍者とか、人間関係に奥行きが出てくるかと。

──杏子はどんな主人公なんでしょう。

資料用の忍者道具。

素直で反骨精神があって、がんばり屋のかわいい子です。

──タイトルに「恋」の字が入っていますが、ラブストーリーでしょうか?

はい。実は最初、「みんな恋をしてる」というタイトルのつもりだったんです。そのままなんですが、登場人物みんなが恋をするお話。そういうタイトルにしたら、恋をなかなか描かない私でも恋を描くだろうと(笑)。

──「神様はじめました」で恋のエピソードをいくつも描かれてきたと思うのですが……。

恋愛というか、“執着”がすごく好きで。そっちを描いたのかもしれません。

──ああ、確かに巴衛は言うなれば何百年も奈々生に執着していたわけですし、蛇の神使・瑞希も依存体質というか、奈々生に恋とは違った感情を持ち、奈々生の幸せだけを願って巴衛との仲を見守りますね。新作では、どんな恋を描く予定ですか?

まだ第1話の時点では杏子が恋をしていないので、難しいのですが(笑)。杏子は「きれいなものを守るために、泥だらけになりたい」と思うような子なんです。杏子は好きな男の子のことを、宝石みたいにきれいで「自分が守るぞ」っていう存在だと思ってる。でも最終的に、相手の男の子にとっては杏子が宝石というか、汚したくないものになる……というようなイメージをしています。男の子のほうが、ずっと杏子のことを好きになってしまう。

読者の欲望を刺激したい

──楽しみです! さて、過去作から最新作まで語っていただきましたが、マンガを描くうえで、ご自分で一番変わった点はどこだと思いますか?

「神様はじめました」カラーイラスト

昔はサブカルというのかな、個性的なもの、エンタメじゃないものにすごく憧れてました。だから最初は自分の中にあるものをマンガで表現したいという気持ちで描いてたんです。でも「神様はじめました」を描いてるとき、「読んでて幸せだった」っていう感想をたくさんもらって。人に喜んでもらいたいな、喜ばれるのってすごくうれしいなって気持ちになって、今は表現したい気持ちより、読者に喜ばれることのほうが大事です。

──そう思ったのはなぜでしょう?

昔からマンガが好きでいっぱい読んでたんですけど、読者としてはエンタメ作品を楽しんでるのに、描き手としては個性的でサブカルなものがキラキラして見えてた。でも、「神様はじめました」の途中から読者としての自分と描き手としての自分が近づいてきたんです。

──「神様はじめました」のどの辺りから、そう感じました?

アニメ化されてからかもしれません。作品を客観的に見られるようになった。それに長く連載していたので、読者としての私が貪欲になってしまったのかも。うまく言えないんですけど、「神様はじめました」の終盤は読者のために描いてました。「私の作品見て!」というよりは、読者に楽しんでもらうために描いて、「楽しかったよ」とリアクションをもらって浮かばれる。

──新連載の「忍恋」でも「エンタメが入れられたら」とおっしゃっていましたが、鈴木さんにとってエンタメってなんですか?

「神様はじめました」カラーイラスト

読んでいて楽しいとか気持ちいいとか、そういう欲望を刺激することでしょうか。

──欲望……ですか。

強い願い、と言い換えてもいいかも。欲望って、たぶん自分の利益になることですよね。「みんなが幸せになったらいいな」とかじゃなくて、「ハンバーガー食べたい」とか、そういう(笑)。でもそっちのほうが、読んでる人も「私も食べたい」って共感してくれると思うんです。欲っていっぱいあるから、いっぱい描けると楽しそうだなって思います。

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鈴木ジュリエッタ(スズキジュリエッタ)
2004年、「星になる日」でデビュー。代表作「神様はじめました」は全25巻が刊行され、アニメ化とミュージカル化も果たした。新連載「忍恋」が、8月4日発売の花とゆめ17号(白泉社)にてスタート。