「名探偵 耕子は憂鬱」大地丙太郎インタビュー|耕子に「ズッキューン!」とやられてしまった大地監督、耕子のかわいさを全力プレゼン!

鈴木ジュリエッタによる待望の新作「名探偵 耕子は憂鬱」1巻が発売された。同作は空前のミステリーブームに沸く昭和中期を舞台に、18歳の探偵見習い・金田耕子が3つの難事件を解決して探偵の資格を得るために奮闘する推理ラブコメディ。耕子に一目惚れしてしまった犬上佑清の恋心、耕子が潜入した春秋館の奇妙な下宿生たちとの共同生活、そして耕子が常に持っているテディベア……。魅力的な謎がちりばめられた「名探偵 耕子は憂鬱」は花とゆめ(白泉社)にて連載中だ。

1巻の発売を記念し、コミックナタリーでは鈴木の代表作「神様はじめました」のアニメ版で監督を務めた大地丙太郎にインタビューを実施した。「名探偵 耕子は憂鬱」読み切り版の段階から自身のTwitterで「耕子かわいい」を連発し、ファンアートを投稿していた大地監督は、インタビューの開始早々「耕子ファンクラブを作っている」と告白し気合い十分。自身の監督作「おじゃる丸」のおじゃる丸と双璧をなすと言う耕子のかわいさを存分に語った後、鈴木ジュリエッタ作品の持つ「裏切りの面白さ」の魅力についても解き明かした。

取材・文 / 三木美波

耕子はちょっとたまらんです。本当にとんでもなくかわいい

僕、今日のインタビューが楽しみで仕方なかったんですよ。

──え、なぜですか?

主人公の金田耕子。

耕子の話ができるから(笑)。誰かと話したくてしょうがなかった。大久保ちかと耕子ファンクラブも作ってるんです。

──「神様はじめました」で虎徹を演じていらした大久保さん?

そうそう。ちかちゃんも「神様はじめました」のご縁で、ジュリエッタ作品のファンなんですよね。まだLINEでしかやり取りしてないんだけど、「単行本が出たら語り合おうぜ」って。

──今日はぜひたっぷりお話を聞かせてください(笑)。大地監督はご自身のTwitterでも「名探偵 耕子は憂鬱」についてつぶやかれてますが、最初に知ったのはいつ頃ですか?

去年の4月くらいですね。花とゆめで見て。確か、最初の読み切りは去年の1月掲載でしたよね?

──そうです。1月4日に発売された号に載った読み切りが好評で、9月に連載化されました。

アニメ「神様はじめました」の監督をしたご縁から花ゆめを毎号送ってもらっているんですが、なかなか読む時間が取れないんですよ。それでジュリエッタ先生の新作に気付かず、読み切りを読んだのが自粛期間中の4月になっちゃったんですが……ページを開いた瞬間ね、やられましたよ。あのトビラに。

大地監督がやられてしまった読み切り時のトビラページ。

──耕子が寝そべっているカラートビラに。

ええ。ジュリエッタ先生が描く耕子のかわいらしさに、もうズッキューン!って感じでした(笑)。それに僕、昭和レトロも好きなんです。

──「名探偵 耕子」の舞台はまさに昭和中期ですね。

レトロな世界観がたまらんです。花とゆめの最新号(インタビュー当時)に掲載されたエピソードで、銀座に出かけるじゃないですか。このインタビュー前にちょっと読んでおこうと思って読み始めたんだけど、あまりにキュンキュンきて(笑)。もったいなくて、あとでじっくり読もうと思って途中でやめました。あの銀座の描写もいいですよ。架空のレトロな銀座、ロマンがありますねえ。「名探偵 耕子」には、僕の好きなものが詰め込まれてる(笑)。ジュリエッタ先生、よくぞ僕のために描いてくださいましたね、と。

──あはは(笑)。

忍者が大好きなので、「忍恋」のときもそう思ったなあ。なんで毎回僕のために描いてくれてるんだろう(笑)。

──ちなみに、ジュリエッタ先生とはよくお話をされるんですか?

いや、お会いしたのは3、4回ですね。アニメ「神様」(※)が始まる前の対談とか、ほぼ初対面だからお互い探り探りな感じでした。今度お会いできたら、いろいろお話ししたいですね。特に耕子について語り合いたい。耕子はちょっとたまらんです。本当にとんでもなくかわいい。

※アニメ「神様はじめました」の制作現場では、同作は「神様」という略称で呼ばれていた。

──耕子のどこにそこまで惹かれたのでしょう?

一言で言うと、かわいさ。顔がまんまるで、背が低くて、でも18歳という子供ではない年齢。そんな耕子が探偵スタイルでいるから、余計にグッと来ちゃいますね。「おじゃる丸」の企画書で、初めておじゃる丸を見たときにもズッキューンっと来たのですが、ほとんど同じくらいの衝撃(笑)。

──それはすごい! 今回、耕子のイラストも描き下ろしていただきましたね。

大地監督が描き下ろした耕子。

読み切りを読んだ勢いのまま描いてTwitterにアップしたイラストがありまして、それをベースにしました。犬上くんの身辺調査に出かけるシーンがあるんですが、ここで探偵コスチュームの耕子の全身がほぼ初めて見れるんですよ。事件に乗り出していくちょっとピリッとした感じと、その衣装に「おおおー!」とグッと来まして、情熱が迸ってしまい……。自分のイラストもけっこうお気に入りです。

──実はほかにも描きたいイラストがあったと、インタビュー前にお話いただきましたね。

ええ。今回はキリッとした耕子を描いたんですが、耕子って少しデフォルメされたギャグ調の顔になる瞬間があって、それも描きたかった。あと、走ってる耕子のラフも描いていて。というのは、市川崑監督の映画「犬神家の一族」で、金田一耕助(石坂浩二)が湖に沈みそうになっている珠世さん(島田陽子)を見てバッと駆け出すシーンがあるんですけど、そこが大好きなんです。そのシーンを耕子で描きたくて。難しくて断念しちゃいましたが(笑)。

謎解きの見せ方が上手で飽きない

──大地監督にとって、耕子のビジュアルがドンピシャだったことが伝わってきました(笑)。ストーリーはいかがでしたか?

実は、初読であまり読み込めてなかったことが判明しました(笑)。というのは、このインタビューのために最初から読み返してみたんです。そしたら読み切りの内容を全然覚えてなくて、まるで初めて読んだように面白かった。最初、犬上くんの佐清マスクとかを見ただけでうれしくてギャーギャー言ってたみたいで(笑)。金田一耕助も大好きだからね。それに4話で耕子がテディベアを持ってることに気付いて「なんだこのクマ」って思ったんですが、すでに読み切りの一番最初の登場シーンにテディベアがいましたよね。読み直して驚きました。

──「名探偵 耕子」のキャッチコピーは「事件×共同生活×テディベア。」ですからね。盛り上がっちゃって、冷静に読めていなかった(笑)。

「名探偵 耕子は憂鬱」第1話より。

そうです。まあ今のは余談でしたが、「名探偵 耕子」っていわゆる事件ものじゃないですか。事件、探偵ものって絶対大変なはずなんですよ。実は僕も今、探偵ものを企画しているんですけど、致命的なことに事件が思い付かないんですよね。

──あはは(笑)。

だからそれぞれのエピソードに必ず事件があって謎解きをする「名探偵 耕子」はハードルが高いと思います。そういう意味で、これまでの「神様」や「トリピタカ・トリニーク」、「忍恋」に比べると、1話がギュッと詰め込まれている。かなり読み応えがあります。それなのに、謎解きシーンが長くないのがすごい。

──テンポがいいですよね。

僕ね、崖に行ってから長々謎解きと自供をするみたいな、探偵もの・刑事ものの長い謎解きシーンがあまり好きじゃないんですよ。「名探偵 耕子」は謎解きの部分にそれなりのコマ数を使ってるけど、見せ方が上手で飽きない。かなり工夫されてるんでしょうね、見事だと思いました。事件もどこか深刻じゃなくてホワっとしてて、そこがまたいい(笑)。

──「名探偵 耕子」は「3件の難事件を解決した者のみ、探偵になれる」という法律がある昭和が舞台で、耕子は探偵になるべく難事件解決に挑みますよね。私は耕子が解決した事件はちゃんと国に“難事件”だと認めてもらえるのかが気になっていて。

そうだよね、ほのぼのした事件ばかりだもんね。2話で耕子が犬上くん殺害予告事件を1件目の事件に数えてたけど、犬上くんがモノローグで「難事件…」って言ってて面白くって(笑)。耕子はあれを難事件にカウントしてるけど、数に入ってないんだろうなって。僕は耕子がいつまでも探偵見習いでいるという展開もいいんじゃないかと思っています。普通は成長する物語が面白いんだろうけど、探偵資格を持てない見習いのまま事件を解決していく“成長しない面白さ”も「名探偵 耕子」には合ってるんじゃないかな。

──3件の難事件を解決して探偵になれるのか、ずっと見習いのままいくのか。ジュリエッタ先生がどういう展開を考えているのか楽しみですね。

本当に。マンガを読まなくなってきちゃったけど、「名探偵 耕子」で久々に読むことの喜びを感じています。ジュリエッタ先生に事件ものを描く苦労話、お聞きしたいなあ。