ずっとシリアスな作品を描きたいと思っていた

──連載中の「きっと愛だから、いらない」(以下、「愛ない」)は、今までの水瀬作品のキラキラした明るい世界観とは打って変わって、重病のヒロインが残された時間を使って恋を始めるという、シリアスで大人っぽい雰囲気のお話です。これまでの作品とカラーが変わるきっかけがあったのでしょうか。

「きっと愛だから、いらない」カット

一番大きいのは、心境の変化というよりも環境の変化だと思っています。いろいろ挑戦したいという気持ちがある中で、こういうシリアスな雰囲気の作品もやってみたいと常に思っていました。ただ、編集部からはずっと「11歳くらいの女の子が本当に恋をする前に初めて触れる少女マンガであってほしい」と言われていたんです。私もそれはいいなと思っていたので、中学3年生を主人公とした「なみだうさぎ~制服の片想い~」や、幼なじみの恋を題材とした「ハチミツにはつこい」(以下「ハチこい」)を描いたのですが、「恋降るカラフル~ぜんぶキミとはじめて~」(以下「恋フル」)を描いているときに、だんだんシリアスな作品にも挑戦したいという思いが強くなってきたんです。

──水瀬先生の思いに対して、編集部はどんな反応だったのでしょう。

そのときの担当さんは、私の描くマンガは優しい世界であってほしいし、読者が同じ目線に立てるようにヒロインに苦しいことはさせてほしくない、という方針だったんです。恋愛で苦しくて成長するのはありだけど、そこから外れないでほしいということを言われていました。もちろん、私自身もその世界が大好きで大事にしていたし、自分の作品はこうだと思って描いてきたのですが、同時に、同じ世界観を繰り返し描き続けている気持ちもあって。ちょうどその頃、「恋フル」の連載中に担当さんが変わって、「次、こういう作品はどうですか?」と相談したのが「愛ない」だったんです。その頃から編集部のムードも変わって、「どんどん新しいものに挑戦を」「もしダメでも、次にどんどん挑戦していけばいい」という雰囲気に変わりました。その後、「恋フル」の連載が終わって、担当さんも「次の連載は『愛ない』でいきましょう」と、むしろ「それ以外やだ!」と、強く背中を押してくださったんです。

遠くからだんだん読者に近づいていく

──少女マンガらしさやSho-Comiらしさがある中で、その枠からはみ出たいという気持ちが湧くことはあるのでしょうか。

「きっと愛だから、いらない」の主人公・円花は、重病を患い、余命1年を宣告されている。

ありますが、私の中で基本になるのは「闇のパープル・アイ」なんです。つまり、何かヒロインの前に大きな障害が起きたとしても、それは愛が試されるためのものだと思うので、やはりどんなに違う作風の物語になるとしても、“愛”が一番のテーマになると思います。Sho-Comiでは、恋愛や絶対的な愛が一番のテーマになっているということは、小学生が読んでも伝わってきますよね。一生懸命がんばるヒロインと彼女を愛してくれる男の子、というのがSho-Comiの基本的な作りですから。

──そのテーマを、水瀬先生の手でどう見せていくかというところが「愛ない」の軸になるのでしょうか。

はい。「愛ない」は何かのトラウマによって人との間に壁ができてしまった人たちが出会い、お互いの存在によってその壁がどんどん崩れて溶けていくみたいなイメージで作っていて。まだ試行錯誤しているところではあるのですが、今までの作品に入れていたような、読者を主人公に共感させるための仕組みを全部外しているんです。ヒロインと読者の距離が遠いところから始まって、気付いたら近くに来ている……いつの間にか読者も円花と同じになっているのかもしれない。そういったことに挑戦しているんですが、初めてなので、難しいですね。ここからだんだんと読者に近づけるといいなと思います。

1話につき300ページ以上ネームを描くこともあった「なみだうさぎ」と「ハチこい」

──「なみだうさぎ」「ハチこい」「恋フル」の3作は水瀬先生の代表作となり、多くの読者を獲得しました。すべて全10巻前後の長期連載となりましたが、執筆時期を振り返ると、どんな思い出がよみがえりますか。

「恋降るカラフル~ぜんぶキミとはじめて~」カット

いつもとにかくネームが苦しくて……気付いたら締め切りが目の前で、それを乗り切ってきた思い出がすごく強いです。

──編集さんからネームにボツが出ることもあるのでしょうか?

私の今の描き方だと、プロットを作らないんです。昔は作っていたんですが、編集さんにいつも「プロットを作るとそのあとのネームが面白くない」と言われていて。そのときはなぜプロットを書いたら面白くなくなるかわからなかったのですが、「なみだうさぎ」あたりからだんだんわかってきたのは、プロットはキャラの行動を書くものだから、キャラクターの気持ち優先で物語を動かしていくという私の得意分野からはすごく遠いんだなと。今は、例えば「この回は2人がキスをする回」と決めて、キャラクターの心情まで編集さんとの打ち合わせで固めたら、それ以外の展開は私にお任せしてもらうんです。

──では、打ち合わせ後にいきなりネームから描いていくんですね。

そうです。プロットがないので、ネームの第1稿はすごく迷うんですね。「ヒロインがこう考えているなら、こんな行動をとるのでは?」とか「これは違うかも?」とか、全部ネームにしないとわからないので、ネームが1パターンで上がるということは少ないです。「なみだうさぎ」や「ハチこい」の頃は、多いときで1話につき300ページ以上ネームを描くこともありました。

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水瀬藍(ミナセアイ)
水瀬藍
6月3日生まれのふたご座。血液型はB型。広島県出身。デビュー作は少女コミック増刊2006年10月15日号(小学館)に掲載された「Mistake!」。「なみだうさぎ~制服の片想い~」で200万部、「ハチミツにはつこい」で250万部を突破したピュアラブストーリーの名手。

2018年12月20日更新