少年マンガのヒット作が電子書店から生まれる?「神域の巫女」コミックルーム社長・石橋和章インタビュー (2/2)

社内会議で5時間以上かかることも……

──コミックルームさんには「神域の巫女」以外にも売り上げ的にヒットしている作品が多くあるとのことですが、高いヒット率を維持しているというのはすごいですね。

そこには自信がありました。弊社はジャンプで連載していたマンガ家が社員として所属していたり(※)、マンガ家さんの元でアシスタントをしていた人もいて。編集者とマンガ家さんが集まってできた会社で、ノウハウもありましたし。今はそのノウハウを新しい社員に伝えていくというのが大きな仕事になっています。

※坂本裕次郎。週刊少年ジャンプで「タカヤ -閃武学園激闘伝-」などを連載し、同じく同誌で発表された「恋染紅葉」の原作を坂本次郎名義で担当した。「神域の巫女」でもネームを手がけている。

坂本裕次郎によるネームとおだやかによる完成原稿の比較。
坂本裕次郎によるネームとおだやかによる完成原稿の比較。

坂本裕次郎によるネームとおだやかによる完成原稿の比較。

──創作未経験の社員さんもシナリオを書くようになるんですか?

はい。去年入った新入社員の子とかはもちろん、営業のスタッフも書いていたりします。「1本くらい書いてみようぜ」って(笑)。僕も毎日社内で授業をしながら、どうやったらみんなが書けるようになるか、自分の経験が伝わるかを考えています。昔は感覚で書いていたものを、ノウハウとして言語化しないといけないですから。半分学校みたいな感じですね。

──これまで編集者としてマンガ家さんを育ててきたのが、今度は社内教育に向いているわけですね。

そうですね。僕は今もう編集はほとんどやっていなくて、原作者として創作に向き合っていますが、それと教育が大きな仕事です。

コミックルームの社内の様子。

コミックルームの社内の様子。

──そうやって社員みんなでどれくらいの作品を作っているんですか?

数えたことがないですね……。ただ、週に2回原作、ネーム、作画のチェック会議をやっているんですが、すごく時間がかかってます。短ければ3時間くらいで終わりますけど、みんなが原作などを出してくるタイミングが重なった日なんかは5時間とか……見ても見ても終わらないです(笑)。ただ、この会議はクオリティ担保のための大事なものです。うちでは、この会議で全員がOKを出さないと企画や作品が通らない仕組みになっているんで。

──ネームはコマ割りもしたような形のところまで落とし込むんですか?

そこまでいくものもありますし、コマごとに指定した字コンテだったり、形は場合によって変わりますね。やっぱり文字の原作から作画するのってマンガ家さんの負担が大きい。自由に描きたいという人には向かないかもしれませんが、絵を描くのが好きで作画に集中したいという方には負担が小さくて合うと思います。

──社内会議を通って、ようやく外に出るんですね。

はい。僕らは先に作品を作って、この作品をどこに出したら反響が最大化するのかを考えます。

作品づくりに併走してくれるストアの存在

──「神域の巫女」もシーモアさんでの先行配信ですが、コミックルームさんはシーモアさんとは特に付き合いが長いそうですね。

最初に直販元として作品提供させてもらったのがシーモアさんなんです。弊社があるのはシーモアさんのおかげというか、成長に寄り添っていただいています。作品作りにおいても、どうやって作品をヒットさせるかということを一緒に考えてくれるのでありがたいですね。併走して作品を育ててくれる存在です。

「恩を仇で返された令嬢の家族が黙っている訳がない」1巻。コミックルームが初めてコミックシーモアに提供した作品だ。

「恩を仇で返された令嬢の家族が黙っている訳がない」1巻。コミックルームが初めてコミックシーモアに提供した作品だ。

──作品を育てるというのは例えばどういうことなんでしょう?

やっぱり売れないと育たないので(笑)。プロモーション面でいろんな提案をしてくれるのがありがたいです。それも、初期のうちからいろいろ手を打ってくれる。それは会社としてすごく助かります。例えば従来の出版社の場合、単行本5巻くらいまでは赤字という感じでやっているんです。何千万円も赤字を積んで、ようやくヒットして黒字になるというモデルになっている。でも、シーモアさんのように早い段階でプロモーションをかけてくれると、早いうちに制作費が回収できて黒字ラインに持っていける。そうすると、挑戦できる数も増えるし、制作費も上げることができる。

──頼もしいですね。

シーモアさんは特にフットワークが軽くて、いろんな相談に乗ってくれるので。オンラインも浸透したこの時代に、よくオフィスにも足を運んでくれたり。反響についても教えてもらえます。この広告が効果があったとか、いろんな資料を作ってくれたりとか。あとはここの範囲まで試し読みで無料にしたら反響がありそうだからどうでしょうと言ってもらったり。「神域の巫女」で言うと、先ほど話した「神様のために私たちが犠牲になるって納得できない」ってあたりまで無料で読んでもらうといいんじゃないかという提案をいただいたりしました。

「神域の巫女~無能のフリをして、今日も平和に過ごします~」第9話より。神様のために人が犠牲になることに対して思いが溢れてしまう美咲。

「神域の巫女~無能のフリをして、今日も平和に過ごします~」第9話より。神様のために人が犠牲になることに対して思いが溢れてしまう美咲。

──そういったデータなんかもしっかり把握しているんですね。

そこは私たちの強みです。我々がどうしてこんなにヒット率が高いのかというと、売り上げなどのデータを見られるからというのもあります。

──作家さんは、電子の売り上げデータは知るまでにタイムラグが大きいとよく言いますよね。

石橋和章

石橋和章

そうなんです。実は出版社でもそういう数字を握っているのは営業部で、僕自身出版社の編集者時代はなかなか気軽に知ることができなかったり、知るまでにタイムラグがあったりしたんです。だから、作家さんもすぐに把握できなくて。我々はそこを自分たちですぐに見ることができるので、この回でこれだけ売れたとか、読者が減ったとかいうのがわかる。それをシナリオやネーム、表紙作りにもフィードバックして考えられるんです。

──そういう意味でもストアの存在や協力は大事ですね。

かつては出版社が担っていた機能を、電子書籍においてはストアさんが持つようになった。ストアさんがこれまでの出版社の役割みたいなものを果たしていく時代になったので、そうやって併走して一緒に作品を育ててくれる存在はありがたいし頼もしいです。

最新第14話の配信もスタート

「神域の巫女~無能のフリをして、今日も平和に過ごします~」はこちらから!

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プロフィール

石橋和章(イシバシカズアキ)

小学館の漫画編集者として「神のみぞ知るセカイ」「マギ」「モブサイコ100」などを立ち上げた後、裏サンデーやマンガワンの初代編集長を経て独立。2023年より、株式会社コミックルーム代表に就任。同社に著作権が帰属する形で様々なマンガ原作を執筆。代表作は「TSUYOSHI 誰も勝てない、アイツには」「あっ、次の仕事はバケモノ退治です。」など。