コミックナタリー Power Push - アニメ「進撃の巨人 Season2」

編集担当バックこと川窪慎太郎氏が明かす 諫山創とアニメ「進撃の巨人」の“シナジー効果”

原稿を見たとき、「マンガを描きたくてたまらないんだろうな」と思った

──原作のこれまでについても伺わせてください。アニメ1期のBlu-ray / DVD1巻に付属した「進撃の巨人」0巻には諫山先生が持ち込んだ、読み切り版「進撃の巨人」が収録されています。この読み切りを最初に読んだのが川窪さんなんですよね?

ええ。ちょうど10年くらい前になるのかな。

──その時点では原稿のどういった部分に光るものを感じたんでしょう。

「進撃の巨人」0巻は、販売中のアニメ「『進撃の巨人』Season1」Blu-ray / DVD BOXに封入されている。

うーん……。主人公の表情を見たときに作家の気持ちが伝わってきて、「ああ、この人は本当にマンガが描きたくてたまらないんだ。表現したいことがあるんだな」と感じたんです。僕は、マンガを描くということは結局、自己を表現することだと思うんですよね。自分の中にある気持ちや考えを、「なんだよくかわからないけど外に出したい」と思ったときにすごい物語が出てくるんじゃないかと。だからどのくらいマンガとして完成しているかっていうことは大した問題じゃなくて。彼の中にそういう気持ちが強くあるっていうのが伝わってきたんです。

──ちょっと野暮な質問かもしれませんが、そのとき諫山先生が外に出したかった思いというのは、具体的にはどういうものだったんでしょうか。

その時点では僕もわからなかったですよ。それを時間をかけて作家の中から吸い出して、明確にしていくお手伝いをするのが編集者の仕事だと僕は思っています。

──そこから別マガでの「進撃の巨人」連載までにはどういった経緯が?

別マガ創刊にあたって連載用のネームを作ることになって、プロットを2、3個出してもらったんです。どれも面白くはあったんですけど、僕としてはもう1歩ピンとこなくて。読み切りの「進撃の巨人」が印象に残っていたので、「あの作品で連載になるような裏設定とか考えてないの」と聞いたらいろいろな設定が出てきて。それがすごく面白かったので「連載案にしてみませんか」と出してきてもらったのが最初ですね。

──そして連載が始まりアニメ化を経て、昔と今とでは打ち合わせにも違いは出てきたりしますか?

僕からしたら、今のほうが楽といえば楽ですね。昔は僕も若かったということもあり、マンガの作り方……と言ってしまうとオーバーですけど「45ページで1話分の話を作るというのはどういうことか」「180ページで単行本を1冊作るというのはどういうことか」ということを、2人で手探りで学んできたので。今の諫山さんは1話の構成みたいなところは型を掴んで、いわゆる全ボツはなくなりました。もちろん諫山さんには物語を生み出す苦しさが変わらずあると思いますが。

「僕が非リア充じゃなかったら、誰が非リア充なんですか!」

──10年間、諫山先生を一貫して担当し続けてきた中で、印象に残っているエピソードはありますか?

川窪慎太郎氏

諫山さんは常々「自分は非リア充だ」と言っていて。非リア充であることを自分のアイデンティティにしているんだと僕は思っているんです。ただ彼、普通に友達もたくさんいるんですよね。電話していると「友達が遊びに来たんで、オートロックだけ開けてきていいですか」とか「この前、結婚式で大分に帰省していました」って言うし。だから一緒に焼肉を食べているときに率直に「諫山さん、いつも自分を非リア充だって言うけど、マンガで成功してるし友達もたくさんいるし、リア充じゃないの?」って聞いてみたんです。そうしたら結構大きな声で「僕が非リア充じゃなかったら、誰が非リア充なんですか!」って怒ったんですよね。

──あはは(笑)。

「馬鹿にするな!」くらいの勢いで。それはすごく印象に残っていますね。あとさっきも話に出ましたけど、彼は自己評価が低いというかすごく謙虚で。徹夜の作業が続いたあとに深夜2時、3時まで打ち合わせする日があるんですけど、最後にいつも深々と頭を下げて「遅くまで付き合ってくれてありがとうございました」と言って帰っていくんですよ。それを見てると、「とんでもない大人物だな」と思いますね。

──「進撃の巨人」は1巻発売時から表紙デザインが出来上がるまでの変遷をYouTubeで公開していたり、最近では関西弁版や「旅するコミック」、ファンサイト「みん撃」などさまざまな施策を行っていますが、川窪さんは話作り以外にも、作品のプロモーションも編集者の仕事として重要視しているんですか?

公式ファンサイト「みん撃」より。

そうですね、今ってライバルが多すぎて「書店に置いておけば面白い順に売れていく」という時代でもないので。僕はマンガを作ることに才能がないタイプの編集者だと思っているので、せめて売ることをがんばろうかなと。

──「旅するコミック」や「みん撃」がいい例ですが、「進撃の巨人」は読者を巻き込んで展開するコンテンツが多いですよね。

諫山さんも僕も「進撃の巨人」はみんなが育ててくれた作品だと思ってるんです。1巻が出たときにブログで「とんでもないマンガが発売された」「これはすごいことになる」といろんな人が推してくれたり、書店の店頭でも「今日は◯◯冊売れました」とディスプレイしてくれたり、口コミで広がっていった。今後も「進撃の巨人」はみんなの力を借りていきたいと思っているので、「進撃の巨人」をみんなと一緒に宣伝できる状況をいかに作るかというのが僕の課題です。「みん撃」は楽しみながら宣伝をして、輪を広げていこうというのがコンセプトですね。

諫山さんは「進撃の巨人」を早く終わらせたがっている

──最後にひとつ、読者が気になっているんじゃないかと思うことをお聞きしたいのですが、川窪さんは2014年ごろにWebインタビューで「『進撃の巨人』はあと3~4年で終わります」とおっしゃっていましたね。諫山さんご自身も、同時期にダ・ヴィンチのインタビューで「あと3年ぐらいで終わらせたい」と発言していましたが、今年か来年には完結を迎えるということなんでしょうか。

テレビアニメ「『進撃の巨人』Season2」よりエレン。

ああ、それですね。僕は引き伸ばしはお願いしていないし、諫山さんがわざと巻数を増やしているということは一切なんですが、ラストまでの道のりが伸びてしまっているんですよ。ファンを騙すようなことになっちゃったことだけが一番つらいですし、本当に申し訳ないんですけど。

──描きたいことが増えたと。

それもありますし、「1話でできる」と思っていたことが2話かかってしまったりということが続いたりもして。もちろん諫山さんの中にも適当に終わらせられないという気持ちがありますし。

──ちなみに富士登山で言えば、今何合目くらいでしょう?

それを言っちゃうと、また嘘になっちゃうかもしれないですからね(笑)。でも諫山さんは「早く終わらせたい」と打ち合わせのたびに言っていますし、僕もそれを全力で応援しています。

──このインタビューの公開日に発売される22巻では、原作も大きなターニングポイントを迎えますよね。

そうですね。22巻である種の到達点にたどり着きますので、アニメと一緒に楽しんでいただけると。「Season2」は本当に全話がクライマックスというくらいに面白いですから!

テレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」 / 2017年4月より放送中
テレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」

超大型巨人の出現により人類の平和と幻想が破られたあの日から、エレン・イェーガーの果てしない戦いの日々は続く……。抵抗する術もなく巨人の餌となった母の最期を目の当たりにして、この世から巨人を一匹残らず駆逐することを誓ったエレン。しかし、過酷な戦いの中で彼自身が巨人の姿に変貌してしまう。人類の自由を勝ち取るために巨人の力を振るうエレンは、ウォール・シーナのストヘス区において「女型の巨人」と激突。巨人同士の激しい戦闘は、辛くもエレンの勝利となった。それでもエレンに、そして人類に、休息の時は訪れない。次なる戦いは既に始まりを告げている。ウォール・ローゼに迫り来る巨人の大群に、人類はどう立ち向かう!?

スタッフ
  • 総監督:荒木哲郎
  • 監督:肥塚正史
  • シリーズ構成:小林靖子
  • キャラクターデザイン:浅野恭司
  • 総作画監督:浅野恭司、門脇聡、山田歩
  • アニメーション制作:WIT STUDIO
キャスト

梶裕貴、石川由依、井上麻里奈、谷山紀章、嶋村侑、小林ゆう、三上枝織、下野紘、細谷佳正、橋詰知久、藤田咲、神谷浩史、小野大輔、朴璐美

アニメ「『進撃の巨人』Season 2」Vol.1
2017年6月21日発売 / ポニーキャニオン

[Blu-ray] 21384円 / PCXG-50601

Amazon.co.jp

[DVD] 21384円 / PCBG-52451

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初回特典
  • VR映像「進撃の巨人展360°体感シアター“哮"」
  • キャラクターデザイン浅野恭司描き下ろしジャケット
  • フルカラーブックレット
  • Season2イベント「昼の部」先行優先購入券(※「夜の部」の優先購入券はVol.2に封入)
  • 進撃の巨人オリジナルデザイン組立式VRゴーグル

ほか

アニメ「『進撃の巨人』Season 2」Vol.2
2017年8月18日発売 / ポニーキャニオン

[Blu-ray] 21384円 / PCXG-50602

Amazon.co.jp

[DVD] 21384円 / PCBG-52452

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アニメ「『進撃の巨人』Season 1」
2017年3月15日発売 / ポニーキャニオン
アニメ「『進撃の巨人』Season 1」

[Blu-ray BOX] 37800円 / PCXG-60081

Amazon.co.jp

[DVD BOX] 37800円 / PCBG-61681

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諫山創「進撃の巨人(22)」
2017年4月7日発売 / 講談社
諫山創「進撃の巨人(22)」

コミック 463円

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Kindle版 432円

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ライナー、ベルトルト、「獣の巨人」との戦いの末、多大な犠牲を払いながらもエレンの生家へ辿り着いた調査兵団。その地下室にて、彼らはグリシャが残した3冊の本を手にする。その本に記されていたのは、グリシャの幼き日の記憶。そして、およそ1800年前、一人の少女が巨人の力を手にしたことから始まる二つの民族の暗黒の歴史。明かされたグリシャの過去と突きつけられた世界の真実を前に、エレンら調査兵団の進む道は……。

川窪慎太郎(カワクボシンタロウ)

2006年、講談社に入社。同年より週刊少年マガジン編集部に配属される。これまでの主な担当作品に「進撃の巨人」「ふらいんぐうぃっち」など。