わずか半年で100万冊売れた「聖女なのに」の面白さはどこにある? 国産Webtoonヒット作の魅力に迫る

Renta!で独占配信中の縦読みマンガ「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~」は、突然国から追放された聖女リーシャと、隣国メートポリスの国王ラオウハルトを描くファンタジー。Renta!では2015年よりカラー縦スクロールコミック・タテコミの開発を開始し、2023年現在10万冊以上のタテコミを掲載している。そんな中、同作はRenta!の2023年上半期の少女漫画部門で1位を獲得するほど、特に話題の作品だ。

わずか連載半年余りで販売数100万冊を突破した同作の魅力はどこにあるのか? コミックナタリーでは作品の見どころを紹介するとともに、“一大ジャンル”となりつつある「聖女もの」「追放もの」の楽しみ方や、国産Webtoonヒット作の魅力に迫る。

文 / 青柳美帆子

国を追い出された聖女は、いかにして平和を手に入れるか?

聖女リーシャは、バーズーデン王国の国王ダルエストと婚約中。ある日突然、理不尽な理由から婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。リーシャが追放されたのは、荒れ果てた隣国メートポリス。打ち捨てられるように1人残されたリーシャだが、そんな彼女に声をかけたのは、メートポリスの国王・ラオウハルトだった。

王をはじめとして、メートポリスの人々は、リーシャを温かく受け入れる。聖女の力で王都をよくしていく──そう決めたリーシャの新たな人生が始まる。

「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~」(以下「聖女なのに国を追い出されたので」)は、よどら文鳥によってWeb小説プラットフォーム・小説家になろうで公開された同名小説が原作。コミカライズは2023年2月にフルカラー×タテコミでスタートし、現在Renta!では24話まで配信中だ。

「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~」ビジュアル

「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~」ビジュアル

長くてあらすじ要素の強いタイトルは、Web小説の“あるある”だが、読者としては「予告」になっているところがある。「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました」までが1話の内容。そこからどのようにして「力を解放したので国が平和になってきました」が実現していくのか。そして「元の国(バーズーデン)」はどうなっていくのか? その2つを期待しながらお話を追っていくことになる。

第1話はこちらから!

「聖女」「追放」という強ジャンル

リーシャは聖女の力をもってバーズーデンの大地を豊かにしていたが、ダルエストはその力を信じず、隣国へと追放してしまう……。

この「聖女」「追放」という要素は根強い人気を持っていて、Web小説の世界では女性向けでも男性向けでもすでに“一大ジャンル”。聖女ものは「聖女の魔力は万能です」、追放ものは「真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました」など、アニメ化されるタイトルも増えてきている。

「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~」第1話より。

「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~」第1話より。

「聖女」「追放」というジャンルが組み合わさったことで、聖女の力でどのような奇跡が起きるのか、追放された先で主人公がどう幸せになっていくのか、この2つの要素を同時に楽しむことができるのが本作の魅力。

「聖女なのに国を追い出されたので」の出だしは、基本的な「聖女もの」にして「追放もの」。このジャンルが好きな読者は安心して読めるし、この作品を入り口にして聖女ものや追放ものにハマっていく読者も多いだろう。

もともとこうしたジャンルが好きな読者を「おっ」と思わせるポイントもある。聖女ものでは、聖女の力が世界にどういった影響を及ぼすのかが物語の楽しみの1つになる。では「聖女なのに国を追い出されたので」はというと……物語が新しい動きを見せるのが6話だ。

「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~」第6話より。

「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~」第6話より。

リーシャは2つの国の建国史を学ぶうち、メートポリスでひっそりと暮らす、もう1人の聖女・ローエルに出会う。彼女との出会いによって、「この世界はどのように生まれたのか?」という、世界と聖女のつながりが明かされる。

しかもそれがどうやらリーシャの生い立ちにも関係するようで……と、少しずつ謎が紐解かれていくのにも心が引っ張られ、続きが気になっていく。

ウブすぎる2人の恋の行方

「どう幸せになるのか」を託されるのは、リーシャを助けたラオウハルト陛下。リーシャとラオウハルトは惹かれ合う、惹かれ合うのだが……恋愛事情の進展はめちゃくちゃピュア!
リーシャもラオウハルトも優しく純粋。特にリーシャは恋というものがわからないところから、じわじわと距離が縮まっていく。

どれくらいリーシャが恋を知らないかというと、聖女の力で生き物を繁栄させられることを知ったリーシャが「まずは私の子孫を繁栄させたほうがいいかしら?」と言い出すくらい。

「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~」第10話より。

「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~」第10話より。

聖女の力で子供を生み出せばいいと思っていたところ、子作りの方法をやんわりと教えられて赤面。聖女としての能力は高くても、そのあたりの知識も偏差値もゼロ……!

そんな状態なので、恋愛模様は感心してしまうくらいのウブっぷり。初手からの強烈な溺愛やスピード感のある束縛執着などが好きなら、ちょっともどかしいかもしれない。とはいえこの恋愛事情も、途中からローエルが読者の代弁者になってくれるので、見守るモードになれるはず。

「ざまあ」の予感

追放ものを読んでいるとき、読者は頭の上に天使と悪魔が浮かんでいるような感じになる。
天使は、追放された先に待っている主人公の幸せを楽しみにしている。本作の場合、メートポリスでリーシャが愛されていく展開を待っている。

そして悪魔のほうは……追い出した側の不幸を心待ちにしている! 理不尽な追い出しをしてきた相手が転落したり、罰を受けたり追い出したことを後悔するが後の祭りだったり……という、因果応報展開を期待しているのだ。こういった展開は「ざまあ(ざまあみろの略)」と呼ばれていて、これもまた一大ジャンルになっている。

本作では、バーズーデン王国のダルエストと、第二王妃候補アエルの2人から「ざまあ」の気配をひしひしと感じる。ダルエストはリーシャの価値をわからずに追放した元凶であるし、アエルは王妃の座を狙いダルエストに近づいてくる魔道士だ。

「説明しないと分からないなんて本当に肩書だけの無能な聖女様よねー」

聖女としてポンコツだと分かったし アエルと比べれば微々たるもの」

「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~」第1話より。

「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~」第1話より。

1話を読んで「こいつら、痛い目にあってほしいなァ……」と悪魔がささやいた方は、追放ものを読む適性がある。
これから読む人は8話を心待ちにしてほしい! 8話の2人のはしゃぎっぷりがすごいのだ。

「何もできない詐欺女め…あんな女のために我が国の大切な税金を無駄にはできん」

「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~」第8話より。

「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~」第8話より。

「この力さえあれば私は聖女にだって負けませんもの!」

「連れ戻して奴隷にでもしようかと思っていたが 偽聖女か無能聖女であると証明されたな!」

「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~」第8話より。

「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~」第8話より。

吠えてる吠えてる~!(喜)

追放ものにおいて、追放してくる相手のキャラクターは非常に重要だ。読者が追放者に対して持つ負の感情が大きければ大きいほど、作品に引き込ませる力は強くなる。ある意味“助演男優/女優賞”をあげたくなるようなキャラでなければいけない。
ダルエスト&アエルのコンビが悪い方向に活躍すればするほど、リーシャの光が強くなるのだ。

“国産”縦読みマンガ

本作は縦読みのフルカラーコミック(Renta!では「タテコミ」と呼ばれている)。映像的な読み方が楽しめ、スマホに最適化されたスクロールで読みやすく、フルカラーなのでキャラクターやシーンを華やかにできる。本作では「聖女の証」である瞳の色や、聖女が力を解放したときの光が印象的に演出されている。

「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~」第2話より。

「聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~」第2話より。

マンガ好きな読者は、フルカラー縦読みマンガといえば韓国系プラットフォームのWebtoon(ウェブトゥーン)を思い浮かべる方も多いだろう。異世界ファンタジーや転生などを中心に、さまざまなヒット作が配信されている。

しかしここ数年は、日本で作られた縦読みマンガが急速に増えている。Renta!をはじめ、これまで横読みマンガ(通常の右から左に読んでいくマンガ)の配信がメインだったプラットフォームも、オリジナルの縦読みマンガの制作・配信を加速させている。

縦読みマンガは国外発でも国内発でもまだまだ進化中。「ヒットする縦読みマンガとは?」の問いに向かってさまざまな方向から試行錯誤が行われていて、たくさんの作品が生まれようとしている。

「聖女なのに国を追い出されたので」は、まさにそんな状況の中で生まれたヒット作だ。横読みマンガでも人気のある「聖女もの」と「追放もの」に、縦読みマンガを掛け算している。プロモーションビデオを作るなど力も入っていて、YouTubeでは100万回以上再生された。

この作品が100万冊読まれるヒットになったことは、もともとの「聖女もの」や「追放もの」ジャンルのファンにとってもうれしいことかもしれない。今後も新しい作品が生まれる後押しになっているわけだから。本作のヒットからは、そういうワクワクも感じるのだ。