運命を感じたキャスティング
白石 あのおばあちゃんを熱演された根岸季衣さんに関しては、もともと私の中にホラー作品に出るイメージが全然なかったんですよ。ただ、以前「鬼談百景」というホラーオムニバス作品に参加したことがあって、その中で安里さん(「サユリ」で脚本を担当した安里麻里)が撮った「影男」という短編に根岸さんが主演されていて。それを観て「ホラーにも出てもらえるんだ?」と思いましたし、そのときのお芝居がすごく印象に残ってたんですよね。当初からキャスティング会議でもお名前が挙がっていて、結果的に快く引き受けていただきました。
押切 それで言うと、僕が一番好きなホラー映画って……まあホラーではないんですけど「悪霊島」なんですね。実はその作品に若かりし頃の根岸さんが女中役で出てるんですよ。一番思い入れのある映画に出ていた方が、一番思い入れのある原作の映画化に重要な役で出てるって、何か運命的なものを感じましたよ。僕、そういう巡り合わせが好きなんですよね。
白石 根岸さんご本人は実際にお会いするとすごく若々しい方なんですが、だいぶおばあちゃんっぽく演じていただきました。とはいえ、あの年齢で「今回の撮影に耐えられる元気と体力があって、生命力の強さを表現できる方」という条件もなかなか厳しいものではあったんですけど、ご本人がものすごく前のめりで臨んでくださって。映画でのおばあちゃんはビジュアル的にジャニス・ジョプリンのイメージなのですが、実は根岸さんからアイデアを出してくださったものでして。最初に根岸さんとお会いしたときに「こんなふうにね! やりたいと思うんだけど!」と演技プランをまくし立ててくださったんです(笑)。
押切 生命力がすごい(笑)。マンガ以上にハードだったと思うんですけどね。暴力的で、すぐに手も出るし足も出るし、メシも無理やり食わせようとするし。太極拳の使い手ということで、けっこうアクションシーンも多かったですからね。そこらへんも“白石節”が効いていて僕は気持ちよかったです。
白石 体力的には本当に大変だったと思います。それをノリノリで乗り切っていただけて、本当に光栄なことですね。
押切 そのおばあちゃんに対して、則雄役の南出凌嘉さんがちゃんと圧倒されていた感じも痛快でした。
白石 南出くんは、ご本人ののほほんとした感じが則雄っぽいなと思ったのと、顔つきもちょっと押切作品に出てきそうな感じというか(笑)。それがすごく合ってるなと思ったのがキャスティングの決め手になりました。
押切 僕が撮影現場にお邪魔したとき、初めて見た南出さんの演技があのおまじないの言葉を言うシーンだったんですよ。「あれは僕のオリジナルじゃないんで、許してください」と伝えました(笑)。すごく気さくな人で、あんな若い世代の方が僕としゃべってくれるなんて優しいなあと。自分が10代のときなんて、あんなふうに大人としゃべれなかったですよ。
白石 逆に住田役の近藤華さんに関しては、自分としては住田というキャラクターにああいうオタク女子っぽいイメージは持ってなかったんですよ。なんて言うんですかね……近藤さんは理屈で「こういうふうにすれば住田になりますよね」じゃなくて、気持ちでその役にちゃんとなっているというか。うまい言い方ができなくて申し訳ないですけど、その愚直さを見て「住田役は絶対あの子です!」となりました。
押切 確かに、マンガの住田がそのまま再現されているという感じではないんだけど、「ああいう子クラスにいたよな」っていう説得力がめちゃめちゃありましたね。だからなんの違和感もなく自然に楽しめました。
白石 ご本人もけっこうあのままなんですよね(笑)。ちょっとコミュニケーションが不得手で、あんまり目を合わせずにしゃべる感じとか。それが住田としていいなというふうに思えたっていうのはあります。
こういうホラーの楽しみ方もあるんですよ
押切 僕は今回の映画で泣けたシーンが3つあって。まずおばあちゃんの覚醒シーンと、サユリの過去が描かれたシーン、そしてラストシーン。まさかJホラー作品で3カ所も涙を誘われることになるとは思わなかった。
白石 今回は「こういうホラーの楽しみ方もあるんですよ」というのをお客さんに提示したかった思いがあって。怖い描写も当然あるんだけどそれだけではなく、ちょっとユーモアもあって、熱さもあって、青春や恋愛もあって、おっしゃったような泣きどころもあるっていう。
押切 おっしゃる通り、まさに意外な喜びが得られました。それと、ずっと夢に描いていた「人間が逆襲してオバケに打ち勝つ映画」を観ることができたという涙も4つ目に挙げときますか。
白石 自分が制作上で印象に残っているシーンとしては、まず前半の霊的な表現のところですね。いろいろと、これまでのホラー表現を踏襲しつつも新しいことにもトライしたので、ホラー監督として楽しくもあり苦しくもありという感じでした。その中でも、少女姿のサユリが近づいて来ながら巨大化するシークエンスはうまくいったなと思っています。けっこうな試行錯誤を重ねた結果生まれたカットなんですよね。
押切 「幽霊が巨大化する」って、言葉だけで聞くと面白い感じに思えちゃいますけどね。
白石 そうそう。そのままやっちゃうとギャグシーンになっちゃうんで、それをいかに怖いシーンとして成立させるかには細心の注意を払いました。知る限りでは「幽霊が巨大化して怖い」という見せ方をした作品はJホラーにはなかったと思うんで、なかなか意欲的なシーンにできたなっていう手応えがあります。
押切 確かに確かに。
白石 あとは、怖いシーンではないんだけど住田の登場シーンがすごく気に入っていますね。則雄のところにカカカカッて早足で近づいてくるんですけど、あれ実は編集でちょっとスピードを速めてるんですよ。それによって住田のエキセントリックな印象をうまく出せたかなと。自分としては間違いなくあのカットが一番好きです(笑)。
押切 わははは! 意外なチョイス(笑)。
白石 そういった部分を含めて、今まで目にしたことのあるホラーとはまた違う作品になっていると思いますので、ホラーを毛嫌いしている人でも楽しめると思いますし、鑑賞後はそんなに悪くない気持ちで帰れると思います。なんならちょっと元気が出る。ホラーというジャンルだけで判断せず、一度観てみていただけたらなと。
押切 真っ黒なキービジュアルだけを見て「怖そうじゃねえか!」とは思わないでほしい。
白石 そうそうそう。まあ怖いは怖いんだけど(笑)。
押切 怖いは怖いんですけれども、ちょっと勇気を持って扉を開けてみてくださいと言いたいですね。「ホラーは幸せになれないから観ない」と嫌っている人もいると思うんですけど、「サユリ」は意外と幸せになれる可能性のある映画だと思っています。
白石 怖いだけじゃなく、いろんなものが詰まっていますので。
押切 新しい感覚に出会えると思います。人生が少し変わるかもしれない。
プロフィール
押切蓮介(オシキリレンスケ)
1979年9月19日生まれ、神奈川県川崎市出身。1998年に、ヤングマガジン(講談社)にて「マサシ!!うしろだ!!」でデビュー。「でろでろ」などホラーギャグの分野で人気を博す。代表作に「ミスミソウ」「ピコピコ少年」「ゆうやみ特攻隊」「ハイスコアガール」「狭い世界のアイデンティティー」など多数。「ミスミソウ」は実写映画化、「ハイスコアガール」はTVアニメ化も果たした。月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)にて「ハイスコアガール DASH」、怪と幽(KADOKAWA)にて「おののけ!くわいだん部」を連載中。
白石晃士(シライシコウジ)
1973年6月1日生まれ、福岡県出身。2003年に「ほんとにあった!呪いのビデオ THE MOVIE」で長編映画監督デビューを果たし、その後はフェイクドキュメンタリー形式のホラー作品を数多く手がける。主な監督作は「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」シリーズ、「ノロイ」「オカルト」「ある優しき殺人者の記録」「貞子vs伽椰子」「オカルトの森へようこそ THE MOVIE」「白石晃士の決して送ってこないで下さい」など。