アニメ「佐々木と宮野」春園ショウ×白井悠介×斉藤壮馬|3人が尊いと感じたポイントとは? もどかしいからこそリアルな“Boys Life”作品のススメ

春園ショウ「佐々木と宮野」は、女顔がコンプレックスの腐男子・宮野由美と、宮野のことを気に入っているちょっと不良な先輩・佐々木秀鳴を中心とした男子高生たちの日常を描く“Boys Life”作品だ。同作は春園がpixivに投稿していた作品「佐々木と宮野のちょっとした話。」をもとに、Webマンガサイト・ジーンピクシブで2016年2月に連載開始。単行本は8巻まで刊行され、ドラマCDのほか、スピンオフ作品「平野と鍵浦」やノベルも展開されている。

そんな「佐々木と宮野」のTVアニメ化が決定。2022年1月より放送される。コミックナタリーでは放送を前に、原作者の春園、佐々木役の白井悠介、宮野役の斉藤壮馬による鼎談をセッティング。作品の魅力や尊いと感じたエピソード、アフレコ現場での様子などについて、互いへの質問も交えながら語り合ってもらった。

取材・文 / カニミソ

憧れが恋に変わっていく過程を、丁寧に丁寧に描いている

──2018年に月刊コミックジーン(KADOKAWA)の付録として制作された初めてのドラマCDから、佐々木役と宮野役を担当されている白井さんと斉藤さん。改めておふたりの視線から見た「佐々木と宮野」の魅力を伺えますか。

白井悠介 今回アニメで佐々木役をやらせていただいて、恋愛の過程における2人の心情がめちゃくちゃ丁寧に描かれているなと感じました。好きってどういうことなんだろうって考えたりとか、それこそ僕の初恋もこんな感じだったかもしれないって、自分と重ねてしまう部分があったりして。すごくもどかしいんですけど、いい意味でクセになるというか、目が離せないというか。そこに男子高校生たちがワイワイやっている日常パートも加わって、忘れかけてた気持ちを取り戻させてくれる魅力があるなと思いましたね。

斉藤壮馬 白井くんが言うように、もどかしさやじれったさはすごく感じますよね。正直僕ら大人が一気読みすると、もっと早く関係性が進展してもいいだろうって思わなくもない。でも宮野の視点で読むと、恋を自覚して一歩を踏み出すまでに、長い時間が必要なんだっていうのがわかる。憧れが恋に変わっていく過程を、丁寧に丁寧に描いているところがすごく素敵だし、けっこうリアルなんじゃないかって思います。振り返ってみれば「あのときもう好きだったな」とわかるかもしれないですけど、その最中にいるとなかなか気付けないじゃないですか。

──おふたりの感想をお聞きになってどうですか?

春園ショウ ありがたいですね。描いているときは割といっぱいいっぱいだったりするので、全体を通した客観的な感想をいただけるととてもありがたいですし、がんばってよかったって思えます。

──春園先生は白井さんと斉藤さんの声を初めて聞いたとき、どんな印象を受けましたか?

春園 「かわいい!」のひと言ですね。白井さんの佐々木先輩は、みゃーちゃん(宮野)に対して、気持ちを伝えるときに不安そうなところというか、自信がないときのモノローグや些細な心情の揺れ、そういう繊細さが出ていてすごく大好きです。斉藤さんのみゃーちゃんは、オタクトークをしているときの熱量とモノローグの切ない感じのギャップがすごくかわいくて、男子高校生のかわいいが煮詰まってるなって思います。そう思いながら、いつも収録を拝見させていただいてます。

「佐々木と宮野」の名セリフランキング、トップ10入りしてます

──原作は現在8巻まで刊行されていますが、一番尊いと感じたエピソードとその理由を挙げるとしたら?

「佐々木と宮野」第12話「限界。」より。

白井 たくさんあるんですけど、あえて挙げるとしたら、2巻で佐々木が宮野にバックハグをするシーンですね。佐々木のクラスメイトである小笠原が、宮野の頭をなでようと手を伸ばしているところに、佐々木がすかさず窓を開けて、片手で自分のほうにグイッと引き寄せるんですけど、そのときの彼の瞬発力たるや。普段は照れ隠しで茶化したりするのに、誰にも触れさせたくないっていう衝動的な気持ちがストレートに出ていて、すごく胸がキュンとしました。そして佐々木が小笠原を見るときの目ヂカラが(笑)。表情込みで印象的なカットでした。

斉藤 この目はあれだ。佐々木はこのあと、突然能力に目覚めたり……?

白井 しませんね。確かに目覚めてもおかしくない目をしてるけども(笑)。

春園 (笑)。白井さんがおっしゃったカットについては、「ここの佐々木の目が好き」っていう読者の方からの意見も多かった気がしますね。実はもともとこういう絵を描いていたので、そっちの目のほうが描くのは得意なんですよ。あと全体のシーンは見開きなんですけど、セリフがない分、絵でどれだけ勢いを伝えられるかというところにこだわって、枠線を効果的に描いたりしました。

──まさか、攻撃的な目のほうが描きやすかったとは……! 確かに言われてみると、枠線を太めにしていますね。コマの見せ方にもこだわりを感じます。

白井 渾身の絵だ。

「佐々木と宮野」第27話「恋。」より。

斉藤 バトルものもやれそうですね。叫ぶ演技が得意なキャストが、たくさん出演していますから(笑)。僕も好きなシーンはいっぱいありますけど、5巻で、佐々木と宮野が一緒に映画を観たあとの何気ないやり取りの中に出てくる、「これが好きじゃないならなんなんだ」っていう宮野のセリフがかなり絶妙だなと思うんですね。「好き」って自覚しながらも、自分の気持ちにまだ100%踏み切ることができないでいるっていうところに、すごく人間味を感じました。読者の方も宮野にシンクロしてしまう瞬間ってあると思うんですけど、間違いなくあのセリフというか、あのシーンはそのうちの1つだなと思いましたね。

白井 名言ですね。個人的な「『佐々木と宮野』名セリフランキング」でも、トップ10入りしてます。

春園 そのシーンを気に入っていただけていて、すごくありがたいです。そのセリフの前に、佐々木が「映画観に来てよかったね」って言ったあと、みゃーちゃんが「はい」って返事をする場面があるんですけど、そのときの「はい」がもう、恋に落ちたんだなって感じる声をしていて、めちゃくちゃよかったです!

斉藤 彼の「好き」という感情を大事に演じました。

──春園先生はどうでしょうか。好きなシーンばかりだとは思うんですけど。

春園 思い入れがあるシーンになってしまうんですけど、やっぱり、6巻31話「明日。」と7巻39話「卒業。」ですね。31話の、みゃーちゃんが告白の返事をするシーンを描こうと思って「佐々木と宮野」を描き始めたので、とにかく早くそこを描きたくて。担当さんに「宮野が好きって自覚するのはまだここじゃない、気持ちが追いつくまでの段階をきちんと説明してほしい」と止められてなかったら、1巻のラストか2巻のラストで描いていたんじゃないかな。

白井 え! 佐々木はずいぶん返事を待たされましたね。

春園 えらいですよね(笑)。みゃーちゃんには4巻のラストで、気持ちを自覚してもらいたかったんですが、そこでも「まだ早い」と担当さんからご意見をいただいて。最初の読者である担当さんに納得してもらえるものにしなくてはと思って描いたのが、斉藤さんが挙げてくださった5巻の内容なんです。みゃーちゃんが佐々木の普段の対応から、「好き」っていうのを自覚できたのは、すごく佐々木と宮野らしくなって本当によかったなと思いました。あのときの担当さんの判断は間違ってなかったなと。

あの瞬間、斉藤壮馬と白井悠介はひとつになった

「佐々木と宮野」第23話「崩れた。」より。文化祭で女装大会に出ることになった宮野。佐々木はよい気がせず、ついいじわるな言葉を口にしてしまう。しかし宮野はクラスの決めごとを優先するより、佐々木の言葉に応えようとする。そんな宮野の様子に佐々木は感情が抑えきれなくなり……。

斉藤 4巻のラスト、佐々木と宮野が同時に「好き」って言うセリフがあるじゃないですか。そのシーンにあたるエピソードをアフレコしていたときに、正直、我々これ以外は絶対ありえないっていうのがテスト段階で出せたんですね。この「好き」じゃないなら、どの「好き」なんだっていうくらい、100点満点の。

──佐々木が宮野を衝動的に抱きしめてしまったときのセリフですね。2人の「好き」という思いが心の中で重なる印象的な場面です。

斉藤 実際アフレコをしていて、あそこまでお互いがこれだって思うことって、あんまりないんですけど、それが、まさかのリテイクで驚いて。

白井 針の穴にスッと1発で糸が入る感じでしたよね。あの瞬間、斉藤壮馬と白井悠介はひとつになったって思うくらい。

──(笑)。ちなみにどんなふうに演じられたんですか?

斉藤 テストのテイクは、割と繊細な言い方の「好き」だったんです。でもOKをいただいたのは、もう少しはっきりめの「好き」でしたね。

白井 実際にアニメになって動いて、色がついて音が入るとまた違ってきますからね。すべて見えている監督や音響監督の中では、そっちだったんでしょうね。

斉藤 結果的に使われなかったですけど、そのかけ合いができたのは、すごくよかったですね。僕としては「好き」って自覚する宮野の気持ちになれたというか、役にピタリとハマった瞬間でした。


2022年4月27日更新