テイクごとに芝居をガラッと変える滝藤賢一の凄み
──滝藤賢一さん演じる刑事の半澤は、霊能力を持つ冷川、三角、非浦とは対照的な、「まったく霊感がない。目に見えるものしか信じない」という人物です。
岩井 もう、滝藤さんが要所要所に出てくるだけで、こちらをグッと物語の世界の一番奥まで入れてくれる感じが、すごかった!
森ガキ もう本当にその通りで、助かりました(笑)。
──滝藤さんがいるだけで、画面の色がガラッと変わる感じがしますよね。
岩井 「やっぱりこの人、すごいんだ!」って、つくづく思いましたね。
森ガキ 滝藤さん、テイクごとに芝居を変えてくるんですよ。例えば、廃墟で半澤と冷川・三角が合流するシーンがあるんですが、滝藤さんに「監督、ここで立ちションしていい?」って言われて。刑事としてちょっと雑な感じが出るからいいなと思って、「ああ、面白いっすね! 立ちションやりましょう!」ってOK出したんです。
岩井 (笑)。
森ガキ いざ1回目、半澤は立ちションしたあとにズボンのチャックをしめ忘れたまま、2人のほうに歩いてきて……! 僕、面白くてゲラゲラ笑っちゃって(笑)。次のテイクでは、冷川・三角の演技を修正して撮りたかったので、「滝藤さん、今の感じはよかったので、もう1回やりましょうか」って撮り始めたら、2回目は立ちション中に手についたんでしょうね、(手をプラプラと振り払う仕草をしながら)こんな感じで来るんですよ(笑)。
岩井 うわーーー!(笑) すげえなあ。
森ガキ そんなふうに、テイクごと演技を変えてくるんですよ。すっごく面白いから、2回のテイクでOKだったんですが、「3テイク目をやったら、今度は何やってくれるんだろう?」と思ってもう1回お願いしまして(笑)。
岩井 あははは! そのときの半澤が何をやるか、ってことなんですね。
森ガキ そうなんですよ。毎回違うから、さすがだなあと思いました。
岩井 滝藤さんの半澤、説得力があってすごくよかったですね。
森ガキ そうなんです。半澤ってストーリーを展開していく役なので、もちろん人物の感情もあるんですけど、説明する役回りの人なんですよね。でも、それをいかに説明に見えないように演技するかが大事なんですが、滝藤さんめっちゃくちゃ上手なんですよ。もし下手な人がやってしまうと、観客はただ説明を聞かされるだけになっちゃうので、眠くなっちゃうんですよね。一番技術がいる役なんです。
岩井 確かに。ストーリーの中にいる人物ですけど、メインの3人をめぐる話の、一番の視聴者でもある感じだし、観客と一番近いですもんね。
リンクし、シンクロした――非浦英莉可と平手友梨奈
──一方、非浦英莉可は2年ぶりの映画出演となる平手友梨奈さんが演じました。平手さん自身、英莉可に「共感する部分も多かった」と語っているように、キャラクターとすごくシンクロしているなと感じました。
森ガキ もう、ほんとに英莉可そのものですよね。
──また、「あえて英莉可の部分しか台本を読まなかったので、三角と冷川、半澤はこんなふうに動いていたんだ、と新鮮に観ることができた」と話していて、そういう役作りもあるのかと驚きました。
森ガキ はい、全然アリですね。平手さんはまだ若いので、いろんな情報を入れないほうが、純粋に芝居ができるんだと思います。平手さん自身、芝居でも「あんまりウソがつけない」って言っていました。
岩井 そうなんですね。
森ガキ とはいえ演技って、言ってしまえば全部ウソなので、そこの葛藤は毎回あったみたいです。だから、話し合いをしながら進めていきましたが、今の彼女のやり方はすごくいいなあと思いました。
──英莉可というキャラクターは、しんどい運命にある役どころでもあります。その役作りでは、英莉可の抱えるつらさも役者自身に返ってきそうですね。
森ガキ 返ってきますね。もっと言うと、英莉可は能力があるが故に普通の女子高生の生活を送ることができない。本当は放課後にみんなとハンバーガー食べに行ったりする生活を送りたかったけど、突出した能力のせいで叶わなかった──そういう意味では、アイドルとして生きてきた平手さんも英莉可と共通するところがあったと思うんです。2人は、そういうふうにもリンクしたと思っています。
演技はその人の本質を変えられない、人間がそのまま役になる
──岩井さんが森ガキ監督作品に出演されたときに、印象的だったことはありますか?
岩井 監督って、僕みたいに演技の経験が豊富でない人でも、見せ方がすごくうまいですよ。
森ガキ いやいや(笑)。でもね、演技って、その人の本質的なものを変えてはできないんです。人間そのもののウソは絶対につけないんですよ。岩井さんが冷川の演技に岡田将生くん自身の人間性を強く感じたのも、そういうことだと思います。岩井さんに僕がオファーしたときも、岩井さんって、ネタ作ったり本を書いたりしていることもあり、どこか本質的には繊細でインテリな感じがしていた。だからオファーするまでお会いしたことはなかったですけど、そういうイメージが僕の想定する役に合っていていいなと思ったんです。だから、ある人にフィルターをいっぱいかけて演技をしてもらうよりは、本質的な近さを見て演技のアプローチをしてもらうんです。
岩井 へえー! そうだったんですね。
森ガキ だから、こちらとしては、役者さんがやりやすい環境を用意して、そこに小道具や演出をプラスしていくのが面白くなるかなと思っています。
岩井 確かに、言われてみたらそうだったかもしれない。自分のときも、全力でやりながらも、「俺、ちゃんと演技やったことねえしなあ……」とどこかで思っていたんですけど、実際やってみたら、「意外とできてんじゃね!?」って思わせてくれるような環境でしたね(笑)。
──言葉だけではなく、演出や雰囲気づくりがそうさせていたんですね。
岩井 そうそう。監督の現場、自分以外が全部説得力あったんで、「やれてそうだな?」って感じに錯覚させてくれる。すごくいい監督です(笑)。
森ガキ 岩井さん、ほんとに上手でしたよ。繊細さとか、神経質な感じが出ていて、すごく役にハマっていました。編集しながら、「またお願いしたいなあ」と思っていました。
岩井 その後も演技の仕事で声を掛けてもらうことがありますけど、なんでもかんでも出ていると、どうせボロが出るんで、次は森ガキさんにオファーしてほしいって、俺は思っています。
観た後にもう一度思い返してほしいような作品
──作品の軸には、呪い、つまり「言葉の持つ強い力」を、どうポジティブな力に変えていくかというテーマも感じる作品です。改めて、読者に向けて本作の見どころをお願いします。
森ガキ 望まない能力を持った人たちが、心通じ合える人に出会ったことで、三種三様、前向きに成長していく──この変化は、生きていると誰もが当てはまることが多いと思うので、そこに共感してもらえたらと思います。さらにSNSで誰もが発信できるようになり、たったひとつの言葉で株価が変わることもあったり、改めて言葉の力ってすごいと思う時代になりました。匿名の誹謗中傷も問題になることが多いですが、言葉が持つ道徳的な側面をもう一度考えられる作品になればと思っています。エンタテインメント作品であるとともに、それが原作を読んで僕が感じ取ったメッセージなので、映画では少し意識して観てもらえるとうれしいです。
──万人が万人に向けて発信できる時代だからこそ、言葉は使いようによっては脅威にもポジティブな力にもなる。確かにそう感じる映画でした。続いて、岩井さんからもメッセージをお願いします。
岩井 森ガキ監督の表現ってアーティスティックで、かつ原作10巻分の長い話を2時間あまりで観るときに、全部は理解できないまま進んでいくように感じる部分もあるかもしれない。でも、終わったあとにふと俯瞰で振り返ってみると、「実はこういう作品だったんだな」ってすごく理解できるんです。なので、ぜひその表現方法を楽しみながら、観た後にもう一度思い返してほしいような映画だと俺は思います。