あのカットは、紙からオーラが出てました
──全12話の中で、一番印象に残っているエピソードはなんですか?
上町 僕は第1話の、ガガンバーがメメンプーの布団にそっと倒れ込んで本音を言うシーンですね。ガガンバーがちょっと酔っぱらって帰ってくるんですけど、東地さんがいい感じにボソッと呟くんですよ。そこに愛情と哀愁がめちゃくちゃ詰まっていて。構図も最高で、アニメを観ている感覚以上にすごくいい絵を見ている気分になりました。あとはアニメ史に残る奇作の第7話「ON THE ROAD」。大人たちが奇行に走り、ひたすらユーリが嘔吐を繰り返し、メメンプーの嘔吐シーンで終わるという攻めた回なんですけど、やけに力が入っているなと。和田監督、どうでしょう?
和田 (笑)。最終話まで中だるみしないように仕かけた“爆発回”ですね。もともとの構成の中にはなくて。作画や3DCG以外でちゃんと目立つことができる回を作ろうとして、本当はマジックマッシュルームで人が幻覚を見る話になる予定だったんですよ(笑)。でもそれだと放送できないという話になって。とにかく変なものを残したくて、嘔吐に持っていった気がしますね。
上町 ニュアンスとしては、“サクガンの温泉回”みたいなことですかね。
和田 そうですね。
高野 第8話「MEMORIES®RETS」がザクレットゥの過去にまつわる重い回になるというのがわかっていたので、「ふしぎの海のナディア」の島編でのゆるいエピソードをモチーフに、何か面白いことができないかというのはありましたね。
和田 僕は第12話「TO BE CONTINUED」で、ガガンバーがメメンプーに「お前は何をやりたいんだ」と尋ねるシーンです。子供のやりたいことを全部受け入れて、なんでもやっていいよという親は、自分からすると気持ち悪いというか、納得できなかったんですよ。そうじゃなくてきちんと子供のやりたいことに向き合って、試行錯誤する父親のほうがカッコいいと思ったんですね。だからこそ第1話から第11話までずっと、ガガンバーは「まだ子供だから早い」「まだ経験が足りてないだろ」とメメンプーに言い続けるんです。メメンプーは大人扱いされないことに苛立って、2人は反目し合うんですが、それが12話でメメンプーがくじけそうになったときに、「お前はどうしたいんだ」とガガンバーは初めて問うんですね。演出的意図としてそこは、メメンプーのやりたいことをそのまま受け入れるんじゃなくて、「やりたいことについていくよ」という意味を込めて、言わせているつもりなんですよ。脚本の永井真吾さんらには申し訳ないと思いつつ、セリフを立たせるよう、要所要所にアレンジを入れさせてもらったり、絵コンテの段階でセリフを調整したりして。特に第1話のBパートと、最終話のBパートには、普段から自分が思っていることが反映できたと思っています。高野さんは?
高野 現場で制作している側ならではの視点でいうと、第8話の最後、ザクレットゥが膝を抱えて泣いているカットですかね。もともとの素上がりの絵コンテもすごくいい絵だったんですけど、和田さんが修正でさらにいい絵にしてきて、またそれをキャラクターデザインの望月俊平さんがものすごい絵にしてくるっていう。想像を超えるものが来たので、震えましたね。
和田 望月さんはパワーもクオリティも両方すごい方ですが、魂削って作っていた感じがします。
高野 あのカットは、紙からオーラが出てましたね。
──第8話ではこれまでのザクレットゥのイメージからは想像できない一面を見た気がしました。メメンプーの悲痛な鳴き声も痛々しいですが、きっとザクレットゥもあんなふうに泣いたときがあったんだろうなと。
高野 ザクレットゥは個人的に思い入れのあるキャラクターです。ああいう立ち位置の女性キャラクターって、みんな「ルパン三世」の不二子ちゃんのようなイメージになってしまうんですが、そこから脱却したかった。ただそのためにどうしたらいいのか最初はわからなかったんですね。でも永井さんがシナリオを書いて、佐藤英一さんが絵コンテを描いて、和田さんがそれをチェックして、花澤香菜さんが芝居を付けて、望月さんが絵で動かしてと、段階を踏むごとに化学反応を起こしていって、結果的にすごく説得力のあるキャラクターになりました。
──各々の実力が発揮され、キャラクターができあがっていったと。では皆さん自身の制作過程でのエピソードで思い出深いものはありますか?
高野 僕が制作過程を振り返って、どんな作品でもそうだと思うんですが、今回はいつも以上に、面白さと予算と納期のバランスで苦しみましたね。
上町 大人な発言ですね(笑)。
和田 僕は高野さんと大ゲンカをしたときですかね。決裂して、ひとことも口を利かなかった時期があったんですよ。
──ええ……! そんなことが。
和田 おじさん同士で何度か泣いてますしね。
高野 そうですね。
和田 第12話を納品するときだったんですけど、出来に納得いってなかったんですよ。第12話はもっと完成度を上げたいから、もう少し猶予をもらえないかと委員会にかけ合ったんですね。そのとき高野さんが「そこまで言うのなら」と一緒になって電話をかけてくれて。あの工程がなかったら、今日笑って話せなかったかもしれない(笑)。
第12話を最終話とは呼びません
──上町さんは、プロジェクト発足時にもコミックナタリーの特集(参照:「Project ANIMA」特集 河森正治×上町裕介)に出ていただきました。最初に志したものが「サクガン」で実現できたという実感はありますか?
上町 まだ僕の中では道の途中にいる感じがします。「Project ANIMA」を立ち上げたことで、「サクガン」がこの世に生まれ、和田監督という才能により、一級品のアニメーションとなって昇華されてどんどん形になっていき、さらに全世界に拡がったわけです。一方で、Twitterでエゴサしたりすると、「こういう反応もあるのか」「こう感じる人もいるのか」と、自分が気付けていなかった部分もまだまだあることを知りました。そこは第2弾・第3弾の作品作りもそうですし、「サクガン」という作品をこの後どう展開していくのかというところも含めて、活かしていきたいですね。
──ということは、「サクガン」の続編を期待してもいいんでしょうか。
和田 「サクガン」はもともと2クール分作ろうとしていた作品なので、1クールに収まりきれなかったというのが正直なところです。自分としてはまだまだ続けていけたらいいなと思っていますので、あえて第12話を最終話とは呼びません。観て面白かったら、ぜひ感想を広めてほしいですし、また同じチームで再集結して、「削岩ラビリンスマーカー」の本当の最終話までたどり着けたらと思っています。
高野 確かに本当の最終話ではないかもしれませんが、第12話はガガンバーとメメンプーの物語におけるひとつの結末として、ものすごく説得力のあるものになっていると思っているんですよ。それは永井さんのシナリオ、僕と大ゲンカしながら作った和田さんの絵コンテと、だんだんと形になっていったのが大きくて。アニメはマンガと違って集団作業で、1人ひとりが仕事を請け負うことで成り立っているじゃないですか。そうやっていいドラマが生まれることがあるんだと、再認識できました。
和田 みんなで命を削って、作り上げましたもんね。
高野 スタッフロールが最後に流れますけど、誰がどんなことをしているのか、ちょっとでも気にしてもらえるとうれしいです。
上町 僕自身もこういうギミックを出したいとか、「サクガン」で描きたかったことがまだまだたくさんありますし、和田監督とケンカしながらでも続きを作りたいと思っているので(笑)、今後の展開に期待してほしいと、無責任に宣言してしまおうと思います。
和田 やりましょう!
※記事初出時より一部表現を修正しました。
- 上町裕介(カミマチユウスケ)
- 1985年生まれ、大阪府出身。Fosun Entertainment Japan株式会社CEO。「Project ANIMA(プロジェクトアニマ)」総合プロデューサー。アニメ、ゲーム、ラジオとさまざまなコンテンツの立ち上げを担当しているほか、音響監督や声優志望者向けのワークショップなど幅広く活躍。その他元カメラマンや元コピーライターなどの経歴を持つ。
- 高野健一(タカノケンイチ)
- 株式会社サテライトの制作プロデューサー。主なプロデュース作品に「バスカッシュ!」「劇場版 誰ガ為のアルケミスト」などがある。
- 和田純一(ワダジュンイチ)
- アニメーション監督。主な監督作品にTVアニメ「Caligula-カリギュラ-」「終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?」「長門有希ちゃんの消失」などがある。
メメンプー役・天希かのんからコメントが到着!
1500人の応募者の中から射止めた役への思いと、「サクガン」の“現場愛”を語る
メメンプーを演じました、天希かのんです。
「サクガン」、ついに最終回ということで……! 2019年12月8日にオーディションで選んでいただいてから約2年間、ここまで長かったようなあっという間だったような、すごく不思議な心持ちです。
幼い頃からマーカーを志し、そしてマーカーとして旅を始めたメメンプーは、声優になりたかった私をその道へと導いてくれた、とってもカッコよくて心強い、大切な子。ずっと隣を一緒に歩いて来たけれど、ここでひとつの区切りを迎えます。寂しいです。本当に。
アフレコでは、収録がほとんど一緒だった東地さん、花澤さんをはじめ、多くの先輩方にものすごくお世話になりました。いろいろなことが初めてで、右も左もわからなかった私を力強く支えてくださり、本当に感謝と尊敬の念に堪えません。書き尽くせないけれど、ラジオなどでたくさん語らせてもらえればと思います。
サクガンの現場は本当にあったかくて、そして熱い思いがものすごく詰まっていて。裏方の皆さんに触れる機会も多くあり、作品に関わるすべての人が、真正面から真剣に作品と向き合っているのだと身に染みて感じることができました。とても貴重な機会をたくさんいただけて、心から感謝しています。
さて、TVアニメ「サクガン」、いよいよ最終回を迎えます。どうか最後の最後まで、彼らの行く末を見守っていただけると幸いです。
- 天希かのん(あまねかのん)
- 4月18日生まれ、東京都出身。青二プロダクション所属。「Project ANIMA」の「サクガン」声優オーディションでグランプリを受賞し、9歳の天才少女・メメンプー役を射止める。趣味・特技はTRPG、ボードゲーム、着付け、裁縫、観劇、殺陣、セルフネイル、パンダ関連収集。
2021年12月25日更新