「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」和月伸宏×黒碕薫対談|プリミティブなファンを裏切らず“再構築”して作る、今だからこそできる「剣心」 (2/3)

斉藤壮馬は「優しい剣心」と「カッコいい抜刀斎」を両方備えた人

──キャラクターデザインに関しては何か調整を加えたりはしたんですか?

和月 デザインについては特にこちらからリクエストを出した部分はないかなあ……あ、1つだけ。「原作準拠だけど、90年代のテイストをちょっと薄めてほしい」というお願いはしました。変えすぎても原作から離れちゃうから、さじ加減が難しいんですけど。でも、あまりにも90年代テイストが強いと今の若い人は入ってきづらいだろうなと思って。

──例えばどういうところを調整したんでしょう?

和月 具体的には顔の描き方なんかは90年代と今では変わっているので、そういう部分を。あと、筋肉の描き方ですね。90年代ってまだ劇画調というか、胸筋がバーンと大きいみたいな描き方が強い時代だったんです。時代が流れていくにつれ、ウエストをきゅっと締めたりもしないし、胸筋もそこまで大きくしないというのが主流になってきている。なので、胸筋なんかをちょっと抑えてもらったりしていますね。とはいえ、あまり今風にしすぎても違うというのもあって、そのへんは何度も調整しました。

TVアニメ「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」PVより、内田雄馬演じる四乃森蒼紫。

TVアニメ「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」PVより、内田雄馬演じる四乃森蒼紫。

──本当に密に監修しているんですね。

和月 そうですね。今は打ち合わせもリモートでできるようになっているので、逐一参加してシナリオやキャラデザのチェックをしたりしていました。アフレコなんかもリモートで参加させてもらっています。自分は忙しいときは参加できないんですけど、黒ちゃんは毎回参加してくれています。

黒碕 私は毎回アフレコを聞かせてもらっているんですが、音響監督がお芝居の繊細なところまで指導してくれているので、毎回「すごーい!」ってエンジョイさせてもらっています(笑)。

和月 プロはすごいなってね(笑)。剣心などのメインキャストの声優さんに関してはオーディションの音声データをいただいて、こちらの意見を提出したりしながら最終的に制作サイドで決めていただいた形です。オーディションで最後に残った方はやっぱりみんな素晴らしかったんですが、剣心に関して言えば一番しっくり来たのが斉藤壮馬さんでした。

黒碕 剣心には「優しい剣心」と「カッコいい抜刀斎」という2つの面があるわけです。男らしく、なおかつ優しいってなかなか難しいキャラクターなんですが、斉藤壮馬さんが一番そこに合っていました。

TVアニメ「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」PVより。

TVアニメ「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」PVより。

和月 ゲストキャラクターは制作サイドから「この方でどうでしょう」って提案が来るんですが、みんなよくて。特に(鵜堂)刃衛なんかは「どうでしょうも何もよすぎるだろう」って感じで(笑)。刃衛の「キモかっこいい」って部分をものすごく上手に演じてくれて、テンションが上がりましたね。どなたが演じるか楽しみにしていてください。

「剣心」ってすごくコミカルだったんだ

──まさに“完全監修”という関わり方ですね。

和月 今までのメディアミックスの中で一番多く関わっていると思います。最初のアニメは週刊連載をしながらだったのでなかなか時間が取れなかったですし、映画などは基本的に「監督のもの」というのが大前提なので。その分、メディアミックスでほかの方が作った「剣心」の世界に触れることで気付かされることもあります。

TVアニメ「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」ティザービジュアル

TVアニメ「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」ティザービジュアル

──どんなところですか?

和月 例えば、宝塚や小池徹平さん主演のミュージカルなんかで色濃いんですが、「剣心」ってやっぱりコミカルなんだなって。シリアスパートが増える中で自分自身が忘れてしまっていたんですが、最初の頃の「剣心」ってすごくコミカルなんですよね。それが笑えるかっていうとまた別の話ですが、コミカルであることによる柔らかさとか雰囲気というのはすごく大事なので、そのへんをもう1回しっかり取り入れたいなと思うきっかけになりましたね。

黒碕 今回アニメの脚本を書かせてもらった中でも、隙あらば「おろ?」って入れてましたよね(笑)。

和月 そうそう。原作のほうではどんどん剣心が「おろ?」って言わなくなってるんで。

TVアニメ「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」PVより。

TVアニメ「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」PVより。

黒碕 「隙あらば『おろ?』」ってスローガンでやっています(笑)。あと、アフレコでも声優さんがコミカルなアドリブを入れてくれていたりもして。尺や展開上あってもなくても大丈夫ってときは、なるべくコミカルなシーンは残してくださいとお願いしてます。

和月 あと、メディアミックスで気付かされた点ということだと、映画の画の説得力ですね。明治という時代を描くのに、それこそ重要文化財になっているような場所までお借りしたり、徹底的にロケーションにこだわっている。衣装も剣心でありつつ、コスプレではない、「これは時代劇なんだ」という説得力があるものになっている。映画が成功した理由の1つはそういう部分だと思っていて、なんとかマンガのほうにもそういう力を取り込みたいと思って背景をがんばって描いていたりします。

メディアミックスがなければ生まれなかった「北海道編」

──過去のコミックナタリーのインタビュー(参照:ジャンプスクエア創刊9周年記念 和月伸宏インタビュー)では、連載中の「北海道編」もメディアミックス作品が1つのきっかけになって生まれたとお話ししていましたね。

「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚・北海道編-」1巻。「北海道編」は2017年からジャンプSQ.(集英社)で連載されている。

「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚・北海道編-」1巻。「北海道編」は2017年からジャンプSQ.(集英社)で連載されている。

和月 直接的に大きかったのは宝塚版ですね。劇中で使われた主題歌があるんですけど、それを聴いたときにピンと来たんです。剣心が最後にたどり着くところがどこかという。

黒碕 これ歌詞がわからないと伝わりづらいですよね(笑)。「歴史のなかに消えた名もない人々のひとりだけれど」ってフレーズですね。

和月 当時、北海道編の概要みたいなものはぼんやり頭にあったんですけど、テーマが見つかってなかったんです。原作の無印では「死ぬまで剣を振るって人を守る」というのを剣心の贖罪として描いて締めくくった。だけど、それは剣心の決意であって、贖罪の完成ではないんですよね。じゃあ完成ってなんだろうってモヤモヤしているときにこの歌詞を聴いて剣心の贖罪の旅の行き着く先、完成の形はこれじゃないかって思ったんです。

──「北海道編」も連載開始から6年になりますが、ここまで描いていて楽しかったシーン、思い出深いシーンはありますか?

和月 1つは弥彦が逆刃刀を返却する話ですね。あれが自分のイメージする「るろうに剣心」の世界にすごく合っていたんですよね。(剣心には)一種の諦観があって、それでも新しい考え方、理想を持って歩み始めていくというのが……若い世代はどうかわからないですが、この気持ちをわかってくれる読者はいるだろうと思っています。それと、シーンとしては碧血碑に剣心をはじめとしたキャラクターが集結するシーンですね。

「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚・北海道編-」3巻。インタビュー内で語られている、碧血碑にキャラクターが集結するシーンが収録されている。

「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚・北海道編-」3巻。インタビュー内で語られている、碧血碑にキャラクターが集結するシーンが収録されている。

──あそこは無印からのファンにとっては胸熱ですよね。

和月 実際に函館に取材に行って「ここにみんなを揃えたい!」って思ったので、あれを描けたのはすごくうれしかったです。それと、キャラクターでいったら武田観柳ですね。新しい面も出たし、新キャラのメンター的な役割も果たしてくれている。黒ちゃんは何かある?

黒碕 私は凍座が印象に残ってる。2巻で露天牢に入れられた凍座が剣心と会うときの「大歓迎!」っていうところとか、「敵なのにいいやつじゃん! なんなんだ、お前!」って(笑)。あと、日時計の真ん中にいて、自分の影で時間を告げるっていうのは私のアイデアを採用してもらえたので、そういう意味でも印象深いです。