「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」和月伸宏×黒碕薫対談|プリミティブなファンを裏切らず“再構築”して作る、今だからこそできる「剣心」 (3/3)

「武装錬金」は最もプレーンな和月マンガ

──黒碕先生は「武装錬金」以降ストーリー協力という形で和月先生の作品に参加していますが、そういうアイデアも出しながら作っているんですね。

「武装錬金」文庫版1巻。同作は週刊少年ジャンプ(集英社)で2003年から2005年まで連載された。

「武装錬金」文庫版1巻。同作は週刊少年ジャンプ(集英社)で2003年から2005年まで連載された。

黒碕 「武装錬金」の頃はまだワッキー先生の思考をなかなかトレースできてなくて、本当に逐一逐一話し合ってものすごく時間をかけてやってましたね。

和月 時間も労力もかかってたねえ。

黒碕 今はお付き合いも長くなってきて、「ワッキー先生はこういうことはしないな」とか「こういうアイデアは喜びそう」というのがわかってきたので、昔ほど打ち合わせの時間はかからなくなりました。

和月 自分は少年マンガのセオリー、ジャンプセオリーみたいなものの中で育ったマンガ家なので、そこを大事にしているんですね。だから、「こうしてしまうと少年マンガの範疇を超えてしまう」みたいな部分をすりあわせながらやってました。

──「武装錬金」も今年で20周年なんですよね。

和月 そんなになりますか。あれはひと言で言えば「バフのかかってない和月マンガ」という感じですね。自分が描いてきた中で最もプレーンな創作だと思ってます。

──そうなんですか? 僕は「るろうに剣心」から入った人間なので、少年・少女の成長ものが和月先生の最もプレーンなものというのはちょっと意外でした。

和月 やっぱりボーイ・ミーツ・ガールや成長譚が好きなんですね、本当は。ただ、「好き」と「描ける」は別物というのがマンガ界でよく言われる話で(笑)。「るろうに剣心」の「バフ」って何かっていうと、初代担当編集の佐々木さん(佐々木尚。後の週刊少年ジャンプ第9代編集長)の、「時代劇をやろう」っていうアドバイスなんです。自分はデビュー作が時代劇でして。その後、読み切りを考えているときに佐々木さんが「せっかく少年マンガではなかなか人気が取れない時代劇で人気を取れたんだから、次も時代劇にしよう」って言ったんです。今度はもっとキャラクター中心の話にして、人気が取れたら第2弾、さらには連載としていけるものにしようって。この提案が自分にとって大きなバフで、これがなかったら歴史もの、時代劇マンガを描いてなかったと思います。

TVアニメ「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」PVより、高橋李依演じる神谷薫。

TVアニメ「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」PVより、高橋李依演じる神谷薫。

「剣心」はファンが育てたもの

──「剣心」とは長い付き合いになっていますが、約30年の間で和月先生の中でも剣心像って変わってきたりはしていますか?

和月 あまり剣心たちは……人気キャラクターって自分1人で作っているものじゃなくて、ファンの方々も一緒になって作ってくれているもの、育ててくれたものなんですよね。だから、自分が「本当の剣心はこういうやつだ!」って言っても、ファンが「それは好きじゃない」って言えばなくなっちゃう。30年間応援してもらってるファンの方々に育ててもらっているというところが大きいので、そういう意味ではあまり変わりはないですね。「北海道編」も、自分が描きたいって言ったってファンがいなければ実現しないし、逆にファンが望んでも自分が描けなければできない。今回のアニメもそうですが、自分も描きたいし、読者も読みたいと言ってくれる、すごく幸福な関係があったからできたものなんですよね。

──では最後に新作アニメを楽しみにしている方にひと言お願いします。

黒碕 私が脚本を担当した話の中でCパートまである話があるんです。これ、ぜひCパートまで観てほしいです!(笑)

和月 せっかく令和にこうして新しいものを作ってもらっているので全部観てほしいです。「原作ファンなら最後まで観ないともったいないよ」と言えるようなものになるようにやっていくので、ぜひ原作ファンの方には最後まで観ていただけたらと。映画などメディアミックスで知ってくれた人には、映画や舞台とはまた違う「剣心」が観られますので、この機会に触れてもらえたらと思っています。

TVアニメ「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」PVより。

TVアニメ「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」PVより。

プロフィール

和月伸宏(ワツキノブヒロ)

1970年5月26日東京都生まれ、新潟県長岡市(旧越路町)育ち。1987年に「ティーチャー・ポン」が、第33回手塚賞佳作を受賞。1994年に週刊少年ジャンプ(集英社)で「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」の連載を開始する。同作は1996年にTVアニメ化され、連載終了後もOVA化、実写映画化、宝塚歌劇団によるミュージカルの制作など、さまざまなメディア展開が行われており、2023年7月より新作TVアニメが放送される。「るろうに剣心」の連載終了後は、週刊少年ジャンプで「GUN BLAZE WEST」「武装錬金」を、ジャンプスクエア(集英社)の創刊号より「エンバーミング -THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN-」を発表。2016年、ジャンプスクエアの創刊9周年に合わせ、「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」と同時代を描く「-るろうに剣心・異聞-明日郎 前科アリ」を、前後編の読み切りとして執筆した。その後2017年より、「るろうに剣心」の新章にあたる「北海道編」をジャンプスクエアで連載している。

黒碕薫(クロサキカオル)

小説家。1969年1月26日神奈川県で生まれ、小学生の数年間をブラジルで過ごす。大学卒業後、社会人生活のかたわら執筆した小説「天使たちの惑星」でデビュー。小説のほかゲーム「3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!」、アニメ「キャプテン翼」などさまざまなメディアのシナリオや脚本も手がけている。和月伸宏の作品に「武装錬金」以降、ストーリー協力として参加。現在はジャンプスクエア(集英社)で「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」の小説「るろうに剣心 -神谷道場物語-」を連載している。