楽園 Le Paradis [ル パラディ]|かずまこを×水谷フーカが表現する“恋” 鶴田謙二×kashmir×panpanyaが伝えたい“背景”

宇仁田ゆみ デビュー20周年記念インタビュー

1998年、クールな彼女に悩む彼氏の思いを描いた「VOICE」がヤングアニマル(白泉社)に掲載され、デビューを飾った宇仁田ゆみ。その後、「マニマニ」「よにんぐらし」などを上梓し、2005年にスタートした「うさぎドロップ」はアニメ化・実写映画化も果たした。ジャンル、読者を問わず、まさに多彩な作家として作品を発表し続ける宇仁田が、最新作として選んだ題材は“ガールズラブ”。楽園 Le Paradis [ル パラディ]で新作が発表される前に、ガールズラブを書くに至った経緯とこの20年の思いを聞いた。

宇仁田ゆみの描き下ろしイラスト

宇仁田ゆみの描き下ろしイラスト
デビュー作「VOICE」が収録された「楽楽」。

Q. 20周年おめでとうございます! 宇仁田さんはヤングアニマル1998年7号に掲載された「VOICE」でデビューを飾りました。青年誌であるヤングアニマルからデビューした経緯やデビューしたときの思いを教えてください。

A. ありがとうございます。ヤングアニマルは創刊されたときからずっと読んでいて、好きな漫画家さんもいらっしゃったので、自分としては投稿するならここしかないと思っていました。とはいえ漫画家になろうとしていたわけではなくて、かなり軽い気持ちで月例の漫画賞に投稿しました。一番小さい賞にぎりぎり入って、担当さんについていただくようになりました。その方が現在の「楽園」の編集長です。それから、担当さんに導いていただきながら毎月漫画賞に投稿して、5回目ぐらいでなんとかデビューできました。もちろんその時はうれしかったですが、自分が描いたものが雑誌に掲載されるというのはとてもおそろしかったです。今もですけど。

Q. ヤングアニマル(白泉社)、フィール・ヤング(祥伝社)、IKKI(小学館)、まんがライフオリジナル(竹書房)、そして楽園(白泉社)とさまざまな雑誌で多彩な作風のマンガを描かれてきました。宇仁田さんはどういうマンガを描きたいという思いでこれまで執筆してこられましたか?

A. もともと漫画家志望ではなかったからか、これこそが描きたいテーマ!というのは多分あまりなくて、その時その時の自分に描けるものを描いていって、少しずつ幅を広げているイメージです。ただ、どういうジャンルであれ、どこか生身の人間っぽい感じがするキャラクターを描きたいとは思っています。これはデビューした頃から今まで変わりありません。

Q. 宇仁田さんご自身が思う得意な執筆ジャンル・苦手な執筆ジャンルはありますか?

A. 得意なもの…は、あまりよくわからないのですが、純粋な恋愛ものを長期連載で、とかは絶対苦手ですね。

「ノミノ」より。

Q. 「ゼッタイドンカン」のピアノ調律、「ノミノ」の生け花、「ニンゲンをとろう」のカメラなど、作品を彩る小道具や題材をかなり多彩に描かれていると感じました。どうやって小道具や題材を決めるのでしょうか? また取材はどのように行っていますか?

A. 題材は、シンプルに描きたいエピソードがあったり、描きたいシーンがあったり、たぶんそういうことで選んでいるような気がします。そのキャラクターの人となりや暮らしぶりを伝えるために。時間がゆるす限り、調べ物や取材もします。地方在住なので取材はなかなかままならないですができる範囲で…。でもわたしの仕事は、調べたことをまとめて発表することではないので、調べ物や取材はあくまで漫画を楽しくすんなり読んでいただくための下準備だと思っています。情報を頭に入れた上で、直接そのことに触れずに物語をすすめることも多々あります。自分の頭に情報があった上で描くものとまっさらな状態で描くもの、そこに違いがあると思っています。「ノミノ」の生け花はこどもの頃にやっていたので描きやすかったです。実際に体験しているものは視覚的にも聴覚的にも表しやすいですね。

「ねむりめ姫」より。

Q. キャラクター造形について質問です。宇仁田さんの描くヒーローは彼女より背が小さくモテないミツヤ(「ノミノ」)、ハゲが気になってきたダイキチ(「うさぎドロップ」)、目つきが悪いネリム(「ねむりめ姫」)と、正統派のイケメンタイプではないキャラクターが多いと思いますが、どのようなことを考えながらキャラクターをデザインするのでしょうか? 男性キャラクター、女性キャラクターともに教えてください。

A. 基本的にはキャラクターの性格や性質に合わせて、という感じです。男性の場合、漫画的なイケメンにはそれほど興味もなく、ただただ描くのが苦手ですね。イケメンは描くのに時間がかかってタイヘンだけど、ダイキチやネリムは早く描けてよいです。顔(表情)をいくらくずしてもいいから描くのも楽しいし。女性キャラクターはとにかく自分がかわいいと思える子を描きたいです。それが理想です。もちろん「ねむりめ姫」の夜寝子も「あーもうかわいい!かわいい!」と思いながら描いています。結局わたしが描くと、流行りの絵とかけ離れているし、女性キャラクターも一般的な「かわいい」とズレてしまうことが多いのですが、自分自身がかわいいかわいいと思って愛情を持って描くことで、なんとか良さを伝えられたらと思っています。楽園編集長も、わたしが新人のころから女の子の絵をかわいいと言ってくださっているので、そのような少数派のみなさまのためにもがんばりたいです。

「ねむりめ姫」より。

Q. 「ねむりめ姫」では、宇仁田さんがこれまで描かれてきた明るい家族の話とは異なり、ギスギスした両親、その両親とうまくいっていない主人公が描かれています。今作の主人公を描いてみて感じたこと、気をつけたこと、またなぜ家庭環境のよくない家族をお描きになったのか教えてください。

A. うまくいっている家族もうまくいっていない家族も、もともとはそれほど変わらないような気がしていて。家族同士っていうのはもともと憎しみ合っているというより、ちょっとしたことや日々の積み重ねで、結果壮絶なボタンの掛け違いをしてしまうというケースが結構多いんじゃないかなと個人的には思っています。家族のためにがんばりすぎた結果、被害者意識が生まれてしまったり、家族との時間がとれなくなってしまったり…そこのところは意識して描きました。なので、夜寝子の家族をああいう感じで描いたことにそれほど大きな意識の差はなく、ちょっといつもと違う角度から描いたイメージです。反対側ではなく角度が少し変わっただけ。でもまあ、こういう家族を描くのは疲れますね。夜寝子に関しては、自分としてはわりと標準的な10代の女の子かなと思っています。やっぱり「かわいいかわいい」です。

Q. 「ねむりめ姫」はファンタジー要素の強い作品です。これまであまりファンタジー要素のあるお話を描かれてこなかったかと思うのですが、今作で挑戦した理由を教えてください。また描いていて楽しかったこと、苦労したこと、次に活かせそうなことなどがありましたら教えてください。

A. 不思議な話もいつか描きたいとぼんやりとは思っていたのですが、わたしは基本的にそういうお話を思いつかないんですね。ある時たまたま描きたいものが浮かんできて、「あーでもこれ、編集さんに説明するのすっごくむずかしいな!」って思って…ダメもとで「楽園」で提案してみたら編集長が快諾してくださって、「あら?いいの??」って思いながらずっと描いていました。それと、白泉社の漫画って自分の年代にとってファンタジー要素強めのイメージなんです。いつか白泉社で不思議な話を描けたらいいなあというあこがれの気持ちは漠然とありました。「ねむりめ姫」は描いていていつも楽しかったですね。普段描けないような人が空を飛んでいる絵もたくさん描けたし。飛べるというだけで、各話のトビラ絵を描くのにも夢が広がります。またこのようなチャンスがあったら尻込みせず不思議な話も描いてみようと思いました(需要があれば…)。

「ねむりめ姫」1巻

Q. 「ねむりめ姫」が3月発売の2巻で完結します。2014年にスタートして足掛け4年にわたり描いてきた本作の見どころを教えてください。

A. 見所は…やっぱり自分の連載作品でははじめての不思議なお話なので、そこですね。あとは、この物語は眠りの精霊ネリムとおねむな高校生夜寝子の物語ではありますが、同時に家族や友人との物語でもあります。

Q. 楽園でスタートする新連載は、ガールズラブだとうかがっています。今までガールズラブ作品は読んできましたか? お好きな作品などがありましたら教えてください。

A. あまり漫画自体なかなか読めない状況なので…どうかな…それほど読んだことないかもしれません。竹宮ジンさんが描かれる女の子はビジュアルも性格も好きですね。迫力があってかわいらしくて。

Q. ガールズラブの新作は、どういった経緯でスタートすることになったのでしょうか?きっかけ、そして新作に対する意気込みを教えてください。

A. 編集長に「描いてみない?」と言われて「あー…(←うまく描けるかなという一瞬の迷い)はい」と。意気込みは…楽しいもの、自分が大好きなかわいい子たちを描きたいですね。そういう意味では今までの他の作品と同じです。自分なりのカラーが出せたらとは思っています。

Q. ガールズラブの新作はどういった作品になるのか、現時点で明かせる範囲で教えてください。

A. 高校生の短いお話の予定です。…ぐらいしかまだ考えてなくて。編集長に「あ…はい」と言ってからこっち、ずっとバタバタしていまして…。すみませーん!

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眠りの妖精というよりは要請係のおっさん・ネリムと巻き込まれ女子高生夜寝子。ちぐはぐな二人の息の合った日常業務とは!? コミカルでほろ苦いウニタの魅力満載な物語、ハラハラドキドキの完結編。

宇仁田ゆみ
宇仁田ゆみ
1972年5月10日三重県生まれ。アパレル会社での広告の仕事を経て、1998年ヤングアニマル(白泉社)にて「VOICE」でデビュー。以降、青年誌、女性誌を中心に短編を発表。コンピューターで作画しているとは思えないしなやかな筆致が魅力。代表作に独身男性が子育てに挑戦する「うさぎドロップ」、三重県で暮らす大家族を描いた「よっけ家族」、アニメーターの仕事ぶりを綴る「パラパラデイズ」などがある。結婚や家族愛を好んでテーマに描き、女性のみならず男性にも注目されている。