コミックナタリー PowerPush - 楽園 恋愛マンガの楽園が、ここにある。

年3回刊、俊英ぞろいの極上アンソロジー 執筆作家17人が参加した総力特集

楽園はこのメンツだから、私みたいな新人は気負っちゃう(かずま)

──そういう雑誌全体の方向性について、飯田さんから相談されたり頼まれることってあるんですか?

中村 ないですねえ。それはだって、編集長が考えることじゃないですか。

沙村 飯田さんは作家それぞれが自分のベストを出してればいい、っていうスタンスみたいで。この雑誌をどういう雑誌にしたいかとかは全然相談されなかったですね。

楽園第6号の裏表紙。7作品のカットに制服を着た女子が描かれているが、そのすべてがセーラー服。

中村 「僕が読みたい人ばっかり集めたんです!」とは言ってたね。それで蓋を開けてみたら「すっごいセーラー服ばっか被ってるけどいいんですか?」って状態に(笑)。

かずま 明日美子さんみたく全体のノリを横目で見つつ、自分はこうしようとか、皆さんそれぞれ考えてるのかもしれないですけど、私は余裕がなくてそういうことがまったくできないんです。

中村 えー、そうなの?

かずま 自分の作品の雰囲気を壊さないように、次の話を描くので精一杯で。楽園に合わせるのは飯田さんにお任せして、私は自分のマンガを一生懸命描くのみですね。

沙村 それは今でも?

かずま 他誌では、全体的に暗い話が多かったから私はハッピーエンドにしようとか、周りを見てバランス考えたりもするんですけど。楽園はやっぱりこのメンツだから、そんなこと言っていられなくて……。私みたいな新人が気負っちゃうのも、あってしかるべきことなんですよ。

12作家からの描き下ろしイラスト「あなたにとって、楽園とは?」[3]
志摩時緒
西UKO
竹宮ジン

単行本を出すのがこんなに楽しみな雑誌は久しぶり(沙村)

──かずまさんのほか、売野機子さんや水谷フーカさん、竹宮ジンさん、平方イコルスンさん、西UKOさん、鬼龍駿河さんなど、楽園レーベルから新人さんの単行本が次々に刊行されてきましたね。

中村 楽園の単行本は、装丁、凝ってますよねー。カバー下の本体表紙もフルカラーだったり。

木尾 この装丁の良さを見てると、自分のはどうなるのかなって楽しみになりますね。(ページ数が少ないので)自分が出せるのは何年後になるかわからないですけど、出すまでは必ず描こうって気持ちになる。

沙村 単行本って割と、たまったから出しますっていう感じになってる気がするんだけど、そうじゃないでしょ。たぶん年3回刊だから、打ち合わせする時間や考える時間もたっぷりあって、じっくり1冊を作ってるからじゃないかな。若い人もほかで出してみると、楽園の単行本がいかに丁寧に作られてるか、わかって面白いと思う。単行本を出すのがこんな楽しみな雑誌は久しぶりですね。

──装丁で、自分の要望が叶った部分とかありますか?

かずまこを「ディアティア」本体の表紙と裏表紙。

かずま 「ディアティア」を出すとき飯田さんと話していて、本体表紙を夏っぽい明るい感じにしようって流れになったんですけど、表側で青空に見せかけて、 裏側を見ると主役2人が空の映った川で水遊びしてる絵にしたんですね。そうしたらきっと飯田さんびっくりするだろうな、と思って。

木尾 そうなんだ。僕の場合は、驚かせたいというか、飯田さんを喜ばせたいって感じでやってますかね。単行本じゃなくてまだ連載の方ですけど。

一同 おおー!

かずま そう思うのは、やっぱり自分のマンガのことをすごく好きでいてくれる人だからですよ。

木尾 うん、その気持ちに当然応えたくなる。

楽園 第11号 / 2013年2月28日発売 / 880円 / 白泉社
楽園 第11号
掲載作品

中村明日美子「いっしょに帰ろう楽園くん(仮)」「楽園くん(仮)あるいは猫」「遅れ馳せの楽園くん(仮)」、かずまこを「ダーリング」、沙村広明「殺し屋(ヒットマン)リジィの追憶」、木尾士目「Spotted Flower」、水谷フーカ「14歳の恋」、シギサワカヤ「お前は俺を殺す気か」、黒咲練導「ユエラオ」、宇仁田ゆみ「こうかん法則2」、二宮ひかる「かみさま」、ハルミチヒロ「夜をとめないで」、売野機子「しあわせになりたい」、鶴田謙二「ひたひた」、志摩時緒「あまあま」、kashmir「てるみな」、犬上すくね「アパルトめいと」、あさりよしとお「小惑星に挑む」、仙石寛子「夜毎の指先」「真昼の果て」、西UKO「コレクターズ」「アップ&ダウン」、竹宮ジン「想いの欠片」、平方イコルスン「以後」「ノン察知」、大月悠祐子「彼女達の最終定理」、鬼龍駿河「乙女ループ」、竹田昼「王様の寝床」、武田春人「ろみちゃんの留守番」

中村明日美子(なかむらあすみこ)

1月5日神奈川県生まれ。2000年、マンガF(太田出版)にて「コーヒー砂糖いり恋する窓辺」でデビュー。以降、官能的なストーリーから青春もの、ボーイズラブまで多彩な作品を送り出している。代表作に「Jの総て」「同級生」「卒業生」「ウツボラ」「鉄道少女漫画」など。

沙村広明(さむらひろあき)

1970年2月千葉県生まれ。1993年、アフタヌーン夏の四季大賞にて「無限の住人」が四季大賞を受賞し、月刊アフタヌーン(講談社)に掲載されデビュー。翌年、連載が開始された同作で、1997年に第1回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。高いデッサン力に裏打ちされた迫力ある殺陣と奇想天外な設定で、ネオ時代劇と評される。その一方、竹易てあしの変名で「おひっこし」などコメディタッチの短編を執筆するユーモアを持ち合わせる。2008年、「無限の住人」がTVアニメ化された。

かずまこを

2月19日兵庫県生まれ。2007年、コミック百合姫(一迅社)にて「パジャマ夜話」でデビュー。以後、コミック百合姫や楽園 Le Paradis(白泉社)にて青春少女マンガを発表している。代表作に「純水アドレッセンス」「ディアティア」など。

木尾士目(きおしもく)

1974年生まれ。1994年に「点の領域」で月刊アフタヌーン(講談社)の四季賞を受賞し、同誌に掲載されデビュー。2002年、大学生のオタク系サークルを取り上げた「げんしけん」の連載を開始。オタクブームの立役者となった。同作は作中作「くじびきアンバランス」とともにTVアニメ化され、2010年からは続編となる「げんしけん 二代目」の連載がスタート。そのほかの作品に「四年生」「五年生」「ぢごぷり」などがある。