劇団☆新感線から受ける影響がだんだん濃くなってくる(今石)
──「天元突破グレンラガン」「キルラキル」でも中島さんの脚本に、テンポのいい掛け合いなど“劇団☆新感線っぽさ”を感じていた方もいたと思います。今回新たにキャストにもその血が入ってきて、より新感線らしさが出ている部分はありますか?
中島 やっぱり一番違うのは、尺の長さですかね。これまではTVシリーズで長尺だったのが、今回は2時間の映画なのでより舞台の脚本に構造が近くなっているんですよ。だからそういう意味でもより新感線っぽい脚本になっているんじゃないかと思います。
今石 僕も中島さんとやるたびに、新感線の芝居や舞台上の演出から受ける影響がだんだん濃くなってくるんですよね。アニメって自由なようで、むしろリアルにしがちだったりするところがあって。新感線みたいにいかに派手に見せるか、いかにカッコよく見得を切るかという突飛な発想になかなかいかないんです。僕もショーアップとしてギリギリのところを攻めるのは好きなので、そこは徐々に取り入れていっていますね。
──確かに、ガロが口上を言いながら見得を切るシーンは、かなりインパクトもあり新鮮に映りました。あれはどなたが考えられたのでしょう?
中島 あれは僕ですね。基本的にガロは外国の人で、極東の国の「火消し」という日本文化みたいなものが好きだという設定なので。であれば歌舞伎の見得を切るよねみたいな。
今石 それでコンテを切っていくと、やっぱりここにもう1文ほしいとかあるわけですよ。
中島 一応決めセリフを作ってはいるんですけど、コンテを切ってもらうと動きに対してセリフの量が足りなくて。
今石 1文ずつ足したりね。
中島 そこは今石監督とのキャッチボールですね。本を書いて終わりじゃなくて、コンテが作られてからそれを見てセリフを足したり引いたりとかシュチュエーションを考えたりしますので。今回は2時間なので、よりそのやり取りの濃度は濃いですよね。
「パンスト」の成功を「グレンラガン」の世界観に(今石)
──映画のビジュアルもそうですが、劇中のハイトーンな色遣いも全編通して印象的です。
今石 「グレンラガン」のあとに僕が監督をやった「パンティ&ストッキングwithガーターベルト」というカートゥーン寄りのアニメ作品で、かなり攻めた色遣いに挑戦して、そのとき成功した部分を「グレンラガン」「キルラキル」みたいな世界観の作品の中にうまくはめ込めないかというのを今回試しているんです。情報過多な、いわゆる暑苦しい物語にそういう表現を乗っけて、逆に見やすくなったり、新しくなったりするんじゃないかという狙いがあって。
──確かに、「パンティ&ストッキングwithガーターベルト」のようなポップで上品な色遣いながら、激しいアクションシーンもあり「グレンラガン」のような熱いストーリーという作品はこれまでになかったですね。
今石 今回キャラクターだけでなく、メカから何からほとんど全部デザインしてもらっているコヤマシゲトさんには、色合いのコントロールもかなりしてもらっています。普通の作品だと色指定さんと監督で決めたら終わってしまうような作業も、全部コヤマさんに立ち会ってもらって色を決めているので、だいぶ特色を出せていると思いますね。
──そういった新しい試みもありながら、観ているとこれまでのTRIGGER作品を思わせるようなシーンも数多く出てきますよね。
今石 オイシイものは全部やって行こうよという思いはメインスタッフの中では共通していて、自然とそうなりました。映画単発の作品は初めてなので、出し惜しみはしないぞと。この作品で初めて出会うお客さんには、自分たちの得意な部分を惜しみなく全部お見せする。今までTRIGGER作品を見てくれていた人は「よしよし」って思ってくれればいいですね。
老若男女が観られるTRIGGERの映画
──うまくいった、またはお気に入りだなというシーンがあれば、ネタバレにならない範囲で教えてください。
中島 僕はまだ映像をしっかり観られていないんですけど、脚本を書きながら観たいと思っていたのはリオがマジギレするシーンかな。書きたかったシーンでもありますし。
今石 あははは(笑)。
──クールなリオが秘めた熱い部分を見せるところですよね。
中島 早乙女太一くんに怒らせる、「許さん」って言わせるのは醍醐味ではあるので。早乙女太一くんのマジギレはぜひ楽しみにしていただきたい。
今石 言えるところであれば、冒頭のアクションシーンですね。CGの中にたまに作画が入るという、僕の中ではけっこう実験しているシーンで。CGだから気持ちが引いてしまうということがないように気を付けながら、かといって全部作画でやってしまうと、感情が乗りすぎて観るほうも重いんですよね。
中島 なるほどね。
今石 もちろん作画のほうがいい場合もあるんですけど。すごいぞ、すごいぞとなりすぎてしまうんです。複雑な状況だとか、建物の構造においては、やっぱり高さや距離がはっきりわかることで出る緊張感もあって。そういった表現はCGのほうが強いんです。作画のキャラクターとCGが、同じもののように違和感なく見えるのが一番の理想でしたし、それによってアクションシーンの幅も広がっているのでそこは注目してほしいですね。
──最後にこれから映画を観る人へメッセージをお願いします。
今石 アクション映画として徹底して作ったので、爽快感を得てもらえるといいですね。「キルラキル」「パンスト」のようなハレンチなシーンは入っていないので(笑)、老若男女全員に安心して観てもらいたいです。
中島 みんなが観られるTRIGGERの映画だよね。基本的にガロくらいしか脱がないし(笑)。
今石 彼女と一緒に劇場に来ても大丈夫だよって言いたいですね。
──安心しました(笑)。中島さんはいかがでしょう。
中島 本当に今石監督が次のステップに上がる作品だと思っています。ハリウッドのアクション映画にも負けていないものが、日本でもアニメだったらこういうふうに作れるんだというものを提示できたんじゃないでしょうか。ある種、日本には珍しい乾いたアクション映画になっているので、そういうものが好きな人にもぜひ観てほしいです。
2019年5月20日更新