アニメでは実際の音を響かせて、説得力を持たせなければいけない

──ピアノの経験があるということですが、ピアノという楽器の一番の魅力はなんだと思いますか？

経験があるというほどでもないのですが、ピアノは弾き手の情感をものすごく豊かに表現してくれる点が魅力的だと思います。Blu-ray / DVD特典の企画でも花江くんと連弾をさせていただきましたが、なぜあれだけ演奏者も指導者も「タッチ」というものにこだわるのか、とてもよくわかった気がします。昔習っていたピアノの先生から、「大きな音ももちろん出すのは難しいけれど、小さい音、ピアノピアニッシモ（「できるだけ弱く」「ピアニッシモよりさらに弱く」という意味の用語）こそ本当に難しいんだよ」というようなことを言われました。それだけ多彩な音色を響かせることのできる楽器だからこそ、さまざまな物語が生まれ、ドラマが生まれるのかもしれませんね。

──マンガは音のない世界で音楽を表現していました。アニメでは本物のピアニストによる演奏を使ったことで、作品に新しい魅力を与えたのではないかと感じます。実際に演じられた立場として、その影響・効果はどんなところに表れていたと感じますか。

これは永遠のテーマというか、難しいことですよね。マンガの強みというのは、「音」を絵で表現することで読み手の想像力に委ねられる点。それぞれがそれぞれの「音色」を聴くことができます。けれどアニメではそうはいかない。実際の音を響かせて、説得力を持たせなければいけないわけです。これはチームの皆さんにとっても、相当にやりがいのある挑戦だったのではないでしょうか。そして結果として、それぞれのピアニストの皆さんの素晴らしい演奏が、映像とSE、そして声の芝居と共鳴し、ものすごく素敵なハーモニーを奏でてくれたと思います。物語と音楽が一体になっている感じがより強く豊かに表現されていて、一視聴者としても毎話見入ってしまいました。

──アニメ作品における音楽の存在、重要性はどんなところにあると考えますか。

例えば僕は家事をするときにはアップテンポのノリがいい曲をかけたりしますが、音楽やリズムというのは、人間の心を動かす力がとても強いですよね。それはムードを作る力と言ってもいいのかもしれません。がんばって強がっているけれど内心は苦しい、というような状況を表現するときに、大きな力となってくれるのが音楽だと思います。言葉では表現しきれない細やかな感情を表現してくれて、それがセリフや映像と組み合わさり、さらなる相乗効果を生み出せる。そういう点が音楽のすごいところなんじゃないでしょうか。実際、ある曲を聴いたときに、「これはあのアニメのあのシーンの曲だ！」と思ったりすること、ものすごくありますもんね。

──アニメ「ピアノの森」は、原作やアニメファンはもちろんのこと、普段はアニメを見ない年齢層・ジャンルの方々からも好評を得ているそうです。その理由はどこにあると思いますか。

確かに、親戚の子や別のお仕事でお会いした方からも、「『ピアノの森』を見ています！」と言っていただくことが多くて、本当にありがたいです。長い期間多くの方に愛されてきた作品ですし、アニメという枠を超えて、この作品の持つ魅力が広がっていくのを感じることができてうれしいですね。この作品をきっかけに、音楽をもっと聴いてみよう、自分もやってみたい、と思ってくれる方が増えてくれましたら、こんなに幸せなことはありません。いろいろな方がそれぞれの見方で楽しめるのが、好評を得ている要因のひとつかもしれませんね。

──3月にはカイ、修平、パン・ウェイ、それぞれのピアノ演奏を収録したCDも発売され人気を博しているそうです。

クラシックに疎い自分が聴いても、おひとりおひとりの演奏のスタイルや曲の解釈など、まさに音を楽しむという魅力の詰まったCDになっていると思います。これを聴いて再度アニメを見返していただければ、さらに作品をご堪能いただけること間違いなしです！ アニメのシーンとともに、何度も繰り返し味わっていただけるCDになっていると思います！

一ノ瀬海という人間に出会えたことは、自分にとって大きな財産

──作品に関わってみて、改めて「ピアノの森」に対して感じたこと、気付いたことはありましたか？

これも昔はわからなかったことなのですが、というか原作のラストまで読んでわかったことなのですが、「ピアノの森」という作品は、カイくんが阿字野先生に救われる物語だと思っていたんです。けれど、そうでもあって、それだけじゃなかった。阿字野先生はカイくんにとってある種のメンターのような存在ですが、救う、救われるというのは一方向のことではなくて、双方的なものなんだと改めて感じました。それどころか、各登場人物が愛を与え、救い、救われる中で、物語を追っている僕たちも救われるような感覚になる。なんて壮大で、かつストレートに心にぐっとくる作品なんだと改めて感じました。

──本作に関わったことで、今後のお仕事に与える影響はありますか。

先ほどの質問とも少し重複してしまうのですが、例えばカイくんみたいに一見感覚的に思えるキャラクターでも、僕自身は論理的にアプローチをしたいと思っていました。それは今でも変わってはいないのですが、掛け合いをしている中で、そういう計算を超えた、何か「感じた」としか言えない瞬間がたくさんあって。論理を突き詰めた先に感性が待っているのかもしれないな、と思えたことは、今後の役者人生においてとても大きなことだと思います。そして、一ノ瀬海という1人の素敵な人間と出会えたことは、間違いなく自分にとって大きな財産だと思います。

──最終回直前となりますが、見どころを教えてください。

まずはここまで「ピアノの森」を応援してくださった皆さま、本当にありがとうございます。長いようであっという間だった彼らの物語も、いよいよ最終回を迎えます。ここまで彼らが歩んできた道のりが、どんな終着点を迎えるのか。ぜひ皆さまご自身の目でご覧いただきたいと思います。とはいえ、アニメで描かれるのは、彼らの人生のほんの一部にすぎません。これからも、カイが、雨宮が、阿字野が、そして「ピアノの森」のみんなが、皆さまの心の中で生き続けてくれたら、それが何よりうれしいことです。最終回、何卒よろしくお願いいたします！

──最後に、 反田さんから斉藤さんへの質問です。「声優さんはさまざまな声をお持ちですが、カイの声はどんなイメージで決めたのですか？」

声優は声1つでさまざまなものを表現する仕事ですが、初めから「こういう声にしよう」と決めて役にアプローチをすることは、意外とないかもしれません。カイくんの場合も、あまり作り込みすぎずに、僕の素に近い方向性で臨みました。あえて言うとすると、自分の声質やニュアンスだとどうしてもアンニュイな印象になりやすいので、声に含まれる息の成分を少なめにして、カイくんの前向きなエネルギーやピュアな気持ちを表現できるように努めました。改めまして、今作では本当にお世話になりました！ ぜひ反田さんの生演奏を拝聴したいです！ そして、よろしければ今度、ゆっくり飲みたいです！（笑） ありがとうございました！