阿字野は阿字野。僕には僕の音楽がある

── 反田さんは、もともと「ピアノの森」のファンだったそうですね。読者として本作にどんな印象を抱いていましたか。

連載当時は新刊が出版される日を毎回楽しみにしていて、指を折ってカウントダウンしていました！ それくらい僕にとっては興奮し、心の底から大好きなマンガでした。奏者、先生、審査員、そして友達関係がとてもリアルに描写されていましたし、演奏シーンに添えられた言葉などがとても絶妙で、読みながら音楽がどこからか聴こえてくる。そんな素敵なエレメンツが読者を魅了し、愛される作品となったのではないでしょうか。

──アニメでキャラクターのピアノ演奏を務めるというのは初めてのことかと思うのですが、実際のレコーディングではどんなことを心がけていましたか？

基本的にレコーディング自体がそもそも好きなので、毎回楽しみにしていましたし、そのための練習もマンガを読みながら、自問自答しながら行ったので、幸せな時間でしたね。2年間かけてのレコーディング。その間に僕も成長できましたし、阿字野も大きく成長できたと思います！

──収録中に印象に残った出来事があれば教えてください。

普段レコーディングではあまりカメラは使わないのですが、「画のために」ということで何台ものカメラを置いて弾いたのは面白かったです（笑）。何台あったんだろう？

──5、6台のカメラで撮影されていたそうですよ。“天才ピアニスト”の演奏を務めることについて、特に意識をしたことはありましたか。

正直に言うとないです。というのも、阿字野は阿字野。僕には僕の音楽があるので。

──では反田さんの考える、“天才ピアニスト”とはどんな人でしょう。

弾いている楽器が友達に見える人。

歩んできた人生そのものが音と成る

── アニメの中で特に印象深いエピソード、シーンを教えてください。

先日放送された第19話、阿字野の最後のレッスン。先生自身は「すべて教えた」とあのとき言っていましたが、それを「すべて忘れろ」と……。僕も何回か師匠に言われたこともありますが、やはり勇気の要る言葉だと思います。そして隣の部屋越しで修平がカイの伴奏をするシーン！ 涙なしでは観られません！

── カイと阿字野の師弟関係も、本作の魅力のひとつですね。ピアニストにとって師弟関係は大事な要素でしょうか。

とても大事です。まず自身で、今そのときの自分にとってどのような能力、影響、文化などが必要なのかを冷静に考え、師事したい先生を決めるべきだと僕は思います。例えば一部簡単にまとめてみますと、僕のケースは…… 「fff（フォルティッシッシモ）」といった大きな音量を、自分の数倍重みのあるピアノという楽器でどう最大限に活かせるか、鳴らせるかということも知りたくロシアへ行き、はたまたホールの外から聴こえているのか？と錯覚を覚えるくらいの小さく繊細な「ppp（ピアノピアニッシモ）」を自分に叩き込むために、今度はポーランドへ行ってみよう、とか……。理由はさまざまですが、ふらっと行くよりは自分に足りないテクニックを逆算して決心したほうが絶対にいいと思います。僕は中学3年生から先生の門を叩かせていただきました。あと大切なのは、御縁とタイミングです。

──マンガは音のない世界で音楽を表現していました。アニメでは本物のピアニストによる演奏を使ったことで、作品に新しい魅力を与えたのではないかと感じます。実際に演奏を担った立場として、その影響・効果はどんなところに表れていたと感じますか。

キャラクターの出身国と同じ国のピアニストを起用するというアイデアは、とても感動しました。それによりアニメにも奥行きと新鮮さが生まれたと思います。ピアノを習っている、ピアニストを目指している方々にとっても勉強になりますし、ワールドワイドになり刺激があったかと思います。このメンバーで世界公演とかできないかな？

── 「ピアノの森」における音楽の描写・表現はリアリティのあるものでしょうか。

先程と重なってしまいますが、やっぱり奏者の心情がリアルでしたね。各々の個性、性格があると同時にたくさんの音楽性があります。これはもちろんピアノだけに限りませんが、歩んできた人生そのものが音と成るので、パン・ウェイやレフ・シマノフスキら、カイと修平以外のピアニストたちの描写にも感動しました。

── アニメ「ピアノの森」は、原作やアニメファンはもちろんのこと、普段はアニメを見ない年齢層・ジャンルの方々からも好評を得ているそうです。その理由はどこにあると思いますか。

クラシックを聴くきっかけとして、フィギュアスケートの影響はきっと大きいと思います。試合を観て「クラシックいいなあ、ちょっと聴いてみようかな」と思って、今回「ピアノの森」を観た方も少なくはないはずです。コミックスから入った方も多いかも知れませんね。そしてクラシックは聴くと落ち着きますからね！

──3月にはカイ、修平、パン・ウェイ、それぞれのピアノ演奏を収録したCDも発売され人気を博していますね。

「阿字野壮介 リサイタルCD」なんてものは残念ながらなく……、メインピアニストの髙木さんと牛牛さんが羨ましいです（笑）。彼らもとてもアニメのことを思いレコーディングに臨みましたし、素敵なCDになっているのは間違いないです。僕は彼らのCDを聴きながらマンガを読み直したりしています。音源ありでマンガを読むとまたこれが新鮮なんです！ ぜひオススメします！

「ピアノの森」が入り口となって、次世代の音楽家たちが出てきたら

──作品に関わったことで、改めて「ピアノの森」に対して感じたこと、気付いたことはありましたか。

まず、もっともっと世界的に広まるべきマンガ、アニメですし、このアニメは“聴くアニメ”でもあります。この放送を見て、それが入り口となって次世代の音楽家たちが出てきたらうれしいです。

── 本作品での経験を経て、今後どのような活動をしていきたいですか。

僕はさまざまなコンサートに行って聴くのが大好きなので、これからもいろんな方々が弾くコンサートに出掛けて行きたいです。それが自分にとって一番の刺激となりますし、音の引き出しが多くなるからです。カイのように柔軟でいて、いろいろな分野の勉強もしたいですね。見習います！

──本インタビューは、最終回直前の公開となります。最終回の見どころを教えてください。

カイとの約束が果たされ、阿字野先生のレッスンは終わってしまいましたが、まだまだ阿字野壮介は活躍します！ むしろこれからです！ 最終話は必見ですよ！

──最後に、 一ノ瀬海役の斉藤壮馬さんからの質問です。「自分の心が疲れたときや、無心でピアノに向かったときに、いつもこれを弾くな、というフレーズや曲はございますか？ 最高に素敵なピアノでした、ありがとうございました！」。

その時々に応じてふと頭の中から出てくるので、特に決まった曲やフレーズはないんですが、今だったらショパンのコンチェルトでしょうか。今、ちょうどTVアニメに没頭しているのでその影響ですね。