コミックナタリー Power Push - ニコ×ナタ(コミック)

ヤマカン「来た球はすべて打ち返す」「戦勇。」アニメ化に込めた思いを吐露

コミックナタリー読者に向けて、ニコニコ静画からピックアップした作品を紹介する「ニコ×ナタ(コミック版)」。今回は春原ロビンソン「戦勇。」のTVアニメ化を記念し、監督を務める山本寛にインタビューを敢行した。「戦勇。」の魅力とアニメ版に込めた秘めたる思いに迫る。

そのほか注目のイラストを紹介する「ニコニコイラストムーブメント」では、クリスマスにちなんだ作品をセレクト。またQ&Aコーナー「話題のマンガ家に5つの質問」には、単行本化も決定した「ポロロッコと小さな恋のはなし」のyumが登場する。

「戦勇。」とは

「戦勇。」

「戦勇。」は、春原ロビンソンがニコニコ静画で2010年8月27日から2011年6月17日まで連載していた、全31話のギャグファンタジー。新米勇者アルバと、ドSな王宮戦士ロスが魔王を討伐するべく旅に出る物語だ。現在、続編の「戦勇。第二章」が毎週金曜日更新(毎月第1金曜日休載)で配信されている。また同作はジャンプスクエア(集英社)でも連載中。

TVアニメ「戦勇。」放送スケジュール

2013年1月8日~
毎週火曜日 25:35~25:40 テレビ東京(ニコニコ動画でも毎週配信)
※1月8日の初回のみ、26:05~26:10に放送

山本寛インタビュー

山本寛(やまもとゆたか)/アニメーション監督・演出家

1974年生まれ、大阪府出身。京都大学文学部卒業。アニメ制作会社Ordet代表取締役社長。監督作品に「らき☆すた」「かんなぎ」「フラクタル」など。2010年には初の実写映画「私の優しくない先輩」を手がけた。現在はオリジナルアニメ「Wake Up,Girls!」を準備中。

どんな作品の依頼が来ても面白くできるという自信がある

山本寛

──今日はニコニコ静画で連載されている「戦勇。」のアニメ化についてお伺いします。

なんでも聞いてください。来た球はすべて打ち返しますから!

──ありがとうございます(笑)。では「戦勇。」の監督依頼を引き受けた経緯からお聞きできますか。

原作は存じ上げなかったんですが、久しぶりにギャグ作品のオファーをいただいたのでやってみようかと。

──ギャグ作品であることが決め手になった?

挑戦したいと思いましたね。ギャグって成功が難しいジャンルなんですよ。よく言われるのは、「人を泣かせるよりも人を笑わせるほうが何倍も難しい」。まず面白くさせること自体ハードルが高くて、そのうえ……下世話な話ですが、ギャグものはDVDをはじめとするアイテムが売れにくいんです。

山本寛

──でもそれを知りつつ、監督を引き受けた理由はなんでしょう。

ひとつのジャンルを絶やすことはしてはいけないっていうのが、僕の持論なんですね。ギャグアニメが絶滅しそうだというわけじゃないですが、手を出しづらいジャンルになっていることは事実です。そんな局面だからこそ、やるべきだと感じました。言い方は変ですけど、ある種の悲壮感みたいな、「それでも俺たちはやるんだ!」という覚悟を持って挑んでいます。

──山本監督が次に撮る作品が、この5分枠の脱力コメディだということを意外に思った人もいるかも知れません。ご自身でフィルモグラフィは意識していますか?

意識はしないようにしています。その辺の色気を出した「フラクタル」(2011年)がえらく叩かれたので(笑)。そういうことは庵野秀明さんや押井守さんのような大作家先生が考えればいいことで、僕らは日銭を稼ぐのに必死です。僕はどんなジャンルだろうが、いただいたオファーは必ず一旦受けることにしてるんですよ。最初に「来た球は全部打ち返す」と言いましたが、そこには職人気質というかプライドがあって、どんな作品が来ても面白くできるという自信を持っています。

──来た球は全部打ち返す、というのは山本監督の表現者としての姿勢なんですね。ネットでしばしば勃発するファンやクリエイターとの辛辣なやりとりも、それに当てはまる?

「なんで反応するんだ」とかよく言われるんですけど、そういう職分じゃないのかなと思うんですよね。黙ってものを作れってよく言うけど、黙ってものを作れるなんて僕には考えられない。もしそれをやってるとしたら手を抜いているとしか思えない。表現の「弁」ってそんな簡単には開け閉めできないものなんですよ。僕が色々と意見してしまうのは、表現する立場の人間としての職業病だと思っています。

原作ファンに認められなければ意味がない

──原作の魅力はどこに感じましたか?

「戦勇。」のメインキャラクター、ロス。

語弊を恐れずに言うと、適当でいい加減なところ(笑)。設定から何からいい加減で、お城の形もわざとくちゃくちゃっと描いてあったり。絶妙な緩さなんですよね。原作者の春原ロビンソンさん自身が緩い方で、「この設定はどうなってるんですか」と聞いても「うーん、考えてなかったです」とか仰ってるのが面白くて。

──では山本監督の自由にさせてもらっている?

逆に困るぐらい一任していただけてますね。もうちょっと縛ってもらってもいいぐらいです。でもその緩さがこの作品の持ち味なので。

──原作者と意見が対立してしまう現場も少なくないと思いますが、「戦勇。」は無さそうですね。

ただマンガ原作だとキャラの設定を決める時によくバトルというか、せめぎ合いが起きるんです。アニメにする以上はどうしても動かしやすい絵柄にしたいので、互いに意見をぶつける瞬間があるんです。これは「かんなぎ」(2008年)でもあったんですけど(笑)、今回もキャラだけは春原さんの厳しいリテイクが入りました。でも大きな対立もなく、スムーズにいきました。

──原作の魅力を活かしつつ、山本監督によってどんなアレンジが施されるのか、楽しみです。 

でも原作を預かっている以上、まずは原作ファンに認められることが大事だと思っています。どんなに新奇なことをして視聴者の度肝を抜いても、旧来のファンが納得しなくては意味がないんです。「戦勇。」のアニメは、原作ファンも「そうそう、これぞ『戦勇。』だ」と思ってもらえる作品にしたいですね。

僕はドSのふりをしたドMです

──「戦勇。」はギャグの面白さだけでなく、キャラクター単体の人気も確立された作品です。誰からもいじられるツッコミ役のアルバと、ドSなボケ役のロスという2人のやりとりは、女性人気も高いと伺っています。

山本寛

キャラ人気が作品の追い風になってくれれば嬉しいですね。でもだからといって、「アルバ×ロス」みたいな女性向けに特化した演出は意識的にやらないようにしています。これ見よがしなものをやると、お客さんって引いちゃうので。

──動かしていて楽しいキャラはどっちですか?

いじり甲斐があるという意味ではやっぱりアルバですね。ツッコミのパターンも色々工夫してますし、表情が崩れるシーンなんかも多いので。それにボケはツッコミが的確でないと成立しませんから、この作品の鍵となるのは間違いなくアルバなんです。アルバ次第、つまりお前次第だよ、ということをキャストの下野紘にも伝えてプレッシャーを与えておきました(笑)。

──キャストも大変魅力的ですが、どのように決まったのでしょう。

クライアントの方々を中心に広く意見を募って決めました。あ、でもルキ役の茅野愛衣さんは僕のリクエストですね。理由は単にお会いしたかっただけ(笑)。ただこれが思った以上に相性が良くて、非常に喜んでいます。可愛いんですよ。可愛すぎてちょっとイラッとする感じが、ルキらしく仕上がっていると思います。

「戦勇。」に登場するルキ。

──ルキもロスもアルバをいじり倒すSキャラですが、彼らがただのいじめっこに見えないような描き方は心がけていたりするのでしょうか。

これは彼らとアルバとの関係性が崩れなければオッケーなんです。アルバがツッコミに転化させればすべてネタになる。だからそこで手加減しちゃうと、つまらないんですよ。実はロスも優しいんだよ、みたいな一面は下手に入れず、とにかくアルバが飛んでくる球を打ち返し続けることが大事なんです。

──山本監督ご本人の資質としてはSとM、どちらですか。

真剣に答えますが、僕はドSのふりをしたドMです(笑)。世間のイメージ的には、出合った瞬間ガブッといくような猛獣キャラと思われがちなんですよね。ドSで俺様気質のシンプルな性格ならもっと可愛げがあるのかも知れませんが、実はそうではないので、逆によく邪推されたり、嫌われやすいのかもしれません(笑)。

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