コミックナタリー PowerPush - 月刊!スピリッツ
西村ツチカと真造圭伍の新鋭対談 時代を切り開く旬の月刊誌に注目
西村ツチカ、男性宣言
──というかこれ、この話をしてると性別が明らかになってしまいますが。
ツチカ そうですか。明かします、じゃあ。
──わ、ではこの記事が初出しということで。男性宣言(笑)。
ツチカ いままで黙ってました。黙ってましたけど、女だとも言ってませんし、勘違いするお前らが悪い、と(笑)。
真造 あはは、逆切れ(笑)。
──そもそもどうしてあの少女姿が出てきたんですか。
ツチカ 最初はコミックリュウ(徳間書店)に代原で2度載ったときに「なんか女って思われてるよ」って言われて。編集部内でも女って思った人がいたよ、みたいな。
──ちょっと性別が判然としない名前だからでしょうか。本名なのに。
真造 いい名前ですよ。
ツチカ それは母親のネーミングセンスに感謝ですね。それでちょっと面白くなって、同人誌用のエッセイマンガで自分のこと女で描いたんですよ。そっからですね。ちょっとネカマをすることの便利さもあったかもしれない。
真造 ネカマって何?
──ネット上で女として振る舞う男の人のこと。西村さんの場合マンガ上、だけど。
真造 ああ、なるほど。
ツチカ 読者っていうか世間を煙に巻いてるのが楽しかったっていう……最初は。すぐに罪の意識みたいのも出てきて、悩んできたのもあったので、小出しにしてたんですけど。
──小出しっていうのは?
ツチカ あの、ネットでは一人称を「私」にしておいて、紙媒体のインタビューとかでは「俺」って言ってるっていう。
真造 そんなことしてたんだ。いままで「女性なんですか?」って訊かれたら何て答えてきたんですか?
ツチカ それが訊かれなかったんですよ。ぜんぜん。
──装ってたというか、濁してきただけなんですね。
ツチカ はい、濁してきました(笑)。っていうかあの、ほんとは作家が男か女かは関係ないじゃないですか。マンガなんだから作品がすべてだろうと。でも誰々先生は女だからマジ天使、みたいなこと言ってる輩がいて、そういう人たちへの……。
真造 ああ、パンク精神ね。
ツチカ そんな感じです(笑)。
真造くんのマンガの登場人物、だいたい真造くんに似てる
──話がだいぶ別の方向に逸れてしまいましたが、西村さんが真造さんに会っての第一印象はいかがでしたか。
ツチカ マンガのイメージそのままやなと思いました。
真造 なんかそれ、よく言われます。
ツチカ 真造くんのマンガの主人公って、だいたい真造くんに似てるじゃないですか。「森山中」の清高くんも、「フンカ祭」なんか(ダブル主人公の)桜島も富山も似てます。
真造 いや、富山は似てないです。
ツチカ 似てるよ。なんか真造くんが言いそうなことを言ってるなーって。それは最初の方で言った「目指してる山が違う」ってことと関係してるんですけど。
──おお、どういうことですか。
ツチカ やっぱり真造くんは自分のマンガに出てきそう、ってところが僕と違うんじゃないかと思うんですよ。
真造 あ、じゃあツチカさんは、自分の思ったことをマンガにするってことは割とない感じですか。
ツチカ そうですね。僕はそういう感じやないですね。僕が出てくることもありますけど、出そうと思って出すだけなんで。コントロールできてないでにじみ出てしまう部分もあるかもしれないですけど。
真造 確かに僕の場合だと、どっちかというと自分の体験したことがマンガに出ちゃう感じ、自分の身近に起きたことを……そのままじゃないけど、その問題を扱ってる感じですね。だから、女主人公は苦手ですね。モノローグがちょっとね、書けない。
──西村さんは女主人公も描いてますもんね。今度の新連載の「さよーならみなさん」も主人公は女の子です。
ツチカ 描いてますね。僕の場合は割とこう、知り合いの女の人を観察したりとかで。
真造 だってツチカさんは「自分の思い」のマンガじゃないから……すいません、勝手な解釈を言って。「こういう人がいました」ってお話じゃないですか。自分はどうしても自分の考えたことをマンガに出しちゃうんで。
ツチカ 真造くんそうですよね。主人公以外の人も、どれもけっこう真造くんな感じする。真造ワールド。
──西村さんのマンガによく出てくる厄介な男子、あれは西村さんじゃないんですか?
ツチカ 厄介男子はだいたい僕です。自分の一部っていうか。それか空っぽの奴かどっちかですね。ぜんぜん何の意味もない奴。空っぽ野郎じゃない男の登場人物は「僕あるある」っていう感じです。
真造 ツチカさんあるある(笑)。でも、それもどっちかというと自分目線じゃないですよね。自分の一部を出すにしても、他人から見た自分を描いてる感じ。他人目線の自分。
ツチカ うん、そうですね。真造くんは自分目線……。
真造 自分目線で描いちゃってる感じ。ああ、じゃあそこが逆なのかもしれないですね。やっと良い話をすることができました。だからやっぱりマンガの種類がぜんぜん違ってて。
ツチカ だからすごいなんか真造くんのマンガは一貫性があるなと思って。どこ切っても真造くんの真造印っていうか……。それは本当にすごい。すごいですね。
月刊!スピリッツ12月号ラインナップ
- 西村ツチカ「さよーならみなさん」
- さぬいゆう原作・伊丹澄一作画「共学高校のゲンジツ」
- 松田奈緒子「重版出来!」
- 小原愼司「地球戦争」
- 伊藤悠「シュトヘル」
- モリタイシ「今日のあすかショー」
- 手原和憲「ミル」
- 野田宏「拝啓、旧人類様。」
- 中山豪「0482」
- 高嶋あがさ「トド彼」
- 石神しし「ほんとにほんとにほんとにほんとにライオン田!」
- 大瑛ユキオ「ケンガイ」
- 大ハシ正ヤ「月刊 大ハシ正ヤ」
- ムロ・ゾノフスキー「Rolly▼婚」
- 南門前クマヲ「ゾンビ営業 高橋」
- 荒井ママレ「おもいでだま」
- 高田サンコ「たべるダケ」
- タナカカナタ原作・ハナツカシオリ作画「ギリギリ魔法少女?法子」
- 高橋聖一「パスタでわかる世界消滅!」
- 中川いさみ「世界美女話ビジョバナ」
- 吉田聡「七月の骨」
- 原克玄「かばやし」
- ルノアール兄弟「さよなら、もっさん。」
- 荻野真「孔雀王ライジング」
- 竹本友二「8 はち」
- イラストギャラリー「非日常な彼女」039 トミイマサコ
- 坂口恭平「新経済概論[鼻糞と接吻] 」
- 付録:花沢健吾×浅野いにお 「アイアムアヒーロー」10巻別バージョンカバー
※▼はハート、吉田聡の吉の字は正式表記では俗字になります
西村ツチカ(にしむらつちか)
1984年神戸生まれ。2008年に「君の動き」が月刊COMICリュウ(徳間書店)の龍神賞にて銅龍賞を受賞、翌年「黒岩さん」が同誌に掲載されデビュー。2010年に刊行した短編集「西村ツチカ作品集 なかよし団の冒険」が第15回文化庁メディア芸術祭マンガ部門の新人賞を受賞した。2011年には第2作品集「かわいそうな真弓さん」を発表。月刊!スピリッツ2012年12月号にて初の本格連載「さよーならみなさん」を開始。
真造圭伍(しんぞうけいご)
1987年1月23日、石川県生まれ。週刊ビッグコミックスピリッツの「スピリッツ賞」に投稿ののち、大学3年時に「なんきん」でデビューした。その後月刊!スピリッツに「森山中教習所」を、週刊ビッグコミックスピリッツに「僕らのフンカ祭」を連載。短編をまとめた単行本「台風の日」も2012年に刊行。現在、新作鋭意準備中。