「〈物語〉シリーズ」を語るうえで、アニメソングシーンを席巻してきた主題歌たちも外せない要素だ。2016年にリリースされたCDアルバム「歌物語 -〈物語〉シリーズ主題歌集-」は、10万枚を超える売り上げを記録し、2019年には音楽を中心に据えたイベント「〈物語〉フェス ～10th Anniversary Story～」を開催した。ここではYOASOBI「UNDEAD」へと連なる、「〈物語〉シリーズ」の主題歌たちを作品ごとの解説とともに紹介する。

「化物語」

2009年放送のシリーズ第1作。各ヒロインの当番回にそのヒロインのキャラクターソングを使用するというシリーズの基礎がここでできあがった。ヒロインの心情をすくい上げた歌詞、ヒロインごとの多彩なサウンドで、楽曲が切り替わるごとに反響を呼んだ。音源を収録したCDはDVD / Blu-ray特典だったこともあり、それを求めて購入した人も少なくない。エンディングテーマ「君の知らない物語」は、カラオケランキングのアニメソングのジャンルで長年上位に入るなど、アニメソングのマスターピースと言っても過言ではない存在。第12話での映像、阿良々木暦の語り、楽曲が重なるエンディングへの入りは必見だ。

「偽物語」

第1話で使用される「二言目」は、「staple stable」に続く戦場ヶ原ひたぎのキャラクターソング2曲目。「staple stable」のアンサーソングとして楽曲中に同じモチーフが用いられている。「〈物語〉シリーズ」のキャラクターソングの多くで、作詞をmeg rock、作曲・編曲を神前暁（MONACA）が担当。「〈物語〉シリーズ」をよく知るクリエイターだからこそのこだわりが表れた例のひとつだ。また「偽物語」でエンディングテーマを務めたのはClariS。彼女たちは「憑物語」「終物語」にも参加し、長年シリーズを支えることになる。

「猫物語（黒）」

2012年の大晦日に22時から24時にかけてTOKYO MX、BS11、ニコニコ生放送で同時放送するという試みが行われた一作。オープニングテーマである羽川翼のキャラクターソング「perfect slumbers」は、物語にそっと寄り添うシリーズ初のバラード曲。そして、エンディングテーマである河野マリナ「消えるdaydream」がこの1年を締めくくった。

「〈物語〉シリーズ セカンドシーズン」

「〈物語〉シリーズ セカンドシーズン」では、「化物語」のヒロイン5人と忍野忍を掘り下げるストーリーを展開。総集編を含む31話に対し、DVD / Blu-ray化の際に追加されたものも含め11曲もの主題歌が作られている。すべてひらがなの歌詞にながら、ダークな曲調で衝撃を与えた千石撫子の楽曲「もうそう♡えくすぷれす」、同じメロディながら戦場ヶ原ひたぎと貝木泥舟のデュエットバージョン、ひたぎのソロバージョンで歌詞が異なる「木枯らしセンティメント」「fast love」など、シリーズを長年支えてきた作詞：meg rock、作曲・編曲：神前暁コンビの新たな一面が見える楽曲も登場した。また今作では、前述のコンビ以外に、ミト（クラムボン）が「white lies」でオープニング主題歌を初めて担当し、シリーズに新しい風を吹かせた。エンディングテーマは河野マリナと、シリーズ初参加となった春奈るなが担当。「snowdrop」では2人がデュエットを披露している。

「憑物語」

「猫物語（黒）」と同じように、2014年の大晦日に放送・配信された作品。斧乃木余接を中心としたストーリーが展開され、オープニングテーマ「オレンジミント」は彼女初のキャラクターソングとなった。ミト（クラムボン）作曲のテクノポップに、余接らしい淡々とした歌声が乗るキュートな一曲だ。

「終物語」

「終物語」では2015年、2017年と期間を分けて、阿良々木暦の高校卒業までが描かれた。今作では忍野扇、老倉育ら本格登場した新たなヒロインたちの楽曲が登場。老倉育の心の内を歌った「夕立方程式」や、忍野扇の正体を知ってから聴くと歌詞の意味に気づく「decent black」など、本編とのリンクが気持ちのいい楽曲たちが並ぶ。また「terminal terminal」では作曲・編曲をミト（クラムボン）と神前暁が共同で担当。八九寺真宵と阿良々木暦の幸せな再会が描かれる「まよいヘル」の本編を、ハッピーな楽曲が盛り上げる。

「暦物語」

2016年に公式アプリ「暦物語」内で配信するという、新たな試みが行われた作品。2018年にはテレビ放送もされた。2015年に結成されたTrySailが今作でシリーズに初参加。彼女たちらしい爽やかなナンバーで、TrySailは後に「続・終物語」でもエンディングテーマを任される。

「傷物語」

2016年・2017年に3部作として制作されたシリーズ初の劇場公開作品。「étoile et toi」はこれまでのシリーズから一変したダークな雰囲気の作風に、クレモンティーヌのしっとりとした歌声がマッチした楽曲に。同楽曲にアレンジを加えた「étoile et toi [édition le blanc]」では、壮大なオーケストラの演奏が加わっている。

「続・終物語」

これまで各作品のヒロインが歌唱してきたキャラクターソング。今作のオープニングには、待ち望まれていた主人公・阿良々木暦のキャラクターソングが使用された。暦役の神谷浩史の歌唱はないが、その声が加工されて楽曲に組み込まれている。さらにセリフパートが差し込まれるなど、これまでの「〈物語〉シリーズ」のキャラクターソングとは一線を画す内容になっている。また今作ではTrySailがエンディングテーマを担当。「明日 世界が終わるとしたら」という歌詞で始まる、爽やかでありながらどこか切ない楽曲が、物語の終わりにそっと寄り添う。

「傷物語-こよみヴァンプ-」

2024年1月に公開された「傷物語 -こよみヴァンプ-」は、3部作である「傷物語」を1本の映画として再編集した作品。「傷物語」から引き続きクレモンティーヌが歌唱を務めた「étoile et toi [édition le noir]」は、「傷物語〈Ⅲ冷血篇〉」エンディングテーマである「étoile et toi [édition le blanc]」をベースに、よりボーカルが立つように、再度アレンジが加えられた一曲だ。

「〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン」

日本のみならず世界で活躍するYOASOBIがエンディングテーマで、「〈物語〉シリーズ」に初参加。サウンド、歌詞に作品への愛とリスペクトが存分に感じられる一曲となっている。またオープニングテーマは、本作でもキャラクターソングを起用。meg rockのリリック、ミト（クラムボン）のサウンド共に、旧作へのオマージュを随所にちりばめつつも最新の音楽的アプローチで制作された。エピソードの主役である千石撫子、斧乃木余接による歌唱の掛け合いも相まって、新旧問わずファンが楽しめる楽曲となっている。