みかづきマーチ|「みかづきマーチ」山田はまち×「響け! ユーフォニアム」武田綾乃 対談|空気を震わす音の振動、スポーツ観戦のような会場の一体感…マーチングバンドの楽しさをもっとたくさんの人に届けたい!

ストーリーは王道少年マンガ、絵柄はジブリ

──続いて「みかづきマーチ」の絵について伺います。日常的なシーンとシリアスなシーンのタッチの差がとても印象的でした。

「みかづきマーチ」第5話より。

山田 ほのぼのしたシーンはゆるい絵で描きたいんですよ。ゆるくなりすぎて編集さんに指摘されることもありますけど(笑)。逆に迫力を出したいところは、劇画っぽくゴリゴリと線を入れています。その絵柄の差で雰囲気の違いを出せたらなと。

武田 線が暖かい感じが、秋田という舞台や主人公の性格、空気感とマッチしている印象を受けました。

山田 ありがとうございます、うれしいです。昔からジブリ作品がすごく好きで、あの暖かい感じをマンガでも出せたらいいなと思って描いています。

──山田さんはTwitterで「#私を構成する5つのマンガ」というテーマのツイートをされていましたよね。「はじめの一歩」や「H2」など少年向けマンガを多く挙げられていて、少し意外に感じました。

山田 少年マンガは王道なストーリー展開が好きなんですよ。マンガもいろいろ読んできましたが、絵柄はやっぱりジブリ作品の影響だと思います。あと「みかづきマーチ」の話に合わせて、こういった絵柄になっている部分もあるのかもしれません。

──音が出ない、マンガという媒体で音楽を扱うにあたって、気をつけている点はありますか?

山田 楽器を吹くときって空気がビリビリって振動するんです。私はそれが好きなので、そういう空気感を出したいと思っています。

武田 奏者は特に、空気の振動を感じるんですよね。

山田 あと、管楽器は音色が豊かじゃないですか。だから音に本来色はないけど、色味的なものをイメージとして描きたいと思って工夫しています。

「みかづきマーチ」第2話より。マーチングバンドの見学に来ていた美月が練習に参加。苦労の末、初めて鳴らしたトランペットの音色が虹のように描かれる。

──背景として描かれるのは山田さんの出身地である秋田県です。この舞台設定の理由は?

山田 秋田の町並みや海が好きで描きたかったのと、東北のマーチングが盛り上がるとうれしいという願望もあります。

武田 すでに海や山は、何度も描かれてますよね。

山田 はい。そういう田舎ののどかな風景を、それメインではなく話の中で自然に織り交ぜていきたいです。

──武田さんも「響け!ユーフォニアム」シリーズはご出身地の京都府が舞台ですが、その理由は。

武田 私は「出身地だし」くらいの軽い感じで決めました(笑)。でも生まれ育った街と言っても、10年経ったら変化はするんですよね。「そのままの街でいてほしい」と思うのは勝手なエゴなので、あくまで作品の中で記録として残していければいいかなと思いながら書きました。

──いわゆる聖地巡礼をするファンも多いですが、作者としてはうれしいものですか?

武田 それはもちろんうれしいですよ。あと京都で吹奏楽をされている学生さんも喜んでくださっているみたいで、イベントなどもしてくださってありがたいです。「みかづきマーチ」も、いずれそういった動きがありそうですよね。

山田 そんなふうになったらすごく素敵です。

──地方を舞台にするにあたって、方言をどれくらい出すかってどう調整されていますか? 「響け!ユーフォニアム」の原作は多くのキャラクターが関西弁ですよね。

武田 私は方言で走り出しちゃったから、それを貫くしかなかっただけで……。ただ方言でないと出せないニュアンスもあるので、そういう点では表現に大きく影響していますね。

──小説だと地の文は標準語ですから、会話だけなら方言が多くても読みやすいのかもしれませんね。

「みかづきマーチ」第4話より。メグミちゃんは入部したての美月に、気安く声をかけてくれる。

武田 それに小説は、セリフを誰がしゃべっているかがわかりにくいので、方言と標準語を使い分けると、それだけでキャラクターが識別できるんです。久美子が標準語なのもそれが理由です。

山田 「みかづきマーチ」は全編が方言だと少し読みづらいので、要所要所で出しているくらいです。そもそも秋田だと、最近の若い子はあまり方言を使わない人が多いので。

──そんな中でも、メグミちゃんのような方言が印象的な子もいて。

山田 たまにはそういうキャラクターがいてもいいかなと思って。あと普段標準語のキャラクターも、とっさに方言が出ると面白いかなとか、そういうバランスは気にしています。

主人公の美月にはできるだけ苦労してほしい

──「みかづきマーチ」の物語ではマーチングの楽しさだけでなく、美月が抱える孤独感や親からの抑圧も描かれていますが、やはり10代の読者に向けてのメッセージという側面もありますか?

山田 うーん……美月にはできるだけ苦労をしてほしくって。自分のアイデンティティについて悩まない子って、いないじゃないですか。その原因は友達との距離とか、いろいろありますけど、美月の場合はそれが自分の親だった。10代の子が読んだとき、「悩んでいるのは自分だけじゃないかもしれない」と共感してもらえる部分があればいいなと思っています。

──なるほど。

「みかづきマーチ」第7話より。父親に向かって、自分の心の内を吐露する美月。

山田 「響け!ユーフォニアム」シリーズも、キャラクターの内面がすごく描かれているじゃないですか。私自身それによって、10代の頃に悩みを抱えていたのが自分だけじゃなかった、理解者がいたと感じて救われました。

武田 ありがたいです。私は自分が悩んでいたことの記録として書いていました。

──「最終楽章」の久美子は、部内の話だけでなく自身の人間関係や進路など悩みが増えていますが、これも武田さんの経験からですか?

武田 私は進路に悩むことはなかったんですけどね。ただ表現が難しいんですけど、「響け!ユーフォニアム」は部活を絶対視することに対する揺れみたいなものを書きたかったんです。部活を熱心にやっていると、どうしてもそれを絶対的なものにしてしまう。でもそれは危険だから、部活もやるし人生の舵切りもちゃんとやるという2本の軸を、学生さんに読んでほしかったところはあります。

山田 部活をやっていると「部活がすべて」みたいになりがちですけど、やっぱりそこを広げてあげたいという気持ちはありますよね。

──それが「みかづきマーチ」の場合は美月の親からの独立、そしてアイデンティティ確立だと。その一方で、叔母をはじめとした30代のキャラクターを通じて大人の視線も描かれていて、そちらも響きました。

「みかづきマーチ」第2話より。

山田 私がもう大人なので、大人のキャラクターを通じて子供にかけてあげたい言葉を言わせているのかもしれませんね。

武田 「響け!ユーフォニアム」も、始まった頃と最後のほうで私の年齢が変わったので、キャラクターとの距離感が変わったんです。年齢が近くなったので、滝先生のほうに共感するようになりました。

──両作とも幅広い年齢層の人が楽しめそうです。

武田 「みかづきマーチ」だと、マーチングをやってる娘が机に置いていた本を、お母さんが手に取って読む……みたいなことがあると素敵ですよね。吹奏楽部やマーチングバンドをやっていると、親の応援って大切なんですよ。

山田 親が子供の衣装を縫ってあげたり……。

武田 そうそう。でも、子供が何を悩んでいるかまではわからない。それがこういうマンガを通じて理解が深まり、仲良くなったりしたらいいですね。

苦労からの成長が青春マンガの醍醐味

──まだまだ始まったばかりの「みかづきマーチ」。今後の注目ポイントを教えてください。

山田 まずは、これまでは「楽しければいい」と好きなマーチングをやっていた子たちがどう変わっていくか。あと美月だけでなくアキラというメインキャラクターがいるので、2人がどう成長していくかも見てほしいです。

「みかづきマーチ」第3話より。アキラには「世界一のチームでマーチングする」という夢がある。

──夢を追っているアキラだけでなく、練習を見に来てくれない顧問の管田先生、楽器が吹きたいだけでマーチングには興味がない新入生・カナデちゃんなど、かなり今後に期待できる要素が序盤から出てきますよね。

山田 カナデちゃんはけっこう苦労すると思います。

──とにかくキャラクターに苦労させたいんですね(笑)。

武田 でも青春マンガはそこが醍醐味ですから。みんな苦労しないと。

山田 そうですよね。私は「このイベントを起こしたらこの子はどうなるかな」というふうにキャラクターからリアクションをもらって描いているので、自分でも予想はつかないですが、いろんなイベントを与えてあげたいです。

──武田さんが今後読んでみたい展開はありますか?

武田 展開というか、私はとにかくマーチングシーンを見たいです。マーチングショーってすごく絵力があるから、本当に映えると思うんですよ。

──美月が大会でマーチングショーを披露するエピソードは、2巻の収録となります。連載ではもう読まれましたか?

武田 はい。もう、とにかく「ええ話や……」ってなりました。

山田 ありがとうございます!

──最後に、お互いに何か聞きたいことがありましたらこの機会に……と、山田さんがさっそく、武田さんの新刊「どうぞ愛をお叫びください」を手に取られていますが。

「どうぞ愛をお叫びください」(新潮社)の表紙。同作は男子高校生4人が、人気YouTuberを目指してゲーム実況を始める物語だ。

武田 この新刊の発売に合わせていろいろな方と対談させていただいていますが、山田さんのメモが一番多いですよ(笑)。まさかそんなに読み込んでいただけるとは。

山田 お恥ずかしい(笑)。実は私は、今までYouTuberに対してあまりいい印象を持っていなくて。そもそもあまりYouTubeを見ないので、どういう感覚で若者たちがYouTuberをやっているのか、わからなかったんです。でもこの本を読んで、この子たちがYouTubeを始めるような感覚って自分にもあったなと思わされました。

──というと?

山田 私はバンドを組んでいたんですけど、その頃はバンドを組むことって、大人にとっては理解され難いことだったです。「ただの遊び、なんにもならないじゃん」とか「勉強しろよ」とか言われて。でもやっている本人にとってはすごく熱くて純粋なものだった。そのバンドにあたるものが今はYouTuberなんだと、この作品の子たちを通じてわかったんです。なので、これからはYouTubeを見ようと思いました(笑)。

武田 すごくうれしいです。でも、見るものが増えて大変ですよ?(笑)

山田 それと1つ聞きたかったんですけど、ゲームはお好きなんでしょうか? 私は好きなんですけど、「どうぞ愛をお叫びください」でもNINTENDO64とか少し古いものを扱っていて、懐かしさと武田さんの愛を感じました。

武田 私もゲームは大好きで、「いつかゲームの本を出したい」という野望をずっと抱いているんですが、それが高じてここに辿り着きました。

──任天堂のゲームを扱うのは、やはり地元・京都の会社だからですか?

武田 それもありますけど、一番の理由は著作物に関するガイドラインがはっきりしていたことですね。ガイドラインがあやふやなものを小説に登場させると、いろいろとリスクもあるので。とはいえ、もちろん任天堂さんの作品は好きだし、近くに工場があったりしたので、思い入れは強いですよ。

──作品に直接関係ない話で恐縮ですが、脱線ついでにもう1つ伺わせてください。マーチングバンドにあまり縁がない人が、その楽しさを感じるのにおすすめの手段を教えていただけないでしょうか?

山田 今はYouTubeで、いろんな高校や一般のチームが自分たちのショーをアップしているので、それが一番気軽に触れやすいと思います。

武田 確かに。京都だと、私は取材させてもらったのもありますが京都橘高校さんのショーがシンプルに好きだし、京都すばる高校さんや洛南高校さんも好き。宇治はマーチングに力を入れているところが多いんですよ。小学校でも強いところがあったりして。

山田 秋田の学校も子供の数は減っていますが、みんながんばっていて、強豪校もあります。あと大曲中学校さんも毎年全国大会で金賞を取っていますね。

手前から山田はまち、武田綾乃。2人は取材終了後も、話に花を咲かせていた。

武田 海外でやっているローズ・パレードみたいな、学校とは関係ない枠組みのショーもいいかもしれません。あとブラスト!、吹奏楽をやってる人の間では有名なんですけど。

山田 海外のパフォーマンスチームですよね。

武田 はい、彼らの公演は誰が見ても素晴らしいと感じると思います。

──ありがとうございます。そういったものでマーチングバンドの迫力を感じつつ、今後も「みかづきマーチ」や「響け!ユーフォニアム」シリーズを楽しませていただきます!

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