「みかづきマーチ」対談 山田はまち×宇垣美里|一生懸命でまっすぐだった“あの頃”を思い出す青春マンガ 吹奏楽に打ち込んだ宇垣美里が著者・山田はまちと語る

山田はまちのマンガ「みかづきマーチ」は、都会で孤独感を抱えながら生きていた女子高生が、マーチングバンドと出会い、仲間とともに成長していく青春部活もの。漫画アクション(双葉社)にて連載中で、単行本4巻が発売されたばかりだ。

コミックナタリーでは4巻の発売に合わせ、著者の山田と、4巻の帯コメントを担当した宇垣美里の対談を実施。学生時代、吹奏楽部でサックスを吹いていたという宇垣は、「みかづきマーチ」のどんな部分に惹かれたのか。ともに音楽経験者である2人のトークは、「サックス奏者は頑固」「一番覚えているのは大会前日の演奏」といった“あるある”の部分でも盛り上がった。

取材・文 / 鈴木俊介 撮影 / ヨシダヤスシ

“この時間は永遠じゃない たった8分間、たった3年間 でもこの熱は輝きは高まりは いくつになっても忘れやしない”(宇垣美里の帯コメントより)
作品紹介
第1話より、美月がマーチングバンドと出会うシーン。

勉強漬けの日々で毎日が退屈だった高校1年生の美月は、春休みに家出をし、秋田で喫茶店を営む叔母・ユキを訪ねる。
口うるさい母親も勉強もない日々は最高なはずだったのに、やはりどこか退屈で──。
そんなある日、叔母の配達に付きそい地元の高校へ。
そこで美月は、音楽と動く隊列で作られるマーチングバンドに汗を流すアキラたちと出会う──。

キャラ紹介
姫川美月
姫川美月

高校2年生。マーチングバンドに魅了され、東京から秋田・千秋高校に転校する。トランペットはまだまだ初心者。

星野アキラ
星野アキラ

千秋高校マーチングバンド部の2年生。トランペットの腕前はなかなか。

湊カナデ
湊カナデ

1年生。中学時代に地区大会ソロコン金賞にも輝いたサックスの実力者。

言葉にできない気持ちも、音楽になら乗せられる

──宇垣さんは週刊文春(文藝春秋)連載のコラム「宇垣総裁のマンガ党宣言」の中で「みかづきマーチ」を紹介されていらっしゃいましたよね。「みかづきマーチ」を読まれて、どんな部分に惹かれましたか。

左から山田はまち、宇垣美里。

宇垣美里 学生の頃、自分が吹奏楽部だったということもあって、「こんなことあった!」と共感できる部分がたくさんあって、懐かしい気持ちになりました。忘れていた感情を思い出させてくれたと言うか、「あんなに一生懸命でまっすぐだった頃のこと、なんで忘れてしまっていたんだろう」って思います。大人になった今はたくさん世界が広がって、それはそれで幸せなことですけど、部活をがんばっていた頃の視野の狭さというか、「ここがすべて」と思って打ち込んでいたときの気持ちって、かけがえのないものだったなって。

──「みかづきマーチ」はマーチングを題材にした青春部活ものですが、こうしたジャンルはお好きですか?

宇垣 好きなんですが、私は運動部ではなかったので、スポーツ的な部活ものだとフィクションとしてしか享受できない部分があって。チーム戦とか、ライバルとの関係とか、「こういう感じなんだ」って想像するしかないんですよね。だけど「みかづきマーチ」はその中に自分がいたような気持ちになれるので、より一層響くものがありました。

──そもそも「みかづきマーチ」を手に取られたきっかけは?

宇垣 私、電子書籍で新刊を片っ端からチェックしているんです(笑)。「みかづきマーチ」は表紙が楽器を持っているイラストだったので目に留まって、読みはじめたら一気にハマってしまいました。物語はもちろんですが、絵の力もすごいですよね。温かい筆致なんだけど勢いがあって、湿度が感じられる。特に演奏シーンは音が聞こえてくるような感じがして、汗のしぶきまでもが届いてくるように思いました。

「みかづきマーチ」1巻

山田はまち ありがとうございます(笑)。吹奏楽を経験されている方に、読んで共感してもらえたというのがうれしいです。宇垣さんがコラムの中で、「中学生の頃、私に楽器があってよかった、と何度思ったことか」「演奏で感情が吐き出せるから、私は狂わずにいられた」と書かれていましたが、自分もそうだったなって。家のこととか、進路のこととか、友達のこととか、いろいろと悩みが多い時期ですけど、楽器を吹いているときだけはそのことに集中できる。それが、自分が音楽に夢中になった1つの理由でもあるので。音楽に救われる人って、何気なくやっていてもどこかで救われているんでしょうね。自分だけじゃないんだなと思って、印象に残っています。

宇垣 うれしいです。私は感情の起伏が割と激しいというか、情緒の豊かなタイプだったので、思ったことを全部言葉にするのは難しくて。だけど小さい頃からピアノを習っていたので、言葉にはしづらくて、したとしても「何を言ってるの」と言われてしまうようなことでも、音楽にだったら乗せられた。ラフマニノフの曲にならこの気持ちを乗せられる、ショパンならいける……なんて思っていました。そういう延長線上ではあったのですが、特に吹奏楽は息も入れるから、より気持ちとかエネルギーとかをそのまま込めやすくって。悔しいとかしんどいとか、つらいとかって、言葉にすると陳腐だけれど、曲に乗せるとそれが表現になるし、いいと言われたりするんですよね。

山田 それこそ一緒に演奏している友達にだって、「いつもありがとう」とか「大好きだよ」とか、照れくさくて言えないけれど、でも演奏している最中に心が通じ合う瞬間があって、お互い同じ気持ちでいるんだなって思えたりする。そういう言葉を超えた感情のやり取りが、音楽だとできるような気がしますね。

サックスを吹いている人は、ちょっと頑固

──宇垣さんはサックスを吹かれていたということで、今日は自前の楽器をお持ちいただいての撮影もさせていただきましたが、サックスとの出会いをお聞きしてもいいですか。

宇垣美里。サックスは私物を持参してくれた。
宇垣美里。サックスは私物を持参してくれた。

宇垣 幼稚園に入るときに習い事でピアノを始めて、小学生になってもずっと好きで続けていたので、一番得意な科目は音楽だったんです。だから中学生になって部活を選ぶときにも、悩むことなく吹奏楽部に入って。そのときに「サックスがカッコいい!」と思ったんですよね。

──カッコいいというのはどんな部分が?

宇垣 形もですし、もちろん音も。それにメロディラインも多いし、ソロだってあるし。私の通っていた学校は、顧問の先生が向いている楽器を見極めてパート分けを決めることになっていたんですが、私は絶対にサックスがいいと思って、サックス以外の楽器は音を出さないようにして(笑)。もちろん先生にはバレていましたけど、「主役と脇役と監督なら何がいい」って聞かれて、「一番目立つ悪役がいい」と言ったら、サックスになりました。

──サックスは悪役なんですか。

宇垣 トランペットが主役なんですよ。サックスは……ちょっとひねくれてて。

山田 わかります(笑)。王道な主役がトランペットだとしたら、ちょっと脇役な主役がサックスなんですよね。まっすぐなだけの性格ではないと言うか。

宇垣 音だってそうですもんね。全部が全部メロディラインというわけではなくて、裏を担当したりもしますし。そういうのも含めて、好きだったんです。性格的にも合っていたんだと思います。

山田 楽器に合う性格ってありますよね。

宇垣 「ぽい!」ってなりますよね(笑)。

──キャラクターを考えるときにも、そういう部分からイメージを膨らませたりするんでしょうか。例えば「みかづきマーチ」には、テナーサックス担当のカナデというキャラクターがいますよね。

2巻より、湊カナデ。

山田 カナデは生まれたと同時に担当楽器も自然と決まったようなキャラクターですね。サックスを吹いている人って、一本芯が通っているというか、言い方を変えるとちょっと頑固みたいな……。

宇垣 頑固ですね。

山田 (笑)。そういうイメージが自分の中にあったので、カナデも、あんまり人に媚びたりするような性格ではないから「この子サックスなんだろうな」って自然と思ったんです。逆に、主人公の美月に関しては、引っ込み思案なので本来トランペット向きの性格ではないかもしれないんですけど、だけど彼女が成長していくには、真逆のところにあるトランペットと組み合わせるのがいいんじゃないかなと思って考えたところがあります。

宇垣 トランペットは素直な子が担当している印象があります。美月は泥臭く、恥もてらいもなくがんばれるところが、すごくトランペットって感じがします。