ナタリー PowerPush - マンけん。

漫研×熱血、作者はヘタレ?期待のルーキーに編集長が喝

しかられるとすぐお腹痛くなっちゃうんです

──編集長が出てきて、ちょっとヤバいんじゃないかとか思いました?

加瀬と小室編集長の打ち合わせ風景。

加瀬 その前に担当だった人から、ものすごい怖い人だってさんざん聞かされていたので、実際お会いしたときは、そこまで怖くはないんで安心しました。めちゃくちゃ怒られるんだと思って行きましたもん、ロイヤルホストに。

小室 私も前任の担当から、割と頑なで自分のネームを曲げないって聞いてたのね。でもネーム見て「ここはこうしたほうがいいよ」「ここはおかしいよ」って言ったら、全部すんなり直してきたんで、あれ? って。

──ヒラの人が担当だったときは意見を曲げなかったのに。

小室 そう。それで思ったのが「ひょっとしたらこの子、権威に弱い?」

加瀬 正解です(笑)。

小室 「長」って付く人のアドバイスなら受け入れるのね? って(笑)。

加瀬 やっぱりちょっと、強く言っちゃっていたところがあったかもしれません、前の担当の方には。スイマセン!(笑)

──具体的にはどこを直すように指摘なさったんですか。

小室 ひとつには、手が慣れちゃってるせいで、女の子の胸をみんな巨乳にしちゃうので「なんでこんな盛っちゃうの?」と。

加瀬 エロ時代はさんざん「巨乳描け」って育てられてきたので。俯瞰のアングルはぜんぶ谷間を描いてしまう。

大人なのに、すぐにお腹が痛くなるという加瀬。小室編集長から愛あるお説教をいただき、目を覆い机に突っ伏してしまった。

小室 高校の部活でこれはないなと思って。あとは「あなたが描きたいものが必ずしも読者の読みたいものじゃないのよ」と。商業誌はエンターテインメントでお金を頂戴するものなんだから、お金を払ったぶん満足してもらわないと、っていう話をえんえん2時間くらいして。そしたら「お腹が痛い」って言い出すから。

加瀬 そうでしたっけ(笑)。もう覚えてないです。すぐお腹痛くなっちゃうんですよ。だから褒めてくださいって……。

闘志を秘めた人に読んでほしい

小室 あとは印象的なシーンではキャラに叫ばせて大ゴマ、というワンパターンに陥っていたので、手癖に頼りすぎだからそこをどう崩していくかっていう。何なら禁じ手にして、真剣に考えてもらわなきゃいけない。

加瀬 でも最近は、減ってきてますよね?

小室 うん、もうちょっと、がんばりましょう。あと敵をはじめっから敵として描いちゃうとアイコンになってしまうというか、それだと絵柄でネタバレになってしまうので、たとえば悪い人でも善良そうに見せておいてから豹変させるとか。絵が上手いぶん、描きたい絵が記号化しちゃうんですね。

──加瀬さんは打ち合わせ中に受けたそういう指摘は、素直に聞き入れて。

加瀬 そうですね。受け入れるのが大事です。

小室 でも最近は指摘されたとおり直すだけじゃなくて、「こうしたい」「ああしたい」ってどんどんアイデアを出してくるようになったよね。たまに暴走するけど、意欲的なのは……。

加瀬 とてもよいことです。

小室 自分で言った(笑)。まあそういう意欲をかきたてるためにも、今年もまんが甲子園(全国から高校の漫研が高知に集い、マンガの腕を競う年に1度のコンテスト)に連れて行こうかと思ってるんですけど。

──あ、やっぱり漫研の話ですから取材に行かれるんですね。

小室 直接的な取材じゃないんですけど、高校生の授賞式とか、発表されて「キャー」ってなったり泣いちゃう女の子とかいるので、そういうのを見て若い人からエネルギーをもらうのはいいだろうと。

加瀬 マンガ関係で泣くとか……すごいなあと、見習わなきゃなという気持ちになりましたね。

小室 初心に戻るみたいなところもあるでしょうし。

加瀬 自分にそんな熱い初心はなかったですけどね。

小室 ないの? そんなヘタレアピールしなくてもいいのよ?

加瀬 逃げて生きていたんで……。でもいま高校のダメ漫研にいて、ほんとは何とかしたいとかまんが甲子園目指したいんだとか、そういう闘志を秘めた人もいると思うんで、そういう人が「マンけん。」を読んでくれたらうれしいと思います。

ヘタレキャラを見せつつも、熱く目標を語る加瀬。温かい眼差しを向ける小室編集長。

マンけん。(2)2012年4月19日発売 560円(税込)/小学館 サンデーGXコミックス ISBN:978-4-09-157306-3

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全てが完璧美少女の倖。実はマンガ大好きで雑誌の新人賞も受賞!……したものの 、伸び悩む倖が同級生のアリスに誘い込まれた高校の漫研は、変人揃いの魔窟で……!! ほとばしる情熱の、マンガ青春グラフィティ!!

加瀬大輝(かせだいき)

1985年5月15日生まれ。千葉県出身。2007年に竹書房の新人賞で奨励賞を受賞し、同年に成年誌・快楽天ビースト(ワニマガジン社)にてデビューを飾る。2010年に初単行本「むにゅっ娘ハイスクール」を刊行。2011年、月刊サンデーGX(小学館)にて「マンけん。」をスタートし現在も連載中。