「LINEマンガ インディーズ」が着実に成長している理由って?注目作のレビューも (2/3)

小室稔樹氏インタビュー

人の目を介さずに作品を発表できる場がもっとあるべき

──アマチュア作家向けのマンガ投稿サービス「LINEマンガ インディーズ」は、そもそもどういう経緯で始まったものなんでしょうか。

入社した時点ですでに「LINEマンガ インディーズ」はあったので、僕自身は立ち上げには関わっていないんですけども……LINEマンガ自体は電子書店として出版社さんの持っているプロの作品を販売するところから始まっていて、その事業がどんどん成長していった中で、LINEマンガオリジナルの作品も展開するようになりました。「LINEマンガ インディーズ」も「作品を提供いただく作家さんの裾野を広げていこう」という考えから始まった、というふうに聞いています。

小室稔樹

小室稔樹

──ということは、小室さん自身がやりたくて始めたものというわけではないんですね。

でも僕自身も、クリエイターさんが自分の作品を発表する場というのはもっと広くあるべきだなとLINEマンガに入る前から常々思っていたんです。僕は音楽大学出身なんですけど、音楽の世界でも当時はなかなか作品を世に出せる場がありませんでした。CD1枚出すにも何人もの大人の承認が必要で、「なんでこんなに多くの人の目が入る必要があるんだろう?」という疑問を持っていたんです。それはマンガ業界も同じで、例えば雑誌だったらページ数という制約があるので、何か作品を1つ出そうと思ったら何か1つを下げなければいけない。だから当然いろんな人の目が入ってくるわけです。インターネットの世界ではそういう形ではなく、もっとクリエイターが自由に作品を世に出せる場を作りたいという思いはずっと持っていましたね。

──そういう意味では、インターネットの発達がクリエイターのあり方を大きく変えましたよね。

そうですね。人の目を介さずとも発表できる場が増えましたし、マンガだったらページ数の制約もそこまで大きくなくなったのは大きいと思います。あとは居住地も関係なくなりましたよね。例えば以前までだったらそうそう出会えなかったような沖縄在住の才能ある作家さんと仕事をするようなことも容易にできるようになりましたし、もちろん北海道でも東京でも関係ないっていう。

──そういったもろもろをひっくるめて、小室さんのやりたかったこととLINEマンガのやっていたことがちょうど合致していたと。

はい。入社前から「LINEマンガ インディーズ」の存在も外部から見てはいたんですけど、当時はあまり大々的には展開していなくて。そこに自分が入って、もっといろいろやってみたいなと思ったのが入社のきっかけです。

重要なのはプラットフォームとのマッチング

──これまで「LINEマンガ インディーズ」を運営してきた中で、特に印象に残っている出来事はなんですか?

やはり、2019年にトライアル連載を始めたことですね。

──「LINEマンガ インディーズ」に投稿された作品の中から編集担当が可能性を感じた作家さんをピックアップして、12週間のお試し連載をするというものですね。その評判がよければ本連載に昇格できるという。

それまでも「LINEマンガ インディーズ」にはいろんな才能を持った作家さんがいたんですけど、僕らのほうでうまく連載まで引き上げきれていないように感じていました。なので、制度としてそのための仕組みを作ってしまおうと。基本的には編集の誰か1人でも推せば、いわゆる編集会議みたいなものを通さずにトライアル連載を始められる決まりになっています。

──それはまさに小室さんがやりたかったことですよね。

そうですね。なのでやはり初期の作家さんはいろいろと思い出深いです。幸運なことに、トライアル連載という制度をスタートさせた初年度から成功例と言えるものが生まれまして……例えば「困ったじいさん」というギャグマンガがあるんですが、これはトライアルから順調に本連載へ行って、トントン拍子にアニメ化もされました。それと、先日アニメ化が発表された「先輩はおとこのこ」も印象深い作品の1つです。これに関してはグローバル配信や書籍化もされていて、いわゆるWeb発のマンガに期待できるすべての展開を実現できている作品なんじゃないかと思いますね。

──「先輩はおとこのこ」で実現できていない展開はもう何もない感じですか?

しいて言うならゲーム化と、実写ドラマ化ですかね。あとは、最近だと「コミュ障、異世界へ行く」という作品も印象深いです。トライアル連載中にすごくバズった作品で……これまでは、トライアル中は僕らのほうであまり露出を強化しない方針でやってきたんですけど(※)、この作品の場合は社内から「外部の反応がよすぎるんで、さすがに露出しませんか?」という声が上がってきまして。

※編集注:本連載時に露出の強化をすることを前提に、トライアル連載時はほかのトライアル連載作品と露出面での差を出さず、最低限の露出でどれだけ読者に読んでもらえるかを指標としていた。

「コミュ障、異世界へ行く」の担当編集者・小林俊一氏のツイート

──やらずにはいられなかったと。

そうなんです。結果、順調に本連載にも昇格して、今すごく人気の作品になっていますね。

──トライアル連載中も、原稿料は支払われるんですよね。

もちろんです。作家さんと運営側、両者にとってのトライアルということですね。作品が面白いか面白くないかというよりも、重要なのはプラットフォームとのマッチングだなと痛感していまして。面白い作品であっても、LINEマンガの読者さんにはマッチしないものというのもあり得るわけです。うちの読者にフィットするかどうかというのは12週間あればだいたいわかるので、その期間きっちり原稿料をお支払いしながらお互いに試してみる、という考え方ですね。仮に本連載に昇格できなかった場合はその作品の独占掲載権なども作家さんにお返ししているので、また別の媒体でマッチングを試していただけるようになっています。

小室稔樹

小室稔樹

──作家の立場で考えると、「自分の作品を面白いと思ってくれる人が編集部にたまたま1人だけいた」がチャンスにつながっているわけですよね。「その1人がちゃんと自分の作品を見つけてくれるかどうか」が重要になってくると思うんですが、見逃してしまう恐れはないんでしょうか。

そこに関しては、「LINEマンガ インディーズ」の作品に関わる全スタッフがすべての投稿作品を見ています。マンガ編集ってけっこう個人プレーのイメージがあるかもしれませんが、「LINEマンガ インディーズ」のチームは毎日朝会をやっていて、しっかりとコミュニケーションを取りながら連携してやっています。逆に、複数のスタッフが同じ作家さんにお声がけするようなバッティングが起きないように、リスト化して共有したりもしていますね。