子供たちにもっとマンガ家を目指してほしい(髙橋)
──現状のLINEマンガあるいは電子コミック業界に足りていないもの、課題に感じていることは何かありますか?
髙橋 今って、なかなか子供たちの将来の夢に「マンガ家」が挙がってこなくなっていますよね。「YouTuber」とかが上位に入ってくる時代なんですけど、僕はもっとみんなにマンガ家を目指してほしいんですよ。
──それに関しては完全に同意です。
金 ははは(笑)。
髙橋 そのためにも、我々のようなプラットフォームがマンガ業界をもっともっと活性化させていく必要がある。具体的には、グローバル展開ですね。ページの開き方や文字の縦書き/横書きという物理的な側面から、これまで日本のヨコ読みマンガはフォーマットとしてなかなかグローバルには浸透しなかったというのが実情なんですが、ここに来てwebtoonというグローバルなフォーマットが生まれ、この形であれば海外でも何億人という規模感で読まれることがわかった。もしそこに、日本がこれまで培ってきたマンガ文化の強みをうまく生かす方法さえ確立できれば、もっと多くの日本のマンガをグローバルに提示する道がいよいよ開けるわけです。その道ができつつあるんじゃないかと思っているんですよ。
金 私はデバイスの側面からお話ししたいと思います。私たちが今スマートフォンを日常的に持ち歩き、あらゆることをこのデバイスを通じて行っている状況というのは、20年前にはまったく想像もできなかったことですよね。それと同じように、10年後に私たちがどんなデバイスを使っているのかは予想がつきません。もしかしたら、街中のみんながVRゴーグルのようなものを着けて歩いているかもしれない(笑)。今のwebtoonはスマートフォンデバイスに最も適したフォーマットのマンガコンテンツだと考えられていますが、今後時代が変わってスタンダードなデバイスも変わっていけば、webtoonもそれに合わせて変化を遂げていくでしょう。私たちはその変化に対応できるよう、十分に備えることが必要です。また次に訪れるマーケットにおいても業界をリードできる存在でありたい、そう思っています。
──電子コミックが形を変えていくというのは十分にあり得るお話だとは思うんですが、そうなるとLINEマンガのようなプラットフォーム以上に、作家さんの対応が難しそうだなと感じます。
金 コンテンツに最適なフォーマットというものは作家さんとプラットフォームが一緒になって作り出していくものだと私は考えています。webtoonの作家さん、特に韓国で有名な作家さんの多くは若い世代で、彼らの中には子供の頃にマンガ家を夢見ていなかった人も多いんです。紙とペンを使ってマンガを描いたことのない人もたくさんいます。重要なのは「タテだろうとヨコだろうと面白いものは面白い」ということ。それに尽きます。
──なるほど。作家にとってはむしろ選択肢が増えるというお話になるわけですね。
髙橋 そう思います。たぶん作家さんは「紙にペンで描きたい」「デジタルで描きたい」ということよりも「面白いマンガを描きたい」という気持ちが中心にあるんだと思いますので。それをどうユーザーに楽しく、正しく伝えるかという部分で、今であればたまたまスマートフォンが最適なツールになっているという話なんだと思います。しかも、新しい表現方法が出てきたからといって古いものが淘汰されるかというとそんなことはなくて、例えば書店ではもう手に入らないような昔の作品がデジタルで普通に売れ続けていたりもするんですよね。それも当時読んでいた方だけではなく、若い人も読んでいる。だからこれからの時代は、新しいものと古いものが共存している状態が当たり前になっていくのかなと。
──LINEマンガとしては、今後まったく新しいスタイルのマンガ表現が生まれたとしても、それを否定することなく取り入れて、既存のものと共存させていきたい考えなんですね。
髙橋 そうです。まさにwebtoonが登場したときにLINEマンガが日本でいち早くそれを取り入れましたが、それとまったく同じスタンスを今後も取っていくということです。
コンビニに置かれるグッズが作れるほどの作品を生み出したい(金)
──おふたりが今後叶えたい夢のお話もぜひ聞かせてください。
髙橋 例えば、ディズニーランドへ遊びに行く日ってすごくワクワクしますよね。帰りも、みんなニコニコして家路につくことができるじゃないですか。そういう体験を、マンガはもっともっと与えられると思うんです。「それを実現するために我々ができることはなんなのか」ということを常に考えながら、日々追求していきたいですね。今よりももっとユーザーにワクワクを届けたいなと思っています。
──LINEマンガをマンガ界のディズニーランドにしたい?
髙橋 「ディズニーランドにしたい」という言い方はアレですけど(笑)、エンタテインメントカンパニーとしてそういう体験を提供できる存在であり続けなければいけない、そういう気持ちを持ち続けていなければいけないと思います。
──ありがとうございます。金さんはいかがでしょう。
金 「ONE PIECE」(集英社)の新刊が発売されると、コンビニのレジ前に積んで置かれますよね。私はそれがすごくうらやましいです。
髙橋 (笑)。補足しますと、日本人だったらコンビニでマンガの単行本が売られていることに誰も違和感を覚えないじゃないですか。それが信培(シンベ)さんからすると、「なんでこんなとこにマンガが売られてるんだ!」という驚きでしかなかったそうなんです。
──確かに、本来は書店で売られるべき商品ですもんね。
金 「東京卍リベンジャーズ」(講談社)や「SPY×FAMILY」(集英社)、「名探偵コナン」(小学館)といったヒット作であれば、関連グッズなどもコンビニで売られています。それらと同じように、LINEマンガのオリジナル作品もコンビニにグッズが置かれるようになり、しかもそれがよく売れるという状況になるのが私の夢です。
──それは、単に「コンビニチェーンとコラボをしたい」という意味ではないですよね?
金 もちろんコラボレーション展開も考えられますが、ただコラボ商品を作ることが目的ではないです。本当に国民的に愛される作品でなければ、結局そういった商品も売れませんので。当たり前のように関連グッズが店頭に並び、それが売られていることに誰も疑問を持たないくらいの作品を作りたいです。
──そんなおふたりの夢を叶えるために、この共同代表という体制はどのように威力を発揮していくのでしょうか。
髙橋 僕ら2人はベースのところはけっこう似ているところがあるんですが、歩んできた道のりが違います。韓国で出版文化が一度崩壊したところからwebtoonをグローバルスタンダードに押し上げてきたのが信培(シンベ)さんで、出版社ありきの社会で戦い続けてきたのが僕で。同じマンガ業界を生きてきた2人ではありつつ、見てきたものや経験してきたことがけっこう違うわけです。その2つの道が1つになって、次の新しい10年が始まるタイミングが今だと思いますので、まさに今ここから、その2つの道のりを知っていることが生きてくると考えています。どちらか一方だけでは足りない、うまくいかないだろうと思いますね。
金 髙橋さんは長く経験を積んでいて、日本の市場に対する専門性に長けています。かたや、私のほうはクリエイティブな発想とグローバル戦略に自信を持っています。この2つがミックスされることによって、安定的に新しい事業を始めることができ、展開していくことができます。日本においての最適な解決法を一緒に作り出すということにおいて、バランスがとてもいいと思いますね。
髙橋 完全なる相乗効果しか得られていないですね。今、すごくいいバランスで物事が決められていっている実感があります。
──コミックナタリー読者にわかりやすく例えるなら、藤子不二雄みたいなものと思えばいいですか?
髙橋 ははは(笑)。でもそうかもしれないですね。藤子先生とか、ゆでたまご先生のような感じだと思います(笑)。
プロフィール
金信培(キムシンべ)
大学を卒業後、LINE Plus株式会社に入社。2017年にNAVER WEBTOONに入社後、韓国内の事業戦略だけでなく、日本を含めたグローバル市場の事業開発を行う。2021年にLINE Digital Frontier株式会社の取締役に就任。2022年7月には、LINE Digital Frontier株式会社の代表取締役CEOに就任。
髙橋将峰(タカハシマサミネ)
2006年、ヤフー株式会社に入社。その後オセニック株式会社代表取締役などを経て、株式会社イーブックイニシアティブジャパン代表取締役社長に就任。2022年7月からLINE Digital Frontier株式会社代表取締役を兼任する。
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