LINEマンガ10周年特集 第3回 共同代表インタビュー これまでの10年間と、これからの電子コミック界への期待を語る

4月でサービス開始から10周年を迎えたLINEマンガ。コミックナタリーでは、これを記念した特集を多数展開している。第3回は、2022年7月にLINEマンガの共同代表に就任した金信培(キムシンベ)氏と髙橋将峰氏の対談を実施。LINEマンガが4000万ダウンロードという、国内マンガアプリの累計ダウンロード数においてNo.1の人気電子コミックサービスに成長したその要因はなんだったのか。そこにwebtoonが与えた影響は? 大のマンガ好きな2人が、これまでの10年間の振り返りと、これからの電子コミック界への期待を語る。10周年を盛大にお祝いしたキュートな写真にもご注目。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / ヨシダヤスシ

マンガ好きにとってこんなに幸せな仕事があっていいのか(髙橋)

──まずはLINEマンガ10周年、おめでとうございます。

金信培髙橋将峰 ありがとうございます!

──今日はLINEマンガのこれまでとこれからについて伺うんですが、本題に入る前に、おふたりのマンガに対する個人的な思い入れをお話しいただけたらと思っているんですが……。

髙橋 なるほど。私はもちろんマンガをずっと読んで育ってきましたので、今それを仕事にできているということがすごくうれしいです。「こんなに幸せな仕事があっていいのか」と思っていますね。

 ははは(笑)。

髙橋 そもそもは、小学生の頃に週刊少年ジャンプ(集英社)を読み始めまして……当時は「キャプテン翼」が非常に流行っていて、影響されてサッカー部に入るくらい大好きでした。まあ翼くんにはなれませんでしたけど(笑)、その後もジャンプのみならず、週刊少年マガジン(講談社)や週刊少年サンデー(小学館)、週刊ヤングジャンプ(集英社)、ヤングマガジン(講談社)、週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)といった週刊マンガ誌を学生時代は常に読んでいましたね。もちろん単行本もたくさん買いましたし、それらの雑誌で当時連載されていた作品はほぼすべて読んでいたと思います。

 私も小学生時代から、日本のマンガやアニメが大好きでした。マンガでは「DRAGON BALL」(集英社)「SLAM DUNK」(集英社)「らんま1/2」(小学館)、アニメでは「機動戦士ガンダム」「超時空要塞マクロス」などが特に好きで、その後「新世紀エヴァンゲリオン」のブームもあって日本のカルチャー全般のファンになりました。「将太の寿司」(講談社)の影響で寿司が大好きになったり、「頭文字D」(講談社)を観て「あんなふうに車を運転してみたい」という危険な考えを持っていたりした時期もありましたね(笑)。

左から髙橋将峰、金信培。

左から髙橋将峰、金信培。

髙橋 それもある意味日本のカルチャーには違いないですね(笑)。

 大学時代は校門のすぐ近くにマンガ喫茶があったので、毎日通って本当にたくさんのマンガを読みました。その頃は韓国でwebtoonという新しいスタイルのマンガが生まれたタイミングで。初期段階からwebtoonのファンだったことは、のちの仕事に大きく影響しています。

──マンガの仕事をし始めたきっかけについても教えてください。

髙橋 私はもともとヤフー株式会社にいまして、携帯電話向けのエンタメコンテンツ……マンガやゲーム、占いなどですね。それらのデジタルコンテンツすべてを統括していた時期があるんですが、その中でやはりマンガが最も可能性のある業界だと感じ、そこに集中したいという思いから今ここにいる感じですね。もともとマンガ好きだということもありますが、マンガには未来があり、グローバルに打って出ていける日本ならではのソフトウェアであると考えています。

 私は10年くらい前にはLINE株式会社で海外ビジネスを担当していました。その中で、LINEがwebtoon事業を海外展開することになったタイミングで「誰か、webtoonの担当になりたい者はいるか」と呼びかけられまして。「それは何がなんでも私がやります」と手を挙げたのがきっかけです。それ以来、webtoonを世に広める仕事に全力を注いできました。

LINEマンガが電子コミック文化をリードしてきた(金)

──この10年間は、LINEマンガにとってどんな意味を持つ10年間でしたか?

髙橋 LINEマンガが生まれる前のところからお話ししますと、もともと日本には長い歴史を持つマンガ文化が根付いていて、その中で当時はガラケーと呼ばれる携帯電話向けのキャリアサービスとしてコミックのデジタル化が始まったんですね。それはお世辞にも使いやすいとは言えないものでしたが、「いちいち書店へ買いに行かなくても、読みたいときにすぐ読める」という新たなユーザー体験がインパクトをもって迎えられ、爆発的に普及しました。その後iPhoneが登場し普及していったことで、ガラケー向けのサービスは自然な流れで一般的なWebコンテンツのほうへと移っていきます。

髙橋将峰

髙橋将峰

 この10年で日本のマンガ文化はデジタル化され、大きな変化を遂げましたよね。

髙橋 ただ、初期の頃はスマートフォンに最適化された電子コミックのプラットフォームが、少なくともビジネスとして成立しているものはほとんど存在しませんでした。そういう状況の中で、しっかりとUX(ユーザーエクスペリエンス、ユーザーが獲得する体験)が整備された、ユーザーにとって使いやすいマンガアプリとして最初に登場したのがLINEマンガだったわけです。

──ポイントはUXにあったんですね。

髙橋 そうです。もちろんコンテンツラインナップが重要であったことも言うまでもありませんが、なんと言っても使いやすさや読みやすさ、LINEプラットフォームを介したソーシャル機能などが、それまでの一方的な電子コミックサービスとは一線を画していたところです。それが結果的に4000万ダウンロードという国民的なアプリに成長した基盤となっているんじゃないかと思いますね。

 それによって、ユーザーが作品と出会うプロセスも変化しましたね。従来の読者は雑誌を買うことで作品と出会い、特定の作品のファンとなって単行本を購入するという流れが主流でしたが、現在の読者の多くはデジタルプラットフォームで作品を見つけ出します。LINEマンガはそういった変化の中心にいつも存在し、その変化をリードしてきた存在だと言えるかと思います。

金信培

金信培

髙橋 2つめのポイントとして、やはりwebtoonの存在を抜きにしてこの10年を語ることはできないと思います。NAVER WEBTOONのwebtoon作品がLINEマンガの中に登場してきたことが、大きなターニングポイントになった。もちろん当初は「タテ読みコミックが日本の読者に受け入れられるのか?」という議論がありましたし、今でもそういう論調はあると思うんですけど、出してみたら結局ユーザーは読んでくれたんですよね。それが答えだろうと。今ではwebtoon作品群の存在が、LINEマンガというプラットフォームの大きな特徴の1つになっています。

 「webtoonとは何か」という定義が明確にあるわけではないんですけども、「デジタル環境あるいはスマートフォン環境で最も読みやすいマンガのフォーマット」を指すと考えていただいて差し支えありません。

髙橋 LINEマンガの10年間を大きくまとめるなら、第1章が最初に申し上げたマンガアプリビジネスの確立、第2章がwebtoonの台頭。そして第3章は、この1、2年でwebtoonに参画する企業さんやクリエイターさんが激増していて、「いよいよ日本でもwebtoonが本格的に始まった」というタームに入ったことだと思います。

「喧嘩独学」より。 ©PTJ cartoon company・金正賢スタジオ/LINE Digital Frontier

「喧嘩独学」より。 ©PTJ cartoon company・金正賢スタジオ/LINE Digital Frontier

──つまり、webtoonも含めた電子コミックの土壌が日本において固まった10年間であると。

髙橋 そうですね。「ちょっとしたスキマ時間にアプリを開いてマンガを読む」という体験が生活の中に定着している方も多いのではないかと思いますが、その文化を作ったのはLINEマンガなんじゃないかなという自負があります。

 LINEマンガはスマートフォン環境で最も便利なマンガアプリを提供する存在として、多くのパートナーとともに日本のマーケットに影響を及ぼしてきました。10年間の日本市場の変化において私たちがリーダー的な役割を担ってこられたことは、かなり誇りに思います。

──LINEマンガが電子コミック業界においてリーダー的存在になることができた最大の要因は、どこにあるのでしょう?

髙橋 それはとても難しい質問ですが……1つはやはり、サービス提供のあり方を変えたというところでしょうか。インターネットのサービスが成功するか否かは「UXがどれだけユーザーにマッチするか」に尽きるんですね。電子コミックの場合、中身は基本的に一緒ですから、ひとつのマンガ作品をどのサービスを通じて読もうが内容に変わりはない。違っていたら問題じゃないですか(笑)。その中で、冒頭の試し読みができたり、家族や友達にシェアできたりといった新しいユーザー体験を提供できたことが成否を分けたポイントだったように思います。

──となると、LINEというコミュニケーションツールの存在も大きかった?

髙橋 確実に大きかったです。LINEは日本においてものすごくフレンドリーなサービスとして定着していますが、マンガという文化も日本で深く親しまれているものですよね。その両者の相性が非常によかったという側面はあると思います。

 もちろん、私たちだけの力で市場をリードできたとは思っていません。独力では何もできなかったと思います。素晴らしい出版社の皆さんから優れた作品を継続的にご提供いただけたこと、作家さんやスタジオさんがオリジナル作品を一生懸命作ってくださったこと、そして読者の皆さんがその作品を読み、愛してくださったことがLINEマンガの成長には欠かせないものでした。

LINEマンガ10周年のケーキ

髙橋 そうですね。僕らのサービスというのはまず作品があって、それを読んでくださるユーザーがいて初めて成立するものなので、すべての方に感謝しかありません。非常に多種多様な作品ラインナップを提供できているというのもLINEマンガの大きな特徴の1つだと思っているのですが、それもこれも国内外を問わず数多くの作家さんが作品を提供してくださっているからこそです。さらにそこを拡充していくための仕組みとして、「LINEマンガ インディーズ」というアマチュア作家さん向けの投稿サービスにも力を入れています。インディーズで力を付けた方がプロデビューする事例なども出てきていますし、それを支援する報奨金プログラムなどの施策も行っていますので、ぜひチャレンジしていただけるとうれしいです。

 韓国の場合、20年ほど前はマンガ家がお金を稼ぐことはとてもできない状況でした。出版マンガというものがほとんど崩壊してしまって、作家の活動できる場がなかったんです。そこでNAVER WEBTOONはマンガ投稿コーナーを作り、作家さんたちをwebtoonの世界へ招待することを始めました。webtoonは、作家とともに新しい時代を切り拓いてきたジャンルであり、プラットフォームであり、文化であると思います。

髙橋 だから、作家さんは大切なパートナーですね。もちろん出版社さんもそうですけど、ユーザーに満足いただくための欠かせない仲間ですので、今後ともしっかりと連携を取ってやっていきたいなと思っています。