4月より放送中のTVアニメ「君は放課後インソムニア」。石川県七尾市を舞台に、不眠に悩む男子高生の中見丸太と、同じ悩みを抱える女子高生・曲伊咲の交流を描く青春ストーリーが展開されている。原作は「富士山さんは思春期」「猫のお寺の知恩さん」のオジロマコトが、週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)で連載中だ。
コミックナタリーではアニメの放送を記念し、オジロとアニメの監督である池田ユウキ、中見丸太役の佐藤元、曲伊咲役の田村好による座談会を実施。“優しい夜を提供してくれる”という「君は放課後インソムニア」について、それぞれの視点から印象を語ってもらった。また公開を控える実写映画版についての思いも聞いている。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 曽我美芽
優しい夜を提供してくれる作品
──池田監督と役者のおふたりは、原作マンガを読んだときにどんな印象を持ちましたか?
池田ユウキ 原作の感想を原作者さんの横で語るというのもなかなかアレですけど……。
オジロマコト (笑)。
池田 単行本の表紙を見た瞬間に、ほかにはない独特の存在感と雰囲気のよさをひしひしと感じました。なんと言っても、オジロ先生の描かれる絵の素晴らしさですよね。特に、キャラクターたちの表情の豊かさには惹き込まれました。
佐藤元 わかります!
田村好 めちゃくちゃ温かみのあるタッチですよね。
池田 あと、不眠症という題材を扱っているところも、特に今の若い人たちには刺さりそうなポイントだなと。
田村 「眠れない」ってけっこう深刻な問題だと思うんですけど、丸太や伊咲が不眠症と向き合う姿を通して何か温かいものを受け取れる、とても素敵な作品だなと思います。私はオーディションをきっかけに初めて読ませていただいたんですけど、「この作品に自分なんかが関わっていいのか?」と思ってしまったくらい。
佐藤 僕は、アニメ化が決まる前からずっと好きで読んでいたんですよ。マンガアプリで出会って、第1話からもう大ファンで。僕自身も小さい頃、不眠を抱えていたりもしたので、ある意味では仲間を見つけたような感覚でしたね。
──それこそ丸太が伊咲を見つけたのと同じような感じで?
佐藤 そうです。僕も本当に眠れなくて、丸太の抱えるイライラもすごく理解できましたし……眠れない人って、現代社会にはすごく多いと思うんですよ。眠れない理由は人それぞれでしょうけど、そういう人たち全員に優しい夜を提供してくれる作品だと思います。読み始めたとき、自然と手が止まらなくなっていた感覚を今でもよく覚えてますね。
オジロ いやあ……こんなふうに人様から直接褒めていただける機会はなかなかないので、なんかいいですね(笑)。
一同 (笑)。
──アニメ化決定が発表された際、オジロ先生は「作品で大切にしていることを脚本に全部取り入れてくださり」というコメントを出されていましたよね(参照:TVアニメ「君は放課後インソムニア」2023年放送、メインキャストに佐藤元&田村好)。
オジロ はい。池田監督は、制作を進めていく中で「アニメでこういうふうにしようと考えているんですが、大丈夫ですか?」とすごく丁寧にいろいろ聞いてきてくれるんですよ。そういう細やかな配慮をしてくださったので、安心してお任せできました。
──その“作品で大切にしていること”が具体的に何を指すのか、言葉にできたりしますか?
オジロ うーん、説明は難しいですけど……空気とか、間とかですかね。自分のマンガにある空気感みたいなものを、動いている映像の中でも見事に表現していただけているなあと感じたので、そのようなコメントをさせてもらいました。
──やはり空気感はとても大事にされているんですね。
オジロ そうですね、はい。
──実際、「君は放課後インソムニア」は不眠症という題材が目を引くところはありますが、それがあくまでモチーフに過ぎないというのは読んでいて強く感じます。大事なのはそこじゃなくて、「そこで生きる彼らの一瞬一瞬をどう切り取るか」に命を懸けているマンガだなと。
池田・佐藤 うんうんうん。
オジロ ありがとうございます。そうですね。
──画作りにしても切り取り方が写真っぽいというか、“シャッタースピードの速い絵”という印象があります。丸太が天体写真を撮るキャラクターということもありますし、てっきりオジロ先生は写真を撮られる方なんだろうなと思っていたんですが……。
オジロ 写真、苦手なんですよ。
一同 (笑)。
オジロ 作中に出てくるカメラ設定の数値とかに関しては、詳しい方に教えていただいて描いています。なのでどちらかというと、カメラうんぬんというよりは“目線”として景色を描きたい気持ちが強くて。視点の高さとかアングルにはすごくこだわって描いているんですけど……。
──その発想自体が、写真を撮る人っぽい考え方にも思えるんですけどね。
オジロ 写真、苦手なんですよねー(笑)。
池田 2回言った(笑)。僕としても、丸太たちの暮らす石川県七尾市の美しい街並みも含めて、そこで営まれている生活をオジロ先生がフォトグラファー的な目線でコマ撮りしているような感覚というのは感じていました。なので、それはアニメでもしっかり絵として見せていけたらと思っていましたね。もちろんアニメにはマンガと違って尺が発生してしまうので、かなり難しいことではあるんですけど、可能な限り再現したいと思ってがんばりました。
私、深夜徘徊が趣味で
──佐藤さんと田村さんは、どんな意識でオーディションに臨みましたか?
佐藤 まず、もともと好きだった作品のオーディションを受けられるということ自体がうれしくて、「やったー!」と思って(笑)。自分の中では「挑戦のオーディションにしよう」というテーマを設けたんですよ。この作品を演じるならたぶんものすごく自然体な方向へ行くことになるだろうなと思ったので、それならいっそ“自然体の極致”というものにチャレンジする場にしてしまおうと。言葉は悪いですが、自分の成長の場として“利用”させてもらったような感覚でいますね。
田村 私は声優としてまだまだ駆け出しで……今も十分未熟なんですけど、オーディション当時はさらにもっと未熟だったから、「私に伊咲という存在を成り立たせることができるのか?」という不安な気持ちがすごく大きかったです。伊咲は丸太を支える役どころでもあるじゃないですか。「私が……支える……?」って。
佐藤 実際、支えてもらいましたけどね。
田村 いやいやいや、そんな! なので、「今の自分が出せるものをやるしかない」という意識でオーディションに臨んだんですけど……そのときに演じたとあるシーンが、私の今までのオーディション史上一番楽しかったんですよ。いつもは「違うかもしれない」と不安に駆られながらやることのほうが多いんですけど、そのシーンは「めちゃくちゃ楽しいな」っていう思いだけでやることができて。それがすごく印象に残っていますね。
──池田監督には、ぜひキャスティングの決め手を伺いたいところなんですが……。
田村 きゃあああ!(笑)
佐藤 それ、すごく気になります!
池田 (笑)。まず佐藤さんに関しては今ご本人のおっしゃったことそのままで、すごく自然な演技と言いますか、丸太そのものになりきっている印象を受けました。言うなれば、“演じようとしていない”んですよ。「こういう表現をすれば丸太というキャラクターが成立するだろう」みたいな作為的なものをまったく感じなかったことが、自分の中では決め手になりましたね。もちろん普通は声優さんってそういうプランを持ってやるものですし、その意図が伝わることはとても大事なんですけど、この作品に限ってはそういうことじゃないよなと。
佐藤 ありがとうございます。最初に作品を読んだときの直感を信じてお芝居することを大事にしようと思って、「それが制作陣の意図と合わなかったら仕方ない」くらいの割り切った気持ちでやらせていただいたんですよね。どうやら合っていたようでよかったです(笑)。
池田 で、田村さんのほうは……。
田村 お腹痛くなってきた(笑)。
池田 はははは(笑)。まず1つは声質ですね。新人さんということもあって、そのままでも高校生の声に聞こえる生々しさがまずいいなと思いました。もう1つは、スタジオオーディションの中で「星を眺めてすごくきれいだと思っている伊咲」みたいなシーンがあったんですけど、そのとき田村さんは実際に上のほうを見上げて、本当にそこに星があるかのような演技をしていたんですよね。その様子をブースから見ていて、「この人なら場の空気を作ってくれるんじゃないか」と感じたことが決め手としては大きかった感じです。
田村 (噛みしめるように)ありがとうございます……!
池田 なんか恥ずかしいですね、こういうことを話すの。
田村 こっちのほうが恥ずかしいですよ!(笑)
──その上空を見上げるお芝居というのは、どんな意識でやられたことなんですか?
田村 あのー……私、深夜徘徊が趣味で。
池田 深夜徘徊(笑)。
佐藤 (笑)。
田村 そうなんです。割といつも空を見上げながら「東京でも星は見えるんだなあ」とか思いながら夜歩いていたりするので、その習慣が自然と出たのかなあと思います。
──お話を聞いていると、選ばれるべくして選ばれたおふたりという感じがしますね。
池田 うんうん、そうですね。
──オジロ先生はおふたりの演技についてどんな印象を持たれました?
オジロ そうですねえ……私はもともと自分のマンガに音のイメージがなかったので、「ああ、丸太と伊咲ってこういう声なんだ」と初めて知った感覚なんですよね。
佐藤・田村 (笑)。
オジロ だからキャラに合っているとか合ってないとか、そういうのは私自身には全然なくて。今、監督がおふたりを選んだ理由を話されていましたけど、「なるほどー」と思って聞いていました(笑)。
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先輩から授かったものを下の世代に返す番