2019年4月から連続2クールでオンエアされ、ufotableによる美麗かつ迫力ある映像、練りこまれた構成、キャストの豪華さなど話題に事欠かず、次々にファンを増やしていった純和風剣戟譚アニメ「鬼滅の刃」。続編となる「無限列車編」が劇場版として公開されることが9月末の最終回放送後に告知され、大きな話題を呼んだばかりだ。
コミックナタリーではTVシリーズの完結と劇場版制作決定を祝し、メインキャストへのインタビューを実施。主人公・竈門炭治郎役の花江夏樹、竈門禰豆子役の鬼頭明里、我妻善逸役の下野紘、嘴平伊之助役の松岡禎丞に、TVシリーズをじっくりと振り返ってもらうとともに、劇場版への意気込みを語ってもらった。
取材・文 / 岸野恵加 撮影 / 曽我美芽
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第1~5話
- 第1話「残酷」
- 第2話「育手・鱗滝左近次」
- 第3話「錆兎と真菰」
- 第4話「最終選別」
- 第5話「己の鋼」
家族と山間でつつましく暮らしていた竈門炭治郎。ある日炭を売りに出かけ帰ると、家族は鬼に襲われ惨殺されていた。唯一息があった妹の禰豆子は鬼になってしまい、炭治郎は彼女を人間に戻すため、家族の仇を討つため、鬼殺隊入隊に向け鱗滝左近次のもとで長きにわたる厳しい修業に励む。「最終選別」を見事に生き残った彼は、刀鍛冶の鋼鐵塚から日輪刀を受け取り、初の任務へ向かう。
ベテラン声優の挑戦も味わえる
──1話から5話までの序盤を振り返ってみて、特に印象的だったシーンはどこでしょうか?
花江夏樹 ありすぎるんですけど……(笑)、1話はやっぱりすごく衝撃的でしたね。炭治郎が13歳で受け止めるには過酷すぎる運命に巻き込まれていくさまを、ufotableさんが超絶的に細かくきれいに描いているので、ストーリーと映像の緻密さが合わさったときのインパクトがすごかったです。
下野紘 完成した1話を見たときは、クオリティが高すぎて「やべえ作品に出演することになっちまったな」って思ったよ。
松岡禎丞 ufotableさんって、どの作品でも絵にものすごく表情というか力がある会社さんっていうことは知ってたんですけど、1話の雪山の描写は、映像を観てるだけで寒くなってきて。もう「映画なのかな」と感じたほどでした。
花江 うん、もうPVの時点で、映画のクオリティだった。
──実際に1話から5話までは「鬼滅の刃 兄妹の絆」として放送前に劇場上映されましたが(参照:アニメ「鬼滅の刃」4月のTV放送に先がけ、第1~5話を期間限定で劇場上映)、まさに劇場のスクリーンで観るのがふさわしい映像だと話題になりましたね。鬼頭さんはいかがですか。
鬼頭明里 私は、全話通しても、第1話が一番セリフがあったので……。
花江 (笑)。
鬼頭 人間の言葉も鬼になってからのうなりも一番しゃべった回なので、思い入れが強いですね。
花江 鬼頭ちゃん、1話の収録はすごく緊張してたよね。目の下にクマができるくらい寝不足で現場に現れて。
鬼頭 してました!(笑) 花江さんとがっつり共演したこともそれまでなかったですし、もうすべてに緊張していて眠れなかったんです。
下野 そうだったんだ(笑)。あとはアレですよ。出演している人たちが、初っ端から無駄に豪華、という。「もう、この作品をどうしたいんだよ!」って(笑)。
──2話に登場するお堂の鬼は緑川光さん、4話の手鬼は子安武人さんと、炭治郎が立ち向かう鬼のキャストがとにかく豪華で。制作スタッフは、「炭治郎が毎回命懸けで大きな鬼に立ち向かっていくことを表現するために、強敵感の伝わる人をキャスティングした」とお話しされていたそうですね。
花江 そうおっしゃっていましたね。緑川さんは王子様キャラクターのイメージが強かったので、あんなに荒々しい感じは新鮮でした。
下野 個人的には、こんな緑川さんが見られるの、「南国少年パプワくん」のシンタロー以来じゃないか!?って。見ていて感動しましたね。
鬼頭 緑川さん本人はめちゃくちゃかわいらしい方なんですけどね。
花江 収録のときは、けっこうたくさんお話しさせていただきました。好きな服のブランドが僕と一緒なので、「このアイテム出たの知ってる?」みたいに和やかな空気を作ってくださって。だからいい意味で緊張はしなかったですね。
下野 緑川さんだけじゃなくほかのいろんな鬼もそうですけど、「鬼滅」ではベテランの声優さんたちが普段見せている声の表情とは違う切り口に挑戦しているのかなって感じるところがあって、新鮮さがありました。
──そう考えるとより贅沢ですよね。子安さん演じる手鬼の「年号がァ!!年号が変わっている!!」というセリフが、まさかの年号が平成から令和に変わる時期にオンエアされるという、奇跡のようなタイミングもありました。
花江 すごかったですね。改めて「『鬼滅』、持ってるなー」って(笑)。あとは水の呼吸もこのシーンが初登場でしたね。マンガを見ていて「アニメだったらこうなってほしいな」とぼんやり思い描いてたものが映像で完全に再現されていたので、もう文句なしでした。
鬼頭 浮世絵みたいなエフェクト、めちゃくちゃおしゃれで鳥肌が立ちました! あと私は序盤だと、「錆兎と真菰」で炭治郎が岩を斬るシーンがすごく好きで……。「兄妹の絆」を自分でチケットを買って映画館に観に行ったんですけど、映画館で観るからこそ聞こえる音もあったり、演出、映像、お芝居、全部が相まってすごくきれいで、本当に感動して泣いちゃいました。
花江 修行パートが一瞬で終わるんじゃなくて、炭治郎が2年間という長い時間をかけて鍛錬しているさまを丸々1話割いて描いてくれたから、努力したことがとても伝わってきたよね。
第6~10話
- 第6話「鬼を連れた剣士」
- 第7話「鬼舞辻無惨」
- 第8話「幻惑の血の香り」
- 第9話「手毬鬼と矢印鬼」
- 第10話「ずっと一緒にいる」
連続少女失踪事件の原因である沼の鬼を、禰豆子と力を合わせ討つ炭治郎。浅草で図らずも仇敵・鬼舞辻無惨と遭遇するが逃げ去られてしまい、鬼の身ながら人を助ける珠世、愈史郎と出会う。
禰豆子ちゃんからあんな音が鳴るなんて!
──6話から10話まででは、鬼舞辻無惨、珠世、愈史郎などまた強力な新キャラクターが次々に登場します。
鬼頭 個人的には愈史郎が原作を読んで感じていたより幼い印象で、びっくりしましたね。幼い子供みたいな感じが出ていてかわいくて。
──禰豆子のことを「醜女」呼ばわりして炭治郎を怒らせる掛け合いなど、このあたりからだんだんと「鬼滅」のコミカル面の魅力も強く出てきますね。また、戦闘シーンもさらに見応えのある映像になっていきます。
鬼頭 禰豆子も戦いに身を投じて……。
下野 すごかったよね、禰豆子が沼の鬼に放ったかかと落とし、本当にカッコよかったし、朱紗丸との戦いはサッカーアニメかと思ったよ(笑)。8月には「鬼滅」と東京ヴェルディとのコラボも実現しちゃったし(笑)(参照:「鬼滅の刃」と東京ヴェルディがコラボ、ユニフォームなど限定アイテムを販売)。
鬼頭 鞠を蹴ってるときの音もすごく重たいんですよね(笑)。
下野 可憐な禰豆子ちゃんからあんなすごい音が鳴るなんて、俺、思わなかったよお!!
鬼頭 あはは(笑)。矢琵羽の能力はアニメでどんなふうになるのかなと思っていたら、矢印のエフェクトがわかりやすく、めちゃくちゃカッコよく描かれていて、すごいなあって思いました。
──矢印に炭治郎が振り回されるカメラワークも迫力十分でしたね。このパートでの共演者さんとの印象的な出来事は何かありますか?
花江 皆さん声がぴったりで、特に無惨は思い描いていた声と完全一致でした。「これは炭治郎、勝てねえな……」って思いましたね。
下野 怖かったねえ。通行人を殺すときの「違う違う違う……」って囁くような言い方とか。
鬼頭 でも演じている関(俊彦)さんはすごく優しいっていう(笑)。だから逆に怖かったです。マイクの前に立って、お芝居のスイッチが入ると完全に別人で。
松岡 僕、鬼舞辻が去っていって、炭治郎が「絶対にお前を許さない!」って叫ぶところがすごく印象に残ってますね。追いたいけど追えない炭治郎の悔しさがすごく伝わってきて。
下野 確かに、倒した鬼までも哀れむとにかく優しい炭治郎だけど、ここは一番怒っているような感覚があったかもなあ。
第11~14話
- 第11話「鼓の屋敷」
- 第12話「猪は牙を剥き 善逸は眠る」
- 第13話「命より大事なもの」
- 第14話「藤の花の家紋の家」
任務地で炭治郎と善逸は鼓の音がする謎の屋敷と子供たちを発見し、少年を助け出すため中へ潜入する。そこで猪の頭を被った伊之助と遭遇。それぞれ屋敷に巣食う鬼を撃破し、少年を救出する。その後伊之助は鬼である禰豆子の滅殺を試みるが、これを善逸が必死に防衛。奇妙な成り行きで3人の隊士はその道を同じくする。
「この現場は思いっきりやっても悪目立ちしない」って確信した
──さて、続いて11話からの鼓の屋敷の任務では、ついに善逸と伊之助が本格登場します。
下野 (肩を回しながら)さあ、しゃべりますか。
花江 お願いします。
──(笑)。やはり4人が揃ったことで、雰囲気がガラッと変わった印象がありますよね。
鬼頭 おふたりが入って、作品もアフレコ現場の空気も変わりましたね。それまでは倒す鬼や町の人たちくらいしか出演者がいなくて、毎週会えるのは炭治郎だけ。アフレコも静かな感じだったので。
下野 もう君たちだけにはしないよ。俺たちずっと、そばにいるからね……。
鬼頭 怖い(笑)。でもやっぱり、仲間ができた感がすごくありました。
花江 本当に、2人が入ってきてから、現場が賑やかで……。
下野 誰がうるさいって!?
花江 下野さんも善逸も、うるさいもん。ムードメーカー的なね。
下野 松岡もうるさいしね。
松岡 いや、下野さんが一番うるさいです。
花江・鬼頭 (笑)。
下野 いやいや、そんなことないって! 俺そこまでじゃないでしょ!
松岡 だって、隣のマイクに入ったら耳がキーンってしますよ。
下野 それは……(笑)。いや、本当はわかってる、うるさいよねー!!(笑) 10話までは基本的に重い話が多かったけど、そういう意味では本当に善逸は空気を変えられる役で、やりがいがあるなって感じてる。
花江 10話までもちょっとしたギャグはあったけど、ギャグ描写がこんなに長々続くようになるのは善逸が出てきてからですからね。
下野 5話にもちょろっと出てたけど、あのときは全然叫んでなかったから。「雀じゃね?」って善逸がつぶやいたのが劇場で流れたときに、笑いが起きてて安心したんだよ(笑)。
──善逸は11話で再登場するやいなや、最初からとにかく“汚い高音”のオンパレードで、フルスロットルで叫び続けます。
下野 PV用に初めて善逸の声を録ったとき「もっとやって!」ってディレクションがきたんですよ。個人的に本当にやりたい役だったので、どうしたら面白くなるだろうって最初はすごく考えながらやってたんですけど、花江くんの炭治郎の演技を聞いたときに、「なるほど、主人公がこのテンションなら、もっと行かないと俺ダメじゃね」って思わされて。なんかもう緊張するとか言ってる場合じゃねえなって、どんどん全力になって。花江くんが炭治郎を全力で演じていたからこそ、善逸が今の形になった部分もあるのかなと個人的には思ってます。
──「AnimeJapan 2019」のトークステージで、下野さんは「自分の喉がどこまで絶叫に耐えられるかを楽しんでいる」と発言していました(参照:「鬼滅の刃」下野紘は善逸の絶叫で喉の限界に挑戦?キャストの絆感じるAJトーク)が、実際、ほかの現場に比べるとやはり喉はかなり酷使してるんでしょうか。
花江 あれだけ叫ぶことはなかなかないですよね。
下野 うん。収録後、時々飲みに行くんだけど、ビールが最高にうまい(笑)。
──花江さんも逆にまた、そんな下野さんから刺激をもらったり?
花江 そうですね。みんなが刺激しあって、いいお芝居になってるんじゃないかなと思います。
松岡 僕も下野さんと同じで、悩みながら収録に臨んだんですけど、実際現場に行ってみたら、そんなアツさに満ちているわけじゃないですか。どんな作品でもほかのキャラクターとのバランスは考えるんですけど、夏樹に触発された下野さんが全力でやられていたから、「この現場は思いっきりやっちゃっても悪目立ちしないな」って確信したんです。だから、最初の「猪突猛進!! 猪突猛進!!」を、とにかく何も考えず、伊之助の本能でフルパワーで出しちゃおうと思いました。
下野 そうね。本当に「鬼滅」では、見たまま感じたままをとりあえずやる、っていうのが正解なのかなと。伊之助に関して言えば、13話まではずっと悪者みたいな雰囲気があったね。
鬼頭 善逸、伊之助にボコボコにされてましたもんね(笑)。
松岡 それまでの伊之助は本能で行動してきた野生児で、行動原理がすべて単純だったんですよね。とにかく自分より強い奴と戦いたい、とか。でも曲がりなりにも鬼殺隊なので、「鬼は殺す!」っていう思考で、なんで善逸が禰豆子の入った箱を庇ってるのか、訳がわからないし、最終的には串刺しにしようとして(笑)。でも2人と出会ったことによって、伊之助が本当にどんどん物事を吸収していってるんですよね。炭治郎の発言から覚えた「鬼殺隊同士でやり合うのはご法度」っていうことを、何話か後で「ご法度だって知らねえんだ!」って、我が物顔で使ってみたり。
──そういうところがすごくかわいらしいなと思います(笑)。この後の那田蜘蛛山の任務でも、伊之助が変わっていく姿が印象的ですよね。
松岡 早くわかるといいですよね、「ホワホワの呼吸」(笑)。それが理解できたとき、彼はまた一歩前に進めるんだろうなと思います。
たっぷり尺を取ってくれて、いい「頑張れ」が出せた
──回転する鼓の屋敷での戦闘も映像的にとても見応えがありましたが、12話では原作でも人気の高いセリフ「頑張れ炭治郎頑張れ!!」が登場します。昨年アフレコが始まったばかりのときにインタビューさせていただいた際、花江さんも演じるのが楽しみなセリフだとお話しされていました(参照:アニメ「鬼滅の刃」特集 花江夏樹&鬼頭明里インタビュー)が、実際に演じて、そして完成した映像を観ていかがでしたか?
花江 原作を読んでいたとき抱いていた印象よりも、アニメではだいぶたっぷり尺をとって、自分の間尺でやってくださいと言っていただいて。炭治郎の気持ちをしっかり表現できるようにしてもらったので、いい「頑張れ」が出せたかなあと思います。
──「鬼滅」のアニメは、役者の演技に合わせて後から映像を描き変えることもよくあったそうですね。
鬼頭 そうなんですよ。私、出番がないときは監督とかがいらっしゃるミキサー室から収録を見学していたんですけど、「今のお芝居よかったから、こっちに合わせて絵を変えちゃおうか」っていう会話とかをけっこうされていたんですよね。
花江 本当にありがたいです。そのときそのときでキャラクターがどういう気持ちなんだろう、っていうのをより考えながらお芝居ができる環境だなと感じてます。
──なるほど。12話といえば、善逸の雷の呼吸も初披露となりました。汚い高音を出している人と同一人物とは思えないほどの美しい声に、ときめいてしまいました。
下野 善逸を演じてると、それこそ「汚い高音選手権」なんて言われますけど(笑)、いろんな面を見せられるのはすごい楽しいです。オーディションのときも「霹靂一閃」の演技はあって、そういうギャップを出せたら気持ちいいだろうなって思ってました。映像面で雷の呼吸はどうなるんだろうと思ってたけど、いや、僕は正直ね、アニメスタッフのことをナメてましたね……。
鬼頭 しびれましたよね!! 雷のエフェクト。
下野 観ていて鳥肌が立ちましたね。この後出てくる技1つひとつに関しても、どんどん現状を超えて行こうっていう気合いが感じられて。「もう最終的にどうなっちゃうの、どこへ行くの、この作品の映像は!?」って改めて思います(笑)。
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「爆血!」に声をあてていいのか、心配だった
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