本日3月1日にタイトル、キャストが発表されたばかりのオリジナルアニメ「川越ボーイズ・シング」。音楽業界から追放されたちょっとクレイジーな元指揮者・響春男が、ひょんなことから埼玉の川越学園でボーイズ・クワイア部を立ち上げることから物語が動き出す。
コミックナタリーでは放送に向け、早くもインタビュー連載を始動。第1回にはクワイア部員のメインキャストから、“だんぼっち”こと出井天使役の鵜澤正太郎、“えいちゃん”こと矢沢ひろし役の土田玲央、“トリちゃん”こと白鳥修治役の小原悠輝に登場してもらった。アニメ初出演の小原をはじめ、“歌”を軸にフレッシュなキャストが集まった「川越ボーイズ・シング」。そんな現場の雰囲気や、楽曲への並々ならぬこだわりを感じ取ってほしい。
取材・文 / 柳川春香撮影 / ヨシダヤスシ
「これからみんなといっぱい歌えるんだ!」(鵜澤)
──「川越ボーイズ・シング」はボーイズ・クワイアを題材にしたオリジナル作品ですが、最初にお話を聞かれたとき、どんなところに興味を持ちましたか?
鵜澤正太郎 オーディション用の資料をいただいたときに、音響監督に菊田浩巳さんのお名前があって。僕は子役をやっていたんですが、子役時代に初めてアニメで大役を任せてくださったのが菊田さんで、すごくお世話になったんです。
──「宇宙ショーへようこそ」ですか?(※「宇宙ショーへようこそ」は2010年公開の劇場アニメ。鵜澤がメインキャストの1人として出演した)
鵜澤 そうです! その後81プロデュースに入って声優になってからも、菊田さんとはいろんな現場でお会いしてはいたんですが、いつかちゃんと大きな役でぶつかりたかったので、この作品でそれを叶えたいなって思っていました。もともと歌うことが大好きで、歌が歌えるコンテンツに参加することも1つの目標であり夢だったので、「これはがんばらなきゃ!」っていう気持ちでした。
土田玲央 僕は最初にマネージャーさんから「土田さん、(映画の)『コーラス』っぽい曲好きですか?」って聞かれて(笑)。「あ、はい」って答えたら、いただいたのがこの作品のオーディションでした。最近はアイドルであったりバンドであったり、いろいろな音楽を扱ったコンテンツがありますが、コーラス的な歌に焦点を当てたものはあまり聞いたことがなかったので、これは面白そうだなって。
小原悠輝 僕はアニメやアフレコのことはまったくわからない状態だったので、単純に白鳥の役柄を見て、体育会系の明るい男子がボーイズ・クワイア部に入って歌う、というところに興味を持ちました。
──小原さんは普段、舞台など生身のお芝居で活躍されていますよね。アニメ出演はこれが初めてでしょうか?
小原 初めてです。合格の一報をいただいたときは驚きましたし、信じられない気持ちでした。もちろんオーディションは全力で臨みましたが、決まってすごくうれしかった半面、「大丈夫かな……?」という不安も感じました。「よし、やってみよう!」と「できるかな……」を行き来して、ふわふわしてました。
鵜澤 でも小原さんは、本当にトリちゃんそのままなんですよ。
小原 そうなんですよ(笑)。パーソナルな部分もですが、見るからに運動部の人です!って感じも親近感があって。白鳥は実際に近くにいたらすぐ仲良くなるタイプですね。
──キャラクターとご縁があったんですね。鵜澤さんは主人公のだんぼっち役に決まったとき、どんなお気持ちでしたか?
鵜澤 主役であるとかそういうことは気にせずに、「この子を演じたいな」って思ってだんぼっち役を受けたんですが、決まったときはすっごくうれしかったです。マネージャーさんから一報をもらったときのことを鮮明に覚えてて、電車に乗る寸前で「えええ!?」って超声出しちゃって(笑)。オーディションってもちろん全力で受けるんですけど、「受かるぞ!」って思っていると落ちたときにショックも大きいので、「受かったらうれしいな」っていうような心づもりでいて。なので、宝くじに当たったような感覚でした。座長の経験も少なかったし、「大丈夫かな」っていう不安な気持ちもあったけど、「これからみんなといっぱい歌えるんだ!」ってワクワクも同時にありました。
“完璧男子”を演じるプレッシャー、ハンパない(土田)
土田 自分はえいちゃん役に決まったとき、うれしかったのと同時に、英語の歌を歌うことにちょっと自信がなくて……。えいちゃんが“なんでもできる”というキャラクターなので、プレッシャーはけっこうありました。
小原 完璧男子だもんね。
土田 そうそう。そういうキャッチコピーの役を演じるときの緊張感はハンパない(笑)。
鵜澤 だんぼっちも「天使の歌声を持つ」って書いてあって、「嘘だろ!」みたいな(笑)。
土田 なので、精一杯向き合って演じようって、覚悟を決めた瞬間でした。
──ちなみに土田さんと鵜澤さんは事務所の先輩後輩でもあり、ほかの作品でも共演経験がありますが、メインキャストに決まったときに連絡などはされました?
鵜澤 僕はもううれしすぎて即、玲央さんにLINEしました。でも返ってきたのはスタンプ1個、みたいな(笑)。
土田 違うんですよ。僕、ちょうどそのとき新型コロナウイルス感染症にかかってしまい、お休みをいただいた時期で。いろんな方が「大丈夫?」ってLINEをくれている中で、鵜澤くんが「お疲れ様です! 玲央さんコロナ大丈夫ですか?っていうかあの作品のことなんですけど!!」って、心配は二の次で自分のうれしさを伝えてきたんで、「わかったわかった、今度な」って意味でスタンプを送って(笑)。
鵜澤 (立ち上がって)すみませんでした!
──仲の良さが伝わってきました(笑)。「川越ボーイズ・シング」の舞台となる川越学園ボーイズ・クワイア部の生徒役にはお三方のほかに、PENGUIN RESEARCHのボーカリストでもある生田鷹司さんや、小原さんと同じくアニメ初出演の中西南央さんなど、「歌」を軸にいろんな経験を持つ方が集まっていますよね。レコーディングやアフレコは概ね終えられたそうですが、現場の雰囲気など、普段と違ったところなどはありましたか?
鵜澤 すごく新鮮でした。トリちゃん(小原)は「台本がないほうがやりやすい」って、セリフを覚えてきて。
小原 台本を見て、画面を見て、っていうのが追い付かなくて(笑)。最初は舞台の癖が出てしまって、マイクじゃなく、隣で話しているこの2人のほうを見ちゃったりしてました。そういう中で、スタジオの音響さんや、先ほど名前が挙がった菊田さんはじめ、皆さんに学ばせてもらったんですが、鵜澤さんも本当に空気をよくしてくれて。
土田 やっぱり座長がすごく場を回してくれてたよね。
鵜澤 いやいや、僕はおしゃべりなだけですよ! それを言うなら玲央さんだって……。
土田 自分は基本的にしゃべらないので。「こいつ、休憩中はべらべらしゃべってたのに、本番は全然ダメじゃん」って思われるのが嫌だから(笑)。
鵜澤 ほかの現場の楽屋とかでは全然違うんですよ!
土田 だって楽屋は仕事中じゃないから(笑)。
鵜澤 そういう面を知ってるので、静かにされてるのが逆に新鮮でした(笑)。でも僕がちょっとセリフでつまずいたときに、玲央さんが「こうだよ」とかって横で教えてくださるんです。基本的にはそういう指導は音響監督さんがしてくださるので、キャスト同士では意外と言えなかったりするんですが。
土田 それは座長が言いやすい空気を作ってくれていたからだよ。
鵜澤 なんだろう、めっちゃ立ててくれる(笑)。「川越ボーイズ・シング」の現場は本当に、関わっている全員で作っていこうっていう空気がすごくあったので、そんな空気も映像に乗っていたらうれしいなって思いますね。
超高難易度の課題曲に、「どこまでの技術を求めているんだ!?」(小原)
──先ほど英語の歌、という話が出ましたが、そもそも最初のオーディションが英語詞の曲のフル歌唱のみ、しかもすごく難しい曲だったそうですね。
鵜澤 はい。超有名な、とある海外のアーティストの曲が課題曲になっていて、もちろん全編英語詞で。現場で初めてキャストの皆さんと会ったときに、「みんな、あの課題曲を乗り越えてきた仲間なんだ!」って、まずそこで仲間意識が芽生えていた気がします(笑)。そのくらい大変でした。
小原 あの選曲は「どこまでの技術を求めているんだ!?」って思ったよね(笑)。
土田 オーディションの資料には「しっかり歌うというよりも、皆様のパッションを見たいです」って書いてあったんですが、「この曲で!?」って。難しすぎてパッションどころじゃない(笑)。キャラクターを意識しつつも、自分なりに歌わせてもらいました。
──そしてもちろんボーイズ・クワイア部が舞台ということで、劇中歌もたくさん登場します。ひと足先に聴かせていただきましたが、日本語詞の曲も英語詞の曲もあり、いわゆるコーラスのイメージとは異なるポップな楽曲もありと、想像以上にさまざまな曲が登場するんですね。
鵜澤 本当にたくさん歌いました。先に録った方の音源を聴きながら歌ったので、「あっ、トリちゃんが歌ってる!」「ハモれる!」みたいな感じで、すごくワクワクして、とにかく楽しかったですね。どの曲にも思い出があるんですが、それぞれの曲で歌っているときのキャラクターの気持ちも違うし、思い浮かべる景色によっても、歌い方が全然違ったなと思います。
土田 アフレコやレコーディングの前に、英語詞の曲を歌うということもあって、全員揃って歌のレッスンをしていただく機会があったんですよ。「英語がしゃべれる先生に教えてもらいます」って聞いていたので、「じゃあそのまま行けばいいや」って当日行って、キャストのみんなと「全然歌えないですよねー」なんて言い合いながらブースに入ったら、みんなもう、いきなり上手で。「君たち全員ブロードウェイで歌っとんたんかい!」ってくらい。
鵜澤 あはは(笑)。玲央さんも全然すごかったじゃないですか。
土田 いやいや。みんな「全然勉強してないよ!」って言ってたのに、自分以外みんな80点以上取ってる、みたいな感じで……。そういうことがあったので、必死で一言一句「こうやって歌ってるのか」ってカタカナを振って、しっかりと収録に臨みました(笑)。
小原 英語詞の曲は、ボストンからZoomをつないでディレクションしてもらったんです。
──ボストンから!?
小原 教えてくださった方も、向こうは朝4時とかなのに、ハイテンションな方で。「いいねいいね! ディアンジェロみたいだよ!」とかってどんどん乗せられて、楽しく歌いました(笑)。(※ディアンジェロは2001年、2016年にそれぞれグラミー賞2部門を受賞した、ネオソウルを代表するアーティストの1人)
鵜澤 もう全肯定してくださって。「いいねいいね、もっとこうしてみよう! もっと!」って引き出してくれるから、自分からもどんどん違うものが出てくるんですよね。普通のレコーディングともまた違う感覚で、あんな経験は滅多にないなって思います。
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心からぶつかり合える仲間に出会えた(鵜澤)