コミックナタリー Power Push - カサリンチュ×小山宙哉

「New World」へ踏み出してからの「あと一歩」

タツヒロ(カサリンチュ)、小山宙哉、コウスケ(カサリンチュ)

奄美大島で生活をしてるからこそできる音楽もある(タツヒロ)

小山 メジャーデビューしながらお仕事を辞めなかったというのはどういう理由なんですか?

タツヒロ 最初は2人とも「いや、音楽の世界ってそんなに甘くないですよ」という、あんまり乗り気じゃないところからスタートしてるんですよ。だからその後にメジャーデビューの話をいただいて、徐々に音楽への気持ちが強くなってデビューしたときも、「仕事をしながら」というスタイルをキープしてました。それに「奄美大島で仕事や生活をしてるからこそできる音楽もあるだろう」というのが基本で、そこは崩したくないというのがあったんです。僕の場合は、一度奄美大島に帰ったのは、都会の人混みとかがダメだったというのもありましたし。 レコード会社の人たちにもそこはちゃんと理解していただいて、本当にありがたかったですね。

左からタツヒロ(カサリンチュ)、小山宙哉、コウスケ(カサリンチュ)

──「音楽に専念しないなら契約しないよ」って言われる可能性もあるわけですからね。

タツヒロ 周りにはいろいろ迷惑をおかけしましたけどね。1月から3月は繁忙期で工場が24時間稼働になるので、「その間は音楽活動は控えてくれ」って会社から言われてるからカサリンチュが活動休止せざるを得なかったりもしますし。そこもレコード会社は容認してくれました。

小山 へえー。でも音楽の仕事をやりたいと思ってるわけじゃないですか。工場の仕事だと歌う機会はないわけで、そこはつらくなかったですか?

タツヒロ 現実と夢の世界を行き来してるような感じで、そこは幸せでした。現実では奄美での仕事があるけど、土日は東京で、憧れていた夢の世界のミュージシャンというステージを体験して。うわ、贅沢だなって。

──完全な切り替えがあったからこそ良かったわけですね。

小山 なるほど、奄美での経験も歌に活かせますしね。

タツヒロ そうなんですよ。特に、さっきお話にあった「やめられない とまれない」は労働賛歌を作ろうというところから始まって、それぞれが仕事しながら感じてることを歌詞にしてますから。どんな仕事でも楽しいことだけじゃないんで、そういうことを考えながら曲を作りましたね。

──働きながらミュージシャンをしてた頃というのは、地元の職場での扱いはどんな感じだったんでしょう? 意地悪な言い方をすると、「夢見てるヤツら」的に思われたりしないのかと思ってしまうのですが。

タツヒロ いやいや、応援してもらいましたね。奄美大島は小さい島で、コミュニティも小さいですし。カサリンチュを結成したのは10年ぐらい前なんですけど、その頃から社員としてやってたんです。メジャーデビューするもっと前から、音楽活動やってる村山辰浩(本名)という社員がいることは周りのみんなが知ってたんで、それが奄美というちっちゃい島からメジャーデビューってことになって、しかも仕事しながらというスタイルだったので、「すげえな」「がんばれよ」ってすごく応援してもらいましたね。

コウスケ(カサリンチュ)

コウスケ 自分の場合は、店に来るのはほとんど酔っぱらいなんで「まだバイトしてんの?」みたいな、ちょっと嫌味風の、だけど愛のある感じの言い方をされましたね(笑)。「でも俺の焼き鳥美味しいでしょ?」って返してましたけど。

──「俺がバイト辞めるとこれが食えなくなるぞ」と(笑)。

コウスケ そういうコミュニケーションから曲ができたりもしました。

最近刺激を受けたのは、ファミレスのカップルからぐらいですね(小山)

小山宙哉

小山 自分もマンガ家やる前にデザイン事務所で働いてたんですけど、そういうときって働きながら夢のことを考えたりしないですか? コウスケさんだったら、お皿出すときにちょっとヒューマンビートボックスっぽく効果音を出してしまったりとか(笑)。

コウスケ よくやってました。「ウィーン、ガシャン」って(笑)。

小山 タツヒロさんだったら工場の音がメロディに聞こえたりしないですか? 映画の「ダンサー・イン・ザ・ダーク」じゃないですけど(笑)。

タツヒロ ありますね。まあ仕事しながら音楽のことを考えるってのは、本来ならよくないんでしょうけど、外回りしてたら海とか自然がいっぱいあるので、そこでメロディが出てきたりもしましたよ。

「宇宙兄弟」にたびたび登場する「聴くと元気になるモーニングレディオ」。こういったシーンは小山がファミレスなどで聞いた会話からヒントを得て創作しているという。画像は23巻から。©小山宙哉/講談社

小山 なるほど、移動中にそういう刺激があるのはいいですね。マンガ家はずっと仕事場の狭い中で、想像でいろいろ作らないといけないので、外部の刺激が欲しいんですよね。ミュージシャンはいいなと思うのは、いろんなとこに行けるじゃないですか。僕は仕事場以外では、ネームやるためにファミレス行くぐらいしかないんですよ。だから例えば……こないだもファミレス行ったらカップルがテーブルにいて、向かい合って座ればいいのに隣り合って座ってたんですよ、4人掛けの席で。そのときに、彼氏から見えない側の手で、彼女が鼻をほじってたんです。

一同 あははは!(笑)

小山 だけど僕の席からはそれがばっちり見えて(笑)。彼女の「彼氏には一応見えないように」という気持ちが見えましたね。

コウスケ それは相当面白いですね(笑)。

小山 もっとそういうネタが欲しいんですけど、最近はそれぐらいしかないですね(笑)。

「New World」は自分たちに向けた曲でもあった(タツヒロ)

──カサリンチュさんの話に戻すと、兼業から音楽1本に絞るきっかけは何かあったんですか?

タツヒロ 兼業ミュージシャンとして行き来してるときに、土日はいろんなイベントに出させてもらったり、憧れてたミュージシャンのライブを観る機会があったり、その人が楽屋で近くにいたりする機会も増えたので、小さい頃からの気持ちがずっと大きくなってたという感じですね。あるひとつのきっかけというよりは、徐々に徐々にです。

コウスケ 自分は代わりがたくさん増えてきてバイトに入りにくくなったというのもあるんですけど(笑)、ある日その居酒屋が閉店することになってしまって。そういうときにツアーとかもありましたし、あとタツヒロの気持ちもわかってたので、自分も少し遅れて音楽一本に絞ったという形ですね。

──音楽一本に絞ってからは、曲作りなどでこれまでと変わったことはあるんでしょうか。

タツヒロ(カサリンチュ)

タツヒロ 1曲1曲に時間をかけられる期間が長くなってきたので、そこですかね。例えば今までは原曲だけ島で作って、東京でいろんな音が付け加えられて返ってきてそれを聴くだけだったのが、現場に立ち会うことも増えてきました。これってホントは当たり前のことなんですけど、僕たちはスタートが特殊でしたから。だけど伝えたいこととか歌いたい思いはそんなに大きく変わってない気はします。

──そしてその頃に作ったのがアニメ「宇宙兄弟」エンディングの「New World」。

タツヒロ 「もっともっと音楽をやりたいな」って気持ちがどんどんでっかくなってきてた時期だったんですよね。だからディレクターとも曲を作りながらそういう話をちょいちょいしてたら、「自分を投影して歌詞を書いてみたら」って言ってもらえました。

──まさに新しい世界にチャレンジする歌になったわけですね。

タツヒロ 新しい世界に踏み出したい人の背中を押す曲でもあり、自分たちにも向けた曲でもありという感じですね。

カサリンチュ 3rdアルバム「カサリズム3」 / 2016年5月18日発売 / EPICレコードジャパン
初回限定盤 [CD+DVD] 3800円 / ESCL-4561~2
通常盤 [CD] 3200円 / ESCL-4563
CD収録曲
  1. たいせつなひと
  2. メリーゴーランド feat. NANAE & MAIKO(from 7!!)
  3. 最近彼女が出来まして
  4. ハッピーエンド
  5. new energy
  6. 故郷(ふるさと)
  7. Interlude
  8. ナイスダンス
  9. アイラブユー
  10. タイムカプセル
  11. あなたの物語
  12. さあいこう
  13. やまおりたにおり
  14. あと一歩
初回限定盤DVD収録内容
  • ハッピーエンド MusicVideo
  • 故郷 MusicVideo
  • 風 MusicVideo
  • たいせつなひと Music Video
  • カサリズム3楽曲解説
カサリンチュ
カサリンチュ

ボーカル、アコースティックギター担当のタツヒロ(写真左)と、ヒューマンビートボックス、ボーカル、アコースティックギター担当のコウスケ(写真右)によるユニット。鹿児島県奄美大島笠利町在住で、ユニット名は「笠利の人」を意味する。高校の同級生だった2人は東京での生活を経て、一度は島に帰郷するが、友人の結婚式をきっかけにユニットを結成。ともに2013年までは奄美大島で仕事をしながら音楽活動を続ける。2007年、奄美群島限定でミニアルバム「kasarinchu」をリリースし、1000枚を超えるセールスを記録。2010年、ミニアルバム「感謝」にてメジャーデビュー。2012年9月に1stアルバム「カサリズム」を発表。2013年11月、アニメ「宇宙兄弟」のエンディングテーマ「NewWorld」をリリースした。2016年6月より、全国ツアー「カサリズム3」に挑む。

カサリンチュ 全国ライブツアー2016「カサリズム3」
2016年6月4日(土)大阪府 UMEDA CLUB QUATTRO
2016年6月5日(日)鹿児島県 CAPARVO HALL
2016年6月25日(土)岡山県 MO:GLA
2016年6月26日(日)福岡県 Gate's7
2016年7月3日(日)愛知県 名古屋SPADE BOX
2016年7月10日(日)北海道 cube garden
2016年7月24日(日)宮城県 仙台Hook
2016年8月11日(木)富山県 富山県民小劇場オルビス
2016年8月13日(土)東京都 TSUTAYA O-EAST

「宇宙兄弟」27巻&最新28巻発売中!

小山宙哉「宇宙兄弟(27)」 / 講談社
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Kindle版 / 540円

父の命を奪ったALSを治す薬を作るため、ISSで実験を繰り返すせりかだが、思うような成果が出ない。そんな時、せりかに個人的な恨みを持つ人間が、ネット上に「毒薬」をばらまいた。悪意は一瞬で拡散し、地球からの激しいバッシングは、せりか本人の耳にまで届いてしまう。そして告げられる実験中止命令。追い詰められたせりかの周りに、水滴が舞った──。

小山宙哉「宇宙兄弟(28)」 / 講談社
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せりかたちのALS実験が成功したという知らせに喜びを噛み締めながら、ジョーカーズはシャロン月面天文台を建設するため月の裏側へ向かう。予想外のトラブル、姿を消す仲間……。六太(ムッタ)は自らの足で人類未踏の闇へと踏み出していく。

小山宙哉(コヤマチュウヤ)

1978年京都生まれ。初めての持ち込み作品「ジジジイ」 で第14回マンガオープン審査委員賞(わたせせいぞう賞)を受賞。「ハルジャン」「ジジジイ-GGG-」などのヒットを経て、2007年12月からモーニング(講談社)で代表作「宇宙兄弟」の連載をスタートさせる。同作はアニメ化、実写化を果たしたほか、第56回小学館漫画賞一般向け部門、第35回講談社漫画賞一般部門、2014年の手塚治虫文化賞読者賞を受賞している。