コミックナタリー Power Push - カサリンチュ×小山宙哉
「New World」へ踏み出してからの「あと一歩」
タツヒロ(カサリンチュ)、小山宙哉、コウスケ(カサリンチュ)
カサリンチュが3枚目のアルバム「カサリズム3」を発表した。アニメ「宇宙兄弟」のエンディング曲「New World」を歌っていた彼らの新作に収録されている「あと一歩」は、「宇宙兄弟」27巻のテーマ曲として制作されたもの。この曲はどのような思いで作られたのか。また彼らと「宇宙兄弟」との意外なリンクとは。「宇宙兄弟」作者・小山宙哉とともに語ってもらった。
取材・文 / 松本真一 撮影 / 笹井タカマサ
4月20日に小山宙哉ファンクラブ1周年記念で行われた「小山宙哉×カサリンチュ スペシャルトーク&ライブイベント」では、「あと一歩」のライブ初披露が行われたほか、ミュージックビデオが製作中であると発表された(参考:カサリンチュの歌う「宇宙兄弟」せりかのテーマ、ファン参加型MV制作決定)。監督を務める映像作家・高瀬裕介の「ファン参加型にしたい」という要望により、ミュージックビデオはファンの写真を取り込んだ映像になることが決定。小山の公式サイトで販売された「コヤチュー部1周年記念Tシャツ」を購入することで映像に出演できる(ただしTシャツはすでに完売)。現在公開されている映像は製作途中の状態だが、マンガのコマと歌詞がリンクした、ファン必見の内容だ。
小山さんと会うときは自分のことを「コロスケ」だと思うようにしてますから(コウスケ)
──カサリンチュさんのニューアルバム「カサリズム3」には、「宇宙兄弟」の27巻を読んで作った曲「あと一歩」が入っているんですよね。でもお二方はその前からご縁があるということで。
タツヒロ 2013年に、アニメ「宇宙兄弟」のエンディングテーマに僕らの「New World」という曲が使われたので、そこからですかね。
小山 だけどそもそも、おふたりが「宇宙兄弟」のエンディングを担当するのが決まる前に、僕は彼らの曲を聴いたことがあるんです。仕事中に聴いてたラジオで、いろんなミュージシャンが出るライブを流す番組をやってたんですよ。たまたまそこでカサリンチュさんのことが気に留まったんです。
──カサリンチュさんはアコギとヒューマンビートボックスという珍しい組み合わせのユニットなので、印象に残りやすいかもしれないですね。
小山 そうですよね。いい声だし、曲もすごく楽しくて。スタッフとも「いいね、この人たち」って盛り上がってたんですよ。そのときに聴いたのが「やめられない とまれない」という曲ですね。
タツヒロ ありがとうございます。
小山 あと、そのライブでコウスケさんが自己紹介してたんですけど、「コロスケです」って聞こえて。「コロスケ」でずっと覚えてたんですよ(笑)。
コウスケ 音楽的なことじゃなくて(笑)。だからその後、僕は小山さんと会うときは自分のことを「コロスケ」だと思うようにしてます。
──自分から(笑)。
タツヒロ アニメのエンディングを担当させていただいたあとも、しばらく小山さんと交流はなかったんです。でも小山さんのファンクラブ設立記念イベントが昨年ありまして、そこで「歌ってもらえませんか」ってお声をかけていただいて、「もちろんです」ということでゲスト出演させていただきました。お会いしたのはそこが初めてなんですけど、個人的にも「宇宙兄弟」が大好きだったんで、「変なとこ見られたら嫌だな」みたいな緊張感がありましたね(笑)。
コウスケ 小山さんって大作家なので、自分もやっぱり勝手に「怖い人だろうな」みたいなのがあったんですけど、お会いしたらすごく気さくで、それでもっと小山さんのことを大好きになりました。なんて言うんですかね、小さい頃に、近所の友達の家に行ったら「今日、家に兄ちゃんいるから」って言われたときってちょっと緊張したじゃないですか? そしたらその兄ちゃんがすごい気さくで、遊びやすかったみたいな(笑)。
小山 いや、僕のほうも緊張してましたよ。でも会ってみたらね、おふたりからは奄美大島の海の香りがしましたね。訛りも含めて温和な感じが伝わってきました。それは曲にも表れてるから、イメージ通りというか。柔らかい感じがありますよね。
砂糖を作ってた人の話を聞く機会ってなかなかないですよ(小山)
──最初は皆さん緊張していたということですけど、「また『宇宙兄弟』の曲を一緒にやりましょう」という話になったのが、その日の打ち上げだったとか。
コウスケ そうですね、お酒の力を借りて(笑)。根底に「宇宙兄弟」が大好きという気持ちがあるので、「また一緒にできたらな」という素直な気持ちが出てしまいました。
小山 お酒が入ってたこともあって、どっちから「やろう」って言い出したかはちょっと憶えてないんですけど。
──そこから実現までいったと。お酒の席でのそういう話って、立ち消えになりがちですけど。
タツヒロ それがですね、僕が「宇宙兄弟」27巻を読んだ感想をブログにアップしたら、その返事を小山さんも書いてアップしてくださって、そこから一気に話が進んでいったんです。
小山 アニメのエンディングを歌ってもらった以降もこうしてカサリンチュさんとのご縁が続いてるのは、おふたりと「宇宙兄弟」のムッタにリンクする部分があるからだと思うんですよね。カサリンチュはミュージシャンになるために上京したけれども夢を一度諦めて地元に帰って、にも関わらず、島でそれぞれの仕事を続けながらメジャーデビューされたという話を以前聞いて。ムッタも一度は宇宙飛行士になる夢を諦めてサラリーマンをやってたところから再度奮起したという設定ですから。
タツヒロ そうですね、僕はデビュー当時は奄美大島で会社員をやってました。「年休の範囲内だったら活動していいよ」という許可が会社から出てたので、土日とその前後に年休を取って、どっちの仕事にも不都合がないように音楽活動をやってたんです。
小山 何の仕事をしてたんでしたっけ?
タツヒロ サトウキビから砂糖を作る製糖会社ですね。工場部門と事務所部門があって、僕は事務所で総務とか給与計算をしてました。あとはサトウキビの畑を回るような部署にも行ってましたし。
小山 サトウキビの砂糖って、一般に売ってる砂糖ですか?
タツヒロ 白い砂糖になる前の「原料糖」という砂糖があるんです。ザラメとか言われたりもする、ちょっと茶色いやつですね。あれを北九州に出荷して、そこで白い砂糖にするんですよ。
小山 ああ、そうなんですね。砂糖作ってた人の話を聞く機会ってなかなかないですよ(笑)。コウスケさんは別の仕事ですか?
コウスケ 僕は居酒屋と弁当屋ですね。シフトを調整してもらって、僕が内地で音楽活動するときは後輩とか知り合いとかに入ってもらって。音楽の割合が大きくなってきたら、いつのまにか俺の代わりがもうバイト先にいて、ちょっといづらい雰囲気になるということもありました。
タツヒロ 「あれ、今日いるんスか?」って(笑)。
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- カサリンチュ 3rdアルバム「カサリズム3」 / 2016年5月18日発売 / EPICレコードジャパン
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3800円 / ESCL-4561~2
- 通常盤 [CD] 3200円 / ESCL-4563
CD収録曲
- たいせつなひと
- メリーゴーランド feat. NANAE & MAIKO(from 7!!)
- 最近彼女が出来まして
- ハッピーエンド
- new energy
- 風
- 故郷(ふるさと)
- Interlude
- ナイスダンス
- アイラブユー
- タイムカプセル
- あなたの物語
- さあいこう
- やまおりたにおり
- あと一歩
初回限定盤DVD収録内容
- ハッピーエンド MusicVideo
- 故郷 MusicVideo
- 風 MusicVideo
- たいせつなひと Music Video
- カサリズム3楽曲解説
カサリンチュ
ボーカル、アコースティックギター担当のタツヒロ(写真左)と、ヒューマンビートボックス、ボーカル、アコースティックギター担当のコウスケ(写真右)によるユニット。鹿児島県奄美大島笠利町在住で、ユニット名は「笠利の人」を意味する。高校の同級生だった2人は東京での生活を経て、一度は島に帰郷するが、友人の結婚式をきっかけにユニットを結成。ともに2013年までは奄美大島で仕事をしながら音楽活動を続ける。2007年、奄美群島限定でミニアルバム「kasarinchu」をリリースし、1000枚を超えるセールスを記録。2010年、ミニアルバム「感謝」にてメジャーデビュー。2012年9月に1stアルバム「カサリズム」を発表。2013年11月、アニメ「宇宙兄弟」のエンディングテーマ「NewWorld」をリリースした。2016年6月より、全国ツアー「カサリズム3」に挑む。
- カサリンチュ 全国ライブツアー2016「カサリズム3」
- 2016年6月4日(土)大阪府 UMEDA CLUB QUATTRO
- 2016年6月5日(日)鹿児島県 CAPARVO HALL
- 2016年6月25日(土)岡山県 MO:GLA
- 2016年6月26日(日)福岡県 Gate's7
- 2016年7月3日(日)愛知県 名古屋SPADE BOX
- 2016年7月10日(日)北海道 cube garden
- 2016年7月24日(日)宮城県 仙台Hook
- 2016年8月11日(木)富山県 富山県民小劇場オルビス
- 2016年8月13日(土)東京都 TSUTAYA O-EAST
「宇宙兄弟」27巻&最新28巻発売中!
- 小山宙哉「宇宙兄弟(27)」 / 講談社
- 617円
- Kindle版 / 540円
父の命を奪ったALSを治す薬を作るため、ISSで実験を繰り返すせりかだが、思うような成果が出ない。そんな時、せりかに個人的な恨みを持つ人間が、ネット上に「毒薬」をばらまいた。悪意は一瞬で拡散し、地球からの激しいバッシングは、せりか本人の耳にまで届いてしまう。そして告げられる実験中止命令。追い詰められたせりかの周りに、水滴が舞った──。
- 小山宙哉「宇宙兄弟(28)」 / 講談社
- 617円
- Kindle版 / 540円
せりかたちのALS実験が成功したという知らせに喜びを噛み締めながら、ジョーカーズはシャロン月面天文台を建設するため月の裏側へ向かう。予想外のトラブル、姿を消す仲間……。六太(ムッタ)は自らの足で人類未踏の闇へと踏み出していく。
小山宙哉(コヤマチュウヤ)
1978年京都生まれ。初めての持ち込み作品「ジジジイ」 で第14回マンガオープン審査委員賞(わたせせいぞう賞)を受賞。「ハルジャン」「ジジジイ-GGG-」などのヒットを経て、2007年12月からモーニング(講談社)で代表作「宇宙兄弟」の連載をスタートさせる。同作はアニメ化、実写化を果たしたほか、第56回小学館漫画賞一般向け部門、第35回講談社漫画賞一般部門、2014年の手塚治虫文化賞読者賞を受賞している。