アニメ「彼氏彼女の事情」|榎本温子が20年ぶりに振り返ったら、稀有な現場が浮かび上がった“めっちゃエモい”青春アニメ 人気エピソードの結果発表も!

他作品のアフレコが妙にあっさり感じる

──初めてのアフレコだったという「カレカノ」の全収録を終えて、ほかの作品に参加してから振り返って感じた「カレカノ」ならではの部分はありましたか?

すぐに別のアニメにレギュラーで入ったんですけど、アフレコが「あれ? もう終わり? 録り直さないんだ」みたいな……。

──妙にあっさりに感じる。

そうそう、でもあるとき気付いたんですよ。「カレカノ」が特殊だったんだ、と(笑)。

──(笑)。

「アフレコってこういうふうに、キャストがそれぞれ役を作ってきて、演じて、少し直していく作業なんだ」と。「カレカノ」では事前に役を作ることは一切しなかったんです。変に作っていっちゃうと、癖をとるのが大変なので。現場で作っていくことに慣れちゃってたから、ほかの作品があっさり感じちゃいましたね。アフレコも3、4時間くらいで終わるわけですよ(笑)。

──1話は7時間半かかったとおっしゃいましたが、その後は平均して何時間くらい?

もうめいっぱい使ってて、5、6時間くらい。後から思うと、周りの皆さんに申し訳なかったなと。素人の私たちに合わせないといけないから、周りの人は大変だっただろうなって。ゲストキャラのキャストさんとか、「やべえんだよ、あの現場」って思ってたんだろうな(笑)。

アニメ「彼氏彼女の事情」第23話より。

──でもだからこそ、日常会話のような雰囲気があり、自然に観られる空気をまとっていたように感じます。

それはプレスコだったからですね。でも今例えプレスコでやっても、ある程度アニメの間合いでしゃべると思うんです、私も。あの頃だったからできた気がしますね。あとは庵野さんの波長と合うかどうか(笑)。音響監督からのダメ出しというと、今は「もう少しこのフレーズを立たせて」とか、技術的なことがほとんどだと思うんですけど、「カレカノ」は「とりあえずもう1回ちゃぶ台?」って(笑)。何に気を付けてやればいいのかがわからないから、探りさぐり。ちょっと恋愛みたいですよね。具体的な正解がない、みたいな。 でもホント、波長が大きいと思う。庵野さんとの。

──(笑)。

でもそれが嫌だとは思わなかったし、理不尽なことは言われなかった。あくまでふんわり「もう1回ちゃぶ台?」って言われてました(笑)。本当に(安野モヨコの)「監督不行届」で描かれているカントクくんみたいな感じです。作中でも偏食だと描かれていましたが、みんなで中華屋さんに行ったとき、庵野さんが白米しか頼んでいなかったことも衝撃で、よく覚えています(笑)。

「カレカノ」は“めっちゃエモい”作品

──「カレカノ」はただの恋愛劇ではなく、人間を深く掘り下げるようなテーマがたくさん盛り込まれています。印象的だった展開やセリフなどがあれば教えてください。

やっぱり、雪野がほかの誰でもない有馬くんに出会って、本当の自分に気付いたっていうところがすごくいいお話だなと思います。鏡合わせのように、有馬くんも雪野に出会って気付く。そういう影響のしあいが恋愛にも、彼女たちの学校生活そのものにもなっているっていうのが、すごくエモーショナル。誰しも人生では何度か自分を形作ってくれるような誰かとの出会いがあると思うんですが、彼女たちはそんな存在に出会えたのが早かったのかなと。アニメの後も原作ではお話が続いていましたが、実はしばらく読めなかったんです。私は雪野以外の視点では受け止められないので、有馬くんが過酷な目に遭うのがつらくて。完結してから一気に読んで、「ああ、よかったな」と心から思いました。

アニメ「彼氏彼女の事情」第26話より。

──雪野を演じなくなってからも、シンクロは続いていたんですね。ブログで榎本さんは、「カレカノ」を「今でも経歴の一番上に書く、大切な大切な作品」「私は相変わらず宮沢雪野です」と綴っていました。

私にとってはすべての始まりが「カレカノ」なので。庵野さんが何かで活躍するたびに、皆さんにこの作品を思い出してもらえるっていうのもすごくありがたくて。こんな役を最初にいただけて、感謝の気持ちでいっぱいです。「カレカノ」は知らなくても、「エヴァ」「シン・ゴジラ」の監督だよって言えば誰でもわかるじゃないですか。「ヱヴァ」の新劇場版で「カレカノ」の劇伴が使われていたのを観て、「はっ! なんか緊張する!」と思っていました(笑)。

──2009年公開の「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」ですね。数曲が使用されていました。

2016年の「シン・ゴジラ」もすぐ劇場に観に行ったんですけど、役者さんの早口なセリフ回しを見てて「あー、これ、庵野さんが『巻いてしゃべってちょ』って言ったんだろうな」って(笑)。現場の様子がすぐ思い浮かびました。すごく面白かったです。

──最後にメッセージをいただければと思うんですが……当時観ていた方はもちろん、現代の雪野世代というか、作品をまだ知らない若い世代の子たちにも絶対に響くであろう作品だと勝手に思っていまして。その両方に、言葉をいただいてもよろしいですか。

はい。まず既存のファンの方は、Blu-rayということで映像がかなりきれいに生まれ変わっているので、ぜひ観ていただきたいです。何より、特典のブックレットがもう、今だからこそ話せる内容満載でめちゃくちゃ面白い(笑)。当時の庵野さんの思惑とか、「そうだったんだ」って思うこともあったし、期待して読んでほしいです。そして、私も若い世代の方にぜひ観てほしくて。今の学生さんにも伝わるポップさだと思うし、むしろ今の高校生の雰囲気に合ってるんじゃないかな。今風に言うと、“めっちゃエモい”。

──あはは(笑)。

付き合い始めた回にすぐ、エンディング曲がソロから雪野と有馬のデュエットバージョンになるとか、もうとにかくエモいじゃないですか!(笑) そういうふうに丁寧に男女のことも描かれているし、家族の話も学校の話もあって、学校生活がちょっと楽しくなるようなアニメだと思うので、ぜひ一度観てみてほしいですね。

──そしてもちろん、「シン・ゴジラ」や「ヱヴァ」新劇場版で庵野監督に興味を持った方にも。

そうですね。「カレカノ」の頃って、まだ萌え文化が全盛ではなかったと思うんです。もし今「カレカノ」をアニメ化したら、もっとブリブリというか、萌えが入った感じになっちゃうと思うんですけど、そうではないナチュラルなかわいさがある。そういうところでも、アニメではなく日常の延長みたいに感じてもらえるんじゃないかなあ。これを機会にいろいろな方に観ていただけるといいなと思っています。

榎本温子