「神さまがまちガえる」仲谷鳰が今、日常ものに挑む理由。自分が読みたいものを描く楽しさと難しさ (2/3)

かさねはドラえもんみたいなキャラクター

──キャラクターや作品の舞台についてもお話を伺いたいのですが、先ほどのお話でも出たように、かさねは自分だけがバグらないという設定ですよね。今後の展開にいろいろ関係しそうな設定で、興味深いなと思ったのですが。

この設定はかさねの特別感を出したかったからと、バグの解説役が欲しかったからという理由で作りました。担当編集さんとは「『神ちガ』ってドラえもん形式の物語だよね」みたいな話をよくするんですけど、いわばかさねはドラえもんポジションのキャラというか。バグのことを理解して状況を俯瞰している人が1人はいてくれたほうが、作品内でできることが多いかなとも思っていて。

──そんなかさねと紺はシェアハウスで共同生活を送っています。このシェアハウスの設定は、どんな感じで決まっていったのでしょうか。

「神さまがまちガえる」第1話より。

「神さまがまちガえる」第1話より。

当初は紺とかさねが2人で暮らしている設定だったんです。先ほども言ったように初期の構想だとバトルものだったり、特殊能力があったりと、もうちょっとフィクション色の強い話だったので、2人暮らしでも気にしていませんでした。でも「神ちガ」ではバグの設定は非現実的とはいえ、そこで暮らす人の生活はリアルに描きたかったんです。そうすると特に血がつながっているわけでもない大人と子供が2人で生活しているのはちょっと危ういというか、読んでいて心配な感じがするかなと思いまして。「神ちガ」は安心して読める作品にしたかったので。

──リアリティラインを変えた結果、2人暮らしだと問題が出てきてシェアハウスに落ち着いたと。

定期的にどちらかが通ったり、2人で会ったりという関係性も考えたんですけど、やっぱり一緒に住んでいるほうができることが広がりそうだなと思ったのもあって、シェアハウスにしました。もともと他人同士が集まって生活する場で、ほかの人も暮らしているので、自然な感じになるんじゃないかなと思って。さらにいろんな要素が噛み合った結果、シェアハウスに落ち着きました。

──かさねと紺のほかに、シェアハウスには円子さん、恒成くん、伊与田さんの3人が住んでいて、家政婦のよし乃さんがいることもありますね。各キャラの設定はどう考えていったのでしょうか。

賑やかにしてくれそうなキャラと、まとめ役してくれそうなキャラと……みたいな感じでバランスを考えつつ、バグが起きたときにそれぞれ違うリアクションをとってくれるように配置を決めていきました。ただ、キャラを深掘りする回が来るまではあんまり設定を確定させないでおきたい気持ちがあって、実は私自身「この人たちが何を考えているのかはまだわからないな」と思っています。

──単行本に収録されているエピソードの中で、特に印象に残っているものはありますか。

第4話は左右反転バグというけっこうややこしいバグを扱っている理屈っぽい話なんですけど、ああいう認識を書き換える系の物語は描いていて楽しかったです。SCP財団ってわかりますか?

──未確認生物や不思議な性質を持つ物品、奇妙な現象が起こる場所などに関する架空の報告書を集めたサイトですね。

人間の認識とか記憶を書き換えてくるSCPの記事を読むのが割と好きなので、こういうバグが描けてよかったなと。

──かさねが紺たちに騙されるくだりは少しゾッとするところがあり、それまでの話にないテイストが楽しめました。

「神さまがまちガえる」第4話より。

「神さまがまちガえる」第4話より。

あと第5話のツチノコの話も割と気に入っていて。第4話が動きのない話だったので、わかりやすくドタバタ動くような話にしたいなと思ったんですけど、そのドタバタ劇の中にいろんな要素を盛り込むことができました。見る人によって姿が変わるというバグの仕組みとか、学校から始まってシェアハウスにたどり着いて、これまで紺が別々に接していたキャラクターたちが合流する展開とか。いい感じにまとまったかなと思っています。そしてなぜかツチノコがかわいいと評判に(笑)。

──その視点はありませんでしたが、確かに(笑)。

単行本のデザイナーさんもあのツチノコをカバーデザインに使ってくださったりして。

「神さまがまちガえる」第5話より、バグで発生したツチノコ。

「神さまがまちガえる」第5話より、バグで発生したツチノコ。

──ツチノコもUMAですし、SCP財団もお好きとのことなので、今後もオカルト系の題材は出てくるのでしょうか。

もしかしたら変な生き物は出てくるかもしれないですね。

──第4話と第5話の話を伺っていて思ったのですが、仲谷先生の作品だと過去にもホラーっぽいテイストのものがありますよね。第3話の階段の話もそうですが、読み切りの「さよならオルタ」「なみだ風味エスカルゴ」もちょっとゾッとするところがあって。

ホラーは好きで、ホラー映画もよく観るのですが、作品を作るうえで意識していたわけではないですね。ページをめくった次のコマでちょっとビックリさせるとか、そういう仕掛けは楽しいなと思うので、そのせいかもしれません。

仲谷鳰がいま読みたいもの、描きたいものを詰め込んだ「神ちガ」

──「神さまがまちガえる」というタイトルについてずっと気になっていたのですが、「まちガえる」の「ガ」だけカタカナですよね。作品の題材がバグなのでここだけ文字がバグっているようなイメージなのかなと勝手に思っていたのですが、どういう理由でこの表記になったのでしょうか?

おっしゃる通りバグっている感じを出したかったからです。「かみさまがまちがえる」という音は先に決まっていて、担当編集さんと相談しながらいろんな書き方を考えたんですよね。「まちがえる」を漢字で書いたらちょっとシリアスっぽい感じに見えちゃったりするんじゃないかとか、カタカナを入れてみたらポップな感じになるんじゃないかとか検討していって……最終的になぜ1文字だけカタカナになったのかはご想像にお任せします。ただ、すごく表記揺れするだろうなとは思いますが(笑)。

──あとがきでも気にしていましたよね(笑)。いろいろ細かいお話を伺ってきましたが、作品全体の方向性として、軸に据えていることはありますか。

「神ちガ」は1話ごとに「今回も楽しかったな」「また次も読みたいな」みたいな気持ちで読んでもらえるマンガになるといいなと思っているのと、先ほども言ったように「安心して読める」ということは大事にしています。バグっている世界という設定なのでめちゃくちゃ危ないこともできるんですけど、でもそういうことはやらないですし、キャラが死んだり、本当に悪いことをしちゃったりすることもしないかなと。あとはとにかく私が今描きたいもの、読みたいものを描いています。

「神さまがまちガえる」1巻

「神さまがまちガえる」1巻

──想定読者は仲谷先生ご自身ということですね。「神ちガ」は子供の頃に誰しもが抱くような、日常の中にちょっと不思議なことが起こってほしいという憧れや妄想が形になっているようなマンガですよね。読んでいてそこが魅力的だなと感じたのですが、そういう妄想を形にしたような作品を読みたいということなのでしょうか?

そこまでそういう妄想をするタイプではないのですが(笑)、「神ちガ」を読んでそのような感想を持っていただけるのはとてもうれしいです。

──本当に毎回趣向が違うというか、日常ものではありますが、SFっぽい回もあったり、ホラーっぽい回もあったり、ほっこりした回もあったりで、ジャンルをあまり気にせず、純粋にマンガを楽しむ気持ちで読ませていただいています。

ありがとうございます。「神ちガ」はどこからでも読めるし、読みたくなったときにふらっと立ち寄って楽しめる作品になっていると思うので、気楽に読んでいただきたいですね。

プロフィール

仲谷鳰(ナカタニニオ)

滋賀県出身、東京都在住。マンガ家。「さよならオルタ」で第21回電撃コミック大賞金賞を受賞しデビュー。月刊コミック電撃大王(KADOKAWA)にて2015年から2019年まで連載された「やがて君になる」は累計発行部数100万部を突破しており、2018年にTVアニメ化、2019年に舞台化を果たした。