月刊コミックZERO-SUM(一迅社)で連載中の「神クズ☆アイドル」は、顔はいいがまったくやる気のない“クズアイドル”の主人公・仁淀ユウヤと、伝説の“神アイドル”最上アサヒが出会い、自身に憑依させることでアイドル界のトップを目指していくアイドルコメディ。7月よりTVアニメも放送中だ。
コミックナタリーでは最新6巻の発売を記念した特集を実施。アイドルとオタク、両方の顔を持つ“アイドルオタクアイドル”末吉9太郎に、「神クズ☆アイドル」を読んでもらい、同作の魅力を語ってもらった。アイドルとオタクの生態を知り尽くす末吉は、「神クズ☆アイドル」をどう読んだのか?
取材・文 / 増田桃子撮影 / ヨシダヤスシ
「イケメン産直市」これ、絶対あります!
──先ほどの撮影では、素晴らしい“アイドルオタクアイドル”っぷりをありがとうございます。普段はうちわとか持たれますか?
うちわはあんまり持たないですね。双眼鏡かペンライト。僕、推しの動きを一切見逃したくないから。
──双眼鏡はマストアイテムですよね。
はい!
──ではまずは「神クズ☆アイドル」をお読みになった感想から聞かせてください。
もう……本当に「そうだよね!」ってなりました。超リアル。細かい「あるある」がいっぱい入ってるから、ずっとニヤニヤ笑いながら読んでましたね。お気に入りポイントを写真に撮ったんですけど、超いっぱいありますよ。
──どんな「あるある」がありましたか?
まずこの「男性アイドル合同フェス イケメン産直市」! これ、絶対あります、リアルにある(笑)。
──(笑)。ちょっとトンチキな感じの名前がリアルですよね。
このネーミングがもう天才!と思って。「イケメン産直市」開いてほしいですね。あと僕はオタクでもあるけどアイドル側もやらせてもらってるんで、こういういろんなアイドルが出るイベントのときって、その人のオタクの方からDMが来るんですよ。「うちの○○をよろしくお願いします」「恥ずかしがり屋であんまりしゃべれないと思うので……」みたいな。まさに同じようなシーンが出てきて、「これ、僕にもめっちゃ届くんだけど(笑)」って。本当にマンガのあの感じでDM来るんですよ。
──そうなんですね(笑)。
あと僕が普段から言ってることとほぼ同じセリフがあって……。由良ちゃんの「私たちにとっては何百回歌う歌でも……ファンの人にとっては1回だけしか聞けない歌かもしれないのよ」っていうセリフなんですけど、僕もけっこう昔からメンバーに言ってて。もしかすると今日来てるファンの人は、僕たちを見てくれるの最後かもしれないし、人生で最後のライブになるかもしれないから、僕たちも最後のつもりで全力でライブしようって。由良ちゃんのプロ意識、素晴らしいなと思いました。
──逆にオタク的な目線での「あるある」もありましたか?
いっぱいありますよ。活動休止して留学、超あるあるじゃないですか?
──(笑)。
アイドルって1つのグループに1人は留学するところありません? で、思いがけず早めに帰ってきたりするじゃないですか。そういうのあるわーと思って、めっちゃ笑いました。
──海外に行って一度忘れたいんですかね。アイドルであることを。
どうなんですかね。やっぱり活動する中で大変なことはあるから、1回外の世界にいきたいんでしょうかね……。
──マスコミに追われることもなくなりますもんね。
ああ、確かに。あと「マウント取りたいわけじゃないけど、塩時代も良さがあったもん」っていうセリフも、すごくわかると思って。優秀な推しだけがいいわけじゃないじゃないんですよ。ちょっとできないところとか、それこそ塩対応とか、それはそれで尊い。ちゃんと仕事をするようになって神対応になったからって無条件にうれしいだけじゃないんですよ。
──あの頃の推しも、それはそれでよかったなと。
あの時代もよかったよねーみたいな。あと「アサヒちゃんといい、瀬戸内くんといい人気アイドルはヤバイやつばっかりなのか!?」は、本当にそれはそう(笑)。人気アイドルだけじゃないですけど、アイドルっていい意味でヤバい人が多いし、その中で人気になっていく人は選ばれしヤバい人だと思ってるので。もちろん、いい意味でですよ。だってヤバくないと芸能界を登りつめていけないと思うので。だから有名になるアイドルはいい意味でヤバい人。
──「あるある」がどんどん出てきますね(笑)。
ほかにもいっぱいありますよ。特にすごく刺さったセリフがあって。「現場に来れば推しに会えるって、当たり前のことじゃないのよね」ってセリフ。やっぱりコロナ禍になって、今まではお金を払えば、チケット取れれば、会えたのにそれが全部なくなって。現場に行けば推しに会えるどころか、現場に行くことも当たり前じゃないんだなと思ったら、行けるときに全部行っておこうってすごく思ったので、共感しちゃいましたね。絶対オタクの人たちには共感ばかりだと思います!
僕にも塩対応の推しがいたんです
──「神クズ☆アイドル」の主人公・仁淀くんは、顔はいいけどやる気のない、楽して稼ぎたいぐらいのノリでアイドルをやり始めた子ですが、彼についてはどう思いましたか?
いや、これはマジでいい加減にしてほしい。ははははは(笑)。
──(笑)。
マンガで読んでいるといろんな面が見えてきたり、成長していく姿とか見れるから、がんばってほしいな、みたいな気持ちにもなってくるけど、もし身近にこの子がいたら「マジでふざけるなよ」って思っちゃうと思います。アイドルなめとんかっていう(笑)。だってアイドルになりたい人は世の中にいっぱいいるじゃないですか。何万人っているのに「楽して稼ぎたい」とか言われると……「お前なんなん?」ってなる。
──そうですよね。ただ一応、巻数が進むごとに成長というか、多少は変化してるかなと思うので……。
それは感じました。最初は「なんなん?」って思ってたけど、いつの間にかちょっと応援している自分もいますね。やっぱりどんなアイドルでもちゃんと追っていると、素敵なところは見えてくると思うので。
──裏で女の子と遊んでるとか、アイドルとして致命的にだめなことはしてないですからね。
そこが救いですね。こういうタイプの子ってそっちもお盛んなパターンも多いと思うんですよ(笑)。楽して稼ぎたいうえにかわいい女の子とも付き合えちゃうみたいなところもあるじゃないですか。だからそこは救い。そっちは手を出してないところがよかった。
──では仁淀くんは、末吉さん的には苦手なタイプのアイドルですか。
あ、でも僕にも塩対応の推しがいたんですよ。握手会に行ったら、めっちゃ嫌そうに片手でやってて。しかも顔を背けて。でも当時はそれでもうれしかったんですよね……。そういうところも「あっ嫌なんだ握手、かわいい!」ってなっちゃって。そういうところも込みで好きになってるというか、結局は推しだったらなんでもいいんでしょうね。
──それはもう作中の仁淀オタクと一緒ですね(笑)。
完全にそう(笑)。ちょっと不機嫌そうにしてても、カメラ回ってるのにそういうことしちゃうところも「だよねー」って楽しんでしまうんですよね。
推すならアサヒちゃん、なりたいのは吉野くん
──では仁淀くんに憑依する“神アイドル”のアサヒちゃんはどうですか?
プロ。大好き。超大好き。
──やっぱり(笑)。
プロ意識高いアイドルが好きなんですよね。しかもアサヒちゃんって学校に行ってるじゃないですか。僕、学生生活しながらアイドルしてる方への尊敬がすごくて。本当にありがとうって思ってるんです。だって放課後とかに友達と遊ぶ時間を削って、レッスンもやらなきゃいけないしSNSもやらなきゃいけないし、土日はライブだし。本当に尊敬してるので、それを完璧にこなしてるのが尊いなと思いますね。ありがとうの気持ちしかない。
──アサヒちゃんは、アイドルになるために生まれてきたような子ですよね。
レッスンもリハも全部が楽しい、みたいなところは自分と重なりましたね。僕もそういうタイプなので。でもだからこそきっと大変な思いしてるんだろうなって思いながら見ちゃいます。こんなふうになんでもできると、ほかのメンバーとかに妬まれたりしそうだな、とか。そういうところも心配になっちゃうし。
──そういった裏側のことまで考えるのは、アイドル活動されてる人ならではの意見なのかなと。
そっか。でも僕、オタク時代からそうでした。メンバー同士が笑ってたりしててもほんとに?って疑いの目で見たり(笑)。MCとかでメンバーがしゃべってるときに、その子と不仲説が出てるメンバーの顔とか見たりして。あんまり笑ってなかったりすると「ああ、やっぱりね」って(笑)。裏側も想像して楽しんでるタイプのオタクだったんで。
──それは純粋に楽しめなくなったりはしないですか?
あ、全然楽しめますよ。そこも込み込みでアイドルの魅力なので。
──なるほど。ではもし推しにスキャンダルとかが出たときは、どういう捉え方されるんですか?
僕は基本的にバレないでやってくれればいいんです。もしスキャンダルが出ちゃっても、多少はショックも受けると思うけど、その写真さえも楽しむみたいなところはありますね。「あ、普通に電車乗るんだ」とか「あ、住宅街とか歩くんだね」みたいな感じで(笑)。推しのスキャンダルが出て、モチベーション下がって推さなくなるみたいなことはないです。
──推しにこれやられたらモチベーション下がるみたいなことはありますか?
うーん………犯罪?
──(笑)。
犯罪さえしなきゃいいかなって(笑)。
──まあ犯罪したらアイドルではなくなっちゃいますからね。
そうですね(笑)。それ以外はなんでも大丈夫です。
──では仁淀くんとコンビを組む吉野くんはどうですか? 仁淀くんとは逆に一生懸命で、とても好感度が高いなと思うのですが。
僕、吉野くんになりたかったです。ちょっと自信がないけど、ステージに立つことで輝いてて、ファンの人もいっぱいいて。たまに緊張しちゃってしゃべれなくなっちゃう、みたいなところもかわいいですし、実は自分に自信がないところとか、もう完璧やんと思って。こうなりたかったです。
──理想のアイドルですか。
理想のアイドルですね。こうなれたら僕の人生も違っただろうな……って思います。「オタクあるある」やらなくてもちゃんと需要あるから(笑)。
──(笑)。
それに吉野くんって仁淀くんに対して怒ったりすることも、ほとんどないじゃないですか。さっきも言いましたけど、もし僕が吉野くんの立場だったら、けっこう揉めると思うんですよ。「お前さ、ステージ立ってんだからオンにしてしゃべりなよ」とか言っちゃうと思うから。そこを怒ったりせずに、むしろフォローしてあげる優しいところも込みで理想ですね。
──なるほど。
だから推すで言うとアサヒちゃんみたいな隙がない子がいいんですけど、なりたいで言うと吉野くんですね。吉野くんが理想。僕にはないものを持ってるから、それを持ってる吉野くんには憧れます。
──ほかにもいろんなタイプのアイドルが出てきますが、特に気になったキャラクターいましたか?
七瀬さんですかね。「私はステージ上の自分が普通なんです」ってセリフがあるじゃないですか。これめっちゃわかるなと思って。「小さいときから今日の舞台みたいな世界にいることを考えていた」っていうのも僕と同じだし、「同じ事を続けているだけで生き残れるほどアイドルは甘くない」っていうのも、僕も思うから。もうほぼ一緒。きっと小さい頃から自分がステージに立つことばかり考えてたんだろうなって思います。あと僕もよく「キャラを作ってるんじゃないか」とか言われるんですけど、そんなことないんですよ。これが普通なんです。
──アイドルを演じてるとかそういう感覚はない?
演じてるのも込みで普通みたいな感覚ですね。意識的に演じようとは思ってなくて、ステージに立ったら勝手に声のトーンが上がるし、笑顔になる。メンバーには「裏表すごい」って言われるけど(笑)、でもどっちも無理してやってるわけではないから、どっちも普通の自分なんです。
──なるほど。無理してないっていうのは、大事ですよね。
そうそう、無理しちゃうと続かないから。しんどくなっちゃう。
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オタクとしてうれしかったことをアイドルとしてやってる