「夏だからプール」から話を作るとうまくいかない
──感情を引き出すという方向に転換したきっかけはなんだったんでしょう。
1巻に収録されている第5話の「かぐや様はいただきたい」というエピソードで、かぐやが非常に面白い動きをしてくれたことですね。
──白銀の手作り弁当を食べてみたいかぐやが、なんとかしてお弁当交換をしようとするも、自分からは言い出せずうまくいかないというお話ですね。
あのお話を描いたあと、最初はどうしてこんなにキャラが面白い動きをしてくれたのかわからなかったんですよ。分析をしていく中で、「キャラの感情を引き出せている」という部分にたどり着いて。そこから「今回はこんな恥ずかしがらせ方をしてみよう」「こうやってテンパらせよう」と感情の部分に重きを置くようになりました。
──感情を引き出すのには、どういった作業が必要になってくるんでしょうか。
物語の中でキャラクターをどんどん追い込むということですかね。僕はもともと、何かしらで追い込まれた先に人間の本性が出てくると思っているんですよ。悪い例ですけど、金銭面で追い込まれたとき、働こうとする人もいれば、他人に借りようとしたり、盗もうとする人もいたりっていうように、人間の本性が出てくるじゃないですか。その「追い込まれる」という部分をポジティブでかわいい方向に持っていったのが、「かぐや様」だと思っているんです。キャラを追い込んで、かわいい方向に持っていった中から出てくる感情は本物だから、それを描いていきたいと思っていますね。
──トランプでイカサマをする話の例もありましたが、基本的にストーリー作りは描きたい感情をピックアップする作業から始まるんですか?
はい。「感情リスト」みたいなネタ帳があって、「この感情はまだ触ったことのないやつだ」って思ったものに対して、「この感情を立てるならどういうシチュエーションがいいかな」「ここで使うならこういう場面設定が要るよね」「じゃあ今回はこのキャラとこのキャラで話を回そう」と決めていきます。
──場面設定などから話を作ることはないんですね。
それが感情の爆発につながるなら面白いかなと思うんですけど、なかなかうまくいかないんですよね。例えば僕は「夏だから水着、プールでしょ」というところからお話を作ろうとすると、プールという縛りが発生した状態で物事を考えないといけないから面白いものが全然浮かばないんです。もしそれで何かしらのネタが思い浮かんだとしても、「プールで使う感情じゃないな」と思ったら、とりあえず感情リストに書き込んで、また別の回で使うという形になると思います。
読者の中で人物像が固まったところでキャラを壊す
──先ほど「お互いに片想いの2人」が登場するというところから、作品の着想を得たとおっしゃっていましたが、白銀とかぐやの2人はどのように生まれたのでしょうか。
僕は最初から読者を惹き付けるような、すごいキャラを思いつけるタイプではないと思っていて。あくまでお話を重ねていく中で内側が見えて、初めて「面白いキャラクターなんだ」と思ってもらえるような人物しか描けないんです。そういう点で言うと第1話の白銀とかぐやはすごくテンプレに沿っていて、キャラを作るうえで特別なひらめきがあったわけではないんですよ。
──確かに第1話の時点では、2人とも名門校の生徒会に所属している優等生だけど、プライドが高く恋愛に関してはさっぱりという面しか見えず、テンプレートにはめ込まれたキャラに感じられるかもしれません。
もしキャラクターの造形が成功しているんだとしたら、時間をかけて2人の持っているキャラクター性を読者に紹介できた結果じゃないかなと。もともとのキャラはテンプレートでも、その中にあるものをじっくりと紹介していければ、どんな人物でも面白くなると思うんですよ。
──では「かぐや様」の登場人物は、どのキャラクターも時間をかけて紹介していくだけの設定を考えているということでしょうか。
そうですね。生徒会で会計監査を務めているミコちゃんは最近、“承認欲求ガン強ガール”という部分が出てきたのですが、それは当初から決めていたことで。でもそういう部分を出すのは我慢して、まず10話くらいは生真面目な少女というキャラで勝負してみようと決めていて。
──それはどういった理由で?
10話って読者の中でキャラの人物像が固まってくる時期だと思うんですよ。それができたところでキャラを壊すじゃないですけど、新しい一面を見せるとエネルギーが爆発するというか。だからかぐやだったら最初は天才、白銀で言えば堅物なキャラだったんですけど、ちょっとずつそれを壊すことで面白くできたんじゃないかなと思います。
──具体的にキャラを壊し始めたのはどのあたりでしょう。
うーん……かぐやなら先ほど話に上がったお弁当回もそうですけど、明確に言ったら第2巻に収録されているパリの姉妹校の歓迎会を開くシリーズですかね。そのあたりでかぐやの侍女の早坂が、かぐやにツッコミ始めるんですよ。ツッコまれるとキャラは嫌でもボケ側に回ると思うので、そのあたりからかぐやがボケキャラとして機能するようになってきましたね。
ヒロイン全員と結婚するような主人公は描かない
──ちなみに「かぐや様」の中で、先生のお気に入りはどのキャラでしょう。
白銀は僕がこうなりたかったという自分の理想として描いている部分もあるので、好きですね。頭がよくてやるときはやるっていう。
──天才ですべてをそつなくこなすというわけではなく、どんなことに対しても全力で努力しているという部分に好感が持てます。
そうですね。やっぱりただただ天才というキャラだと理解できない部分もありますし。僕は自分が理解できないものは描きたくないんですよ。ちょっとキャラクターの話とは変わっちゃうんですけど、モテモテでハーレムを築いているような作品があって、主人公が「じゃあみんなと結婚しよう」と言ったとして、ヒロインたちが「しょうがないわね」って結婚してくれるような展開は嫌なんですよ。
──少し突拍子のない展開かもしれませんね(笑)。
あくまで「かぐや様」では、情報として読者が現実の生活にフィードバックできるものを描ければと思っている部分があって。例えば「かぐや様」って心理学用語が出てきたりするじゃないですか。
──「バーナム効果」(誰もが当てはまるようなことを言われ、それが自分にだけ当てはまっていると勘違いしてしまう現象)などですね。
そういう概念を知れたり、劇中で紹介された人間の醜い感情について、明日似たようなシチュエーションに出くわしたとしたら、「『かぐや様』にもこういうシーンあったな」と思ってもらっても問題ないくらいのものは描いていきたいと思っています。
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藤原さんがめちゃくちゃ悪いことを考えているかも
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- あらすじ
- 家柄も人柄も良し!! 将来を期待された秀才が集う秀知院学園!! その生徒会で出会った、副会長・四宮かぐやと会長・白銀御行は互いに惹かれているはずだが……何もないまま半年が経過!! プライドが高く素直になれない2人は、面倒臭いことに、“如何に相手に告白させるか”ばかりを考えるようになってしまった!? 恋愛は成就するまでが楽しい!! 新感覚“頭脳戦”ラブコメ、開戦!!
- 赤坂アカ「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~⑩」
- 2018年6月19日発売 / 集英社
エリートの集う秀知院学園生徒会で出会った会長・白銀御行と副会長・四宮かぐや……。この両想いであるはずの天才2人が、互いに相手に惚れさせ、相手から告白させようと日常の全てで権謀術数の限りを尽くす、新感覚のラブコメ!! 第10巻では、白銀が“合コン”に参加してしまった事で、大きな波乱が巻き起こる!? ほかにもLIKEとLOVEの違い、浮気ボーダー、合コン系ゲーム……などで、“恋愛頭脳戦”を繰り広げる中、かぐや様が幼少の頃より愛用してきたガラケーが遂に壊れてしまい!?
- 赤坂アカ(アカサカアカ)
- 新潟県出身。電撃マオウ(KADOKAWA)にて2011年に、杉井光のライトノベル「さよならピアノソナタ」のコミカライズ連載をスタートさせマンガ家としてデビューを果たす。その後、2013年より同誌にて「ib -インスタントバレット-」、2015年よりミラクルジャンプ(集英社)にて「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」を連載。「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」は2016年に週刊ヤングジャンプ(集英社)へと発表の場を移しており、2017年に「第3回 次にくるマンガ大賞」コミックス部門の第1位に輝いた。